私たちにとって最も身近な他者である微生物をケアし、
現代的アニミズムを実践したい
- イベントレポート
微生物を通じて世界を捉えることが、気候変動解決に与える可能性。Kin Kinプロジェクト主催「微生物中心の未来で気候変動を変える」
Kin Kinプロジェクトの酒井功雄です。
私たちの身体には1000兆個を超える微生物が住んでいると言われ、彼らは私たちが生きるために不可欠な消化からメンタルヘルスの調整までを担ってくれている。つまり彼らは私たちをケアしてくれている。
そう考えた時に、自分たちと共に生き存在している最も身近な「他者」である微生物をケアすることを中心に日々や世界を捉えなおした時に何が起きるんだろうか、という問いをKin Kinプロジェクトでは考えています。
100BANCHでの入居期間が終わる12月23日に、3ヶ月間の締めくくりとして「気候変動を微生物中心の未来で変える」というテーマでイベントを開催しました。
ゲストには「腸と森の土を育てる」著者でtenrai株式会社代表取締役医師の桐村里紗さん、都市の微生物多様性を高める事業を行われている株式会社BIOTAの伊藤光平さんをお招きして、微生物を起点に「身体」「都市」を再解釈するガイドを担っていただきました。
人間と環境を再び接続してくれる、微生物の可能性
イベントはまず私、酒井功雄が「なぜ気候変動問題を探求していたら、微生物にたどり着いたのか」というテーマでスタートしました。
なぜ「気候変動」と「微生物」なのか?と思われるかもしれません。主催者である私、酒井功雄はもともと気候変動アクティビストとして政策提言やデモを行ってきました。しかしエネルギー政策など技術や産業的なアプローチをする中で、気づいた自然と人間が分断された文化こそが気候変動を引き起こしたのではないかという考えのもと、微生物が人間と環境を再び接続してくれる存在なのではと考えるようになりました。
いかに、気候変動問題を解決するために、異なる未来の形を微生物を通じて描くことが可能性を秘めているかを考えるべく、今回のイベントを企画しました。
人間が健康であるためには、地球も健康である必要があるという「プラネタリーヘルス」を提唱している桐村さんは、「私たちは微生物を通じて環境や他の生き物と根本的に繋がっている」とお話しされました。私たちが共生する微生物は、人間が持つ遺伝子よりもはるかに多い1200万個(ヒトは2万数千個)の遺伝子を持っており、微生物たちは私たちが生きていくために不可欠な働きをしてくれている。私たちは外から取り込む多様な生き物のおかげで存在していることを踏まえると、私たちは超生命体であると桐村さんは語ります。
そしてその常在細菌たちの起源を辿ると、土壌に住む微生物たちにたどり着きます。
気候変動の原因となったCO2の排出に大きく影響を与えている「農業」は今まで土壌を耕すことで微生物のネットワークを壊し、それによりCO2を排出してきました。その状況に対する打開策として、桐村さんが鳥取県で実践されている、野菜を混成・密生させることにより、農業を通じて場の生物多様性を高めていく「協生農法」についてもご紹介いただきました。生態系や地球全体の循環というマクロな視点と同時に、微生物というミクロの視点を通じて身体の働きを捉え直すことが、今の時代に重要ではないかという問題提起とともにお話が終わりました。
都市に必要な、微生物のヨーグルト的な多様性
株式会社BIOTAの伊藤光平さんのトークでは、都市において生活空間の微生物多様性を高めることがいかに重要かをお話いただきました。現在の都市環境や住環境の中では、とても偏った微生物の組成になっており、それによって特定の病原菌が繁殖しやすい環境が生まれてしまうと言います。それに対して腸内環境にヨーグルトがあるように、都市にもヨーグルトが必要ではないかとの考えから、ランドスケープデザインや加菌をし、より多様な微生物とともにある環境を作るという伊藤さんの視点は、今までの人間中心主義的に整備された都市のあり方から、異なる生き物たちとともに生きる空間をイメージする上でとても重要なポイントだったと思います。
そして生物多様性が大きく減少している環境危機の時代において、最も種数的にも質量的にも多いが知られていない、微生物たちの多様性を高めていくことが重要ではないかとお話しされていました。
クロストークでまず話に上がったのは、気候変動もCO2をどう減らすかだけの議論に限定するのではなく、生態系の中での働きを考えていくべきだということでした。たとえ良い働きをする微生物も過剰にいたらバランスが崩れるように、CO2も過剰になっていることが問題であり、善悪で切り分けて捉えること自体が視点を偏らせているのではないか。
伊藤さんは「CO2が過剰になっているということは、どこかで文化的な偏りが生まれている証拠。そこに注目をしていくべきではないか」とお話されていました。
また生態系の中で微生物たちは「分解者」の役割を担い、そのおかげであらゆる生物が生み出したものは分解されて新たな命を生み出します。しかし、循環型社会として語られるのはほぼ全てが人間社会の中での「循環」です。そのサイクルの中に他の生き物を巻き込み、役目を他の生き物にパスしていくことが重要ではないかという指摘も飛び出しました。
完全に自然に還っていくというビジョンではなく、コンクリートの都市の中でも多様な生き物が生きることができる未来を描くべきではないかという話では、微生物インフラが実装された都市はもしかしたら今の社会とそこまで変わらない姿かもしれないと語っていたことも印象的でした。
生態系の働きを模倣したバイオミミクリー的な考えを、社会システムにも当てはめて生態系と社会を接続するべきでは?という問いに対しては、「もはやこの切迫した気候変動の状況の中で模倣では間に合わず、いかにラディカルに生態系を再生させるかが重要だ」と桐村さんは語りました。拡張生態系などを例に挙げ、生態系を「守る」から「盛り上げる」ことができる人間の可能性を再確認しました。
最後は、こうした微生物や他の生き物とともにある未来を広めていくためにも、気候変動の取り組みを広める上でも、「自分自身にとって気持ちいい」と人々が感じられるアクションや選択肢として広めていくことが重要だというお話でトークセッションを終えました。
2045年の菌道具を考える
そしてトークセッションの後には、「2045年の菌道具を考える」をテーマに参加者の方々に、2045年の社会において微生物たちとともにいる世界で使われている道具を妄想してもらうワークショップを行いました。
参加者の方々はそれぞれ「家事」「子育て」「恋」「スポーツ」「ライブ・フェス」という異なる場面のテーブルに振り分けられ、それぞれの場面で使う道具が大量にリストアップされたポストイットを配布されます。
その道具たちを「菌を増やすこと」を目的に再解釈した時に、どのような新しい「菌道具」が実現できるかを考えていただきました。
最初は「菌を増やすための道具」というイメージがうまく掴めない様子の参加者の方々でしたが、次第とディスカッションが盛り上がり、登壇者のお二人からも驚くアイデアが沢山生まれました。
スポーツの場面のチームからは、「微生物を増やし、交換することを目的にしたサッカー」を考え、以下のようなアイデアが発表されました。
・苔が生えたユニフォーム
・声とともに唾を撒き散らすメガホン
・試合終了後には全員でボールをキスするルール
・観客席の前で大きな一枚のタオルが循環し人々が汗を服とともに菌が循環する
またライブ・フェスの場面のチームからは、「ドリンクチケットを古本の切れ端にする」などすでに実現しやすそうなアイデアも見られ、私たちの生活に潜む可能性をそれぞれの参加者が探求されていました。
イベント後には、菌にとって良い軽食・お酒として、自然農法を実践する会津 無の会のお米で作ったおにぎりと、生きた菌で食物繊維も多く含まれたシードル、色んな菌を呼び込み作る寺田本家の日本酒を提供し、参加者の人々と微生物トークに花を膨らませました。
イベントを終えて、参加者の方々からは「微生物に対するイメージがポジティブになった!」「菌の世界への扉が開いた」という声が多く、見えない微生物を起点に世界を再認識する面白さを感じた方が多かったように思います。感想のなかで、複数の参加者が微生物を起点に未来をブレストして、奇妙なアイデアがいっぱい生まれた時間が「とても楽しかった!」と回答してくれたことが主催者としてとても嬉しかったです。
微生物とKinKinの今後
今回のイベントは、「気候変動は微生物を通じて、こう解決できる!」と答えを示すというよりは、「微生物が文化的にも、生態系の中での働きを見ても鍵を持っているのではないか?微生物を起点に生態系に乗っ取った未来とはどんな形か?」という問いを登壇者のお二人・参加者の皆さんと一緒に妄想する時間になったと思っています。
また微生物「だけ」にフォーカスすることが答えではなく、今の社会システムにとらわれない形の未来のあり方、ワクワクできる奇妙な未来を妄想することが、気候変動という切迫した問題のなかで希望を持つためにも重要だと思います。
その上で、今回のイベントを通して参加者の方々、「奇妙な未来」を悩みながらも思い描くことに、とても楽しさを見出してくれていたことが大きな収穫でした。
今後、今回のイベントから出てきた「微生物を共有するためのサッカー」など面白いアイデアたちを実験として行ってみたいと考えています。
また実際にイベントを開催してみて、やはり「微生物」という存在に対して抱いている、嫌悪感や気持ち悪さというイメージを、いかに導入部分の中で丁寧に解きほぐし、イントロダクションを行えるかが重要であると改めて気づかされました。対話形式で参加者の方が微生物に対して抱いているイメージや疑問を聞いた上で、インプットを行うことを今後は実践したいと思っています。
「微生物のケアを実践することを起点に現代的アニミズムを考える」というテーマを掲げているKin Kinプロジェクトとしては、今後はイベントや実験に止まらず、空間・もの・サービスという形に微生物と共にある思想を実装していきたいと思っています。
その上で、今回のイベントに参加いただいた建築・デザイン・アパレルなどのフィールドの方々と共に、実際のものづくりに繋げていく可能性がさらに生まれました。
まずは微生物をケアし、共にある思想を持った人々と共に実験をしていくコミュニティを作り、共犯関係的に微生物との関係性を深めていきたいと思います。
本イベントのアーカイブはYouTubeで無料公開しています。
こちらからご覧ください。https://youtu.be/wlb-wXAD4T4
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