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「Z世代の視点で、落語文化を未来へつなぐ」:桂枝之進(落語家)

「落語は高齢者だけのもの?」
そんな現状を打破し、落語と若者の接点をつくるために、奮闘し続ける若き落語家がいます。

GARAGE Program 40期生「Z-Rakugo」の桂枝之進は、2020年11月に100BANCHに入居。古典芸能とクラブカルチャーをミックスしたZ世代向けの寄席「YOSE」の開催や日本文化の伝統的価値をより幅広い層にアピールするアパレルブランド「ZuZuZuit!(ズズズイット!)」の立ち上げなど、これまでにないアプローチで落語文化を未来につなげていく活動を続けています。そんな桂枝之進が、落語や100BANCHとの出会い、現在の活動について語りました。

桂枝之進|Z-Rakugo

2001年6月20日生まれ。2017年1月 六代文枝一門三代目桂枝三郎に入門。
2017年12月 天満天神繁昌亭「枝三郎六百席」にて初舞台。全国の寄席やイベント、メディア等で活動するほか、2020年、落語クリエイティブチーム「Z落語」を立ち上げ、渋谷を拠点にZ世代の視点で落語を再定義、発信するプロジェクトを主宰している

 

100BANCHで模索した、Z世代も落語を楽しむ未来

桂枝之進:桂枝之進と申します。2001年6月20日生まれで現在22歳の落語家でございます。小さい頃から落語が大好きで、中学を卒業して15歳で大阪の桂文枝一門に入って修業し、そこから東京に出てきて現在芸歴8年目という噺家でございます。普段は関西の寄席小屋に出ながら、2020年に落語クリエイティブチーム「Z落語」というものを立ち上げました。いわゆるZ世代のクリエイターたちと一緒に、同世代に落語を楽しんでもらえるよう、落語の新しい魅力を発信するプロジェクトとして活動しております。

 

ちびっこ落語家から、落語家に。

桂枝之進:初めて落語を見たのは5歳の頃で、近所の文化ホールで行われた落語会に親に連れられて見に行きました。何が始まるかもわかっていない状態で出囃子が鳴って、落語家が出てきて、座布団の上に座って、面白い話が始まり、気づいたら周りのおじいちゃんおばあちゃんがどっかんどっかん笑っているんです。「なんだこれは!」と衝撃を受けました。家に帰ってテレビやラジオで落語をやっていると「あ、これ見たことあるやつや」と食い入るように見るようになりました。

ずっと落語が好きなまま小学校に上がるんですが、小学3〜4年生ぐらいの頃に図書室で落語の速記本と出会うんです。速記本というのはいわゆる台本みたいな本で落語のセリフがずらっと全部書いてあります。これを読んでいるうちになんとなく話を覚え、登下校中に友達に落語をやり始めたところ、クラスで噂になったり、家族に話したら親戚の集まりで「ちょっとやってや」と言われたり、自分が落語をやる方向に徐々に目が向いていきました。当時、ちびっ子落語の全国大会やテレビ番組があって、そういった舞台に出るようになり、学校以外の場所でもだんだんとちびっ子落語家として社会と繋がり始めるんです。

これがもう面白くなってきて、どんどん夢中になっていきました。小学6年生ぐらいからは不登校で学校に一切行ってなかったんですが、そうするとめちゃくちゃ暇で、やることがなくてどうしようかなと考えたとき「みんなが週5日学校行ってるなら、週5日どっかで落語やろうかな」と考えるようになりました。それから全国のゲストハウスやライブハウスに出向いて落語をやるようになり、中学校3年間は年間150ステージぐらい全国を飛び回る生活をしていました。そうなってくると、もう落語家以外の選択肢が浮かばないんです。中学3年生の頃学校に呼び出されて進路相談の面談があったのですが、先生も諦めていて「落語家になるなら弟子入り先ぐらいは決めよう」と進路先を決めるように弟子入り先を決めることになりました。それで当時、急かされるように、大阪の桂枝三郎という師匠の落語会に行って弟子入りするんです。そんなこんなで2017年の1月、中学3年生の冬に六代 桂文枝 一門、三代目 桂枝三郎 門下に弟子入りして、桂枝之進として落語家生活を始めることになりました。

 

落語家にもお客さんにも同世代がいない!

桂枝之進:落語家になって最初は、当然落語ができないので、師匠の身の回りのお世話をしながら、徐々に楽屋のルールや業界の所作みたいなものを学んでいくんです。ぼくも1年くらい神戸の家から大阪にある師匠の家まで毎日通い、その後は寄席に入って若手の楽屋仕事みたいなことをしながら、徐々に落語を教えてもらいました。三遍稽古(さんべんげいこ)といって、師匠の口移しで直接稽古をつけていただくんです。師匠が自分の目の前で落語を3回やってくれるので、それを聞いて覚えなければいけないのが三遍稽古なんですけど、まあ覚えられないですよ。全然入ってこないし、最初は緊張もあるので。3回終わって「やってみ」と言われてやろうとしても全然セリフが出てこず「あかんやないか」と。それでまた稽古を繰り返す、そんな修業生活が3〜4年続きました。そして、落語界に入ってぼくが驚いたのは周りに同世代がまったくいないことです。同世代もいないし、20代前半も少ない。落語界は定年退職がないので、1回入ったらもう死ぬまで落語家です。平均年齢60歳に近い業界なんです。さらにお客さんにも同世代がいない。それで「30年、50年後、ぼくは誰と一緒に舞台上がり、誰が見に来てるんだろう?」と、漠然と不安に感じ、同世代に向けて落語の魅力を伝えられないかと考えるようになりました。しかし、当時は大阪で修業中でプロジェクトを始めるわけにもいかず、X(旧Twitter)で修業中の様子をつぶやいていました。すると同世代のエンジニアやクリエイターと繋がるようになり「このネットワークを使って落語の魅力を違う切り口で伝えられたらいいな」と考えるようになりました。

 

入居以前からあった100BANCHとのつながり

桂枝之進:100BANCHには、40期2020年の11月入居となっているんですが、実はその数年前からつながりがありました。18歳か19歳になる誕生日にたまたま休みが取れ、なんとなく東京に来て渋谷に泊まって「修行が終わったらどんな活動をしていこう」と考えながらネットサーフィンをしていました。その時「伝統芸能 新しい」とか気になったキーワードで検索しているうちに1つのインタビュー記事にたどり着くんです。昔100BANCHに入居していたキサブローさんという着物デザイナーの方の記事だったんですが、伝統的な着物のお家に生まれた仕立て屋さんで、将棋棋士である羽生善治名人の竜王戦の着物を作ったり、音楽プロデューサーである滝沢秀明さんが手がける「滝沢歌舞伎」の舞台衣装の着物を作ったり、色々な新しいアプローチをされている方で、記事を読んでいるうちに「落語でこういうことができたら面白いなあ」と思いました。偶然にも泊まっていた渋谷に100BANCHがあり、毎日入居説明会や内覧会をやっているというじゃないですか。「これはぜひ行ってみよう」と思ったんですが、次の日も仕事でお昼には新幹線で大阪に帰らないといけない。どうしても行ってみたいが100BANCHの内覧会は17時からなので間に合わない。「もうアポなしで突撃しよう」と次の日の朝イチに100BANCHの前に行ったんです。恐る恐る100BANCHに入って、受付で「ぼくは落語家をやっています。責任者の方はいますか? 」と言ったところ、奥から「一席どうぞ!」と言われたんです。

株式会社ロフトワークのCLOである松井さんという方だったのですが、「落語をやっていて、100BANCHみたいな場所で自分も同世代や若い世代に落語の魅力を伝えたい」「落語会がしたい」ということを直談判したところ、「落語会やろうよ」と言っていただいたんです。めちゃくちゃウェルカムに迎えていただき、この2ヶ月後、実際に落語会を企画していただきました。まだ100BANCHに入居する前でしたが、桂枝之進落語会@100BANCHをこの100BANCH3階で開催していただきました。舞台に上がると客席には記事で見たキサブローさんなど、こちらが一方的に知ってるような方がずらっと並んでいて、「どっちがどっちを見に来てるんやろう」などと思いながらありがたく落語をさせていただきました。それが100BANCHとの出会いです。それで「いつか100BANCHで何かプロジェクト活動ができたらいいな」と考えながら大阪で修業生活を送っていました。

 

「寄席」と「クラブカルチャー」の共通の役割を見出す

桂枝之進:転機となったのはコロナ禍で、2020年3月には落語界も一斉に休業状態になりました。「落語家はこの先どうやって生きていくんだろう」「また寄席で落語ができる日は来るんだろうか」と誰もこの先がわからない状態になった時に、ぼくは沸々と想い溜めていたオンラインでの落語会をやってみたんです。Zoomでぼくが落語をやって、お客さんがそれをオンラインで一方的に噺を聞く。これが面白くないんです。一方的に落語をしゃべっているだけでは稽古と変わらないんですね。とにかく自分のテンションが上がらない。お客さんとのコミュニケーションがあって初めて落語って成立するんです。それで今度はお客さんの笑い声ありで落語会をやってみたところ、ここでひと笑いくるぞ!という場面でまったくウケない。「あ、スベったな」と次のセリフを言ったら、そこに遅れて笑い声がかぶってくる。この0.1秒のタイムラグは落語家にとってはめちゃくちゃ気になるんです。そんなとき、渋谷のとある施設が5Gを使って実証実験をするプロジェクトを募集していたんです。「5Gならタイムラグを短くしてストレスが少ないまま、笑い声も共有できるオンライン落語会ができるんじゃないか」と思い立ち、2020年の8月に「Z落語」というチームを立ち上げました。実証実験の応募には3人以上のメンバーが必要だということで、SNSで呼びかけるとデザイナー、カメラマンと同世代のクリエイターが集まり、当時、Z世代という言葉が使われ始めたこともあり、走り出したのが「Z落語」というプロジェクトです。

この実証実験では、NTTドコモさんに5Gの機材をお借りして落語会をやってみました。結果、5Gでのインタラクティブな落語は、笑い声をイヤホンで拾ってくれるのですごくやりやすくなると分かりました。しかし、反面、同世代が落語を好きになる最初の火種を起こすのにオンラインはすごくやりづらいとも感じました。オフラインの方が熱量を持って集まりやすいし、落語そのものの魅力を味わってもらいやすいんじゃないかと思ったんです。ということで、100BANCHに入居することになりました。当時のプロジェクトは「Z世代の視点で落語を楽しむ新しい『寄席』のカタチを渋谷の街を舞台にデザインする!」という思いっきりオフラインに方向転換したものでした。落語の寄席は、江戸時代は東京都内に400件ぐらいあったんです。町内の人が仕事終わりに集まって新しいエンターテイメントに触れて、横のつながりが生まれる、そういったある種「集会所」みたいな役割がありました。現代でこの役割を担っているエンタメ施設はどこだと考えたところ、クラブが1番近いんじゃないかと思ったんです。学校、仕事帰りに集まって、新しいエンターテイメントに触れて横との繋がりが生まれる構造が寄席とすごく似ていると思い、「クラブカルチャーと落語をミックスして新しい時代の寄席をつくろう!」というプロジェクトを100BANCHで始めました。

 

「YOSE」と「クラブカルチャー」の融合が生む新たな感動

桂枝之進:最初は何もなかったので、4人で東急ハンズに行って「買えるものでできることをやろう」と、とにかくDIYで作り始めました。暖簾をつくるのに室内でスプレーをしたら臭くなって怒られました。扇子を作ろうとして、骨は3Dプリンタでいい感じにできたのに紙を貼る作業には職人技が必要だとなって頓挫するなど、色んなことやっていました。寄席小屋には額に入れた書が飾ってあったりするんですが、何か新しい形に置き換えようとアクリル板を買ってきてDIYでネオンアートみたいなものを作るなど、とにかくDIYで作れるものを作ろうとイベントまでの3ヶ月間ずっと100BANCHで作業して、「YOSE」と書いて「寄席」というイベントを100BANCHの3階で2日間、開催することができました。

DJの音を出囃子に、落語家が高座に上がって落語をするイベントです。お客さんの9割ぐらいが同世代のZ世代でどんな反応が返ってくるかドキドキしながら舞台に上がり、普段の寄席と変わらない古典落語をやりました。これにものすごく新鮮な反応が返ってきたんです。普段の寄席だとなんとなく筋(すじ)を知っているお客さん相手なので、決まったところでしか笑いが返ってこないんですが、同世代のお客さんは新しいものとして落語を見てくれるので、新鮮なタイミングで笑いが返ってきてその反応に感動し、もっと色んな場所でもっと多くの同世代に落語を見てもらいたいと思うようになりました。本来、Z落語は実証実験だけで終わるつもりの3ヶ月の予定だったんですが、気づいたら3年、4年と続けているプロジェクトとなりました。

最初は100BANCHで始めた「YOSE」も、色々なところでできるようになりました。例えば、2020年の年末に東京でやったのは、渋谷のライブハウスの舞台の上に茶室を作り、フロアに畳を敷き詰めて、DJがプレイしている時は畳の上で立って踊り、 落語やライブが始まると座って見られる2ウェイ形式のものです。また、屋形船を使った寄席も作りました。柳橋の屋形船文化に若い人が触れるきっかけを作りたいと、設計会社の株式会社日建設計さんにお声がけいただき、屋形船にネオンやウーハーのついたスピーカーを入れて、落語とDJのクルーズを企画しました。

また、寄席が様々な場所で開催できるようになっただけでなく、他の色々なプロジェクトも展開できるようになりました。「ZuZuZuit!(ズズズイット!)」というアパレルブランドを立ち上げたのですが、「これ何のブランド?」と聞かれた時には「落語のブランドです」と落語の話ができるように、アパレルを落語のメディアとして考えたブランドで、Tシャツやパーカーなど色んなものを作っています。

他には、膨大にある台本をAIに学習させて新しい落語の台本を作らせる、煩悩の塊みたいな「AI落語」というプロジェクトもあります。エンジニアがプログラムを作ってくれたんですが、初めてAIが作った新作落語を見てみると、たった1行なんですよ。落語って起承転結があって、長い話だと1時間のものとかもあるんですが、AIが初めて作った落語はたったの1行でした。その後、改良されたAIが作った新作落語は、まさかの「ごぼう」が主人公の落語でした。こういうのはAIじゃないと思いつきませんよね。

また、落語を主軸にしたドラマを作りたいというお話もいただきました。人気のインフルエンサーがビートに乗せて30秒で起承転結、落ちまである落語を作るフリースタイルバトルの落語版といったストーリーで、「対決落語」という競技が流行っている世界線の青春ドラマです。落語部分の監修や台本づくり等をまるまる担当させていただき、同世代の生活圏内に落語が入り込めるような企画が「Z落語」をきっかけに徐々に広がりを見せていると感じます。

 

世代の壁を越えた落語は、国境さえも越えていく。

桂枝之進:この「Z落語」は、落語を起点に、発想、実装、発信まで、同世代のクリエイターと一緒に、日々色んな活動をしています。まだ発表してないものが多いんですが、新しいプロジェクトをいくつか作っています。例えば、海外に落語を持っていった時に言語の壁がどうしても障壁になるので、この言語の壁を超えるような新しい落語の演出を考えたり、落語を他のメディア上にのせるために例えば落語を音楽にしたり、様々なアプローチで新しい企画を作っています。今後は海外も視野に入れながら活動していきたいと考えています。 

また、最近は若くして弟子入りするケースも増えてきていて、ぼくより年下の落語家も現れ始めています。そうして次の世代、次の世代へとバトンがつながっていけば嬉しいですし、そのきっかけになれれば幸せだなと思います。

 

今回のお話の内容は、YouTubeでもご覧いただけます。

https://youtu.be/J0d9pQcNGL8?si=wd4HE34BzEpZSmGp

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