獅子舞にとって暮らしやすい都市とは?
生活の豊かさを測る新しいフレームを創造する
SHISHIMAI habitat city (Shibuya edition)
獅子舞にとって暮らしやすい都市とは?
生活の豊かさを測る新しいフレームを創造する
「SHISHIMAI habitat city」は、日本全国300件以上の獅子舞を取材してきた知見を生かし、獅子舞にとって暮らしやすい都市のあり方を探求するプロジェクトです。ナナナナ祭2023では、巨大獅子舞「100BANCHの獅子舞」として渋谷に登場。来訪者の方々にも実際に獅子舞の中に入ってもらい、一緒に舞い、渋谷の街を練り歩く体験を生み出しました。渋谷の街で獅子になるとはどんな体験だったのか。ナナナナ祭期間中、獅子舞となって舞い続けた、「SHISHIMAI habitat city」稲村がお伝えします。
獅子舞といえば、正月に頭を噛んでくれるもの。日常に存在しており、特に気にとめることはないという人も多い。しかし、地域に息づく日本全国の獅子舞は、舞い方やデザインも個性的で、その共同体のつながりを深めるような存在でもある。獅子舞を見たらなんか頭を噛まれたくなる、というのは日本人の心理なのだろう。
さて、今回は渋谷にある100BANCHという施設で初めて、地域の文脈でない、コミュニティに息づく獅子というものを本格的に創作した。100BANCHはパナソニック創業100周年を記念して作られた若者支援拠点であり、起業家やクリエイターなど、未来を自らの手で作り出そうとする面白い人たちが集う。そこのような特徴を持ったコミュニティから立ち上がった獅子舞はどのようなデザインでどのような舞い方をするのだろうか?
ここではまず、コミュニティに生息する獅子舞の特徴をご紹介したい。自分が現状考える限りでは、以下の3つが挙げられる。
獅子舞の胴体に入ることで一体感が生まれ、自然と会話も生まれる。とりわけ獅子舞の胴体から出た後や、移動する場面などだ。これらを通して人間同士の繋がりや信頼感が生まれる。
獅子舞が巨大になればなるほど、歩くと迫力が出て、歩道を占領することになる。このような状況において、獅子舞が歩く方向に人が向かいがちになるというのは必然的である。
獅子舞を介したコミュニケーションの中で、その素材の特性からコミュニティの特徴を導く人も出てくるのは必然的だ。あえて広めたいものを獅子頭に貼り付けるときもある。これは「交わることで告知する」という意味で「交告(こうこく)」と言えるかもしれない。
獅子舞の研究を続けてきてわかったのは、胴体の長い獅子舞が共同体の交流を促進する存在であるということ。獅子舞は巨大な胴体を持ち、そこに人が次々と入ることによって、ある種の一体感を共有することになり、人種や性別などをこえて人々は繋がることができる。見えない厄を祓い祈りを捧げる人々が限りなく少なくなりつつある今、獅子舞の役割は祈りから交流への比重が大きくなりつつあるように思える。2022年秋にこの話を100BANCHのオーガナイザー・則武さんにお話ししたところ盛り上がり、今回の企画の実施に至った。
渋谷・100BANCHに獅子舞(シシ)が生息するとしたら、どのような姿で舞い歩くだろうか?常識にとらわれない若者達の力強いエネルギーを大きな燃料として、何者かに変身したいという願望の集合体がシシを被らせる。このシシは100BANCH内外に出没し、時には誰かを巻き込み、舞い歩く。身体は100BANCHの空間に委ねられ、シシは我々に何かを提示するのだ。
<獅子舞の流れ>
①100BANCH前で集合・集客
②100BANCH前で1人獅子をしながら勧誘して徐々に巨大獅子になる
③100BANCHから渋谷ストリームまで舞い歩く
④渋谷ストリームから100BANCHまでは獅子舞を外して戻る。
⑤参加者にお茶の缶、ステッカー、手ぬぐいをプレゼントする。
以上、1セット20~30分程度。
<獅子舞の舞い歩き日程>
15日
12:30~13:00
14:00~14:30
15:30~16:00
17:00~17:30
18:30~19:00
16日
12:30~13:00
14:00~14:30
15:30~16:00
17:00~17:30
以上、計9回分。
ここで獅子舞をやりながら見出した工夫についてもご紹介しておこう。まず1人で獅子舞を始めて、人垣が輪になってできていって場が温まってくる。そこから徐々に手招きをして一人一人獅子舞の胴体の中に誘い入れていく。いきなり獅子舞に入ってくださいと言ってもなかなか入ってはくれないので、まずは自分が舞うことから始めたのが良かった。
獅子舞に入ることに慣れた人たちは次々と沿道の人を引き入れてくれるようになるので、自分から誘わなくても入ってくれる人は自ずと増える。だから、まずは始めに入ってくれる一人目を探すことが重要であり、そのような人はあらかじめ獅子舞を始める前から見つけておく。
子どもが頭を噛まれた時の反応が違っていて面白かった。獅子舞を鉄砲で攻撃する子もいれば、獅子舞を得体の知れない生き物を見つめるように見る子ども、怖がってすぐに泣き出してしまう子ども、獅子舞について歩いて胴体の裾を引っ張って歩いて楽しむ子どももいた。子どもの反応というのは多様で非常に面白かった。一方で、外国人は獅子舞という存在を知らない人が多いのか、静観して見守ったり、動画を撮ったりするような人が多かった。また、高齢者よりは若い人が入る場合が多かった。
基本的には「ナナナナ祭のハイライト!」「獅子舞楽しかった」「建物の上の方にいたら太鼓が聞こえてきて祭気分が高まってきて涙が出てきた」など肯定的な声が大半だった。目立つし盛り上がるしで、多くの人の印象に残る練り歩きだったことは確かだ。一方、「獅子頭は赤など目立つものだとより映えたかも知れない」「胴体に入っているときにもっと動いて踊りたかった」みたいな声も少しあったので、これは今後の獅子舞づくりに生かしていきたい。
獅子舞を通して、生まれた一体感は、100BANCH から始まり、渋谷ストリームまでの10分間の歩行の中で道端を歩く外国人や子ども、犬までも巻き込みながら進んだ。時には、車椅子の方も獅子舞に入ってくれた。複雑な動きには限界があるけれど、そこで生まれたのはインクルーシブな存在として機能していた。「主張のないデモ行進」であるようにも思える。
獅子舞の創り出す世界観は、都市やコミュニティに潜む問題を問題として直視して指摘して議論を戦わせるのではなく、いつの間にかポジティブな空気感が問題を吹き飛ばしてしまうような世界観だと思う。獅子舞を通じて人々が1つにまとまり、楽しさを共有できれば、人が助け合い信頼しあって生きる喜びを感じあえる社会を創出できるだろう。
地域や企業、バー、学校、家族など何らかの共同体が存在するところで、素材を集めて獅子舞を創作して、その共同体を象徴するような獅子舞を作る。今まで獅子舞ユニット「獅子の歯ブラシ」としては、地域共同体を中心に活動を展開してきたが、それ以外の共同体も個人的に開拓していきたい。特に企業相手に「獅子舞の祭り作りましょう」「獅子舞のワークショップしましょう」などと提案していきたい(費用要相談)し、バーなどでの余興演舞は頼まれたらぜひやりたい(投げ銭など)。ぜひお気軽にご連絡いただけたらと。