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テクノロジーの力を活用し、建築を民主化する:加藤利基(株式会社SAMURAI ARCHITECTS 代表取締役)

「建築・都市の民主化をしたい。」

加藤利基の挑戦は、時にかたちを変えながらも、この想いだけは曲げずに進み続けています。立ち上げたサービスが思うように広がらなくても、提案が受け入れられなくても、時には「つまらない」と言われても。

加藤は、2022年7月にGARAGE Program60期「Usta」として100BANCHに入居。リアルな場での建築デザインの価値が小さいという課題から、 メタバースという新たな空間の中で建築デザインが持つ価値を可視化していくことに取り組みました。その後、2023年10月にはGARAGE Program75期「Rendery」として再入居。AIを活用してリアルタイムで空間をビジュアライズするサービスを開発し、「デザイナーと非デザイナー」間のコミュニケーションギャップを埋めることに挑戦しました。現在は株式会社SAMURAI ARCHITECTSで、テクノロジーとデザインを活用して、より良い場づくりや研究に取り組んでいます。

そんな加藤が、現在の活動やこれからについて語りました。

加藤利基|株式会社SAMURAI ARCHITECTS 代表取締役

1998年静岡県生まれ。程よい田舎町で建築士の父の影響により、小さい頃からものづくりに興味関心を持ちながら育つ。過疎化が進む地元を見て、新たな建築のあり方を提案し、地元を盛り上げることができないか日々思考を巡らしている。

加藤:僕は今、株式会社SAMURAI ARCHITECTSで、「Create a better place with Technology(テクノロジーを活用してより良い場所をつくる)」というビジョンのもと活動しています。100BANCHには大変お世話になったので、久々にこの場に立てることを楽しみにしてきました。

僕たちの会社は、「建築×AI」をメインフィールドにしています。建築・建設はもちろん、不動産、そしてそれらが集まった都市計画や地域活性化まで活動の幅を広げています。会社の事業としては大きく2つあって、1つは、100BANCH時代にも取り組んでいた「Rendery」のような自社サービスの提供で、もう1つは、ゼネコンや設計事務所の皆さんに対するシステム開発の受託、カスタムソリューションです。

加藤:あらためて僕自身のバックグラウンドをお話しすると、システム開発にメインで取り組みつつも、実家は静岡で建設業を営んでいて、僕自身も設計・施工の実務に関わっています。昨日も明日も静岡にいるような生活です。そうした現場に身を置きながら、「現場に対してどんなテクノロジーがあればいいのか」を常に考えています。その問いから生まれたのが、株式会社SAMURAI ARCHITECTSです。また、大学では都市計画の領域で教鞭を執っています。ソフトウェア、ハードウェア、そしてアカデミックという、3つのトライアングルを回しながらの活動が軸となっています。

今日は、僕が掲げている「建築・都市の民主化」についてお話しさせていただきます。 この民主化には、大きく分けて「ユーザーが表現する」ことと、「ユーザーを分析する」ことの2つの側面があると考えています。

 

まずはプロのレベルを底上げし、その先で全人類へ。「表現」の民主化

——「ユーザーが表現する」ことにおいては、民主化に辿り着くまでに大きく分けて2段階あると加藤は話します。

加藤:まず1つ目のアプローチ、「ユーザーが表現する」ことの民主化についてです。 これはいきなり「全人類が理想の空間を自由に設計できる」という世界を目指すだけでなく、その前段階として、まずは建築業界のプロたちのレベルを最大化することも重要だと考えています。

そのために提供しているのが「Rendery」というサービスです。コンセプトは「建築AIパースでプロジェクトにスピード感を。」です。皆さんも、マンションの広告などでパース(完成予想図)を見たことがあると思います。お客様とイメージを擦り合わせる上で図面だけでなく、ビジュアルのパースを用いることでコミュニケーションがしやすくなるのですが、これをつくるには高いコストとスキルが必要で、設計事務所の中でも描ける人は限られています。そこで、画像生成AIを活用し、誰もがスピーディに空間イメージをつくれるようにしました。単にイメージをつくるだけでなく、ゆくゆくは実際の建材と紐づけて、設計・施工や見積もりにまでつなげていける未来を描いています。100BANCHにいた頃はユーザー数は0でしたが、今は約7,000ユーザーまで成長しました。

加藤:また、不動産向けには「knock knock AI」というサービスも展開しています。何もない部屋の写真に、AIが自動で家具を配置するものです。ガランとした部屋よりも生活イメージが湧きやすく、導入した不動産会社さんでは購入率が1.5倍〜2倍に上がるという結果も出ています。

加藤:ちょうど本日発表された取り組みとして、LIXILが推進する新しいリノベーションのあり方を検討するブランド「DUUO」において、当社は立ち上げ初期より技術面を中心にサポートさせていただいています。募集されたパートナー企業にシステムをご活用いただき、注文住宅ほどの時間や予算をかけずに理想の住まいづくりを目指すプロジェクトです。加盟工務店が利用可能なシステム開発の一部支援に加え、活用方法の整理など、円滑な運用に向けたお手伝いをしています。

加藤:このように、基本的には設計事務所や実際につくる人、営業の方々などtoB目線のシステムの提供も多いのですが、こうしたプロ向けの支援の先に、「全人類」に向けた民主化があると思っています。

——プロ向けの支援にとどまらず、加藤はより多くの人が空間や都市を自分ごととして捉えられるような取り組みにも挑んでいます。

加藤:例えば、自治体の「空き家バンク」の課題解決にも取り組んでいます。空き家バンクの写真はどうしても古びていたりキレイでないように見えてしまいますが、「リノベーションしたらこうなる」という素敵なイメージをAIで生成することで、移住や購入のハードルを下げることができるのではないかと思っています。

加藤:大人だけではなく、子どもたちにも設計が身近になってほしいと取り組んだものもあります。

秦野市や芝浦工業大学との都市計画ワークショップでは、子どもたちが理想の街を描き、さらに「なぜその街がいいのか」を言葉でコメントしてもらいました。 画像をつくるだけでなく、そこに言葉やこだわりが乗ることで、自分たちが住む空間や都市への解像度がぐっと上がっていきます。これも新しいコミュニケーションであり、民主化の形だと考えています。

「理想」の解像度を上げる。「分析」の民主化

加藤:次に、2つ目のアプローチである「ユーザーを分析する」ことの民主化についてお話しします。表現されたものが「なぜ良いとされるのか」、その因果関係を解明していく試みです。

昨年末、三菱商事さんと一緒にインドネシアで再開発プロジェクトの分析を行いました。言語も文化も違う現地の人々が、一体どんな住宅を求めているのか。 AIで生成した大量のイメージを見てもらいながら、この建物の何が良いのか、壁なのか、家具なのか、雰囲気なのか。何をもって良い建物だと捉えられているのか、ソニーの関係者の方々にも協力いただき、単なる相関関係ではなく「因果関係」まで深く分析しました。これまで感覚的だった「住空間の良さ」を、テクノロジーで紐解き、解像度を上げることができるようになってきました。

加藤:昨今、「ウェルビーイング」がキーワードになる中で、慶應義塾大学との共同研究を通じて、「空間のウェルビーイング」に関する学術的な検討を進めています。一方で、NTTアーバンソリューションズとの取り組みにおいては、会議室のカメラ映像から参加者の活性度を分析し、行動変容を促すホワイトボードシステムの開発・実装プロジェクトを推進しています。このように、学術研究と実装プロジェクトの両輪で取り組むことで、「建築の民主化」というビジョンの実現に向けた知見と社会実装の双方を加速させていきたいと考えています。

 

テクノロジーを切り口に、豊かな「プロセス」をつくる

加藤:ここまでAIやシステムの話をしてきましたが、僕らが本当につくりたいのは建築やまちづくりにおける、「豊かなプロセス」です。新たな建築・建設業のあり方を考える中で、その切り口としてシステムをつくっています。

「Rendery」は画像生成技術を活用しているのでその部分が大きく見えているかもしれませんが、AIだけでなくデータの運用や、クリエイティブ、ブランディングなど様々な角度から建築・建設を紐解いています。また、建設業といってもその中には営業、企画、設計、施工といったプロセスがあるので、それをシームレスにつないでいくことを目指しています。建築・建設業は人手不足が課題なので、新たに働きたいという人が増えたり、AIで業務を効率化できるようなプロセスをつくっていきたいです。

最近はじめた「VISIOAL」というサービスは「建築家版タイミー」のようなもので、建築家と、新しくホテルやテーマパークなど、何か空間をつくりたい不動産会社などの企画者をマッチングするサービスです。画像生成AIを活用しながら、よりスピーディーにイメージを具現化していく伴走支援をしています。設計の前段階から建築家が伴走するという新しいプロセスをつくることで、新しい建築のあり方を生み出そうと取り組んでいます。

 

罵倒されても、ピボットしても、曲げなかった想い

——これまで数々の挑戦を重ねてきた加藤。その歩みの裏側には、失敗や否定の言葉もあったそうですが、それでも続けてこられた理由を、最後に語ります。

加藤:起業して5年、100BANCHに入居してから振り返ると、本当に色々なことがありました。正直に言うと、この5年間で自社プロダクトを9つほど立ち上げましたが、その多くはうまくいっていません。100BANCHで採択されたプロジェクトも、厳密にいうと1つは結果を出せませんでした。これまで提案した企業は200社を超えています。

投資家の方からは「君は建築に近視眼すぎるね」と罵倒されたこともありますし、友人には「つまらない」と言われたことも多々あります。それでも、僕は外部の資本を入れずに5年間やり続けてきました。最初は片手で数えるほど少なかったチームも、今ではSlackを開くと40人ほどになっています。

なぜ続けられたのか。それは、「自分は一生、建設業に関わっていくんだ」という決意があったからです。僕のやり方は、周りからは「近視眼だ」と言われるようなものかもしれません。でも、僕自身は「近視眼なら、近視眼でもいいかな」と楽観的に捉え、諦めずにトライし続けてきました。その結果が、今につながっているのだと思います。100BANCHで活動する皆さんや、これから何かをはじめる皆さんに伝えたいのは、「カタチが変わっても、想いは曲げなくていい」ということです。僕自身、9つもプロダクトをつくり、ピボットもたくさんしました。皆さんが今取り組んでいるものも、もしかしたらカタチが変わるかもしれないし、就職や進学で環境が変わるかもしれません。それでも、「これをやりたい」という根っこの想いさえ曲げなければ、カタチはどうあれ、必ず道は続いていくのだと思います。

 

今回のお話の内容は、YouTubeでもご覧いただけます。

https://youtu.be/LiN87XQQy9M?si=U-BMD-gXbLdfr63K

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