• リーダーインタビュー

KOTORI 髙瀬俊明&工藤駿:言葉は、あなたへの信用の証。デジタルネイティブが考えた「信用経済」における言葉の可能性

「人生で忘れられない言葉」、あなたは幾つあるでしょうか?

幼少期に親にかけられた言葉、学生時代の恩師の言葉、仕事で忘れられない言葉、パートナーとの思い出の言葉……きっと誰しもの胸に、人生に影響を与えた言葉、支えてくれた言葉たちが、眠っているのではないでしょうか?
そして、その言葉を、いつ、どんな時に思い出しますか?
その言葉を贈ってくれた人とは、最近会っていますか?

インターネットを通じて、日々気軽に、大量のコミュニケーションが量産される現代社会。
ひとつひとつの感情密度が薄まっていきやすいなか、大事な人と疎遠になったり、孤独感を覚える人も多いのではないでしょうか。
そのような中、100BANCHでは「人生で大事な言葉や、それを贈ってくれた人との関係性を守ってくれる」一風変わったお守りが生まれようとしています。その名も『KOTORI』。

今回は、発起人である髙瀬俊明(たかせ・としあき)、工藤駿(くどう・しゅん)にお話を伺っています。
取り組みの背景、そして「人から贈られた想いは、社会的信用の証左」との考えのもと、「想いを具現化」したこのお守りが世の中に与えていく影響について、じっくり語っていただきました。

「言葉に込められた想いを届ける」
――最適なコミュニケーション方法を考えた結果、『お守り』に行きついた

──『KOTORI』プロジェクトが始まった経緯を教えていただけますか?

髙瀬俊明(以下髙瀬):2018年2月、工藤と一緒に株式会社ISSHOという指輪の制作会社・セレクトショップを立ち上げました。ブロックチェーン技術を活用し「世界で唯一」の文字列が刻印された指輪の製作・販売をしています。プロポーズや愛のメッセージを指輪に込めることができる、一風変わったプロダクトです。刻印されたアドレスを解読すると、メッセージが開けるという仕組みになっています。

代表・髙瀬俊明

デザイナー・工藤駿

工藤駿(以下工藤):その指輪を製作するときに沢山のお客様のメッセージを拝見するんですが、感動して泣けてくるものばかりだったんです。人から贈られる言葉には「まるで『お守り』のような、特別な想いが込められている」と実感したんです。それを具現化するプロダクトを開発しようと試みたことが、本プロジェクトのきっかけですね。

髙瀬:このアイデアを、100BANCHを使って実現しようと思った理由は2つあります。ひとつは、コミュニティの面白さに惹かれたこと。もうひとつは、プロダクトづくりの知見を求めて。私たちは、『お守り』のような抽象度が高いアイデアを起点に、実際のプロダクトを開発する専門性がなかったので、様々な分野のクリエイターや、いろんなものづくりをして想いを持っていらっしゃる人たちが集まり、面白いことを企てる場で、色々刺激し合えるだろうと期待しました。

──現在もプロダクトは絶賛開発中とのことですが(2019年4月取材時)

工藤:『お守り』の中に手紙が入る形を想定しています。手紙は、手書きタイプと印刷で出力するタイプの2パターンを用意しました。

まだ完成形ではなく、「言葉に込められた想いを届ける、ベスト方法は何か?」という観点で改良を続けています。たとえば、お守りの中に入れる「メッセージを書いた手紙」。人の温もりが伝えるためには、どのような紙質がいいかにこだわっています。ほかにも、お手紙の出し入れがしやすくなるよう「お守り袋の形」を工夫するなど、しっかり守ってくれる信頼性をお守りの中で表現するためには、どのようなものがいいかひとつひとつ検討しています。

工藤:一番苦労したのは、このお守り袋の作り込みですね。実は、お守り袋を制作する専門業者は存在しておらず、まずはその協力先を探すところから始まりました。しかし、『KOTORI』は通常のお守り袋とは異なる仕様(お手紙を取り出せる)に作り込み、量産する必要があったため、業者さんからは「やったことがないから無理だ」と断られるケースがほとんどでした。

髙瀬:地道に営業を続けていった結果、『KOTORI』の世界観に共感してくださる、京都・西陣で伝統的な着物帯を取り扱う会社に出会うことができました。お守りならではの信頼性・世界観を出すには、ぴったりの生地だと考え、ご一緒することに。

格式のある伝統的な業界に、前例のない『KOTORI』のようなプロダクトをお願いすることは非常に難航しましたが、僕らの『KOTORI』にかける想いを丁寧にお伝えしたところ、「それなら応援してあげるよ」と言ってくださった。非常に良いご縁になりました。

 

デジタルネイティブ世代が再定義する「手紙の価値」、目指す未来は「優しい社会」

──おふたりは、この半年間に本業の傍らで『KOTORI』の開発に取り組んでこられました。何が原動力となって、本プロジェクトに向き合い続けてきたのでしょうか?

工藤:人の想いを言語化し、伝える行為を通じて、大事な人との関係性を温めて残していくことに、強い思い入れがあったからです。

現在の情報社会では、おびただしい量のコミュニケ―ションのやり取り、ソーシャルネットワークが生まれる環境下にあります。一方で、私たちはその中でも大事なコミュニケーションや関係性を保ち続ける術を持っていない。そうした日々の忙しさの中で、仲の良かった友人と疎遠になっていくのは悲しいものだなと。

自身も、最近疎遠な祖父母に手紙を書こうとしたら、感極まって泣いてしまって。手紙を書くことは「想いを言語化すること」であり、「その人との関係性、向き合う自分の在り方を内省する体験」でもあると、本プロジェクトを進めながら気付かされたんです。

工藤:『KOTORI』は、想い・メッセージを手紙で贈る、現代の伝書鳩。普段こうして手紙を送ることってあんまりないと思うんですけど、いざ改めて送ってみることによって、「今まで薄れていたはずのものが、また繋がりを取り戻す」って素敵だなって。それをお守りという形で残してあげることによって、大事な人との関係性を温め、守っていけたら。そんな想いを『KOTORI』に込めています。

──「手紙を送る行為」は古くから馴染みのある文化でしたが、デジタルネイティブ世代のみなさんが、改めてその価値を見出していらっしゃるのですね

髙瀬:ITツールを通じて、世界中の何十億人と同時にコミュニケーションが取れる現代。だからこそ、僕らは「手を繋げる範囲の関係性を大事に、温めていきたい」なんて話もします。僕自身の体感でもありますが、身近な人に想いを伝えることは、時に気恥ずかしくもあると思うんです。そんな時「手紙」はコミュニケーションのクッションとして有用であることを実感しています。

高瀬:また、こうした大事な人とのコミュニケ―ションをより良い体験にすることが、僕自身が複数の仕事で取り組む共通テーマになっています。本業で扱うブロックチェーンは、単純化すると「技術によってコミュニケーションを円滑にする」という手段のひとつです。『KOTORI』で実現したいことも、表現のアウトプットが異なるだけで要は同じことをしているつもりなんですよね。

工藤:コミュニケーションのその先には「優しい世界」というか、「優しい社会」があると考えています。手紙でその人の意外な一面を知って、急に関係が変わることってあると思うんです。そういう意味で、「コミュニケーションのデザイン」や「人間関係のデザイン」になるんですけど、そこには「優しさ」や「愛」がある。少しでも多くの人が恥ずかしくなくできるようになれば、「優しい社会」が訪れると思います。

 

人に贈られた想いは、社会的信用の証左。
ブロックチェーン実業家が考える、「信用経済」における言葉の可能性

──今後、どのように『KOTORI』を世の中に展開していく予定でしょうか?

髙瀬:まさにクラウドファンディングを開始したばかりで、まずは世の中からのフィードバックを得たいのが、正直なところです。既存のお守りとは性質が異なるプロダクトなので、プライシングが難しい。共感者・協力者を見つけて、コラボレーションするなり、ビジネスとしての方向性を検討していきたいと考えます。

工藤:『KOTORI』としては、ビジネスに囚われすぎず、本質的には「言葉に想いを込めて、贈り合う文化」を提案し続けていきたいと思っています。実際に「書く行為」によって初めて得られる体験だからこそ、実際に「ぜひ『KOTORI』を使ってほしい」シチュエーションを提案していきたいですね。

髙瀬:たとえば、療養中の人に応援のメッセージを贈る。親から受験生に励ましの言葉を贈る。他にも、子どもの命名に込めた由来、想いををお守りとして残しておく、など。手紙ならではの筆跡、手触り感、あたたかさなど、文字情報以外のコンテクストが伝わり、形として残されていく。

工藤:日本人には、「お守りを大事に扱う」という習慣があります。自分に寄り添ってくれる存在として大事にすることで、贈ってくれた人との関係性も同じような存在になっていくのではと思っています。

──先ほど、ブロックチェーン事業とKOTORIのお仕事は根本的には“同じ”と表現されていましたが、どのような共通点があるのでしょうか?

髙瀬:人との関係性を強固にしていく「コミュニケ―ションの媒体」と考えます。

例えばビットコインがあった時に、物理的なお金ではなく、テクノロジーによってできているデジタルなものに信用がおけるとなった時、「人と人は何を以って信頼するのか」というあり方が変わると思っています。結局人は、人の生活をよくするためにものづくりをしていくと思うんですけど、その時には必ずコミュニケーションっていうものがあって。それをどのツールを使って媒介されるのかは、常に変わってきています。

高瀬:ライトかつデジタルなコミュ二ケーションが量産されがちな情報社会であるからこそ、その反動で『KOTORI』のようなアナログツールも根強く残っていくのではないか。「コミュニケーションのあり方を考える、それによって人がより生きやすくなる」というのが、僕の仕事の軸になっていると思います。

──『KOTORI』は言葉に価値を強く感じているからこそ、お金ではないもので信用を得る未来に共通性を感じますか?

高瀬:そう、すごく共感していて。言語化するのがすごく難しいんですけど、ブロックチェーンは社会の信用コストをなくすものだと思っています。社会的信用性の担保のひとつが、今までは貨幣でしたが、現代ではテクノロジーでの代替が可能になっています。逆にこういう『KOTORI』という物質を送られることで関係性が変わることもあって、必要な関係性を作る物体と……うーん、やっぱり難しいな。

これからの社会の流れで言うと、嗜好品に分類されているようなものが大事される社会になると思っていて。人の温度感や感性、独自性を重視するような、そこには手触りなど実感できる物質があることが必要になってくる。一方で、お金などの無機質なものは無くなっていく。もちろん、お金自体に価値を感じている人はいて、そういう意味では残ると思うけれど、機能としてはもっと合理化していいので、削られていくのではないかと考えています。

「人は何を以て社会的信用を抱き、その信頼度はどのように可視化できるか?」というテーマに対し、実は「貨幣」だけではなく「言葉」も該当するのではないか。『KOTORI』を渡す行為こそが、相手を信用する証にもなるかもしれないと思います。

『KOTORI』が少しずつ世の中に浸透し、多くの人に価値が認められれば、それはやがて「文化」になる。そんな想像を膨らませています。

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「言葉」が持つ力。言葉をお守りにして大切な人へ贈るサービスを

 

( 写真:中込 涼)

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