LEADER INTERVIEW

2020.10.15 Thu

椎茸がもたらす世界平和。100年スパンでビジネスを耕す:椎茸祭 竹村賢人さん、中圓尾岳大さん

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「椎茸」と「世界平和」

株式会社椎茸祭の竹村賢人(たけむら・けんと)さんは、スケールの全く異なった2つの言葉を結びつけてしまいました。
彼は、手のひらに乗るような小さな椎茸が世界平和へとつながると信じるだけでなく、そこに至るまでのプロセスに向き合い、それを実行に移している最中なのです。

2017年11月、創業すぐに100BANCHに加わり、当時100BANCHのアルバイトスタッフだった中圓尾岳大(なかまるお・たかひろ)さんをメンバーに加え、2018年2月に卒業した椎茸祭。創業から3年目を迎え、彼らはどのような活動のフェーズに突入しているのでしょうか。そして、彼らの目に映る「100年」という時間を、どのように事業に反映しているのかを伺いました。

(執筆:萩原 雄太 、写真:小野 瑞希)
※取材時のみマスクを外しています

課題解決やワクワクを心から追い求め、一見現実的とは思えない未来を語る。荒削りでも、自分の欲しい未来を本気で求め、邁進する若者を100BANCHは応援しています。

今回、「世界平和」という大きな目標を掲げる椎茸祭・竹村さんは、理路整然と「椎茸で世界平和を実現する」と語ります。彼にとって、それは夢物語ではなく「来たるべき未来」として見えているようです。

いったい、どうしてそのような目標を掲げたのでしょうか?

 

 

竹村「せっかく起業をするならば、世界が直面している問題を解決したいと考えました。子どもの頃に住んでいた地域には、いろいろな国の信条の異なる人や、障害を持った人も含めて、様々な人が混ざったような環境で育ちました。そのなかでみんなが仲間はずれにならず、穏やかな気持ちでいられる状態=世界平和を目標にしていこうと思いました。」

 

「世界平和」を掲げるのは難しいことではありません。けれども、それを実現させるとなれば、いったいどのようなプロセスを辿ればいいのでしょうか?

 

竹村さんが世界平和を実現するにあたって着目したのが、「息抜き」という言葉でした。彼は、かつてプログラマーとしてインドに滞在していたとき、2つのものに助けられて息抜きができたと振り返ります。

 

竹村「ひとつはだしを飲むこと。そして、もうひとつは湯船につかること。それらをすると、力を抜こうと意識しなくても自然と力が抜けていきました。

だしを飲むことも湯船につかることも、インドでは一般的な行為ではありませんが、日本ではとても馴染み深い生活習慣。この息抜きの文化を後押しすることによって、世界中に平和な気持ちを広げていくことができるのではないかと考えたんです」

 

そんな息抜きを誘発する2つの文化のうち、竹村さんが選んだのが「だし」を広めていくこと。「お風呂の文化を広めていくことは難易度が高い」という現実的な理由とともに、インドで体験したこんな食習慣がありました。

 

 

竹村「実は、インドでは、およそ40%の人々がベジタリアンなんです。そんな国では、動物性のだしを使った鍋をつくっても、みんなで一緒に楽しむことはできません。それに、個人的にも起業当時付き合っていた台湾人の妻がベジタリアンなんです。彼女と『おいしいね』と楽しく食事を共にするためには、動物性のだしではなく植物性のだしであることが必要でした。

日本ならではの椎茸だしが世界中に広まれば、きっと誰もが『おいしいね』と共感できる状況が生まれる。そのように考えて、椎茸だしを選んだんです」

 

こうして「椎茸」から「世界平和」への第一歩が踏み出されたのです。

 

「SHIITAKE MATSURI」プロジェクトページ

椎茸祭が数あるアクセラレーションプログラムの中でも100BANCHを選んだのは、「100年」という時間軸に対して共感したからだと竹村さんは振り返ります。

 

 

竹村「僕らの活動が目指しているのは『世界平和』です。それは、10年、20年といった単位で実現できるものではなく、100年単位で実現されることだし、『何年で何億円稼ぎます』という売上目標にも置き換えられない。100BANCHの掲げる『100年先を豊かにする未来』というコンセプトを見て、ここしかないと感じたんです」

 

こうして、100BANCHに加わり周囲のプロジェクトメンバーたちと切磋琢磨していった椎茸祭。しかし、今になって振り返りると、刺激を受ける一方で、フラストレーションを溜め込む場面も多かったと当時を語ります。

 

竹村「ソフトウェアやアプリケーションといった領域の事業は、売上が比較的すぐに立ちやすいのに対し、食品事業はすぐに規模を拡大できるものではないし、そもそも僕らが目指しているのは短期的な利益ではない。僕自身、以前はソフトウェア側の仕事をしていたので『そっちの業界に踏み込めばもっと売上をたてられるのに』という悔しさを抱えていました。

けど、長期的なスパンだからといって、貧乏に甘んじようと思っているわけではありません。当時は『絶対に負けない!』と息巻いていました」

 

椎茸祭のプロジェクトに2018年から携わっている中圓尾岳大さんは、当時、大学に通いながら100BANCHのサポートスタッフ(アルバイト)を務めていました。起業したての竹村さんの姿は、圧倒的な「違和感」を与えてくれたといいます。

 

 

中圓尾「当時、入居しているプロジェクトが集まって、月に1回の進捗報告会をしていたのですが、竹村は『旨味を摂取したマウスは、摂取していないマウスよりも敵対反応が低い』という『出汁と脳育*』の実験結果を引用して、『世界平和を実現する』と熱弁を振るっていた。圧倒的に遠い未来を考えているのがとても印象的だったと同時に、『なんだコレ!?』って驚いたんです。きっと、聞いていた誰もが竹村の言葉を理解できていなかったんじゃないかな(笑)」

 

そんな圧倒的なプレゼンを聞いて衝撃を受けた中圓尾さん。もともと自分でもきのこを育てていたこともあり、少しずつ椎茸祭のプロジェクトを手伝うようになっていきます。そうして、大学卒業と共に「一緒に仕事をしたい」と自ら志願。正式なプロジェクトメンバーとして関わるようになりました。

 

中圓尾「竹村が100年という時間軸をベースにして事業を見ているのとは逆に、僕は今の積み重ねから100年後を見ています。当たり前の話ですが、100年後のためには、今、何回も試行錯誤を積み重ねながら良質な商品を作り、前に進んでいくことが必要。100年を双方向から見て、椎茸祭にとって最適な方法や成長のペースを見出しているんです」

 

*参考出典
・「出汁と脳育」 西丸 広史 富山大学 2017

 

では、100年後の世界平和を実現するために、彼らはどのような活動を展開しているのでしょうか? 

 

彼らの主力プロダクトは、自社サイトやAmazonをはじめとするオンラインショップのほか、日本百貨店や高島屋などでも取り扱われている飲む液体だし「oh dashi」。また、今年からはクラウドファンディングを実施しており、夏に行った「そうめんに最高に合う『おいしい椎茸だし』」のクラウドファンディングには、530人もの人々が支援。当初彼らは10万円行くといいな程度だったそうですが、結果は20倍程の資金を獲得しました。10月からは、「椎茸祭の鍋だし」のクラウドファンディングも始まっています。

 

 

竹村「100年というスパンがおもしろいのは、その達成を自分が見届けられないこと。だから、スタッフもお客さんもそこに向けたひとつのチームのような形で巻き込んでいく必要がある。これまでの3年間はそのための畑を耕してきた段階であり、ようやく、耕した畑が発酵を始めてきたところです。

僕らが作り出そうとしているのは、単純なプロダクトではなくカルチャーです。それは、畑をカルティベイト(耕)した先ににょきにょきと育っていくものでしょう。しっかりした土をつくったことで、これから、さまざまなカルチャーが育っていくと考えています」

 

そんな、にょきにょきと育っていく作物のひとつが、彼らが現在構想している「椎茸アイランド」という施設です。

 

竹村「湯船につかることでも息抜きを実感したように、『椎茸アイランド』は、だしとともにお風呂、サウナ、クラブなどが1パッケージで楽しめる体験施設です。

現在、椎茸祭の周りには、僕らの発想に対してとても強く共感してくれる人たちが集まっています。けれども、きっとこの先には、そこまで共感が強くない人に集まってもらうフェーズになっていくでしょう。そこで、体験施設を提供することによって僕らのアイデアを実感してもらうとともに、多くの人に届くための研ぎ澄まされた言葉を生み出していく。そうして、より多くの人々に僕らが提示する価値観を伝播させていきたいと考えています」

では、そんな活動を続けていった先、100年後にはどのような未来が実現しているのでしょうか? 竹村にそう問いかけると「SFのような答えかもしれませんが」と前置きしながら、こんな世界の姿を予言しました。

 

竹村「今の資本主義社会は人間ありきのシステムであり、人間が努力することによって回っていくもの。しかし、本質的には植物がいなければ人間は存在することができません。植物や菌のほうが、人間よりもはるかに強い存在なんです。

100年たてば、植物や菌とコミュニケーションをすることができるようになるでしょう。その時、人間は彼らよりも圧倒的に弱者であることに気づくはず。」

 

 

「100年後には自然が中心になる」

 

突然、そんなことを言われても、想像がつかないかもしれません。けれども、少し想像してみてください。人間にとって、身体は、いちばん近くに存在する「自然」ですよね。

 

だしを飲んでほっと息抜きをすることは、身体の要求に従うことであり、自然に自らを委ねること。人間は、身体という自然なしでは生きていくこともできません。「100年後には自然が中心になる」というのは、人と自然の関係が当たり前の状態に戻るだけのことなのかもしれません。

 

そうして、人間中心主義から植物・菌中心主義へと移行していった未来に、椎茸祭が目指すのは「人間と自然とをつなぐような組織」だと話します。

 

竹村「100年後には、きっと人間と植物や菌を中継する存在が必要になります。自然のことを知り、自然に対して敬意を持つ人間が、自然と人間との間を取り持つ。その役割を、僕たちが担いたいと考えているんです」

 

「100年後に椎茸で世界平和を実現する」「自然が中心となる世界で、自然と人間をつなぐ存在になる」そんな椎茸祭・竹村さんの描くビジョンは、2020年の段階ではまだ夢物語のように響きます。しかし、今から100年前は、手のひらサイズの電話機が世界中の人とコミュニケーションをすることだって、夢物語に過ぎなかった。

 

「椎茸が、世界平和を実現する」

 

いったい、2120年の人々は、この言葉をどのように受け取っているのでしょうか。

 

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WRITER

萩原雄太

演出家、フリーライター

フリーライター、演出家、かもめマシーン主宰。愛知県文化振興事業団「第13回AAF戯曲賞」、「利賀演劇人コンクール2016」、浅草キッド『本業』読書感想文コンクール受賞。2018年、ベルリンで開催された「Theatertreffen International Forum」に参加。

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