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対話型オンライン読み聞かせ YOMY!
- リーダーインタビュー
最先端の読み聞かせ教育で子どもの未来を広げ、忙しい子育て世代に罪悪感を抱かせない社会を YOMY!:安田莉子
「イギリスの小学校で、消防士・外科医・パイロットの絵を子どもたちに描かせたところ、9割以上の子が男性の絵を描いたという調査結果があるんです。そんな早い段階で掛かっているジェンダーバイアスが、将来の選択肢に影響を与えることもあるんじゃないかなと思いました」。そう話すのは、オンラインの絵本読み聞かせサービス「YOMY!」を運営する安田莉子。かくゆうこのサービスも、彼女がチームメイトと交わした「女性エンジニアってほとんどいないよね」というジェンダー論に触れる言葉に端を発しています。
絵本とジェンダーバイアス。一見すると関連性を見出しにくい2つのキーワードですが、幼少期の子どもたちの頭に刻まれた絵本の記憶が、知らず知らずのうちに、それでいて意外なほど強い力でその価値観を形成する一つのファクターとなり得る。……よくよく考えれば納得感のある話ですよね。
中高生の時に経験したリベラルアーツ教育とオーストラリアでの短期留学によって、教育分野に関心を持った安田。絵本の読み聞かせを通して子どもたちの世界と将来の可能性を広げる、そんな想いを胸に奮闘する彼女の言葉をお届けします。
静かに読むだけが読書じゃない
——YOMY! はどんなきっかけで誕生した、どんなサービスなのでしょうか?
安田:「Life is Tech!」(100BANCHのメンターでもある水野雄介さんが代表を務める中学生・高校生のためのIT・プログラミングスクール)でインターンをしていた時に友達と一緒に参加した、丸井グループ主催の「Future Accelerator Gateway」というビジネスコンテスト(以下、ビジコン)がきっかけです。「社会課題を解決する新規サービス」がその時のお題で、当時組んでいたチームと何をやろうか話していた時に、ふと女の子のエンジニアが少ないという話題になり、その理由を深掘りしてできたのが今のサービスの原型ですね。
「YOMY!」安田莉子
安田:私も含めチーム全員がエンジニアだったのですが、5人のうち2人が女性。彼らにエンジニアになった経緯について尋ねると、男性チームは「中学の頃からプログラミングをやってたから」とか「元々ガジェットとかロボットとか好きだし」、一方の女性チームは「プログラミングなんて触れる機会がなかったし、大学になって初めて知った」っていう回答で。これってもしかして育ってきた環境や培われた価値観による違いなのかも。例えば男の子には電子工作とかロボットのおもちゃ、女の子にはおままごと、みたいな形で知らない間に与えられた既存の価値観に影響を受けているのかもって思いました。そう仮定した上で男女関係なく子どもの世界を広げられるサービスを、自分たちの得意なテクノロジーを使って提供しようという話になり、サービスの内容を考えあぐねていた時に着目したのが絵本。子どもたちに絵本の読み聞かせを行うサービスを思いつきました。
——どうして絵本だったんですか?
安田:絵本って子どもに色々な価値観を与えて世界を広げてくれるもの。小さい子は絵本を通して様々な世界を知り、冒険することができますよね。そう考えたら絵本の読み聞かせって子どもにとってすごく重要な体験なんじゃないかなと。自分の原体験としても、読んでもらった絵本にまつわる記憶は温かい思い出としていまだに残っているものなので。だけど現在の子育て世代、特に働きながら子育てをしている方の中には、絵本を探してきて子どもに読み聞かせる時間をあまり作ることができないという課題があり、その一方で、子どもたちがYouTubeを視聴する時間は増えているという実態があります。YouTubeの視聴が悪いというわけではありませんが、そんな今の時代だからこそ改めて絵本の良さを広めていきたい。テクノロジーの力で課題を解決していきたいと思いました。
——具体的にはどういった内容のサービスを提供しているんでしょうか?
YOMY!のホームページ
安田:「読み手クルー」と呼ばれる特別なトレーニングを受けた大学生スタッフが、たくさんの対話を交えながら子どもたちに絵本を読み聞かせ、その絵本に関するクイズや絵を描くといったワークショップを行ないます。「静かに読むだけが読書じゃない」というのがYOMY!のコンセプト。言葉でも絵でもいいんですけど、子どもたちに自分を表現する力を身につけてほしい。自分で考えて人に伝えることを学んでほしいんです。読み聞かせについて調べる中で、ハーバード大学などアメリカの最先端の教育機関で研究されている「ダイアロジック・リーディング」という手法に出会いました。対話を重視しながら子どもたちの思考を深めていく新しい読み聞かせの方法です。これをベースに開発した独自のYOMY!メソッドをサービスに組み込んでいます。
——一方通行ではない、アクティブな読み聞かせの体験を提供しているんですね。
安田:その通りです。海外にバックグランドを持つチームメイトと話したり、アメリカの図書館員の方にお話を伺う中で、読み聞かせの体験が日本と海外で違うことに気がつきました。アメリカでは親が子どもたちにたくさん問いかけながら読み聞かせを行うんです。「次はどうなると思う?」とか「自分が主人公だったらどうする?」みたいに。それによって子ども自身が考えて意見を表現する習慣が生まれます。YOMY!では読み聞かせの前に“Show and Tell”という時間を作っているのですが、これもアメリカの保育園や小学校で取り入れられているもの。みんなの前で自分の好きなものを見せて(show)、伝える(tell)ための力を養うのが目的です。幼少期から自分の意見を人に伝える癖を身に付けておけば将来きっと活きてくるはず。日本ではまだまだそんな教育を受けられる機会が少ないと感じています。
アメリカの子どもたち、積極的な発言の背景には幼少期の「読み聞かせ」がある?
-教育の最先端カリフォルニアで聞いてみた!(YOMY!のnoteより)
▷https://note.com/yomy/n/n76c7af0a40f3
安田:日本では講義中、先生の話を生徒が静かに聞くという受身のスタイルが多いですが、海外ではディスカッションやプレゼンテーションの時間が多く、生徒はとてもアクティブ。以前、アメリカのスタンフォード大学で学ぶ機会があったのですが、みんなとにかく手をあげて発言していて、ディスカッションで授業が2時間ほど延長してしまいました(笑)。教育のあり方における両者の違いって、絵本の読み聞かせから始まっているのではないかと思いました。と同時に、YOMY!でアクティブな読み聞かせの体験を通して日本の子どもたちの意識を変えることができるのでは、と可能性を感じることもできたんです。
教育への関心が芽生えた留学先での衝撃体験
——教育の話が出ましたが、安田さん自身が教育に関心を持ち出したきっかけは何だったんでしょうか?
安田:中高時代、リベラルアーツ教育を取り入れた自由な校風の学校に通っていたんです。私服だしほとんど決まりごとのない、とにかく全てが生徒主体な学校でした。行事なども自分たちで企画して先生に提案書を出して行なっていましたね。詰め込み教育ではなく子どもの主体性を重んじる学校だったことが、私にすごく良い影響を与えてくれたと思います。その上でさらにターニングポイントというか、大きな衝撃を与えてくれたのが高校生の時に経験したオーストラリアの姉妹校への短期留学。その時受けたクラスがすごく印象的だったんです。
安田:座る席は決まってないし、なんなら教室ではバランスボールを椅子として使っている子もいたり。生徒はみんなタブレットを手にしながら授業中にガンガン意見を主張するし、寝てる子なんて1人もいない、とにかく明るくて楽しい雰囲気でした。マーケティングの授業では実際に生徒たちが学校でものを販売していたり、学校の公式Instgramではそんな生徒や家族の姿がたくさん発信されていたりして。「何これ! こんな最先端の教育があるんだ」ってびっくりしたのを覚えています。自分の母校でもこんな授業があったらもっと面白いだろうなと思うと同時に、学校側の教育のあり方次第でもっと子どものスキルを引き出すことができるんだって感じました。そんな経験を経て教育に関心を持ち始め、いつしか自分も教育に関わりたいと思うようになったんです。
——ユニークな教育方法に触れるうちに関心を持つようになったんですね。ちなみに安田さん自身はどんなお子さんだったんでしょうか?
安田:絵や工作が大好きで、アトリエ教室に一日中入り浸っているような子でした。自由に好きなことをやらせてくれる両親だったので、伸び伸びと幼少期を過ごせたように思います。理工学部へ進学したのも物作りと理系の教科が好きだったから。何をするところかもよく分かってなかったんですが、小さい頃から何かの発明家や研究者になりたいっていう漠然とした思いがあって(笑)。教育学部に行こうか悩んだ時もありましたが、自分で教鞭を執るより、教育に関わるシステムや環境を作る方に興味があったんです。だったら教育学部以外のアプローチの方が自分に合ってるんじゃないかなと。大学入学後、Life is Tech!に関わるようになってからは、プログラミングなどエンジニアリングに関する勉強に追われてかなり大変でしたが、これがまたすごく面白くて。
——今までの経験が全て繋がって現在のプロジェクトが出来上がったと。大学在学中に起業するまでの流れはどのようなものでしたか?
安田:ビジコンに参加した当時はビジネス云々ではなく、みんなで何か作れたらいいねっていう気持ちでしたが、ありがたいことに最優秀賞を受賞することになり、審査員の方々が「いつ法人登記するの?」「早く法人化した方がいいよ」とおっしゃってくれたんです。そこで初めて起業という選択肢が浮上して、授賞式の後、本当だったら打ち上げをして盛り上がるはずだったのですが、今後どうするかを話し合う会になりました。でも、私を含めとりあえずやってみようというメンバーがいた一方、その時期ちょうど就職活動中のメンバーも。最終的に私ともう1人が残って在学中に起業する形となりました。現在は、その後ジョインしたメンバーを含めて6人で活動しています。
——ビジネスにするとなると大変な面も多かったのでは?
安田:それは本当にそうで(笑)。起業に関しては全く知識がなかったので、様々なアクセラレーション・プログラムに参加して勉強しながら進めていこうってメンバーと話し、100BANCHもそうですが、東京都や経産省が行なっているプログラムに参加して、今に繋がるご縁を作ることができました。
100BANCHはホームと呼べる温かい場所
——100BANCHのGARAGE Programにエントリーしたきっかけを教えてください。
安田:当時のチームメイトから教えてもらったのが始まりです。100BANCHのホームページを見てすごくワクワクしたのを覚えていますね。好きなことを応援してくれる場所だというのは分かっていたし、「ここは面白そう!」って直感的に感じたので早々にエントリーしました。ここなら横の繋がりを作りつつ、自分たちのサービスを思う存分に加速させられるんじゃないかと期待していました。
——実際に入居してみてどうでしたか?
安田:本当に来て良かったなと思います。初回の説明会の時からすごく温かい空気感が漂っていたんですよ。同時期に入居した仲間とも仲良くなれて、今でも時々集まって同期会をしています。
GARAGE Program 62期の同期と
安田:100BANCHでピッチした後、本当に色々な方に声を掛けていただき、人を紹介してもらったり、ビジネスプランに関するアドバイスをもらったりしました。メンターの石戸(奈々子)さんにも、どうやったらYOMY!を子どもたちに届けられるかというビジネス的な視点や、いち母親としての目線でアドバイスをもらえてすごく励みになりましたね。PS(プロジェクトスタッフ)さんからのお声掛けで繋がりが増えたことも多かったです。「この人、きっと合いそうだから話してみて」という感じで。アクセラレーション・プログラムって横の繋がりができやすい場だと思うんですけど、100BANCHの場合はPSさんがそのきっかけをくれる印象。そして、チームメンバーと一緒に100BANCHをホームと呼んでいるくらい、なんだか落ち着く場所でもあります。
——4月16日(日)には100BANCHで初のイベントを開催するそうですね。
安田:はい。絵本の読み聞かせとワークショップのイベントを行う予定です。東京学芸大学 芸術・スポーツ科学系准教授の正木賢一先生が描かれた絵本を提供していただき、その絵本を読み聞かせた後に話の続きや絵本にまつわる作品を子どもたちに作ってもらうワークショップを企画しました。初めての対面イベントということもあって緊張していますが、100BANCHの先輩方にアドバイスをいただきながら進めている最中です。
YOMY!:読み聞かせ×好きを見つけるアート教育イベント
2023年4月16日(日)開催 会場:100BANCH 3F
イベント詳細:https://100banch.com/online-yomikikase-yomy0416
YOMY!は将来の自分が使いたいサービス
——現在、YOMY!はプレサービス中ですが、周囲の反応や見えてきた課題について教えてください。
安田:プレサービスとして一般向けの有料サービスを開始したのは去年12月から。今はまだ広告は出さずSNSなどで告知をしていますが、少しずつお客さんが増えてきています。中には、「子どもに読み聞かせしたいけど時間がなくてできない」というワーキングママさんが、検索でうちのサービスを知り申し込んでくれたケースも。ちゃんと世の中のニーズとして受け入れてもらえたと実感できて、すごく嬉しかったですね。4月からは読み手の本格的な研修も始まります。手伝ってくれるスタッフも増えてきたし、トライ・アンド・エラーを経てクオリティを上げていこうという段階に入りました。
実際に読み聞かせをする様子
安田:その一方で、絵本に関しては著作権の問題なども含めて課題が多いですね。業界的な話でいうと、実は今ベストセラーと言われている絵本の7割は旧作が占めていて、なかなか新しい作品が世に出にくい状況があるようなんです。不朽の名作を親子で共有できる良さもありますが、新しい絵本を通してアップデートされていく世の中の価値観を伝えることも大切。いつまでもおばあさんが洗濯をして、おじいさんが芝刈りに行かなくてもいいんです。忙しい子育て世代の方々に代わって、新しく素晴らしい絵本を発掘して子どもたちに届ける、そんなサービスでありたいです。ちょうど100BANCHに入居してから半年。その間にもたくさんの絵本作家さんと繋がることができ、提供できる絵本が増えてきたのは嬉しい限りですが、もっともっと増やしていきたいです。
——絵本作家さんを探すのも苦労があると想像します。
安田:そうですね。ラインナップの拡充にあたっては、協力いただきたいと思った絵本作家さんに連絡をして打ち合わせして、ということを繰り返しています。この取材の後にも作家さんとの打ち合わせが入っていますし。共感して協力してくださる作家さんたちがいるおかげで、このサービスが成り立っているんです。既に提供いただいている絵本に関しては自費出版や個人でやられている出版社さんのものが多いのですが、大手の出版社さんとも現在お話しを進めているところです。実際にどんな様子で絵本が読み聞かせられているかを観られる絵本作家さん用のアプリや、体験した絵本を実際に購入できる仕組みを搭載した保護者用のアプリも作っているんですよ。絵本作家さんにとっても、絵本を選ぶ時間のない保護者の方にとってもメリットになる良い循環が生まれたらと思います。
サービス提供する絵本は日々増え続けている
——オンラインサービスではあれど、蓋を開けてみるとアナログな作業が多そうですね。
安田:絵本を増やしていくのも読み手の研修を行うのも、アナログな作業は多いですね。また、人ありきの事業なのでコミュニケーションをとることが肝心だとも感じています。オンラインのサービスって、というかテクノロジー全般そうですが、本当に大切なものをサポートするものでしかなくて、あくまでツールですから。できるところは自分たちが得意とするテクノロジーを駆使してDX化し、人と人とのやりとりが大切なところでは、しっかりとコミュニケーションをとっていきたいですね。
——今後、YOMY!としてはどのようなサービスを目指していますか?
安田:最先端で質の高い教育を、絵本を通して楽しく気軽に受けてもらえるようなサービスを届けたいと思っています。幼児教育というとどうしても、親が熱心になって時間をとらないといけないとか、子どもたちも真面目に取り組まなければいけないといったハードルの高さを感じてしまいがちですよね。大人向けのアプリやオンラインサービスはどんどん多様化してスマートになっていくのに、幼児教育に関してはなかなかそうならない。ここにイノベーションを起こしたいと考えています。
安田:自分自身、将来子どもができても働きたいと思っているので、YOMY!は将来の自分が使いたいサービスでもあるんです。専業主婦だった私の母は絵本の読み聞かせはもちろん、子どものための時間をたくさん作ってくれましたが、将来の自分が働きながら同じことができるのかというと、どうしても難しいんじゃないかなと。近い将来、スマートスピーカーに「YOMY!タイムを始めて」って言うと、読み手クルーとマッチングしてすぐに読み聞かせが始まる、みたいなことが実現したら嬉しいですよね。しかも子どもはその時間をすっごく楽しみながらたくさん学んでくれる。そうなれば忙しくて自分が構ってあげられない時でも、安心して自分の時間を過ごすことができます。
安田:あとは、まだアイデア段階ですが、作家さんと一緒に絵本を作ったりもしていきたいですね。それこそ女の子向けにエンジニアに関する絵本が作れたら、とってもワクワクします! 絵本って結構ジェンダーバイアスがすごくて、潜在的にそれが子どもたちに刷り込まれてしまう可能性も低くないんです。絵本を通してそれを変えていけたらっていう想いがあります。というか単純に、保護者の方もお子さんが楽しそうに学んで世界を広げてくれたら嬉しいですよね。そして、子どもや保護者の方の反応を作家さんにフィードバックすることでより良い作品が生まれる、そんなハッピーなサイクルが生まれたら最高です。子どもも保護者の方も絵本作家さんも、関わる人全てに良い相乗効果が生まれるようなサービスにしていきたいです。
——最後に、安田さんが思い描く100年後の社会像を教えてください。
安田:YOMY! のミッションは、子どもたちを中心に全ての人が自分を表現できる社会を作ることなんですが、きっとこれって100年後と言わずも、遠い未来でもずっと変わらないテーマだと思うんです。子どもたちがワクワクする未来って誰にとっても希望がある社会ですよね。それを作っていくための一端を担っていけたら嬉しいです。素晴らしい絵本がもっと世の中に増えて、子どもたちが「お母さん、今絵本を読んでるからちょっと待ってて」って夢中になれるような環境ができて、親御さんが忙しさを理由に子育てに関して罪悪感を抱かずにいられる社会が実現できたらいいですね。
(インタビュー写真:小野瑞希)
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