LEADER INTERVIEW

2019.09.10 Tue

「夢のつくりかた、教えます」
子どもの未来を後押しすることで、世界を変える
[コドモクリエイターズインク:白井智子]

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渋谷のキャットストリートにあるアフタースクール「コドモクリエイターズインク」(運営:株式会社ミライLABO)は、勉強を教える場所ではありません。SDGsをはじめとした社会の困りごとを子どもたちに分かりやすい言葉で翻訳し、先生と生徒ではなく、同じ地球市民としてみんなで社会課題を解決するプロジェクトに取り組んでいます。

すでにたくさんの子どもたちとさまざまな活動を行っているコドモクリエイターズインク。はたから見れば、100BANCHに入居する必要なんてないように感じられますが、プロジェクトリーダーである白井智子(しらい ともこ)さんは「どうしても100BANCHに入りたい理由があった」と言います。

社会問題をあえて子どもに投げかける理由は?「夢を応援する」って結局どういうこと? お話を伺ってみると、私たちが予想していた以上にパワフルで熱のこもった答えが返ってきました。「夢なんて叶わない」。心のどこかでそう思っているあなたの、心が少し動かされるかもしれないインタビューです。

(執筆:吉澤 瑠美 写真:小野 瑞希)

 

——100BANCHに応募されたとき、すでに組織をお持ちで活動されていたと伺いました。それなのに100BANCHに応募されたのはなぜですか?

白井:私たちコドモクリエイターズインクは「理想」と「現実」という言葉を次世代の子どもたちの時代ではイコールにする、という目標を掲げて活動しています。小学校低学年の子どもたちは、やりたいことは絶対叶うと思っているんですよね。それこそ「仮面ライダーになりたい」という子がいれば、私たちは、「じゃあ、ごはんいっぱい食べて筋トレしよう」と全力で応援します。世の中の男性がみんな「俺は仮面ライダーになるんだ!」という思いを持ったまま大人になれば、地球はもっと平和になると思うんですよね。「愛する人を守る」とか「世の中の困っている人を笑顔にしたい」という純粋な気持ちはそのままでいい。

100BANCHの存在を知り見学した時に、他では聞いたことのないようなプロジェクトがたくさんあったんです。「どういうこと?」「ふんどし…?」「虫?」って(笑)。でもそれを見たときに「ああ、ここに入りたい」と思ったんですよね。「ここ、子どものまま大人になっちゃった人がいっぱいいるじゃん」って。

 

——「子どものまま」だったことがよかった、ということですか?

白井:「子どものまま大人になった」姿が私には希望に見えました。悩んで私たちのもとへ相談に来る親御さんたちに「こうやって生きている人もいます!」って見せたいな、と思ったんです。世の中には世界や未来を変えよう、と本気で行動している人がいる。本人が納得して幸せなら、関係のない大人たちの「ビジネスモデルがどうこう」は第一優先ではないなと思いました。

他社との接点という意味では他のコワーキングスペースもあり得るんじゃないかといくつか見学しましたが、どこも皆さん静かに仕事をしていたんです。誰も隣の人と話したりしないし、見学しているこちらも緊張するぐらい。でも、100BANCHはまるで文化祭みたいに賑やかでした。私たちも未来を良くしたいという思いでやっているので、横のつながりでプロジェクトを増幅させられたら最高ですよね。相乗効果が生まれやすいプロジェクトがたくさんあってワクワクしました。

 

 

——そもそも白井さんが子どもにフォーカスする理由はなぜですか?

白井:私自身が子どもの頃『世界がもし100人の村だったら』という絵本や『地雷ではなく花をください』という絵本を読んでいて、「どうして地球から戦争がなくならないんだろう、どうしてみんな幸せに暮らせないんだろう」とすごく傷ついた経験があったんです。

そのまま中学生、高校生になり、卒業後はリゾートの会社に就職して、そこで新卒教育を担当したのですが、「やりたいことが分からない」という若者がものすごく多かったんです。新入社員研修のときはすごくキラキラしているのに、少し経つと「え、辞めちゃったんだあの人!」って。「この会社であなたの人生を変えてほしいと真剣に伝えてきたけれど、結局辞めちゃうんだな」という場面を何度も見るうちに、どんどん私自身のモチベーションは下がってしまいました。その経験から「夢の持ち方は、子どものうちから伝えないといけないな」と思うようになりました。

 

 

——大人になってからでは考え方が変わらない、と感じられたんですね。

白井:そうなんです。また、母校の中学校でお話をさせて頂く機会があったんですが、その時も「夢は〇〇で……」みたいな話をした際に「いや、でもそれじゃ食べていけないから」と中学1年生の女の子に言われて「めっちゃ大人!!」と思って(笑)。中学1年生で、もうそんなに夢と現実が違うんだ、と驚きました。

反面、私は「そう思わせた大人がいるはず」と思ったんですよね。もちろん彼女に「夢だけじゃ食べていけないよ」と伝えた大人たちも、彼女を愛しているからこそ、彼女の未来のために言ってくれている。とはいえ、「食べていかなきゃいけないんだっけ?」「食べていくため以外で何かに夢中になっちゃいけないんだっけ?」というのが引っかかったんです。そういった気付きがあり、徐々に子どもにフォーカスしていったと思います。そこがたぶん私の原点ですね。

 

——「夢だけでは食べていけない」と言わない、夢を応援する大人に白井さんがなろうと思われたということですね。

白井:それともうひとつ、子どもたちにシフトしていった理由に、自分の限界を知ったということもあります。私一人では世界を平和にできない、という。戦争はとめられない、ゴミを捨てないでと言っても捨てる。私の力ってこんなもんなんだ、と絶望したというか。でも希望も同時にあったんですよね。子どもたちが「僕は何でもできる」と思うマインドを持ったまま大人になってくれれば、世の中のすべての困りごとはこの子たちが解決できるはずだ、と思って。その時に一人でがんばるのは苦しいから、そういう仲間たちがいるというベースを作りたくて、コドモクリエイターズインクを始めたという経緯があります。

大人になるとどうしてもできないことにフォーカスしてしまうし、できないことをできるようにするのが教育だという風潮があります。そうではなくて、各々のできることを伸ばして、それを横並びで「このことだったらあの子に頼もうよ」「虫だったらあの人に聞こう」という考え方のまま大人になってほしい。私が地球を良くすること、未来を良くすることは直接的にはできないけれど、「この先の人生を全部子どもたちに注いでいけば、地球を良くすることができる!」と思っています。

 

 

——100BANCHで3か月で目指したのは「キッズアントレタウン」の成功でしたが、それはどのようなイベントでしょうか?

 白井:キッズアントレタウンは、子どもたちがいち起業家として自分の夢を3か月で形にしてみる、というプログラムです。2019年1月には自分の夢を宣言するプレゼン大会を行い、3月には成果発表としてそれぞれの夢を形にして出店するなど、さまざまなワークに挑戦してもらいました。100BANCHを見たときに「あ、子ども版の100BANCHをやってみよう」と思ったんですよね。道具もあるし、電気もあって文房具もある。自分の夢を形にするために3か月間全力で向き合える環境さえ用意したら、あとは子どもたちが自分で夢に向かって動いてくれるだろう、と。

 

——イベントは盛況でしたか?

白井:おかげさまで大盛況でした。約500人もの方が来場し、子どもたちの出店だけで35万円の売上になりました。大人のほうが「500人も集客できちゃったけど、そんな大きなイベントはやったことがない」と怖気づいちゃって(笑)。でも子どもたちには「とにかく自分の夢で誰かを笑顔にしよう」「それで、ありがとうってお金をもらったら、そのお金でみんなが笑顔にしたい人に寄付することができるんだよ」ということだけ伝えていました。そうしたら、めちゃめちゃがんばって販売してくれましたね。

 

キッズアントレタウンの様子

宇宙飛行士の衣装を着て夢のプレゼンも

 

白井:子どもたちには運営の前提として「悲しい人がいないように」というルールを置いていました。子どもって大人たちにありがちな「この前は私のほうがやったのに」みたいな部分がなくて、挨拶はした方がいいし、友達とは仲良くした方がいい、チームが協力した方が大きいことができるという原理原則が自然と分かっていたりするんです。全然違うプロジェクトの子にも「大丈夫?」「やるよ」「トイレ行っていいよ」なんて声掛けもしていて、すごいなって。やっぱり子どもに教えることは何もないな、とあらためて実感しました。

 

——だとすると、ある意味では大人も子どももないのかもしれないですね。

白井:ないですね。コドモクリエーターズインクでは「大人」「子ども」という呼び方を一切やめましょうと決めていて、子どもたちは「キッズアントレプレナー」と呼び、大人たちのことは100BANCHのGarage Programにおける“メンター”という存在が気に入ったので、そのまま「メンター」と呼んでいます。キッズアントレプレナーとは、自分のやりたいことや夢を叶えて地球を笑顔にするヒーローのこと。メンターはキッズアントレプレナーの応援をする人で、先生ではありません、お手伝いもしません。でも、応援は全力でするよ、という存在です。

だから、がんばるのはメンターじゃなくてキッズアントレプレナーなんです。大人と子どもという境界線はなくて、本当に地球を笑顔にしようとしているヒーローがいて、それを応援する人たちがいる。そういう共通の目的があったからこそ「みんなで進んで行くんだ」というアクションがこのイベントで実現できたのだと、すごく感動しました。

 

キッズアントレタウンの集合写真

 

——他プロジェクトと一緒に100BANCHで活動した3か月の中で、影響を受けたことや印象に残っていることはありますか?

白井:よくご一緒したのは、「DIVEST SHIBUYA!」プロジェクト(持続可能な未来に投融資をする「エシカルバンク」の利用者を増やすプロジェクト)の松尾沙織さんですね。自分の夢の延長線上で地球の困りごとについて考える「SDGsってなあに?」というイベントを開催し、子どもたちとともにSDGsが掲げる17の目標を学びました。コドモクリエイターズインクの子どもたちは、松尾さんが喋ることをそのまま喋れるんですよ。「SDGsで一番大切なことって何だっけ」と言うと「一番困っている人から助ける、誰一人取り残さない!」と小学1年生でもさらっと言えます。それは、松尾さんが子どもたちに「伝えたい」という思いで伝えてくださっていたからだと思います。

 

「DIVEST SHIBUYA!」プロジェクトとの交流

SDGsについて学び、発表する子どもたち

 

——100BANCHではメンター制度もありますよね。メンターの存在は、白井さんにとっても応援になっていましたか?

白井:100BANCHのメンターである市川(文子)さんはとても忙しい方なのに、イベントなど大事なときには必ず来てくださいました。そんなときには「素晴らしいけれど、あえて言うならこういうやり方に変えないと白井さんが死んじゃうよ」「もっとこういうやり方が海外にはあってね」とアドバイスをいただきつつ、本当に親身に相談に乗っていただきました。

こういう先駆者の少ない活動をしていると、私自身のメンターがいないというのはとても心細いんです。代表になると注意してくれる人なんていないし、関係性が遠くなればなるほど「白井さんは素晴らしいですね」としか言われない。そういった立場であっても、市川さんのようにメンタリングしてくださる存在がいることはとてもホッとします。「え、顧問料払ってないんだよな」という罪悪感があるぐらい(笑)。でも市川さんは「いいのいいの、100BANCHってそういうものだから。だからむしろ相談してね」と言ってくださったので、私も早く力をつけて、市川さんのような人になりたいと思いましたね。私のロールモデルにさせていただいています。

——プロジェクトの大きなキーワードとして「夢」があります。大人になるにつれ「そううまくはいかない」「それじゃ食べていけない」と夢を持ち続けるのが難しくなっていくという話がありましたが、それでも「夢」にこだわるのはなぜでしょうか?

白井:私自身「夢がないと生きていけない」と思っているんです。「宇宙に行く」とかそんな大きなものじゃなくても、「日本で一番美味しい梅干しが食べたい」とか「今日、ちょっと予定の時間より早めに行きたい」というのも夢のひとつだと思うんです。やりたいことと夢の境界線は、そんなにないんじゃないかな。

 

 

白井:このプロジェクトを立ち上げるときにすごく気をつけたのは「夢を実現しよう」とホームページに一切書かない、ということ。実現することが幸せで、実現されたときだけが唯一の幸せではない、そこだけは絶対に守らなきゃいけないと思っています。夢が叶わないと分かったときも「夢を諦める」ではなくて、「次の夢は何にしよう」と思ってほしい。「夢はいつでも変えてOK」とうちの中でもいつも伝えているから、子どもたちは「次の夢何にしよっかな」と言っているほどです。そうやって大人になってもそのノリでいていいよ、と伝えていきたいと思っています。

 

——とはいえ、簡単に叶うものだけが夢ではないですし、夢に伴う苦労も現実には起こり得ますよね。

いろいろな方から「夢を後押しすることは子どもにとって残酷ではないか、無責任なのではないか」と言われることがあります。でも、私は「いや違うよ、だからこそなんだよ」と思っています。「子どもの頃、あれが楽しかったんだよな」という経験の中には、実際にはとても大変だったものもあるはずなんです。その時に、「あれ楽しかったんだよな」という記憶として残ってほしくて。

 

これがだめだったらこれ、これがだめだったらこれ、と大人になるまでに「夢」をたくさん経験していってくれれば、いつか本当の挫折が来たときに、それを挫折ではなく「やりきったな」「めちゃくちゃがんばったな」「じゃあ次何やろうかな」と先に進むきっかけに切り替えられる。私はそうやって夢を切り替えていく手助けをしたいと思っています。

 

 

——今後のコドモクリエイターズインクの目標を教えてください。

白井:短期的な目標は、コドモクリエイターズインクの次のリーダーをうちの卒業生がやってくれること。3年後とか5年後に、1期生や2期生が運営側にまわりメンターになって、子どもたちに「できるよ!」「応援するよ!」とアドバイスする。そういう循環ができるようにしたいですね。

長期的な目標は、子どもたちの夢が100個叶うことです。その100人の子どもたちが、自分のやりたいことで100BANCHに入居したら面白いですよね。この子たちの夢がどんどん叶っていってくれたら嬉しいです。

 

——近い未来で今の活動を譲り渡すイメージなんですね。

白井:世代が循環して夢を持つ人が増えていかないと意味がないと考えています。私ひとりが活動するだけでは世界は変わらないかもしれませんが、コドモクリエイターズインクの子たちは社会の手となり足となり、世界を変えることができる力を持っています。だから、彼らの応援には誰よりも全力をかけるけど、そこにあえて私がいる必要はないのかなって。

コドモクリエーターズインクは大人が経験することを早めに子どもたちに引き継いでいるので、ずっと私たちが先頭を切って、というよりは「いかに世代交代をしていくか」がこの活動の目的かもしれません。私の限界点を早めに子どもたちが超えていくことで、きっと地球はより良くなっていくと信じています。

 

WRITER

吉澤 瑠美

Polaris Typewriter / 執筆編集

1984年生まれ、千葉県出身。ロフトワークで約10年Webマーケティングに携わった後、人の話を聞くことと文字を書くことへの偏愛が高じてライターになる。好きこそものの上手なれ。末っ子長女、あだ名は「おちけん」。川が好き。