脱人間中心の里山道具考

獣害と伝統染織業が抱える課題の解決を目指すプロジェクト「Re:Spect」。駆除された鹿革などの未利用資源を活用したサンダルづくりなどに取り組んでいます。
今回ナナナナ祭2026ではこれまで制作してきたフットウェアに加え、カトラリーや漆器をお披露目。野生動物の皮・骨などの素材を通じて、獣と自然、人間の関係を考える展示を実施しました。その様子をRe:Spectの下吹越が振り返ります。
「100年後のサトヤマは、どんな様子だろう?」
人間中心の視点をちょっとだけ脱ぎ捨てて、極端な保護でも排除でもない「人と自然との中庸で心地よい関係性」を探ってみる。そんな問いを掲げたナナナナ祭2026『脱人間中心の里山道具考』のブースには、有難いことに3日間で総勢200名を超える方々が足を止めてくださいました。
本レポートでは、来場者の方々からいただいた声や、私が取り組む『Re:Spect』というプロジェクトの現在地についてまとめました。

Re:Spect(リスペクト)は、獣害対策で駆除された野生動物の未利用資源と、藍染をはじめとする日本の伝統染織技術を掛け合わせ、プロダクトを制作しているプロジェクトです。
現在、日本国内では年間130万頭以上の野生動物が『害獣』として駆除され、その殆どが利活用されることなく廃棄されています。こうした課題に対しよく語られる『自然との共生』ですが、共生という言葉にはどこか違和感を覚えてきました。一般的にイメージされる『共生』とは、仲睦まじく平和的な関係かもしれません。けれど、約1万年前からの歴史を振り返れば、作物や家畜と人との共生とは、それぞれが生き延びようとする過程で場当たり的に生じた相互依存(癒着)の関係であったと考えます。
一方、その癒着の外側にいる野生動物は、人の利害次第で「豊かな自然の象徴」にも「害獣」にも変わります。問題は動物そのものではなく、人が与えた「言葉」にあるはずです。そこで私たちが目指すべきは、保護か排除かという二項対立を超え、対立を『アウフヘーベン(止揚)』することだと考えました。プロダクトを通し、文脈を編み直すことで、100年先の人と自然の中庸で心地よい関係性を探る。その第一歩として、今回の『脱人間中心の里山道具考』を企画しました。
これまでのRe:Spectでは、駆除された革の利活用を中心に、スニーカーやサンダルといったフットウェアをメインに制作してきました。しかし今回は『脱人間中心の里山道具考』というテーマのもと、フットウェアという枠組みを一歩飛び出し、より暮らしに身近なプロダクトに挑戦しました。


具体的には、これまで扱ってこなかった鹿の角を利活用したカトラリーや、革の可能性を拡張する熊革の漆器です。命を丸ごと見つめ直し、日常の食卓や空間の中で命の重みと手触りを感じられる里山の道具として展示しました。

手に取ってくださった方々からは「熊の革と漆でこんなことができるんだ」「角の持つ独特の重みと質感が、思いのほか手に馴染む」などのお声をいただきました。単に珍しい素材としてではなく、手触りや道具としての美しさに触れ、命を丸ごと道具として日常に生かすという新たな挑戦に、多くの方が深く頷きながら魅入ってくださいました。

今回の展示では、完成品だけでなく試行錯誤のプロセスや裏にある葛藤など、確信のないまま迷い手を動かしてきた軌跡をありのままみせる名目で作りかけのプロダクトも展示をしました。

またブースでは、料理人であり自ら山に入る猟師でもある阿部 匠海さん(Tomoru代表)に書いていただいたエッセイ『山に主役はいない。』も展示しました。「山を管理・保護するのではなく、自然の循環のなかに人間もまた存在しているだけ」 「捕らえた命の骨を出汁にし、皮や角、肉を余さず次へ繋ぐことは、ただ『捨てるのがもったいない』からではなく、一つの命の連なりを途中で止めないため」山と命に直接向き合う現場の当事者だからこそのリアリティに満ちた言葉は、プロダクトを通して伝えたい想いをより深く、力強く引き締めてくれました。
今回の出展で強く感じたのは、「綺麗なサステナビリティよりも、裏側にあるリアルな葛藤や現場の切実な言葉にこそ、人は深く共鳴してくれる」ということでした。一人で抱え込んでいた問いについて、200名を超える来場者のみなさんと真剣に対話できたことは、大きな励みになりました。
今後は今回展示した道具たちを日常で使えるプロダクトとして磨き上げ、持続可能な仕組みへと昇華させていきます。100年先の「中庸で心地よい関係性」を探る挑戦はまだまだ始まったばかりです。
もし少しでも心に引っかかるものがあれば、ぜひ気軽にお声がけください。

会場に足を運んでくださったみなさま、本企画をサポートしてくださったみなさま、当日現場を支えてくださったボランティアスタッフのみなさま、そして最後まで伴走してくださった100BANCH事務局のみなさまに、心より感謝とお礼を申し上げます。ありがとうございました。