字幕祭〜字幕自動生成の試みとその裏側〜

「言の橋(Koto-no-Hashi)」は、映像ファイルを入力するだけで多言語の字幕ファイルを自動出力するシステムを開発しています。単なる直訳ではなく、映画鑑賞体験として作品を楽しめる翻訳字幕を作ることを目指しています。ナナナナ祭2026では、海外作品(フランス語、スペイン語、アラビア語)に日本語字幕をつけた上映と、持ち込み作品に対してその場で英語字幕をつける試みの2つを実施しました。その試みの模様を、Koto-no-Hashiの坂本遼がレポートします。

上映では、カンヌ、ヴェネツィア、ベルリン国際映画祭で受賞・選出されながら日本では劇場公開されていない短編『The Last Spring』(フランス語/15分)、『Who Loves The Sun』(アラビア語/19分)、『An Odd Turn』(スペイン語/22分)、『Les Chenilles』(アラビア語/30分)の4本に、言の橋で作成した日本語字幕をつけて上映しました。いずれも字幕がなければセリフが伝わらない作品でした。当日は200名近い方々に来場いただき、字幕には一切人手を加えていないにも関わらず、字幕の精度や自然さへの感動、期待のコメントが数多く寄せられました。また、『The Last Spring』は初日の夜、ヤグラでの公開上映も行い、大盛況のうちに終了しました。
持ち込み作品への字幕作成では、映像制作者にご自身の作品データを持参いただき、その場で字幕を生成するという挑戦的な実験を行いました。事前応募作品も含めて3日間で10名の方の作品に対して字幕を作成しました。全く未知の作品に対してその場で作成するという初の試みでしたが、全ての作品に対して字幕を作成することができ、映像制作者にその速さ・手軽さを実感していただきました。


上記が当日付箋を貼る形で寄せられた数々のコメントです。
特に多かったのは、翻訳の精度と自然さに対する評価でした。
– 「自然な翻訳で、感情もとても合っていた」
– 「言われなければAIが作っていると気づかない自然な字幕だった」
– 「字幕が表示されるタイミングが自然すぎて驚いた」
– 「タイミングがあまりにものみこみやすかった」
字幕の表示タイミングへの言及も多く、多くの観客に受け入れられるレベルの字幕であると検証できました。
スペイン語・フランス語ネイティブの来場者もいたため各言語の作品を鑑賞いただいたところ、字幕が自然であり内容も正確でわかりやすかったとのコメントをいただきました。日本語話者だけではできないネイティブによる検証もでき、品質を裏づけるものになりました。


映画業界の第一線で活躍されている、俳優・映画プロデューサーの加藤雅也さんにもご来場いただき、どのように字幕の精度を上げられるか熱い議論を交わしました。

また、単に字幕で内容が理解できるだけでなく、字幕自動生成システムがまだ見ぬ世界へ目を向ける可能性を感じさせるコメントも多く見られました。
– 「社会情勢によって映画の普及度が違うことが発見だった。単に字幕付き映画を見るだけでなく、作られた国の映画産業を知ると観る側の目線も変わる」
– 「いまより多様な国の映画や動画コンテンツに触れられようになったらとてもうれしいです」
字幕を付けて上映するという行為が、その国の映画産業への関心にまで及びうることを示しています。また、言語のハードルを下げて世界中の作品が国を超えて鑑賞され、お互いを理解し合える世界を作るという言の橋が最終的に成し遂げたい理念を感じさせるコメントも多くいただき、日英以外の多言語も対応できる言の橋の強みも確かなニーズであることがわかりました。
さらに、耳の聞こえない・聞こえにくい方向けのバリアフリー字幕への応用を期待する声もいただきました。バリアフリー字幕は映画の上映期間が短かったり、配信でも日本語作品には字幕が無いなど、映画を観たくても観れないという課題があります。言の橋の技術を応用すれば、バリアフリー字幕をより普及させることができるポテンシャルを感じることが出来ました。
映像制作者・自主映画関係者からも、以下のような、実用化を求める声を多数いただきました。
– 「自分の作品に英語字幕がついていて感動した。ぜひ展開していってほしい」
– 「自主映画などで海外映画祭を目指す監督に広めたい」
– 「早く実用化して欲しい」
映像制作者、配給会社、字幕制作者といった業界関係者からの反響は事前の想定を大きく上回るもので、当初想定していた「インディーズ映画において字幕制作が負担で海外に挑戦しづらい」という課題は、多くの映像制作者も共通して持っており、改めて言の橋のニーズを再確認できました。

一方、古典映画等を研究されている方からは、文法面が実用の水準に達していないという指摘も受けました。他にも「すべての音声が翻訳・反映されているわけではないようだった」「複数人が話すと誰の発言か追えなくなるかも」等、文脈の把握と話者の識別のコメントもありました。
今回「字幕自動生成にどれほどのニーズがあるのか」を目的として検証した結果、一般の観客だけでなく字幕・映像業界関係者からも様々な反応をいただき、確かな手応えを感じることが出来ました。「現状の生成品質がどの水準にあるのか」については、一般の観客には受け入れられるものの、プロの要求水準にはまだ及んでいないという結論でした。
今後は、字幕・映像業界関係者を中心に連携しつつ、実用に耐える水準まで字幕の精度を引き上げ、システムの社会実装方法を検討していきます。
「インディーズ映画の字幕を自動で手軽に作成できるようにし、誰もが海外に挑戦しやすくする」という軸はぶらさずに、字幕制作業務の効率化やバリアフリー字幕の普及などにも貢献し、ゆくゆくはこの技術・システムを通して来場者から多くのコメントをいただいた言の橋が言葉の橋になる世界を実現し、お互いが理解し合える世界に貢献したいと思っています。