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世界のふんいきをさりげなく良くする:三谷裕樹(株式会社ナノメートルアーキテクチャー 一級建築士事務所 代表)

居心地がよくて自然と人が集まってしまう。そんな場所をつくり続けているのは、GARAGE Program1期生の「SHIMA Doctor Project」の三谷裕樹です。
三谷は、2017年7月に100BANCHに入居。救護補助+交流所の「海の保健室」のモデルづくりを行い、医療従事者が不足する三重県志摩市の地域医療の問題を、場と空間のアプローチから解決することを目指しました。その後も住宅や店舗、商業施設の設計から家具や什器のデザインなど、建築の視点から“ふんいき”の良い場づくりを考え続け、2025年に開幕する大阪・関西万博では若手建築家を対象としたコンペで選ばれ、サテライトスタジオを設計しています。

そんな三谷が、これまでに行った数々の実験や、今後の展望などを語りました。

 

三谷裕樹|株式会社ナノメートルアーキテクチャー 一級建築士事務所 共同主宰

1985年大阪府生まれ。2013年三重大学大学院工学研究科建築学専攻修了。同大学施設部施設整備チーム、SUPPOSE DESIGN OFFICEでの勤務を経て現職。国際芸術祭あいち2022、2025アーキテクト。
主な受賞として2022年 日本国際博覧会休憩所等設計業務プロポーザル優秀者選出、2024年 第5回日本建築設計学会賞。

 

——商業施設の設計や大阪・関西万博での設計など、活躍の場を広げる三谷。現在の活動について語ります。

三谷:100BANCHに入居した当時は、共同代表の野中と私の2人で会社をつくって動き出したようなタイミングでした。2017年から1年間ほどは東京で、そのあと名古屋に拠点を移して、今は常勤のスタッフと非常勤のパート・アルバイトさんの10人ぐらいで活動しています。事務所をつくって建築や仕事をしていく上で、何か掲げておいた方が良いと思い、「世界のふんいきをさり気なく良くする」というテーマを掲げています。そんな想いで、日々、建築に向き合っています。

 

変な人いっぱい!に揉まれた100BANCH

三谷:これ、懐かしい写真なのですが、2017年の100BANCHオープン時の写真が残っていました。当時はよくわからずにとにかく来た、という感じだったのですが、とても盛り上がっていて、1階でみんなで立食パーティーをしていて、2階では GARAGE Programがはじまっていて、何かが動き出そうとしている、そんな様子でした。

当時やっていたことは色々あるのですが、大阪のうめきたSHIPホールでの展示の準備や、三重県の志摩でのプロジェクトの展示の準備も100BANCHを使ってつくらせていただきました。また、独立当初は自宅と事務所を兼用していたので、そこにメーカーの人やアルバイトの方を呼ぶのは、結構難しい状況でした。なので、打ち合わせの場所として、100BANCHをたくさん利用させていただき、自宅兼事務所と100BANCHを行き来するような暮らしをしていました。

100BANCHでは、とにかく変な人がいっぱいいる環境に揉まれる、というのがとても楽しかったなと感じています。あとは、限られた時間、ほとんど知らない方たちに向けたピッチは、理解してもらうためのプレゼンスキルのようなものがとても養われたと思っています。自分の業界の中だけでは同じような人としか会わなくなってしまうのですが、100BANCHに来ると、本当に知らない世界が広がっていて、色々話していく中で自分だったらどう活用するか、発展させていくか、そういうイメージトレーニングみたいなものが日々できていたのはとても良い経験だったと思います。

 

医療と建築が交わる志摩での挑戦

三谷:僕は共同代表の野中と、三重県の志摩市民病院の医師の江角悠太さんと一緒に進めていた「志摩ドクタープロジェクト」として100BANCHに入居しました。現在もとてもゆっくり長く続いているプロジェクトです。志摩市は、名古屋からでも2時間半とかかかる、いわゆる僻地と言われるような場所です。どこの地方にも過疎化や医師不足といった問題があるんですが、建築と医師でどう町をつくっていけるか、みたいなことを妄想しながら進めています。

三谷:はじまりは2014年で僕が学生時代のときなのですが、医学生のための寄宿舎を計画しました。これは結果的に実現はしませんでしたが、学生や医療に従事する方々が、研修などで来てくれなかったり、来たとしても結局都会に流れていってしまうような状況をなんとか改善するため、みんなが集まって学んだり泊まったりできる場所を計画して市長にぶつけよう、と動いていました。仮の敷地も設定して模型を作ってプレゼンをしたり、色々と動きました。そうすることで、実際には建物は建たなかったのですが、もともと医者しか宿泊できなかった場所が、学生にも開放されたりと動きが変わってきて、今ではたくさんの方々が泊まりに来て、そこで研修を受け、町のことを好きになってもらう、といった形で人が集まってくる状況になりました。

また、医療従事者のための交流所づくりにも取り組みました。病院の近くの駐車場にあった倉庫をみんなで解体して綺麗に掃除したり色々とやりました。予算が10万円だったので、今思えばとんでもないプロジェクトだったと思います。当時は僕たちも東京にいて、行って帰るだけで結構な費用もかかるので、医師の方々に手伝ってもらったりしながら実行しました。サインをつけたり、掃除したり、椅子を作ったり、といった作業があったのですが、活動初期の頃、ようやく何か形に残せたものでした。

 

人が自然に集まる場所づくり

三谷:100BANCH入居時に行った活動の1つが「医学生が救護補助を行う海の家」です。三重県の志摩に、サーフィンでとても有名な場所があります。ここにたくさん人が来るのはいいのですが、溺れたり、怪我をしたり、色々と事故も起こったりするので、三重大学の医学生たちが、学生なので医療行為はできないものの、救護補助を行うことで少しでも事故を減らせないか、と活動していました。それを病院の院長に「彼らに協力してあげることができないか」と相談し、海の保健室みたいな場所をつくろうと動き出しました。クラウドファンディングで資金を調達することが決まり、進めていく過程で100BANCHに入居しました。目標金額は70万円と設定し、学生が活動できる簡易な場所と交通費などを捻出しようと動いていました。

僕らは医療の専門家でもないのですが、グラフィックのスキルがあったので、ステッカーをつくって発信したり、クラウドファンディングの返礼品を名刺と同じサイズにして、名刺交換のついでに配ったりしながら100BANCHで活動して、クラウドファンディングを達成することができました。

三谷:その後、動き出した活動が「志摩の家」です。2018年4月、愛知県に移住してすぐ動き出したぐらいの時期でした。志摩で色々な関係性もできて活動していたのですが、あるとき、住宅をつくりたい方がいるから話を聞いてみてほしい、と連絡をもらって動き出しました。完成したのは、森に家がぽつんと一軒建っているような住宅です。

三谷:これは完成したときの様子で、竣工したときの写真なのですが、玄関ではないけれども大体みんなそこから入ってくるような縁側みたいな場所が設けられています。お施主さんの要望としては、15人ぐらいは寝泊まりできるような、とにかくたくさん集まって泊まれるような場所にしてほしい、ということでした。理由は、研修で来た方々に対して、自分で志摩を色々と案内して、そのあと自分の家に招き、お疲れさま会をするような親睦を深めることをやっていきたいというご要望からでした。車がないと移動も難しいような場所なので、そのまま泊まってもらい、もっと志摩のことを好きになってもらうことで、就職にもつながるといいな、という想いでやられていました。それで、たくさんの方々が寝泊まりでき、365日いつでもバーベキューができる造りになっています。

三谷:換気扇が入っているのでそれを引っ張り出して海鮮を焼くことができたり、バーカウンターのようにもなっていて、訪れた方が勝手にお酒を飲んだり、肉を焼いたりできるようになっています。この志摩の家が完成してなんとなく一区切りついたのが100BANCHでの活動を終えた後の、2020年頃でした。

 

新しい建築の“つくり方”を考えたい

——一貫して、人が自然に集う場を生み出してきた三谷。今後の展望を話しました。

三谷:今進めているプロジェクトの中に、来月完成する複合福祉施設があります。「スープの冷めない距離で暮らそう」がコンセプトの、主な役割は老人ホーム の施設です。僕なりに、今の時代の建築を俯瞰してみると、建築は3つに分かれてると思います。公共建築、商業建築、住宅建築があるのですが、平成の時代から、用途が独立して分かれていったのかなと思っています。

三谷:それが、なんとなく、東日本大震災が起こった2010年代以降ぐらいから、建築が混ざり合い始めてるような印象を受けています。自宅をひらいてみるとか、図書館の中にカフェが入っているなど、国の制度が変わったなどの理由も含め、色々あると思います。あるときは、商業と住宅、住宅と働く場所は、離れていったような流れがあったと思うのですが、それがまた近づいていて、小さな商いが行われたり、少しずつそういう時代になってきています。これから高齢社会になっていくのはもちろんのことなのですが、 広く、福祉の建築というのがなんとなく真ん中に置かれ始めているのかなと思っています。福祉施設の中に老人ホームがあったり、そこにカフェが入ったり、みんなが使えるような公共の場所があったり、色々混ざり合っていると感じます。これからの建築が全てこうなるというわけではないですが、そういう動きも1つあるのかなと思っています。

三谷:今後の展望を考えたとき、僕自身は、新しい建築よりも、新しい建築のつくり方に興味があると改めて思いました。1つは大阪・関西万博が4月に開幕し、そこで、木をどのように集めてきてつくるか、という新しい建築のつくり方にチャレンジしたので、それを応用して、国外でもチャレンジしてみたいという思いがあります。また、「志摩ドクタープロジェクト」では、多くの医療従事者の方々が勤めるようになったり、動きも活発化しているので、これをどのようにやっていけば、別のエリアや世界に展開できるのか、長い視野で見ていきたいです。志摩のお施主さんがやっていることはまちづくりそのものだと思うのですが、それを公共的なものとしてやってしまうと、あまりうまくいかないような気もするので、このようなお施主さんをどう増やしていくかは、とても難しいことだと思います。僕たちができるのは、このような活動をされている方がいることを伝えていくことで、世界にも展開できるのではないか、と考えています。福祉を中心とした建築のつくり方は、まだ僕たちも経験が浅いので、これからどんどん深めていきたいです。

 

今回のお話の内容は、YouTubeでもご覧いただけます。

https://youtu.be/MABzOMgC6Q0?si=LE7TIAENtr2kBJmY

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