- イベントレポート
まずはドアを叩いて描く未来をぶつけてみる 実験報告会ナビゲータートーク:Personalized tea experience with Teplo 河野辺 和典(株式会社LOAD&ROAD)
これからの100年をつくる、U35の若手リーダーのプロジェクトを推進するアクセラレーションプログラム「GARAGE Program」。3カ月目の活動期間終了のタイミングで、どのような実験を行ってきたかを発表する実験報告会および、卒業生の中からナビゲーターをお迎えしてプロジェクトのその後を伝えてもらう、ナビゲータートークを実施します。
この日のナビゲータートークは13期生「Personalized tea experience with Teplo」プロジェクトの河野辺和典(株式会社LOAD&ROAD) が登壇。100BANCHでのプロジェクトでの思い出や現在の状況、展望などを語りました。
場面に応じておいしいお茶を淹れてくれるティーポット
株式会社LOAD&ROADを創業し、お茶に関するプロダクトを開発している河野辺。プロダクトの紹介や100BANCHとの出会い、今後の展望について話してくれました。
河野辺和典
河野辺:私たちは、茶葉の原料を開発したり、ティーポットを動かすためのアプリやソフトウェア開発、データ解析などをやってる会社です。「teplo」というブランドで、ティーポットとアプリを連携させおいしいお茶を淹れることができるというのが大きなコンセプトの製品です。ティーポットの中に水、茶こしの中に茶葉を入れて、アプリからお茶の種類を選択します。 集中したいとか、元気になりたい、といったなりたい気分を選ぶと、脈拍、指の温度、室温、湿度などをセンサーで解析をして、お茶の抽出条件を自動的に調節することで味やカフェイン濃度などをパーソナライズしたお茶を淹れることができます。この「パーソナライズ抽出」を世界で初めて実装したティーポットを発売しました。
河野辺:お茶は少し温度を高くして淹れるとカフェイン量が増えます。カテキンやカフェインは苦み成分でもあるので、パンチがあって、目が覚めるようなお茶が出せます。元気になりたい時や眠そうな人にはちょっと高めの温度でお茶を淹れてあげるとか、リラックスしたい時や興奮しすぎてる人にはちょっと低い温度で淹れてあげるとか、同じ人や同じお茶でもシーンによって違うお茶を淹れることができます。最近はホットだけではなくてアイスティーを楽しんでもらえる「teplo cold brew carafe」という製品も出しました。
おいしいお茶を淹れるため、ソフトウェアで数値制御。
大学卒業後、エンジニアとしてロボットの制御プログラムを書いたりロボット設備を設計したりしていた河野辺。ビジネスをやってみたい、海外で挑戦してみたいという想いから、会社を辞めボストンの大学院に留学したことが創業するきっかけとなったそうです。
河野辺:ボストン近郊のバブソン・カレッジという、起業家教育に非常に定評がある規模の小さい大学院に入りました。そこでちょっと学び直してみようと留学したのがきっかけです。ボストンは冬がすごく寒く、毎日ホットコーヒーを飲んでいたら、胃が痛くなったり体調が優れない時期があったんです。それでお茶を飲んでみたのですが、それでお茶の魅力を再発見したというか、お茶っておいしいなとあらためて思ったんです。どうやったらおいしいお茶を淹れられるんだろうと調査していくと、お茶の味の要素を決めるのは、お茶の葉のクオリティはもちろん、 葉の量や淹れるお湯の量、温度、抽出する時間、こういった数値制御が非常に重要で、すごく面白いと気づきました。しかし、その要素がお茶のプロたちの勘や経験、記憶に基づいているところがエンジニア目線で見ると、気持ちが悪いと感じました。ソフトウェアで数値制御をやれば、完璧なお茶が飲めるんじゃないか、というところからプロジェクトがはじまったんです。
河野辺:まずは個人でプロトタイプを作り、名前は「teplo」に決め、当時のクラスメイトに話して協力者を探していったのが大学院の1年目の終わりぐらい。私は元々ハードウェアをやっていましたが、クラスメイトでインド出身のMayuresh(Soni)がソフトウェアエンジニアをやっていて、お互いの知識を合わせればお金をかけずにプロトタイプを作れそうだということで、在学中に事業がスタートしました。新しいアイデアにどれだけの人が興味を持ってくれるのか試すためクラウドファンディングを利用し、約70万ドルほどのオーダーをもらいました。出資者にプロダクトを届けなければいけないので、卒業後も就職せずこのプロジェクトを続けていこうということで、Mayureshと会社を経営していくことになります。しかし、2016年の末に私はアメリカのビザが切れて日本に帰国しなければいけなくなりました。その後、2018年の5月、6月ぐらいのタイミングで100BANCHに応募して採択してもらったのが100BANCH入居のきっかけになります。
100BANCHからいろいろな繋がりや機会が生まれた
河野辺:100BANCHに入居したのは、今のプロダクトのカタチはだいたいできていましたが、量産体制もできておらず、会社の売上も立っていない状況でした。カフェ・カンパニー代表の楠本(修二郎)さんにメンターとしてサポートしていただき、お茶を飲んでもらっておいしいかどうかだったり、今のデザインでは飲食店では難しいかもしれないので見直したらどうか、どうやったらカフェ・カンパニーでもトライアルができるか、など建設的なフィードバックをいただけたのが非常に印象的でした。
河野辺:その後、2019年のCESでは100BANCHのブースに出展させていただき、そこで初めて来場した方々に実機に触ってもらってプレゼンなどができました。さらにCESではイノベーションアワードも頂き、徐々にteploがやりたいことにみんなから共感を得られるようになってきました。その後もデジタル庁 初代デジタル監の石倉洋子さんのイベントにも呼んでいただいてフィードバックをもらったり、2020年にもまたCESで出展させていただいたり、いろいろな機会をもらいました。三郷団地のイベントでお茶を出したり、大阪のグランフロントのパナソニックセンター内のレストランと繋いで頂き、チーズのコース料理とお茶をマリアージュさせて楽しんでもらうようなイベントをやったりしました。こういったところから「teplo cold brew carafe」が生まれたり、いろんなところでヒントをもらったりご一緒してるのが私たちと100BANCHとの繋がりです。
お茶の世界の Amazon に。
河野辺:teploのビジョンは、世界中においしいお茶を届けていこうというものです。そのために、お茶の体験を豊かにするパーソナライズやお茶へのアクセシビリティを高めようとしています。基本的にどんな業界でも効率化からはじまってパーソナライズへと進化していくと思っていて、 ITだとWord、Excelからはじまり、メールがあって、YouTubeがあって、個人が違うコンテンツを楽しむようなパーソナライズの時代に変化していくような感じです。近い将来、お茶もそういったパーソナライズの時代に入るんじゃないかと仮説を持っています。
そのパーソナライズで重要なのはデータ解析なんですが、現状のお茶の世界ではできていません。そこで私たちは、ユーザーがお茶を飲んでどういう状態になりたいのか、何度・何分で淹れたお茶を飲んでどういうフィードバックがあるのか、というデータをハードウェアとソフトウェアで解析をしています。そうすることでお茶の業界でもはじめて消費と消費の後のデータが繋がり、パーソナライズされたお茶の体験を届けていけると思っています。
河野辺:もう1つのビジョンは「お茶へのアクセシビリティ」を高めることです。本ならAmazon、服ならZOZOTOWNといったように、連想するプラットフォームがありますが、お茶に関しては定まったプラットフォームがないんですね。そこで、私たちは世界中の人がおいしいお茶やお茶に関する物が買えたり情報が得られるプラットフォーム・しくみを作っていこうと取り組んでいます。将来的に目指すのはお茶業界でのAmazon です。Amazonで紙の書籍を買う感覚で、teploのプラットフォームを使ってさまざまなブランドから出ているお茶を楽しんで欲しいと考えています。そして、電子書籍を買ってKindleで読めるように、teploの公式茶葉をteploのハードウェアで淹れて飲めるような立ち位置のサービスをこれから数年間で作り、しっかりと成長させていくつもりです。年間で作ってしっかりと成長させていくというのが私たちが取り組んでいることです。
まずはドアを叩いて自分が描く未来をぶつけてみよう
最後に河野辺自らが考える100BANCHの特徴を2点紹介してくれました。
河野辺:「熱湯ではないが、暖かくて長期的な関係性」と「精神安定剤」。これがぼくの中での100BANCHの印象です。実は100BANCHと一緒にやってきた取り組みは、卒業した後のものがほとんどなんですね。当時、プロダクトの完成度が低かったり、市場に出していない状況もあって、卒業後にいろんなところに連れてっていただいたり、声をかけていただいてご一緒したり、というのが実情なんです。100BANCH以外のアクセラレーション・プログラムにもいくつか入っていたのですが、期間中に熱湯のように沸騰して最後に向けて加速し、期間が終わると冷めていくというのが、ほとんどです。でも100BANCHの場合、熱湯ではないけどゆっくりと冷めない、みたいなところがすごく特徴的で、卒業した後もずっと緩く必要な時に一緒に取り組みができる関係性が築けるんじゃないかな、と思います。
河野辺:2つ目の「精神安定剤」なんですが、このような長期的で安定的な関係性を築けるのは、事業やアートのプロジェクトを始める人にとって非常に重要だと思っています。安定性みたいなところでいえば、健康、人間関係、お金の3つの軸があるんですが、そのうち2つが崩れはじめると、きつくなってくると思っています。お金に関しては、余裕がなかったのですが、大きな怪我も病気もなく健康でした。なので、人間関係がなんとかなってれば、自分を保てるというふうに思っていたのですが、この人間関係を支えてくれたのが100BANCHだったとなと、いま思い返しています。
ぼくは100BANCHに入る時や卒業する時が必ずしもピークじゃなくてもいいんじゃないかなと思っています。まずはドアをノックをして自分が思い描いてる100年後の未来、みたいなものをぶつけてみるのが面白いんじゃないかと思います。100BANCHって、卒業が終わりではなく、軽く、緩く、長く、つながっていく、そういうコミュニティなんですよね。一緒に何かできることがあれば、チャンスを掴んでいくべきです。ぼくらも緩く繋がっているので、機会があれば、どこかで是非ご一緒できればうれしいです。
当日、河野辺がcarafeで淹れたお茶を参加者全員で味わいました。
(写真:鈴木渉)
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