「研究×情緒」で大衆的な科学コミュニケーションをつくりたい。
Academimic(旧:Sci-Cology)
「研究×情緒」で大衆的な科学コミュニケーションをつくりたい。
難解な研究テーマをクリエイティブの力で表現する「Academimic」。研究をもとに作品を制作し、一般の方々が科学の一端に触れられる仕組みをつくるプロジェクトです。
ナナナナ祭2023では100BANCH前の渋谷リバーストリートで、論文アートを掲出する「ロンブンアートストリート」を実施しました。企画の背景や制作過程、当日の様子をお伝えします。
ロンブンアートストリートは論文に触れて生じる情緒的な部分をイラストにおこし、アート作品として渋谷に掲出するプロジェクトです。論文は客観的な情報ですが、そこから生まれる感想や想像は、映画や小説に引けを取らないクリエイティビティが潜んでいると考えています。私たちAcademimicはそんな論文から生まれる情緒をアートという身近な形で表現しました。
本企画立案に至るまで、Academimicが抱えていた課題は主に2点ありました。
一つはAcademimicの作品を見てもらう機会がほとんどなかったこと。研究とポップカルチャーの融合を掲げていますが、どんなアウトプットになるのか、既存のサイエンスコミュニケーションとどう違うのかなど、なかなかイメージしにくいこともあり、何か大きな枠組みで作品を見てもらうことが必要だと感じていました。
二つ目は作品の質を客観的に評価できていなかったこと。過去作ってきた作品に対して研究界隈では評価してくれる人もいましたが、それが果たして一般の方々にも通用するのか不明でした。
この2点を検証するためにも、ナナナナ祭で一般人が行き交う渋谷リバーストリートに新作を飾るロンブンアートストリートを企画しました。
従来のように気になった論文をAIを駆使したり、イラストレーターを起用して作品にする一方で、今回は研究者とともに作品を作ることも目標として掲げました。SNSで自身の論文をアートにしてみたい研究者を募集し、コミュニケーションをとりながら制作しました。
論文を作品化する上で心掛けたことは参考書の図解のような表現をするのではなく、その研究において心が動くポイントはどこかをチームで議論し、そこからどういったクリエイティブにするかを検討しました。
アイデアノート
例えば、こちらの超新星爆発に関する論文について。
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ab4da3
大変難解な論文ですが誤解を恐れず極めて簡潔に要約すると、これまで超新星の爆発は長い時間をかけて引き起こされるというのが通説でしたが、この論文では宇宙物理学と原子核物理学の観点から検証を行い、ほぼ“一瞬”で爆発することが観察結果と一致することを明らかにしました。
ロンブンアートでは、超新星爆発を星の終焉と捉えて、夜空に浮かぶモールス信号の“さよなら”とその最後の瞬間に閃く超新星爆発を提示し、生活の中では捉えにくい宇宙の現象を、短くても深いメッセージを送る信号を通じて描きました。
「終わりは刹那」Inspired by Sawada, R., & Maeda, K. (2019)
このように論文から受けた印象から発展させて、何をどのように描くかを議論し固めた上で、AIと制作ソフトを活用してイラスト化しました。
制作には生成AIを活用しAIエンジニアであるRinga氏とともに何度も生成を重ねました。生成AIはざっくりとしたオーダーにはこたえることができますが、細かいディテールに対するアウトプットは難しく、都度詳細なプロンプトが必要になります。アイデアに対してどういう命令であればAIは表現してくれるのか、かなり細かい部分まで調整を重ねました。
最終的にはイラストレーターとの作品を合わせて全12作品が完成しました。
掲出の際、作品に付属するキャプションボードも研究者監修のもと作成し、論文がわからなくても美術館にあるような説明書きを添付し、作品→解説→再び作品を見て、研究の奥行きを感じられるように工夫しました。
〈以下作品一部抜粋〉
「空気を喰む」
Inspired by Tabata, H et al. (preprint)
https://europepmc.org/article/ppr/ppr517876
「BEAT!!!」
Inspired by Ito, Y et al. (2022)
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abo7019
「embrace」
Inspired by Kai, Y et al. (2022)
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0278663
「Fly me to the…」
Inspired by Takagi, S (2022)
https://arxiv.org/abs/2211.09817
当日、果たして制作した論文由来の作品は渋谷の街での観覧に耐えうるものになったのか、足を止めて見てくれる人がいるかなど不安はありましたが、両日ともに想定を上回る人々が作品を見てくれました。歩きながら作品を眺めていく人、じっくりキャプションを見て鑑賞していく人、一枚一枚写真を撮ってくれる人。コミュニケーションを通じて、「可愛い」や「この作品のグッズが欲しい」などの声もいただき作品自体の評価も実感することができました。
また12作品のなかで、アート、ポップ、トリックアートなど作風をばらつかせたことで誰にどれが評価されているかも検証することができました。そしてその作品の幅が、渋谷という多様性の街にうまく溶け込んでいるように見えました。
ナナナナ祭では若者だけでなく外国人や子どもづれといった幅広い人々に観覧していただきポップカルチャーの最初の入口に立てたのではないかなと思います。今後は、アカデミック界隈とカルチャー界隈でバランスよく展示をしていきたいと考えています。また、上野や六本木ではアート系、下北や高円寺などではポップカルチャー系とその街の雰囲気に合わせた展示をしていきたいと思います。
来年も渋谷で展示できるよう引き続き活動していきたいと思います。