SHIITAKE MATSURI
「椎茸だし」で世界平和の一助になりたい
そもそも人はいかに「おいしい」と感じるのか———。
その上で「おいしい」という感覚を拡張させるには、何が必要なのか———。
椎茸を中心とした菜食だしを開発する株式会社椎茸祭 代表の竹村賢人が、ニューロガストロノミー研究者や冒険料理家など、「おいしさ」の研究に携わる人々を招き、味覚を拡張するためのトークイベントを開催しました。
イベント開始直後、初対面の参加者が集まる会場内にどことなく緊張感が漂うため、竹村が味覚に関するアイスブレイクを提案。「より多くの人が好む、それぞれの味覚(塩味、旨味、酸味、甘味、苦味)を代表する一品」をグループごとに考えました。
塩味チーム・旨味チームはなんと同一の答えで味噌汁。「アミノ酸、塩味、旨味の融合を評価」
酸味チームはオレンジをチョイス。「梅干しの酸味は苦手な人がいるが、柑橘類は子供受けも良い」
甘味チームは意外な焼き芋!「海外からも人気であることと、素材が活かされている点が高ポイント」
最後に苦味チームは緑茶を支持。「苦いものが苦手な子供でもお茶ならおいしく飲める」
グループメンバーがお互いに打ち解けたところで、ここからが本題。
参加者から寄せられた質問に登壇者が答える形式で、会場が一体となって「おいしさ」に迫っていきます。
——人が「おいしい」と感じる瞬間は?
竹村「おふくろの味など、その食べ物や料理から連想される参照先の多さによるものと思っていますが、いかがでしょうか。」
大嶋「人それぞれではありますが、好ましい記憶と結びついていたりすると、『おいしい』と感じやすくなると思います。それまでの食体験は好みに大きな影響を与えることは事実ですね。」
竹村「幼少期は苦味や酸味は嫌いであったはずなのに、大人になるとコーヒーを楽しめるようになるのは、どうしてなのでしょう。」
大嶋「もともと好きな食べ物に新しい味を加えていくことで、少しずつ好きな味の範囲が広がっていくと言われています。例えば赤ちゃんは先天的に甘いものを好みますが、酸味のあるオレンジ味のキャンディーのような、甘いものと酸っぱいものがセットになっているものを食べていくと、酸っぱい食べ物にも次第に慣れていく、というわけです。」
「子どもの頃に色んな食べ物に挑戦した人ほど、好みの幅が広がりやすいと言われています。」(大嶋)
竹村「刺激を求める歓楽的な脳とも関連性がありそうですね。大人になってから好みを広げるにはどうしたら良いのでしょうか。」
大嶋「大人のアドバンテージは何と言っても言語を操る能力があることです。生理的な味覚の発達は子どもの頃のようにはいきませんが、その代わりに味を言葉に落とし込み、想像することによっておいしさを広げることができます。」
竹村「なるほど。年齢だけではなく、地域によってもおいしいと思われる味って違いますよね。」
安田「食はそもそも、地域に依らず誰もがそれぞれ『自分の家のものが一番おいしい』と思うくらい保守的なものでした。新しい味は自分に合わない危険性があるからです。ただし今は、山岳地帯でもインターネットを使える時代になり、いつでもどこでも気軽に情報を楽しめるようになりました。その結果、『新しい味は楽しんで良いものなんだ!』という認識が一気に広がり、それぞれの地域の食文化を塗り替えるほどの勢いで他地域の食べ物が流入してきた、というのが現状です。」
「伝統的な食文化を受け継ぐコミュニティーが崩れ、若者は手軽に作れるものを中心に摂取するようになった。」(安田)
——新しい味を作り出そうとするとき、気をつけていることは?
大山「人の食に対する固定観念を変えることを意識しています。食べられないと決めつけているのは、他人にとってはおいしいものだったり、大事な栄養源だったりするかもしれない。結局、自身の経験から来る認識のエラーだけが問題だと思っています。和食にしか合わないと思われている食材も、洋食にだって合うかもしれない。そうやって、『案外おいしい』を増やしていきたいですね。」
「旬の野菜を食べることが一番健康に良いという意味の『身土不ニ』という仏教用語は、日本食をよく表す一語。」(大山)
———食に精通した登壇者三人でも食べられないものは何?
大山「私は何でも食べます。この前はカビを食べてみました。自然農を行っている知り合いがくれた完全無農薬の種から生えているカビだったので、大丈夫かなと(笑)。科学調味料やお肉は普段避けているので、たまに食べると具合が悪くなりますね。」
安田「私も基本的に何でも食べたいと思うタイプです。自分の意識次第でどんなものも食べられると思っていたのですが、この前昆虫食レストランでコオロギの姿揚げが出てきて、それだけはどうしてもダメでした。脳を切り取らない限り食べられないものもあるんだなと。」
大嶋「私も虫は苦手なのですが、昆虫食イベントではセミやゴキブリに挑戦しました。あえて苦手なことに自分を晒して克服を目指す『エクスポージャー』と呼ばれる認知行動療法があるのですが、それと同じ原理で克服できるかも、と思ったんですよね。」
「100BANCHにも昆虫食のプロジェクトがあって、この前タガメに漬けたリキュールをいただきました。これが意外ととてもおいしいんですよね。見た目があれですが・・・。」(竹村)
——実践している味覚の拡張方法は?
大嶋「その料理がどのようにできているかを知るようにしています。レストランで新しい味に出会ったら、マナーの範囲で何を使ってどう調理しているのか聞きますね。そうやって、味覚に関する知識のストックを増やすよう努めています。」
トークイベントのあとは、世界を旅する冒険料理家 安田氏によるオリジナル料理3品とタイの納豆(トナオ)が振舞われました。
トナオに限らず使用されている食材は全て、安田氏が国内外問わず生産地へ実際に赴き、その土地に根付く市場で仕入れたこだわりの品です。
タイの納豆(トナオ)。「タイは蒸し暑いので、日本のように生の状態では保存せず、乾燥させてスープや炒め物に入れて食べます。」(安田)
親しみのない食べ物を組み合わせた料理と強烈なトナオの臭いに一同驚きを隠せず。
しかし一口食べた瞬間、当初の緊張感が嘘のように会話が弾みます。
鮒鮨と猪の糠漬
トマト煮おにぎり。山形県産の紅花ともち米を使用。
こうしておいしさの秘密に迫り、味覚の拡張に挑戦した3時間。
本イベントを経て、企画を担当した竹村から最後にメッセージがあります。
「株式会社 椎茸祭では菜食主義に向けたおだしの開発を行っております。
おだしは調味料の一種であり、調味料の目的は、料理をより美味しくさせるものだと思っております。とはいえ、「おいしい」と一口に言っても感じ方は人それぞれ。
では、そもそも人はいかに「おいしい」と感じているのか?
そして、いかに「おいしい」を拡張させているのか?
調味料を素材に対するアドオンとして、きちんと「おいしく」機能するために、脳の観点、歴史の観点、食べ物を無駄にしないという3つの観点から、参加者の皆様と共に答えを探るべく、イベントを企画してみました。
実際にゲストや参加者とのやり取りを通して、「おいしい」を拡張するためには、ただ参照先を探すだけではなく、参照先にあたる味をカテゴリーごとにずらすことが必要であると分かりました。そうして初体験の味を創出することではじめて、食べたことのないものをおいしいと感じるのです。
弊社ではこれからも、一企業だけで知見を抱え込むことよりも、周りの方と手を取り合って「おいしい」の本質を満たす商品を共に作っていけたらと思っております。」