- メンバーズボイス
広げる。——2022年 今年の抱負!
これからの100年をつくる、U35の若手リーダーのプロジェクトを推進するアクセラレーションプログラム「GARAGE Program」。3カ月目と活動期間終了のタイミングで、どのような実験を行ってきたかを発表する実験報告会とメンタートークを実施しています。
2022年、最初の実験報告会には、メンタートークに作家の乙武洋匡さんが登壇。自身のこれまでの経歴や100BANCHに共感する理由について話しました。
乙武洋匡さんといえば、累計600万部を超すベストセラー『五体不満足』(講談社)の著者やテレビのコメンテーターとして多くの人に知られています。
乙武さんのプロフィール
作家。1976年、東京都出身。先天性四肢欠損により、幼少時より電動車椅子にて生活。大学在学中に著した『五体不満足』が600万部を超すベストセラーに。海外でも翻訳される。大学卒業後はスポーツライターとして活躍した後、小学校教師として教育活動に尽力する。ニュース番組でMCを務めるなど、日本のダイバーシティ分野におけるオピニオンリーダーとして活動している。
『五体不満足』が発行されたのは、乙武さんが早稲田大学在学中でした。
乙武さんが自身の生い立ちや体験を加筆したベストセラー。『五体不満足』(乙武洋匡著 講談社)
乙武:私は生まれつき両手足がない『先天性四肢欠損』として生まれてきましたが、両親の“普通教育を受けさせたい”という教育方針で、当時の養護学校には入らず小中高と普通教育を受けて育ちました。今思えば、学校や周りの友達にとても恵まれていたと実感しています。大学3年生のときに『五体不満足』を執筆したところ、ベストセラーとなり、いきなり注目を浴びるようになりました。当時は正直戸惑いもありました。
自身のことを書いた本が世の中に広まったことにより、自分が世間からどんな期待をされているかがわかったと話す乙武さん。なにをするべきかを考えた末、大学卒業後はスポーツライターの職に就きます。
乙武:『五体不満足』を読んだ人からいただく手紙を読むと、「乙武さん、障碍者福祉で障碍者の旗頭として頑張ってください」と書いてある。ただ違和感がありました。私は福祉の勉強をしてきた訳でもないし、本もそういうつもりで書いた訳でもない。社会的弱者として思われている僕みたいな人間のなかにもエンジョイして暮らしている人がいるよ、ということを知らしめたかった。なので、福祉の仕事に就くのではなくて、むしろ意外性のある仕事に就くことが本当のバリアフリーなのかなと思いました。その結果がスポーツだったんです。いつまでも人気にあやかったメディア出演で生計を立てるのではなく、自分で飯を食っていくための書く力を身に付けたいという思いもあり、スポーツライターになりました。
スポーツライターとして活動した後、乙武さんは教師を目指すことになります。
乙武:スポーツライターとして7年活動しました。実際に第一線で活躍している選手と話せるのはとても楽しかったし、いい経験でした。最初のころは私が書くと特別扱いを受けて名前が大きく載ってしまうことがあったのですが、時間が経つにつれ、他のライターと同じ扱いを受けるようになり、それがうれしかった。出版社や読者にようやく実力を認めてもらえたのかなという気持ちになれたことで、次の道を考え始めました。
その後、教育現場において次の世代に今まで自分が周囲の人々から受けてきた愛情を継いでいきたい、恩返しはもちろんだが、“恩送り”ができないかと思い、一念発起し大学へ再入学。2年かけて教員免許を取得し、杉並区立杉並第四小学校で3年間教員として働きました。そのあと、もっとマクロな視点で教育に関わりたいと思っていたところ、東京都教育委員に任命され、教育政策に関わることができました。
教職の経験を題材にした小説『だいじょうぶ3組』(乙武洋匡著 講談社)
乙武さんは会場にいる100BANCHのメンバーを見ながら「今日来るのをものすごく楽しみにしていました」と笑顔。なんだかワクワクしている様にも見受けられましたが、その理由を話してくれました。
乙武:私は100BANCHが好きなんですよ。なぜかと言うと、いい意味で変態たちの集まりだから。一般的な起業家たちとは捉えてないんです。通常、ビジネスってスケールしていくにはある程度最大公約数を取っていかなくてはうまくいかない。最初はとがっていても丸くしていかなくてはいけない中で、100BANCHの人たちは心配したくなるくらいとがっているし、突拍子もない。「それ必要としてる人いる?」っておもわずニヤニヤしてしまうんです。
これは全部褒め言葉で、世の中に必要なのは皆さんのような人たちだと思っています。100BANCHに集うイノベーターたちが社会に出て、製品化やサービスとして成り立つことによって、マジョリティーではないけれど一部の人が救われる。そういった事実が、私自身がマイノリティーだからこそ、とても大切だと思っています。そんな生み出す力を持った皆さんをめちゃくちゃ応援したい、というのがメンターを引き受けたきっかけだし、続けているモチベーションになっています。
さらに100BANCHのメンターをする上でのやりがいについて話します。
乙武:アイデアをどう具現化していくかは難しいですよね。自分を徹頭徹尾信じることが出来る人もいれば、『それ本当に大丈夫?』と言われたら揺らぐ人もいるし、ネガティブな意見を聞いて心をえぐられる人もいます。私もメンターとしてさまざまなプロジェクトを見てきて、色んな人がいました。その都度、メンバーにあった指導法を感じ取って、対処しないといけない。これって、教育者だったころの悩みと似ていると気づきました。もし私が同時に10人のメンターをしてもすべての人に同じ接し方をしていたら、ごく一部の人しかマッチしないと思う。だからこそ100BANCHには21人のメンターがいるんです。自分の引き出しの多さを試されているのはやりがいを感じますし、すごい面白いです。
22歳にしてベストセラー作家になった乙武さんは、当時の自分を「奢っていた部分もある」と振り返ります。有名になり注目を浴びる半面、批判の声も多かったと言います。その経験から得た逆転の発想について教えてくれました。
乙武:プロジェクトはうまく進むことばかりではないし、時には批判をされることもある。でも批判されたら、喜んだほうがいいです。なぜかというと、最初は身近な人間が励ましてしてくれるんですよ。批判の声が耳に入ってくるタイミングって、プロジェクトが大分進んできたり、商品やサービスが遠くまで届くようになったという証拠。批判が耳に入って来ない段階は、まだプロジェクトが内輪にしか届いてないということになります。たしかに気持ちのいいことではない。けれど、私は批判されたら『こんな遠くの人まで自分の見出している価値が遠くまで届くようになったんだな』とポジティブに捉えていいと思っています。
乙武:私が大学生のときにインターネットが普及し始めて、『世の中の愚痴や悪口が詰まっている!』と衝撃を受けました。そして、あえてわざわざ2チャンネルという掲示板サイトに自分の悪口を見に行っていました。なぜそんなことしてたかと言うと、面と向かって障碍者のベストセラー作家に苦言を呈する大人がいなかったから。客観的に考えて、これは危機的状況だな、鼻持ちならない大人になりかねないな、と思って自ら2チャンネルをのぞきに行っていました。すると、95%はただの悪口なんですが、5%くらいは的を射たことが書いてあるんです。だから、批判というのはそこまで悪いことではない、ということを覚えていて欲しいです。
最後に乙武さん自身が今取り組んでいるプロジェクトについて話してくれました。
乙武:2018年4月からソニーと協同して義足で歩行に導くことを目指すプロジェクト『OTOTAKE PROJECT』に取り組んでいます。義足を使用するほとんどの人は片足があるか膝がある人。だけど私のような両ひざがない人が義足を履いて歩くのはこれまでの技術だとほぼ不可能と言われていました。けれど、ソニーの研究者が膝の代わりになるモーターを開発し、両ひざがない人でも歩ける可能性が出てきました。
この技術を学会で発表するよりも、乙武さんが義足を使って歩いている姿を発表するほうが世の中にインパクトを与えるのではないか、ということで「被験者になってくれませんか?」と声がかかり、プロジェクトに参加することになりました。
乙武:最初は短い義足でちょこちょこ歩く練習が始まって、徐々に長さを出していき半年ぐらいたったところでモーターを膝の部分に組み込んだ義足を使用して歩行練習に入りました。しかし、これが思った以上に大変。私の体で歩行するには場合は三重苦がありました。まず「膝がない」。人間の膝が持つ機能って歩行する上で大きな役割を果たしているとわかりました。次に「手がない」。意外だと思われますが、両手が果たす役割って大きくて、歩くときは両手を振ってバランスを取っているんです。そして「歩いていた経験がない」。
私は生まれつき両手足がないので、二足歩行していた経験がない。中途障害の人は歩いていた経験があるので当時の感覚を呼び起こすことができますが、私にはそれが無いのでゼロから感覚を掴まなくてはいけませんでした。それに加えて、私の体は1日16時間は車椅子や床に座って生活しているので、体がL字に凝り固まっている。いざ二足歩行にすると、最初はI字の姿勢を保ちますが、だんだん体がL字に曲がっていきパタッと前に倒れてしまう。ゼロというよりもマイナスからのスタートでした。
義足トレーニングの様子
乙武:理学療法士もプロジェクトに参画し、歩ける体を作るために40歳過ぎてから肉体改良を始めました。現在ではプロジェクトの当初と比べると、スピードも上がり、70mくらい歩けるようになりました。このプロジェクトをやってよかったのは、中途障害で膝を失くしてしまった人たちは、車椅子ではなくてやっぱり歩きたいという気持ちがあると聞くので、その方たちに今後このモーター付きの義足を使えばまた歩ける可能性が出てきましたよと届けられたらいいなと思いながら挑戦しています。
なぜこの話をしたかというと、義足プロジェクトと100BANCHのプロジェクトの共通点があると感じたからです。だって、ニッチじゃないですか。ただでさえ身体障害者自体が少ないのに、両腕・両膝がないのはニッチ中のニッチ。そんな私が歩こうなんて考えはそれこそ変態でしょ? 義足を求めている誰かがいるかも知れないし、いないかもしれない。でも、私がやらなかったら誰もやらない。だから苦しいけどやる。それって楽しいんですよね。100BANCHのみんなにだったら『乙武さん、その楽しさわかるよ』って言ってもらえると信じています。100BANCHの7原理のひとつ「Willから未来はつくられる」という言葉のとおり、真剣に取り組むことで未来に歩きたいと願う人に希望を届けたいですね。
(撮影:鈴木 渉)
GARAGE Programの成果報告ピッチレポートはこちら
100年先の未来を描く5プロジェクトがピッチ!
2月実験報告会&メンタートーク:岩田洋佳(東京大学大学院 農学生命科学研究科 准教授)
日時:2022年2月24日(木) 19:00〜21:00
無料 定員100名
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※ZOOMウェビナーでの開催になります。
Peatixの配信観覧チケット(無料)に申し込みをいただいた方に配信URLをお知らせします。
https://100banch2022-02.peatix.com/
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『実験報告会』は100BANCHの3ヶ月間のアクセラレーションプログラムGARAGE Programを終えたプロジェクトの活動ピッチの場です。
また毎回100BANCHメンター陣から1人お呼びし、メンタートークもお送りいたします!
今回のゲストは岩田洋佳(東京大学大学院 農学生命科学研究科 准教授)さんです!
【こんな方にオススメ】
・100BANCHや発表プロジェクトに興味のある方
・GARAGE Programへの応募を検討されている方
【概要】
日程:2/24(木)
時間:19:00〜21:00
参加費:無料
参加方法:Peatixの配信観覧チケット(無料)に 申し込みをいただいた方に配信URLをお知らせします。
【タイムテーブル】
19:00〜19:15:OPENNING/ 100BANCH紹介
19:15〜20:00:メンタートーク
・岩田洋佳(東京大学大学院 農学生命科学研究科 准教授)
20:00〜20:45:成果報告ピッチ&講評
登壇プロジェクト(現役)
・MOCK-PLAMO:プラモの様に手軽に、楽しく、カスタマイズできる国産木製家具キットをつくりたい
・STREET ART LINE PROJECT:アートでつなぐ、視覚障碍者の新たな道。
・MUJO:渋谷で死と出会う
登壇プロジェクト(OB)
・The Herbal Hub to nourish our life:からだとローカルを元気にする「薬草カレー」づくり
・YASAI no CANVAS:やさいの色彩や都市型農業の生産プロセスを通して、贈与経済文化の醸成・発信を目指す
20:45〜21:00:質疑応答/CLOSING
岩田洋佳
東京大学大学院 農学生命科学研究科 准教授
プロフィール
1969年生まれ。タイ、インドネシアで幼少期を過ごす。
東京大学 農学部卒。東京大学 大学院農学生命科学研究科で博士号を取得。
農業と情報科学の融合をテーマに、農研機構(農林水産省系の研究機関)などで研究に従事後、2010年より東京大学 生物測定学研究室 准教授。
現在は、ゲノム科学と情報科学の融合による品種改良(育種)の高速化に主眼をおき、中米やアフリカにも研究を展開中。