Future Insect Eating
人類の運命を握る昆虫食に、 美しいデザインとレシピを
3月6日は冬籠りした虫が這い出る「啓蟄(けいちつ)の日」。この日、100BANCHで昆虫食がもつ隠された魅力や可能性、社会的な影響を複眼的に考える「昆虫食解体新書」を開催しました。
いまだにゲテモノ料理として食べることに違和感や抵抗感を持たれることが多い昆虫食。しかし最近は、多くのクリエイターたちが試行錯誤を重ね、「昆虫」という未知な食材に対して複眼的な視点から解体し、日々様々な形へとデザインしています。
「啓蟄の日」は、いわば昆虫にとって「生誕」の日。昆虫たちが目覚めるこの日に、昆虫に対して様々なアプローチを行なう5名のクリエイターによるMeetUpイベントを開催しました。多種多様な参加者との新たな出会いにより、「昆虫食」も成長に向け、新たな一歩を踏み出すことができるのでしょうか。以下にその様子をレポートします。
飲む生態系 / FOOD
僕らはみんな生きている
by セキネトモイキ / nokishita711
斬新なアイディアで昆虫を美食やアートとして落とし込むドリンクディレクターのセキネトモイキさんのプロジェクト。イベント当日は、タガメとゲンゴロウのエッセンスを使ったカクテルを提供しました。
カクテルで使用する多種多様な植物と2種類の虫をアートとしても展示
セキネ「本業はバーテンダーで、京都でカクテルバーを営んでいます。普通のお酒ではなく、食材を液剤にしたものを混ぜたお酒を提供しているバーです。
2018年初めに現Bugologyメンバー高橋に出会い、タガメを水中につけたウォッカを飲みました。それが青りんごのような、フルーティな可愛らしい香りで。味も素晴らしい。完全にギャップ萌えしてしまいました。
それを機に、昆虫食の面白さにのめり込み、昆虫のエッセンスや香りを液体にしたお酒を提供するようになりました。見た目がグロテスクではないので、昆虫食に慣れてない方にもおすすめできます。
去年、バーで面白いできごとがありました。虫嫌いの女性が、タガメのお酒を飲んだら虫を素手で触れるようになったんです。昆虫が気持ち悪くて嫌いだと思っていても、試しにちょっと食べてみてほしい。それが意外とおいしかったりするんです。昆虫のエッセンス入りのお酒を、食の体験の幅を広げるフックにしてほしいと思っています」
タガメはフルーティ、ゲンゴロウは醤油のような旨味が感じられる
昆虫養殖の世界 / EXHIBITON 東
南アジアから見る昆虫食の可能性
By 葦苅晟矢 / 株式会社ECOLOGGIE
いかに効率良く、大量の食用コオロギを供給するかを研究する葦苅さんのプロジェクト。
今回は愛知県の味噌職人とコラボレーションして、コオロギの成分をふんだんに使った味噌汁を提供しました。
味噌の種類は、コオロギ成分が10%・25%・50%から選べる。大豆が含まれておらず、もはや味噌の定義には当てはまらないコオロギ100%の「味噌風味のコオロギ調味料」も登場した
葦苅「主にコオロギを育てる会社をカンボジアで起業しました。その理由の一つは「昆虫食」が新しいタンパク源であり、新しい食料として注目されていること。二つ目に、東南アジア地域では昆虫食の流通がすでに確立されていて、貧困層への安定した収益をもたらす新しい産業であることが挙げられます。
例えばタイには「コオロギ村」があります。この村では、約70件の家庭がコオロギ生産で生計を立てているんです。女性でも手作業で収穫できるので、農業より労力がかかりません。将来的には、食用昆虫の生産者を世界中に増やしていきたいと思っています」
100BANCHに1万匹のコオロギを持ち込んだことも。「容器が壊れたらテロレベルですね(笑)」
WHAT A INSECT / FOOD
進化したコオロギラーメン
by 「地球少年」篠原祐太 & 関根賢人
「新たな食体験を通じて、新鮮な発見と喜びを世界中に届けたい」と語る篠原さんが提供するのは、麺もスープもコオロギの成分でできた「コオロギラーメン」。
コオロギラーメンには、1杯あたり120匹のコオロギが使われている。味は煮干しに近く、想像以上においしい。
今回は、コオロギを使った炊き込みごはんとバッタを練りこんだチュロスも用意
篠原「幼い頃から生き物が大好きでした。今は「地球少年」という肩書きで、昆虫食の普及に尽力しています。僕が初めて昆虫を食べたのは4歳の時でした。これは、罰ゲームとかではなく、好きなので気づいたら昆虫を食べていたという感覚です。「食べ物として虫は無理」という先入観を取っ払うために、おいしい虫料理を作りたいんです。
現在は虫料理のお店の開店に向けて準備を進めています。ゲテモノ料理というよりはおいしさを追求したラインナップで、昼はコオロギラーメン、夜は虫料理のコースを提供する予定です。虫料理のコースを用意したのは、ラーメンだけでは伝えきれない、いろんな種類の虫のおいしさを楽しんでもらうためです。将来的には、コオロギでできたカップラーメンが身近になるまで頑張りたいですね」
BUG’s ICE / FOOD
サステナブル アイスクリーム
By 松山 喬洋 / スフィード 合同会社
「昆虫を食材と考え、適正な調理方法をする事によってより美味しく食べる事ができ新たな食文化の発展へと繋がる」と語る松山さん。今回は、「完全栄養食」・「昆虫食」・「フードロス」の3つの要素をカジュアルな形で落とし込んだアイスクリームを提供しました。
バニラアイスクリームに昆虫成分でできたパウダーが練りこまれている。トッピングにはアリを使用
松山さん「14年間シェフとして仕事をしてきて、「昆虫って食べ物に使えるのでは?」と気づいたんです。気づいた人が何か行動すべきだと考えて、昆虫食のメニューを考え始めました。昨年の夏に昆虫食のアイスクリームを開発して、国際会議でも出店しました。それが想像以上に好評で。
メニューの開発をする時は、それぞれの昆虫食材に合った、ベストな商品は何かを常に考えています。なんで昆虫食を作るのかというと、決して奇をてらっているわけではなく、持続可能な食の世界を実現するためです。
現在、昆虫でいうと40%の種類が絶滅しています。食物連鎖の底辺が減っている事実は、人類にとっても危機なんです。昆虫食を確立して、一つの食事の選択肢としてみなされるよう、商品価値を上げていこうと考えています」
昆虫食企画Entography book / EXHIBITION
記録・表現という方法によって昆虫食を実験する
by 高橋祐亮 /クリエーター
昆虫食が新たな食文化として発展・もしくは衰退するプロセスを記録し発信するBugologyの高橋さん。今回はそのプロジェクトの全貌をまとめた「Entography book」を展示しました。
高橋「僕も食用昆虫としてコオロギを育てるアプローチから始めました。しかし一人で実験していても思うような成果が出なかったため、Bugologyという集団を作り、昆虫食の実験を複数人で広げていく活動をしています。
昆虫食は生産過程がブラックボックスになりやすいんです。そこで、「どのような背景で生産されたのか」を記録して表現に落としこむことで、人々の認識を変えることができるのではないかと考えました。
今は、複数の昆虫食の生産過程を統合して表現できるようなクリエイティブを創っています。自分のプロジェクトだけでなく、他者の昆虫食のプロジェクトも記録・表現できるようにするためです。面白い試行錯誤を記録して、大勢の人に提示していきたいですね」
「ダイナミックな展開への鍵は、実験のプラットフォームをいかに整備してアウトプットするか」
昆虫を口にするのは初めての人も。躊躇しながら口に運ぶも、意外なおいしさに驚きの表情を浮かべる様子がみられました。今回、イメージ以上のおいしさを見せて会場を驚かせた昆虫食。それだけ認知度が低い、ということも意味しています。
食という分野から遠い存在であった昆虫が、今後わたしたちの食卓に並ぶ日もそう遠くないのでしょうか。
昆虫たちが土から這い出す春の始まり。今後の各プロジェクトの動きにも期待が高まります。
プロジェクトの実験報告が終わると、参加者は登壇者へ質問したり2FのGARAGEの見学したり、事務局メンバーにGARAGE Program応募の質問をしたりと、それぞれが思い思いに100BANCHの取り組みを知る時間となりました。
次回は【GARAGE Program応募者向け見学説明会&プロジェクト成果報告会】を3月27日(水)に開催します。
URL|https://100banch.com/events/15696/
各プロジェクトの活動の様子を知りたい方や、GARAGE Programへの応募を考えている方は是非ご参加ください!