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逆境が未来へのステップに(VOL.3) 農業を流行りで終わらせない 安定的なプラットフォーム作りが農業の未来を切り開く ORDERING SYSTEM for aged person:佐藤飛鳥
新型コロナウイルスの影響で、これまで築き上げた社会システムに大きな変化が求められる今、さまざまな仕組みやサービス、人との関係が見直されています。
100BANCHで活動するGARAGE Programのプロジェクトメンバーにおいても、この状況がプロジェクトのあり方や方向性を見つめ直す機会となり、視点を変化させながら、自分たちが目指す未来に向かって日々活動を続けています。
“いま”それぞれのリーダーは何を感じ、未来をどう見ているのか。今回、100BANCH編集部はGARAGE Programで活動する3プロジェクトのリーダーに取材を実施。
VOL.3は、「ゴロクヤ市場」という屋号で地元、秋田県産の野菜の卸をしながら、高齢者でも使える受発注のシステムを開発中。秋田のおいしい野菜を余すことなく、より多くの飲食店や宿泊施設で使ってもらえるよう、物流課題にも積極的に取り組む、「ORDERING SYSTEM for aged person」プロジェクトのリーダー・佐藤飛鳥さんにお話を伺いました。
この困難とも言える環境が、プロジェクトに新たな視点を与え、未来の農業をより深く考えるきっかけとなったようです。
オンライン化の加速で痛感した、対面コミュニケーションの重要性
——「ORDERING SYSTEM for aged person」プロジェクトは100BANCHのGARAGE Programメンバーとして2019年12月から活動をスタートされ、もうすぐ半年が経ちます。最近はどのような活動をされていましたか?
新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の影響を受ける前は、秋田産の野菜の卸や、受発注システムの開発はもちろん、100BANCHで食関連の活動をするプロジェクトメンバーたちと「未来の食」をテーマにディスカッションやコラボレーションをしていました。いろいろな意見を取り入れ、今後の活動に活かしていきたいと考えている時期でしたね。
「ゴロクヤ市場」のマルシェで販売している野菜や加工品の様子
——新型コロナの影響で、プロジェクトに変化はありましたか?
実は新型コロナが世間で騒がれ始めて、緊急事態宣言が要請される4月頃は、秋田は雪解けをしていないので本格的な収穫時期ではなく、市場に秋田県産の野菜は出回っていませんでした。私たちが扱う野菜は5月に出荷するものがメインだったので、野菜の卸に関しては他の地域の生産者や飲食店よりは経済的な打撃は少なかったように思います。
ただ、以前は月の半分は東京、残りの半分は秋田で活動していたのですが、外出自粛要請により秋田に行くことすらできなくなってしまい、それまで秋田の農家さんと対面で取っていたコミュニケーションが途絶えたことは、プロジェクトとして大きな打撃でした。
——世間ではオンライン化が進んだとも言われていますが、そういったツールがあってもコミュニケーションが困難だったと。
私たちの主な取引先はおじいちゃんやおばあちゃんがやっている農家さんなので、まわりでオンライン化が加速したからといって、すぐにそれに対応できる人たちはほとんどいません。野菜の受発注は電話対応だったので、そこまで影響はなかったのですが、そういった業務内容というよりは、農家さんがこれから変えていきたいことや、今困っていることって、なかなか電話などオンラインでは相談してくれないんです。
農家さんが「今日はゆっくり時間がとれるよ」という状態で伺った時に親密な話や相談をしてくれていたので、そういうことが取りづらい2カ月間ではありました。あらためて対面でのコミュニケーションがすごく重要だったと感じています。
実際に取引のある秋田の農家・佐藤さん夫婦
一時的ではなく、継続的に救済するプラットフォームの必要性
——佐藤さんのプロジェクトは、経済面では新型コロナの影響が少なかったと伺いましたが、一方で、外食店などの営業自粛で多くの野菜が行き場を失っているという報道も多く見られました。
連日のそういったニュースについて、「Now Aquaponics!」の邦高柚樹さんや、「YASAI no CANVAS」の瀬戸山 匠さんと何度かオンラインでディスカッションをしました。そこでは、農家さんからすると新型コロナの被害は、地震や台風、土砂災害などの問題と何も変わらない。これまで日本にはそういった災害が数多く起こってきたにもかかわらず、その教訓が活かされてこなかったことが根本的な問題だ、と話していました。
例えば、ある農家さんの「〇〇の野菜が余って困っている」というSNS投稿が拡散され、余剰の野菜が売り切れたという話題もありましたよね。それ自体はすごくよいことなんですけど、それってあくまで救済措置でしかないんです。そういった声を届けることができなくて、野菜が大量に売れ残った農家さんはたくさんいます。
SNSは一部の人だけの救済措置だから、その単発の救済はできても、また次に同じようなことが起こった際に対応できる保証はなにもありません。だからこそ、これからはそういった単発の救済ではなく、継続して救済していけるようなプラットフォームが必要だと感じています。
——それは、どのようなプラットフォームなのでしょうか。
今、開発している受発注システムは若い農家さんから80代や90代くらいの農家さんまで使えるものにしたいと考えています。このシステムが幅広い年齢の農家さんに利用されるものになれば、災害が起こった際に「どこの農家さんが、どれくらいの打撃を受けていて、どれくらいの支援が必要か」を共有して、的確に支援していけるような救済のプラットフォーとしても活用することができます。普段からみんなが見ているものが、万が一の際に役立てるツールになれたらいいなと思っています。
——困難な状況における気付きから、新たなプロジェクトの役割が見つかったわけですね。現在、受発注システムはどのような段階にありますか?
今はシステムの基礎開発を進めているところで、夏くらいにはデザインとシステムの設計を構築させて、12月を目処に実証実験をスタートしようと考えています。実証実験では、実際に農家さんや飲食店の方にこのシステムを使ってもらい、いろいろな意見を取り入れながらブラッシュアップしていく予定です。
当初は、農家さんにも飲食店の方にもシステム利用料を取りながらサービスを運営する予定だったのですが、新型コロナの影響もあったので、実証実験の間は全てシステム利用料を無料にしたいと思い、その資金を調達するために6月8日からクラウドファンディングを実施する予定です。
農業を継続的に支え、未来の食の活性化を目指す
——先日、全国で緊急事態宣言が解除されましたが、今後も私たちは新型コロナウイルスと共存して生きていかなくてはならない状況にあります。そのような環境において、佐藤さんのプロジェクトはこれからの社会にどのような役割を果たしていきたいと思っていますか。
働き方改革の一環として70歳就業確保法案が可決され、2021年には、「定年70歳時代」になると言われていますが、年金問題など、老後に不安を持つ人は少なくありません。その一方で、農家は現役が長く、場合によっては90歳くらいまで働き続けられる職業です。私は、その姿を今の若者が知って「農家は定年がなくずっと続けられる職業なんだ」と思ってほしいんです。それに賛同する若者たちが、これからの農業を作っていく人たちだと思うので、まず私たちが高齢の農家さんを応援することで未来の農業や食の活性化に繋げたいと考えています。
また、新型コロナの影響で外国産の野菜が日本に入ってこなかった分、国の食料自給率を増やす必要があるという意識が強くなっています。今後は地場産や国産の農業にスポットが当たり、その需要も加速すると思うので、私たちの活動の必要性も高まると予想できる。その流れにうまく乗りながら、農家さんや飲食店とともに農業の未来を作っていきたいと思っています。
——では、最後に佐藤さんが描く「未来の農業」を教えてください。
2015年、国際社会は2030年までに人々の生活を改善するために17の目標からなるSDGs(持続可能な開発目標)が採択しました。その2番目には「飢餓をゼロに」という目標が掲げられ、そこには「持続可能な農業」を促進する内容も含まれています。その世界的な課題感から、日本でも少しずつ農業や野菜が注目され、今ではそれらに関わったり考えたりすることが一種の流行りのように感じています。
例えば会社員を辞めて地方で農業を始める人も増えていたり、無農薬や自然栽培の野菜を食べる人が増えたりしてはいるけれど、その流行り自体がなくなった途端、もしくはSDGsが目標を掲げた2030年以降に農業が衰退していく可能性が十分にある。そういった危機が迫る前に、未来の農業を支える人たちを増やす必要があります。私たちも、その一歩を担えるよう、今後も活動を続けていきたいと思います。
illustration:Risa Niwano
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