• リーダーインタビュー

ウガンダの魅力を見つめ直し、新たなビジネスを——Greeendy:柳原沙紀

「無いことを嘆くのではなく、いま目の前にあるものを見よう」

言葉にすると簡単にも聞こえますが、それに本当の意味で気づき、活動として体現するのには多くの人との出会いと実験が必要だった、とGreeendy代表の柳原沙紀は話します。

東アフリカで生まれる緑を利用して、雇用創出と人々のエンパワーメントを目指す「Greeendy」(一般社団法人Greeendy)。代表をつとめる柳原は、9ヶ月間滞在したケニアの農村での体験を機に、途上国の貧困問題を解決するためのプロジェクトを行うことを決意。竹を研究する共同代表者と出会い、竹とスイーツで雇用につなげるアイデアを生み出しました。しかし、今、多くの出会いや実験を経た気づきから、柳原は「Greeendy」を大きく変えようと奔走しています。

ウガンダの今ある魅力を生かした事業にするために、これからどんな変化を起こしていくのか。柳原の現在地を聞いてみます。

東アフリカに雇用を生み出したい

——「Greeendy」はウガンダの竹を使った竹スイーツで、東アフリカでの雇用創出を目指すプロジェクトとして100BANCHに入居しましたよね。

柳原:はい、持続可能なビジネスを通して食と環境の未来を創造していきたいと考えて、ウガンダの竹を使ったスイーツで、雇用を生み出したいと思い活動をしてきました。

私は2022年にケニアの農村に9ヶ月滞在しました。そこで、職を持たずに一日数百円の給与で暮らしている人や、悲惨な状況で生きる人に出会いました。その時に「あ、私はこの人たちのために何かをしたいな」と感じたんです。そこで、東アフリカのポテンシャルを生かしたビジネスで雇用を生み出していくプロジェクトを、半ば勢いで立ち上げたんです。

——東アフリカに関心を持ったきっかけはなんでしょうか?

柳原:小学生の頃に途上国の子どもたちのことをテレビ番組で見ました。私自身は教育熱心な両親の元に生まれたのにめちゃくちゃ勉強嫌いに育ったんですよ(笑)。でも、その番組を見て、世の中には勉強したくてもできない子がいるのだと衝撃を受けたんです。そのときから「途上国」への関心を持ち始めました。自分は恵まれてただけだったんだなって。
それで、大学は国際系の学部に進学し、カンボジアの研究を始め、大学院まで進みました。その後JICAのオンラインインターン等に参加する中で、アフリカというキーワードに何度も出会いました。幼少期から関心を持ち続けていた分野をもっと開拓してみようと思い『トビタテ!留学JAPAN』という支援プログラムでケニアの農村に留学したんです。

——どんなことを学んでいたのでしょうか。

柳原:「教育で世界を変えたい」という思いから、当初は現地の大学院で教育の研究をしていました。でも、正直うまくいかないことも多くって。
一時的に学び、「自国へと戻っていく呑気な留学生」として捉えられていたのかもしれません。研究のためのリサーチやヒアリングなど、現地の方とコミュニケーションを重ねていく中で「いい側面しか話してもらえていないな」と感じることもありました。
そこで、現地の人にもっと関わってみないとケニアのことはわからない。そう思い、子どもを支援する国際NPOでインターンをさせてもらうことにしたんです。もっと距離を縮めなきゃ始まらない!という感じで。
孤児院を併設するNPOで、子供たちと一緒に住んだり、ポップコーンを作って映画を見るイベントを企画したり、授業もさせてもらいました。最終的には、一緒に暮らしながら深く現地の人と交わりを持つようになりました。「なんだこの変な日本人は?」って思われてたかもしれません(笑)


——その中で、どんなことが見えてきましたか?

柳原:教育の手前に、雇用の問題がある。そして、それが何より深刻なんだということがわかりました。教育にはお金がかかります。職を持っていない人も多く悲惨な状況で暮らす様子を目の当たりにして、まずは雇用問題を改善しなくてはいけないと強く思ったんです。
また、ケニアで出会った親友の言葉にも影響を受けました。私がトイレに行っているときに、いつも明るい彼女がこぼした言葉が聞こえてしまったんです。
「人生って不平等。野菜も買えない。子供たちのご飯どうしよう」
それを聞いたとき、私は何も言えなくて、聞こえなかったふりをしました。そのときの彼女の言葉がずっと私の中に残っているんです。
現地の人たちの実情をしっかりと理解しながら一緒に働く場を作ることが大事なんだ。そう思い、社会企業家として途上国の賃金格差を是正するためのビジネスを始めようと決意したんです。

——竹を原料にスイーツをつくるアイデアはどのように生まれたのでしょうか?

柳原:日本に戻り、具体的な事業アイデアを考えていたときに『トビタテ!留学JAPAN』の事後研修で竹を研究している人に出会いました。その方が、ケニアの隣のウガンダ政府が竹産業を推進していることを教えてくれたんです。ウガンダでは、竹を栽培することで干ばつの問題を解決し、その竹で机などの工業製品を作ろうとしている。でも製品の値段が高く、ビジネスとして成立していなかった。

彼女と出会い、ウガンダの竹を使ったスイーツで雇用を生み出すアイデアが生まれました。竹のスイーツ工場を現地に作り国外に販売することで、環境問題にアプローチしながら雇用を生み出すことができると思ったんです。

——複数の要素が組み合わさって「Greeendy」の形になっていったんですね。

柳原:はい。2022年10月に帰国し、比較的早い段階で事業アイデアを固めることが出来たので、2023年2月に一般社団法人を設立しました。

その後、100BANCHのGARAGE Programに応募して、4月から入居しました。これまでは自分が暮らす長崎での活動が中心だったので、東京でつながりを作り修行をしようと思ったんです。

 

国の実情を知り決断した、プロジェクトの方向転換

——100BANCHでの活動をどう振り返っていますか?

柳原:まずは事業資金を集めようと、クラウドファンディングに挑戦しました。思い切って300万円と高い目標設定を掲げたのですが、ありがたいことに多くの方に支援を頂きました。
そして、認知を得るのために竹スイーツの試食会をしたり、ナナナナ祭に「banboo cafe」という竹スイーツのお店も出展しました。どちらもすごく好評で、竹とスイーツというインパクトのある組み合わせによって、関心を持ってもらえるという実感もありました。
ただ、私は竹のスイーツを作りたい!なんて言いながら、実は竹のこと何にも知らなかったんですよ。

——何も知らない……とは?

柳原:例えば、タケノコが成長すると竹になるってこともプロジェクトを立ち上げてから知ったんです。100BANCHのみんなにはびっくりされました(笑)。それなのにブースの装飾を竹で作ろう!なんて言い出したものだから、設営が本当に大変で。周りのみんなに助けてもらいながらなんとか形にはできたのですが。

banboo cafe」の様子。竹のパーテーションは柳原自ら調達し、DIYで作成したもの。「もちろん竹を割ったのは初めてで、めちゃくちゃ大変でした」と柳原。

柳原:けれど、活動を続ける中で「これでいいのかな、私が本当にしたかったことはなんだろうか」と思い始めてきたんです。

——それはどうしてでしょう?

柳原:目の前のことにがむしゃらになるあまり、「誰のために何のために、このプロジェクトをやりたいのか」ということが見えなくなっていたんです。走り始めた後に考えるという感じだったので、もう少し計画性持たなきゃなって自分にツッコミを入れたくなるぐらい。このままではいけないと、100BANCHと同時に参加していた「ゼロイチ」という社会課題解決を志す学生のためのプログラムでも自問自答しました。
私自身が目指すのは、あくまで途上国の貧困を解決すること。竹でスイーツを作ることはあくまでそのための手段。商品の開発に向けて動き始めていましたが、今の段階でもう一度フラットな視点で考えなおすためにウガンダの人やケニアの人にヒアリングをしなおすことにしました。

——どのようなヒアリングを行ったのですか?

柳原:あるウガンダの農家さんに「どんな生活をしているのか、どんなことにお金を使っているのか、どんな将来を望んでいるのか」と、改めて聞いてみたんです。
彼は12人家族で暮らしていて年収が20万円と話してくれました。ウガンダの地方の年収平均が約40万円なので、彼が置かれているのはかなり厳しい状況です。干ばつの影響で、ご飯が食べれないときもある。それでも「自分たちはできることを一生懸命頑張っている」と胸を張っていたんです。
彼の前向きな言葉を聞いて「無いことを嘆くのではなく、いま目の前にあるものを見よう」と思いました。

——どういうことでしょう?

柳原:ウガンダに今ある魅力やポテンシャルを生かして、貧困という課題にアプローチする事業内容に変えていきたいと思ったんです。まず「竹」ではなく、現地に既にある作物を生かすことにしました。これはプロジェクトを進める中でわかってきたことなのですが、政府が竹産業を後押ししているものの、実はウガンダには竹が生えない地域も少なくない。それよりも農家さんが現在育てている作物の価値を開拓したいと思ったんです。
もう一点は、一緒に働く人のイメージです。当初「Greeendy」は自分と同じ年代である大学を卒業した新卒の人の雇用を作りたいと考えていたんです。でもプロジェクトを進める中でウガンダで大学に行ける人は全人口の10%未満の一部の恵まれている人たちということもわかってきました。
それより、国民の70%以上もいる農家の方と一緒に働き、彼らの所得の増加をを目指すことで、より貧困問題解決へのソーシャルインパクトの高い事業にしていきたいと思いました。

——具体的に、どんな事業内容を考えているのですか?

柳原:マンゴーとゴマを使った加工食品を作りたいと思っています。ヒアリングをさせてもらった農家さんがマンゴーやゴマを育てているんです。それを、ドリンクやピューレ、ドライフルーツなどに加工して国外に販売したい。現在は、チームメンバーで色々なアイデアを出し合い、日本のマンゴー農家さんにヒアリングをしている段階です。
10月からウガンダに渡航して、このプロジェクトを進めようとしています。回り道はしちゃったけど、いろんな人の力を借りながらなんとか形にしていけたらなって。

 

ウガンダと日本をつなぐ架け橋に

——これから行くウガンダでは、どんなことを行う予定なんですか。

柳原:ウガンダの北の地域に行き、農家さんのお家に1ヶ月滞在させてもらう予定です。彼が育てるマンゴーの品質を確かめたり、共に時間を過ごしてどんな生活スタイルをしているのかをまずは知ることから始めていく予定です。
でも一番大切なのは、一緒に生活することで信頼関係を作り、親睦を深めること。これはいろんな失敗を経てわかったことなんですけど。

——チームづくりが一番大事だと思うのは何故でしょう?

柳原:100BANCHの活動期間に得た反省なのですが、私が余裕がなくメンバーへの思いやりをちゃんと持てない部分や、リーダーとしての覚悟が不十分だったこともあり、チームのコミュニケーションがうまくいかなかった時期がありました。自分本位に突っ走ってしまったので、当然ですよね(笑)。

その経験から、お互いに尊敬を持ちながら意見は言う、オープンマインドな関係を作ることが大事なのだなとわかったんです。人生を賭けてもらうことでもあるので、ちゃんと信頼関係を作りたい。現地でつながりのある方に紹介してもらいながらチームを作っていきたいと思っています。

現在はウガンダの人もメンバーに入ってくれて、本当にいいチームになってきています。ウガンダに発展してほしいので、最終的には私がいなくてもプロジェクトが進んでいくのが理想です。裁量を持ちながら、お互いに信頼できるチームにしたいと思っています。

紆余曲折もあったけれど大切なことを学んだと思っています。このチームで事業を進めて行きたい。今はそんな前向きな気持ちです。

——その先に、どんな未来を作っていきたいですか。

柳原:ちょっと大袈裟な言い方になりますが、ウガンダと日本をつなぐ架け橋になりたいんですよ。途上国の貧困問題の解決が、私の生業になり、人生の大きなゴールになると思っています。

ウガンダの北の地域で活動するのですが、その地域の農家さんが1年中ご飯を食べられるようになることがその手前にあるファーストゴールです。そして、私たちのプロダクトが多くの人に愛されるものになってほしい。「あのマンゴーの製品美味しいよね」から、背景にあるストーリーに出会うものを作りたいと思います。

そのためにどんな選択をしていこうかと模索する日々です。ウガンダに行って見えてくることもきっと沢山あると思うんです。というか、やっぱり自分で動いてみなければ何事もわからないと思うので。

そのとき自分が感じたことを大切にしながら、ひとつひとつ進んでいきたいです。

 

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