- リーダーインタビュー
- センパイの背中
ここちよい暮らしを、サーキュラーエコノミーで実現する Food Waste Chopping Party 大山貴子(fog 代表)
「フードウェイスト、気候変動、SDGs、サステナブル…そういった課題はそれ自体が問題ではなくて 一人一人の意識や行動を変えていくことが大切なんです」
そう話すのは、100BANCHのGARAGE Program 2期生「Food Waste Chopping Party」の大山貴子。現在は、自然と社会とコミュニティの循環と再生の構築を行うデザインファーム「株式会社 fog」で、未来がよりここちよい世界であるための好循環を生み出すさまざまな取り組みを続けています。
そんな大山に、現在の活動のきっかけや100BANCHでの取り組み、これからの展望などを聞きました。
大山貴子 fog 代表取締役 米国ボストンサフォーク大学卒業後、ニューヨークで新聞社に就職。EdTechでの海外戦略、編集&ライティング業を経て、2014年に帰国。日本における食の安全や環境面での取り組みの必要性を感じ、100BANCH 入居プロジェクトにてフードウェイストを考える各種企画を実施。ワークショップ開発などに携わった後、19年にfogを創設。21年にélabをスタート。22年4月に第1子出産。6月より武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所客員研究員。 |
日本のスーパーで抱いた危機感
大山はアメリカの大学を卒業後、ニューヨークの新聞社に就職。海外で色々な経験を積み、2014年に帰国しました。当時、日本のスーパーマーケットに行くとあることに気付いたと言います。
大山:スーパーに並ぶ食品が、いつ、どこで誰によって生産されたのか分からず、食べるのが怖いと思ったんです。私が住んでいたニューヨークのブルックリンは、地産地消やオーガニックフードにかなり意識が高い地域でしたから、とても危機感を抱いたというか。それで日本の食の安全性や環境面への取り組みに必要性を感じていました。
「Food Waste Chopping Party」大山貴子
大山:その後、100BANCHの存在を知って、「フードロスの問題をみんなで考えるための参加者体験型料理イベントをしよう」というプロジェクト「Food Waste Chopping Party」で採択されました。実は100BANCHに入居したいちばんの動機は、横のつながりが欲しかったからなんですね。日本に帰ってきてほとんど知り合いがいなかったので、自分の活動をどうしていくかとか、どういう人たちと繋がっていくか、それを考えたときに、100BANCHで活動することで横のつながりや縦のつながりを作っていけるんじゃないかと思いました。2017年9月に入居して、家庭や農家さんで余っている野菜を集めてきて、レシピのない料理を作っていこうというワークショップを開催しました。当時は「サステナビリティ」ってすごくネガティブで暗い問題にされがちだったので、どうすればポジティブな発信ができるのかという課題感がありましたね。
大山:実際にワークショップをしてみると、参加者から「毎日レシピサイトを見て、それ通りに作らなければいけないのがつらい」というような話をされ、例えばレシピに「ニンジン1/2個使います」とあると1/2個が余っちゃう…でも、残りのニンジンをどう使っていいかわからない人が多かったんです。残りは煮物に入れてもいいし、サラダに入れてもいいのだけれども、多くの人が「レシピ通りに作ることが大切」という固定観念にとらわれているようでした。このワークショップでは「レシピ通りにつくる」という固定概念を取り払い、料理をする原始的な楽しさを体験することを目的に、ワークショップ中はインターネットを禁止して、料理をしながらどう食材を組み合わせたらおいしいか参加者と考えました。その結果、みなさんが初対面なのにとても仲良くなったり、想定以上に料理の品数が増えたり、料理の楽しさを知ったというような声をいただくことができました。
大山:100BANCHでは「とにかくがむしゃらにやってみる!」「たくさん知り合いを作ってみる!」というスタンスで活動してきました。その中で「100BANCHって変な人がたくさんいるな」って印象を持ちました。当時、ふんどしのプロジェクトとかコオロギなど昆虫食のプロジェクトとか、普通だとちょっとあり得ないような未来を描いてる人たちがたくさんいたんですね。そういう方たちを見ていると、自分も同じように頑張っていいし、自分の想いを外に出してもいいのに、すごく抑制してたんだなと気が付きました。それで「もっとやろう」「できるかどうかわからないけど遠くを見つめてやってみよう」というような意識に切り替わったんですね。今でもときどきそれを思い出しては「よし、頑張ろう」と思い直すことがあります。
循環する( )を作るデザインカンパニー
100BANCHで活動中に「フードウェイストはなぜ発生するのか」「どうして解決しないのか」という疑問が浮かび上がった大山。「フードロスが問題なのではなく、一人一人の意識や社会システムが問題なのではないか」という考えに至り、自然と社会とコミュニティの循環と再生の構築を行うデザインファーム「株式会社 fog」 を立ち上げました。
大山:fogは「循環する( )をつくるデザインカンパニー」というビジョンを掲げています。私たちはいろんな所に存在する霧(fog)のように、いきものと人の暮らしをつないで、未来がよりここちよい世界であるための好循環を生み出すカタリストのような存在でありたいと思い活動を始めました。
大山:フードウェイスト、気候変動、SDGs、サステナブルという課題は、それ自体が問題ではなくて 一人一人の意識や行動を変えていくことが大切であり、次の100年を考えていく上で、これまでの100年をもう一回見直すことがとても大切だと考えています。自分たちの意識や行動を見直し、どうすれば持続的な社会になるのか。そういった意識を持ちながら、fogでは循環型社会の実現に向けた伴走型コンサルティングを行っています。
大山:また、企業のコンサルティングだけではなく、実践者として自分たちの手でも未来を作っていきたいと思い、衣食住のラボ「élab(エラボ)」を台東区蔵前にオープンしました。ここでは、いろんな方たちと関わり合いながら、循環型社会やサーキュラー・エコノミーが当たり前の社会になるような取り組みをしています。サーキュラー・エコノミーの話になると、サプライチェーンの見直しにいきがちですが、私たちは「まわりにいる人の意識も変えていくことで、より良いサーキュラー・エコノミー型のビジネスや組織構造をつくっていきましょう」と話しています。
ヨーロッパのモデルを参考 循環型社会の実践拠点
élabのテーマは「循環する(暮らし)をつくる」循環型社会の実践拠点で、「キッチンラボ」「リビングラボ」「ルーフトップガーデン」という3つの要素があります。
大山:「キッチンラボ」としての機能はカフェなのですが、 食材は50km圏内から調達するようにしています。何気なく来たお客さんたちのおいしい食事体験が、結果としてサステナブルだったという気づきを与える場所として設計しています。「リビングラボ」は物販とワークショップスペースで、最近は金継ぎ教室のワークショップが人気です。本来、壊して捨ててしまうものを直して大切に使い続ける体験を生み出しています。また、企業にミーティングスペースとして使ってもらったり、私が研究員をしている武蔵野美術大学の卒業制作の展示をここでやってみようという話があったりと、すごく小さな範囲ですが産官学の連携もやっています。
大山: élabが参考にしてるモデルの一つにパリで実証実験をしている「15minutes city」があります。これは徒歩15分圏内でありとあらゆるものを循環させ、そこで滞留する街づくりをしようというもの。これまで遊びに行ったり病院に行ったりという生活ニーズは15分圏外の場所へ行っていましたが、あらゆるものが15分圏内に滞留するようになると、移動で発生するCO2も減りったり、人と人とのつながりができたり、歩くことが増えて健康寿命が伸びたりすることなどが見込まれています。
大山:そしてもう一つélabが参考にしているのは、バルセロナで実証実験されている「Fab City」です。iPhoneなどもそうですが、サプライチェーンを考えたときに、デザインはアメリカで製造は中国や東南アジア、それが日本にやってくるというような流れが当たり前に行われています。「Fab City」はそうではなく、現地で製造を行いながら、ノウハウやナレッジなどはグローバルに展開していき、それによって輸送コストを減らしたり地産地消を大切にしたりしていくという取り組みです。バルセロナでは2050年までに Fab Cityを完成させる予定で、パリでも食を起点にそのような取り組みが行われるなど、ヨーロッパを中心に実証実験されています。
スモールチェンジではあるけれど、それは大きな一歩
élabでは、近隣の飲食店の方たちと一緒にサーキュラー・エコノミーについての勉強会をすることもあるそうで、もともとサステナブルな意識はなかった方たちが勉強会や大山たちの取り組みを知ることで、少しずつ 意識に変化が起こっていると言います。
大山:私たちは近隣のお店の未利用資源を調達してメニュー開発をしているのですが、近隣の飲食店の方たちも同じところから仕入れようという動きが起こっています。そんなある日、近所のからあげ屋さんから商品開発をお願いされることがありました。当初「からあげとサステナブルって全然関係ないじゃん」と思っていたけれど、それって実はすごい変化だなと気付きました。もともと普通のからあげ屋さんだったのに、私たちがやっていることを「楽しそうだし、いいよね」と思ってコンポスト可能なパッケージを使いはじめたり、廃棄食材を使ったメニューができたりと、どんどんサステナブルなからあげ屋さんになっていったんですね。スモールチェンジではあるけれど、それって大きな一歩だなって。他にもこういったことをお声がけいただくことが増え、「なぜか知らないけれど、蔵前ってサステナブルな街だよね」とも囁かれるようになってきました。
大山: 今後私たちはélabという拠点で培ったナレッジを他の地域にも展開していく仕組み化を考えています。また、もともとfogの母体がコンサルティング会社であり、地方自治体との会話で「私たちはこういう活動をしています」という話をすると「自分たちも同じようなしくみでやっていきたい」というような話になったりすることも多いので、「élabのコモンズ化」じゃないですが、ローカライズしていく仕組みを現在デザインしている状況です。
大山:昨年、子どもが生まれて環境の変化がありつつ、今私たちélabという自社事業を、さらにインパクトが出る形で大きくしていく必要があると感じています。ただのオーガニックカフェで終わらず、本当に社会を変革していくためには、販売量を上げる必要があるし、店舗も増やしたり地方にも進出したり、商品数の拡大のため商品開発もやらなければいけない。今後はその課題と向き合いながら、事業拡大に向けたリブランディングを進めていきたいと思っています。
大山の今回のお話の内容は、YouTubeでもご覧いただけます。
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