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ヒト・モノ・場所をREPIPE(リパイプ/再配管)し、新たな都市の使い方を創造する:和久正義(39期 REPIPE プロジェクトリーダー)

「仮説」と「仮設」を繰り返し、日常を豊かにする気付きを与える“まち”づくりの形を模索する一人の挑戦者がいます。

GARAGE Program 39期生「REPIPE」の和久正義は、2020年10月に100BANCHに入居。工事用資材を転用した仮設の遊び場を即興的につくり、まちを舞台に新しい遊び方を創造する数々の実験を繰り広げてきました。そんな和久が100BANCHとの出会い、現在の活動について語りました。

和久正義|REPIPE

1994年生まれ。早稲田大学理工学術院建築学専攻 修士4年。ドイツ・ベルリン留学後、仮設建築を多く手がける建築家集団「raumlabor berlin」勤務(2018-2019)。ベルリンでの経験から、人々の表現の場としての建築行為に感銘を受け「REPIPE」プロジェクトを立ち上げる。現在、設計事務所勤務。趣味:干し野菜

 

「まちの中に遊び場を作りたい」という衝動

 

和久:和久正義と申します。1994年生まれで、大学で建築を学び、卒業前にドイツのベルリンに1年留学して、ベルリンのまちのつくられ方や働いた場所のクリエイティビティにすごく感銘を受けて「REPIPE」という活動を始めました。現在は「REPIPE」の代表を務めつつ、Open Aという設計事務所で建築設計やまちづくりをしています。ベルリン留学から日本に帰国後、大学の修士設計で何をやろうか考えていた中で「まちの中に遊び場を作りたい」という衝動がありました。でも、それだけで終わっちゃうのが嫌だったので100BANCHに応募してみました。

和久:「REPIPE」は「日常を豊かにする気付きを与える」をモットーに、都市の中のヒト、モノ、場所を組み合わせて新しい場所をつくっていきます。「再配管」という意味です。まちの中には繰り返し使えるレゴのような素材がたくさんあるので、例えば工事現場の単管パイプや木材を組み合わせ、都市の余白を舞台に一時的な遊び場をつくろうというのがコンセプトです。メンバーは流動的で、ラッパー、デザイナー、施工が得意な人など、色々な人でコラボしてつくることを目指しています。

 

100BANCHで始めた“変態”的な実験の数々

100BANCH入居後、和久は色々なまちを舞台に、様々な実験をスタートします。

 

和久:100BANCHには、大学を卒業してすぐに応募して入居しました。最初は何をしたらいいのかわからずあっという間の3ヶ月でしたが、目標が設定された中で道具を色々集めて遊んでみようと「tool cypher(ツールサイファー)」という試みをやりました。

和久:即興的にモノをつくって場をつくるというのは、今までの計画的な建築のつくり方とは違うけれど、スリルにあふれていて楽しい、ということがつかめたので、それを3ヶ月先に発表しようと考えました。また、即興的な遊びを一般の人に知ってもらうためにプロダクトもつくってみました。

和久:これは「まちをどうハックするか」をテーマに、柱にペットボトルをつけてお酒を飲み、最後にペットボトルの水を飲んでリフレッシュするというプロダクトです。実際につくって販売するなどのトライアンドエラーを行いました。また、入居期間の最後には100BANCHの前のスペースで、「POP-UP PLAYPARK(ポップアッププレイパーク)」というイベントを行いました。

和久:ぼくらに加え、焼き芋屋さんや服屋さんなど、出店者を呼んで輪を広げてみたり、ぼくらが研究した遊び場を実際にまちの中に置いてみたりというのを実験的に行いました。正直、あまり計画的なものはなく「ひとまずやってみた」というのがこの3ヶ月でできたことです。しかし、この3ヶ月で行ったことが名刺代わりというか、「ぼくらが何者であるか」をつかむきっかけになりました。誰かに実現してもらいたいという気持ちもどこかにありましたが、やっぱり自らがまちで遊んでみることが大事だと思い、まずは自分がハプニングを楽しむ姿でみんなを楽しませよう、とチャレンジしました。

 

入居期間後の、進化系“変態”と成長

和久:当時はわかりませんでしたが思い返せば、100BANCHの入居期間が終わった後にも色々起こるのが100BANCHの魅力としてあると思います。100BANCHでの活動を見た方から「うちの屋上が空いてるのでそこで何かやってほしい」と声をかけてもらい、渋谷のビルの上で「ROOFTOP eSCAPE(ルーフトップエスケープ)」というイベントをやりました。

和久:何もない場所に単管パイプを持ち寄って自分たちで場所をつくってみる。そして、形を変えながら、どういうふうに屋上を使うか、一年近くかけて屋上の使い方を「エクササイズ」する実験をしました。まちの個性を色々と実験したり、ただ単につくるだけじゃなくて実際にプレイヤーとしてその場に立ってみて形を変えていくことが、実験的にまちをつくるきっかけとなったプロジェクトです。

また、つくることや解体すること自体も演劇的に楽しめないかと考え、関わった人やお客さんを呼んで「解体SHOW」を行いました。

和久:解体の音をサンプリングしたものをその場で聞きながら解体したのですが、体験した人の中にも「自分も単管を買ってみた」といった声も出てきたりして、「ハレ」と「ケ」の「ケ」の中に「ハレ」の体験を持ち帰ることができるんだということに気づいて成長できたプロジェクトでした。 

2021年のナナナナ祭はコロナ禍によるロックダウンなどもあって一ヶ所で開催できなかったため、各地にキャラバンとして出張していくスタイルだったんですが、ぼくは大阪の門真市を中心に、廃材で遊具をつくるプロジェクトをやりました。

その実施のきっかけとなったのは、下北沢での遊び場づくりのプロジェクトです。下北沢の駅前は公園や遊具がなく、工事現場ばかりだという特徴から、工事現場の素材を転用して遊び場をつくれないか、というコンセプトでプロジェクトが始まりました。100BANCH GARAGE Programの入居期間は終わっていましたが、新たなプロジェクトの機会をいただき、それを元にまちとの関わり方を実験させてもらった結果、そのまちの素材を巻き込む遊具ができたというのがかなり大きな学びです。

和久:この時も単管で遊具をつくりながら、子供たちに遊んでもらい、最後に工事現場で材料を片付けるところまでみんなで一緒にやりながら遊具をつくりました。加えて、ただ遊具をつくるだけじゃなく、サポーター的に関係人口を増やすこともやってみようと思い、つくった遊具を置いてみたり、プレイヤーとして参加してくれる人を呼んでみたりしました。結果、継続的に管理するプレイヤーはなかなか見つからなかったんですが、「試しにやってみる」ことを実際にできたプロジェクトです。

当時、渋谷のナナナナ祭の会場はギャラリー的に使おうということになっていたので、資材をギャラリースペースに置いて、そこを可動式の展示スペースにするプロジェクトもやりました。「ギャラリーをハックする」という名前で、100BANCHの色んな作品を格納するように足場資材を展示しながら展示什器自体も変わり続けるというコンセプトです。

和久:この時、100BANCHにマネジメントをしてもらい、ASNOVAという足場資材のメーカーと一緒にプロジェクトに取り組むことができました。資材の新しい使い方として、ジョイントをつくってそれを展示しながら、実際に使ったジョイントのフィードバックを足場資材の人たちに提供するという流動的なプロジェクトをやりました。この時、実際にプレイヤーになる100BANCHの方がいて、ぼくの代わりにハンマーで単管を立てれるようになり、この場所をどんどん変えていってくれました。ぼくらがつくる場所は、つくって終わりではなく、関わり続けることで、その場所の形がどんどん変わっていくというマネジメントの仕方をしていたので、こうしてメンバーの方が使いこなしてくれるのはとてもありがたかったです。これも実験としてやってみたことで、ぼくのまちづくりのやり方や場所のつくり方に大きくフィードバックされました。  

「REPIPE」として、だんだん自走することもできるようになり、例えば、屋上のプロジェクトで使った足場資材を別の場所に持っていって別の場所をハックするなど、プロジェクトが広がっていきました。蒲田の空き地では、高架下をどこまで使っていいかを京急さんと交渉・実験を繰り返しながら、屋外スペースをつくりました。敷地の半分以上が空き地で、収益を生んでいない状態だったため、空き地に低コストで足場を組んでイベントを行うことで、収益を生む空間にする狙いで実施しました。

和久:また、100BANCH入居プロジェクトとのコラボレーションもできました。ちょうど1年ほど前、「Braille Neue」の高橋くんに声をかけてもらい、TOUCH PARK(タッチパーク)という遊具を作りました。視覚障害のメンバーを中心としたMAGNETというチームと一緒にやっています。

和久:「目をつぶって視覚障害の世界を体感しながらも遊具性を持たせたい」というオーダーで、ホームセンターで手に入る素材ですぐ組み立てられる遊具をつくりました。美術館や公園など、どこへ持っていっても違う形をつくれて、目をつぶった時の世界を体感できます。目をつぶるだけで全然違う身体感覚を体験できることに気づけ、コストに制限があったことで、塩ビパイプという素材を発見することもできました。それを色んな場所で使ってもらったり、テレビに特集してもらったり、100BANCHの縁を通して様々なことがありました。

和久:ぼくらのプロジェクトは基本的にこのように声をかけてもらって、あまりコストをかけずに場所をつくって、そこをどのように使っていくか実験を繰り返しながらやっていくやり方です。プロダクト的に何かつくれたら面白いなと思いつつ「REPIPE」のプロジェクトを通して実験的に探り探りやっています。

 

まちづくりを通して場所の可能性を模索

和久にとって、数々の変態的な実験の舞台となった100BANCH。ここからは、100BANCH入居後の新たな取り組みを別角度から語ってくれました。

和久:100BANCHの入居期間を終えた後は、「REPIPE」の活動を続けながら、就職して設計事務所での仕事も始めました。Open Aという設計事務所で基本的には建築設計をやっていますが、「余っている公共空間や建築物をどう使うか」というコンサルティングもやっています。設計からマネジメントまで携われることが「REPIPE」とも近くて入社し、多くのプロジェクトのお手伝いをさせてもらっています。

和久:今は会社のプロジェクトをきっかけに大阪に住み、そこの行政と一緒に仕事をしています。例えば、将来的に道路が拡幅する場所の空き地を1〜2週間暫定的にハックして広場やストリートファニチャーを置くなどを行っています。将来的に歩道が拡幅するので実際の車道を一部占用してハックしながら使うんですが、住民や沿道の店舗の人たちと使い方を一緒に考えながら取り組んでいます。

和久:その他、例えば大阪の門真市のまちづくりにも関わらせてもらっています。京阪電車の高架下を使って、将来的には下北沢のように高架下の店舗をつくりたいのですが、まだ実現の可能性があるかわからない中、3年間の暫定利用でお店をつくってみたり、お店をつくるだけではなくて、地域のものづくり企業と一緒にモノをつくって什器を置いてみたり、エリア全体で場所を盛り上げる機運をつくったりしています。

和久:また、門真市で市役所を開発していく取り組みがあるんですが、単に建て替えるのではなく、スケートボードのような遊ぶ場所が限られてしまっているプレイヤーたちのための場所をつくろうとしています。ただ、急にスケボーパークをつくるとどういう問題が起こるかわからないので、まずは実験的に市役所の前の広場にスケボーパークをつくってみたりと、建築だけではなく、まちづくりを通してその場所の可能性を模索することを会社の仕事としてやっています。

さらに、岡山市では公園の芝生化のプロジェクトにも取り組んでいます。そのまま芝生化してもどういう影響が出るかわからないので、例えば犬を連れている人たちがどう使いたいか、そういった声を聞いて設計に反映させ、実証実験をしてから芝生化を行っています。そういった少し大きいスケールの都市計画にも関わっているところです。

 

これからのまちづくりは「仮説」と「仮設」

和久:「仮説」と「仮設」というキーワードを挙げていますが、「REPIPE」もOpen Aもまちの将来像を見据えて実験をして、試しながら進むことをやっています。仮設だからこそ、場所に投資しすぎずに実験ができて、かつ、それが将来のより良い設計にフィードバックできる、というのは実際にあると思っていて、都市計画としてはまだ確立されていませんが、これからのまちづくりのあり方として期待できると思っています。 

ぼくが「REPIPE」を始めるきっかけになったのは、イギリスのアーキグラムという建築家グループです。問題を抱えた地方都市に気球でやってきてそこでイベントをやる。お祭りをやって盛り上げて、そこに関わる人たちがいて、何かを作って、イベントが終わった後に、イベントで使われたモノや生まれたネットワークがその場所に残り続ける、という計画をしていた人たちです。

和久:これは実現してはいないんですが、ぼくがやっている活動はかなりこの考え方に近いなと思っています。モノが違うだけで、単管を通してその場所に実験的に入り、何かやらせてもらい、その後でフィードバックを得て次のまちづくりにつなげる。「REPIPE」だけではぼくはまだそれができないと思っていて、「REPIPE」とOpen Aの2つの両軸の仕事を通して、それがクロスする場所がぼくの将来の領域なんじゃないかと思っています。

今後の展望として考えているのが、実際にイベントをやるだけではなく、まちづくりにつなげること。「まつりづくりからまちづくりへ」、即興的な遊びから都市計画までの新しいアーバニズムの在り方を本気でつくっているところです。

和久:100BANCHでもがき続け、公私を通して色んなプロジェクトに関わりながら、結果としてより鮮明にぼくが目指す世界が見えてきました。その世界の実現をREPIPEとしても目指しているし、100BANCHのおかげでできていると思っています。

——「100BANCHの人たちと会話やコラボをしてきた中で新しいアイデアが出てきたので、今回の実験報告会は、これからのまちを考える会にしたい」と話した和久。会の最後には、和久がこの日登壇した全員のメンバーピッチをまとめたグラフィックレコーディングを披露し、会場は盛り上がりを見せました。

 

 

今回のお話の内容は、YouTubeでもご覧いただけます。

https://youtu.be/rQicmQ_wxY8?si=j-05fDg9l9w0fqUJ

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