液体民主主義の社会実装で 「一人ひとりの影響力を発揮することができる社会」を!
- リーダーインタビュー
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民主主義のDXで、一人ひとりが影響力を発揮できる社会を:栗本拓幸(株式会社Liquitous 代表)
「今のやり方を中から変えるのではなく、新しい仕組みをつくることで全体を変えられないだろうか?」
GARAGE Program 38期生「Liquitous」の栗本拓幸(株式会社Liquitous 代表)は、2020年9月に100BANCHに入居し、『じっくり話して、しっかり決める』というコンセプトのもと、市民参加型の合意形成プラットフォーム『Liqlid』を開発してきました。現在は液体民主主義の社会実装に向けて、神奈川県鎌倉市や埼玉県横瀬町ほか全国各地の自治体とタッグを組み、事業を展開しています。
そんな栗本が、会社をはじめた経緯や現在の活動内容、100BANCHでのエピソードなどを語りました。
栗本拓幸(GARAGE Program 38期 Liquitous プロジェクトリーダー / 株式会社Liquitous 代表) 1999年生まれ。株式会社Liquitous 代表取締役CEO。市民の社会参加/政治参加にかかる一般社団法人やNPO法人の理事、地方議員コンサルタントなどとして活動。現場の声や自らの経験をもとに、デジタル空間上に、市民と行政をつなぐ「新しい回路」の必要性を確信し、2020年2月にLiquitousを設立。 |
市民参加や民主主義の仕組みづくりを行いたい
栗本:我々の取り組みは100BANCHにしては「かたい」プロジェクトだと思うのですが、市民参加や民主主義の仕組みづくりをするのがミッションです。
私自身、このような文脈にずっと興味がありました。幼い頃、両親が共働きで海外出張が多くひとりで遊んでいたときに、家にあった「世界の国々大百科」を開きながら、この中に自分の国が欲しいと思ったのが最初のきっかけです。小学校時代も段ボールでパスポートを作ったり、手書きで憲法を書いたりと国ごっこをして遊んでいました。中学生で生徒会に出会って、それまで遊びでやっていたことが真面目な活動になることが非常に面白く、中学から高校までずっと生徒会をやっていました。そんな中、2015年頃、18歳からの選挙権が話題になり、その頃から18歳選挙権の話にも関わりはじめました。実際にそれが実現して大学に入ってからは、もう少し実務寄りの分野に関わりたいと思い、議員さんのコンサルをやっていました。しかし選挙のやり方、どうやって市民の声を聞いているのか?ということにモヤモヤする瞬間があり、今のやり方を中から変えるのではなく、もう少し新しい仕組みをつくることで全体を変えられないだろうか、とはじめたのが『Liquitous』というプロジェクトです。 2020年に会社をつくってこれからどうしようかな、というタイミングで100BANCHのことを知って応募しました。最初は法人格だけ持っているプロジェクトチームで、最初の発表では何も具体化できておらずどうなるんだろう、という状態でしたが、続けていたら2020年後半〜2021年あたりになんとか形になり、今に至ります。
インタラクティブな市民参加型合意形成プラットフォーム『Liqlid』
栗本:あらためて、我々が何をやっているかお話します。日本は少子高齢化・人口減少など様々な重苦しい環境です。地方に行くと、それがより顕著です。そうした中、地域の行政は新しい判断をしなければいけません。そのためには民主主義的なプロセスを踏んで市民と一緒に何かを決めたり、はじめたり、やめたり、といったことを決める必要があります。 しかし、今の自治体で住民とのコミュニケーションはものすごくコストが高いんですね。アンケートやワークショップ、何かやろうにもお金も人手もかかるからやりたくないし、やらない方がいい。そういった状況です。他方、そのコミュニケーションがうまくいかなければ、新しい判断をしても反発が起こるため、当然うまくいきません。それをなんとかしたい、という想いから会社をはじめました。
栗本:これまで自治体が何らかの政策・プロジェクトをはじめると、その過程は制度的に様々な仕組みで担保されていました。ですが、決めるまでの過程を自治体の中で完結した方が進行しやすいため、あまり声を聞いてこなかったのが現状です。直接的な利害関係者とは話はしていますが、クローズドなコミュニケーションしかありませんでした。私たちは、より早い段階から市民のみなさんと行政が対話をできれば、信頼感も醸成でき、出てくる政策の質も上がるのではと考えています。そのための仕組みとして、活用してもらうために提供しているのが市民参加型合意形成プラットフォーム 『Liqlid』 です。
栗本:『Liqlid』は、インタラクティブなやり取りができる自治体のホームページのようなものです。行政から市民のみなさんに対して情報提供をしたり、行政側で定めたテーマに対して自由にアイデア出しができたり、提示したプロジェクトに対してフィードバックをもらったり、投票ができたり、分析ツールやマップの機能もあります。やりたいことは市民のみなさんと行政の接点をつくることです。双方向性があり、もっとアジャイルで機敏なやり取りができる、あるいは市民のみなさんがお互いの考え方を知って創発ができることをコンセプトに、このプラットフォームを日本全国の様々な自治体に提供しています。
栗本:利用してくださるみなさんからは「役所に意見を言うのは敷居が高いけれどこれだと気楽に発言できていい」「隙間時間に参加できて手軽でいい」「自分以外の意見も目にできていい」といった声をいただいています。いろいろと広がってきているので、自治体によって使い方もまちまちですし、我々も新しい使い方を常に模索しています。基本的には自治体が住民のみなさんと何か一緒にプロジェクトをはじめたり、考えたり、評価をするときにお使いいただける仕組みとして提供しています。
栗本:いくつか例をご紹介します。鎌倉市ではスマートシティといって、技術や様々なICTツールを活用してより便利なまちづくりを進めていくのに、我々の仕組みを基盤として活用いただいています。市が様々な計画、政策をつくるときにも使っていただいていますが、地域の皆さんと一緒に地域の課題を考えて解決策を一緒につくるというような、より細かいトピックでも使っていただいています。こういった伴走支援も我々が一緒にやっています。
栗本:活動をする中で面白い現象も起こっています。 世の中では高齢の方の声がマジョリティで、シルバーデモクラシーなどと言われています。今の選挙では比較的時間に余裕のある方しか選挙にいけません。一方、我々のプラットフォームであれば、スマホやパソコンでどなたでも参加ができます。実際に鎌倉市では全体の参加者の半数ぐらいが30代〜50代の方々です。
栗本:そこで地域の中の課題を聞いてみると、子育てに関する課題や子供が遊べる場所がないという声が出てきました。合わせて対面のワークショップをやってみると、参加者は50代後半以降です。すると、いくらオンラインプラットフォーム上で地域の課題として子育ての話が挙がっていても、ほぼ共感が集まりません。実際におこなったワークショップの中の投票では、子どもの遊べる場所の喪失について1票も入りませんでした。シルバーデモクラシーについてはもちろん投票制度を変えていくことも大事ですが、それ以外のアプローチとして面白い現象が起こっていると感じます。これは非常に大事なことで、まちづくりは向こう20年とか30年、下手すると100年を考えなければいけません。多様な世代のみなさんの声を聞きながらどうやってまちづくりをしていくか。その基盤の仕組みとして、ちょうどいい形ではまるのかなと思っています。
栗本:千葉の柏の葉では、不動産デベロッパー・地域の大学・行政が一緒になって、まちづくりの課題解決を「公・民・学」連携で取り組んでいます。昨年度12月から、産前・産後の不安な時期を、まちでサポートする仕組みをつくろうと、一緒に活動してきました。具体的には、対面のワークショップとオンラインプラットフォームを組み合わせて意見を伺いました。産前・産後の時期に不安だったことは何か聞いたところ、1ヶ月で200件を超える投稿がありました。しかもその大半は深夜1〜2時や早朝の4〜5時に投稿されたものでした。対面のワークショップは相当数やっていましたが、当事者のみなさんもこんな声は初めて聞いた、と驚く結果になったんですね。ある意味当たり前かもしれませんが、ワークショップに参加できる方々はパートナーやご両親が子どもの面倒を見てくれるような環境がないと参加が難しく、本当にしんどい方々の声は対面のワークショップだけではとりきれません。でも、プラットフォームが入ったことで、しんどい状況の人の声も見えるようになったと実感しました。
栗本:高知県の日高村は人口5,000人弱、高齢化率が50%弱の自治体です。昨年度、この村でご高齢のみなさんから様々な意見を集めてアプリをつくろうということで、その伴走支援をしてきました。一般的に「ご高齢の方×デジタル」というとスマホが使えない方はどうするんだという話になりますが、この村ではスマホの普及率を後押しするような施策もやっています。村のおじいちゃん、おばあちゃん達600名のうち半数以上が参加して「自分が使うアプリはこうなってほしい」「こういう機能がほしい」とアイデアを書いたりしているんです。ご高齢の方だからできない、〇〇だからできないというレッテルは1回剥がして、スマホを使う目的とサポートを付けて一緒に取り組んでみることが非常に大切だと学びました。
栗本:他の地域でも様々なお話がありますが、どのケースでも大事にしているのは、自治体の職員のみなさんのパートナーとして取り組むことです。基本的にはひたすらに何でもやります。サービスだけ提供して終わりではなく、自治体の中に入り込んで一緒にプロジェクトを前に進めている感覚を持って取り組んでいます。広報やワークショップも合わせてやっていたり、大学や自治体と連携してプラットフォームが地域の中に入った時にどんなインパクトがあるのか、市民の意識や行動がどう変容するのか、ということも検証できるような取り組みも行っています。自分が何か声を上げれば、この社会はちゃんと変わる、自分の住んでいる街はちゃんと受け止めてくれる。こうした感覚をどうすれば市民のみなさんがあらためて持つことができるか、徹底して追求していきます。
100BANCHにいた頃の自分へ声をかけるなら
栗本:偉そうにみなさんへアドバイスできる立場でもないので、あの頃ここにいた自分に声をかけるとしたら、この4つかなと思います。
正直、当時は本当に先が見えず、100BANCHオーガナイザーの則武さんにもメンターの方にも「自治体との取り組みって難しいよね」と何度も言われましたし、本当に形になるんだろうか、とずっと思っていました。今振り返ってみると、「そこで諦めることができない信念があれば道は開けるから何とかなるよ」と自分に言ってあげたいです。何事も思ってるようには進みません。100個手を打ってその中で開いたものが2〜3あれば良かったくらいかな、という感じですが、きっとなんとかなるので大丈夫、とも言えると思います。
また、私が100BANCHに入居していた頃はコロナでなかなか横の繋がりができにくかったのですが、それでも今、いろいろなプロジェクトを進める中で「あのときの繋がりがこういう形になるんだ」と思うことがかなりあります。100BANCHのGARAGE Program期間が終わってからも様々なアクセラレータープログラムやプロジェクトのみなさんとご一緒しましたが、100BANCHにも採択されていた方が本当に多いんです。「あ、100BANCH出身なんですね」という場面が非常に多いので、ここでみなさんが本気で取り組み続けることは実は意外なところに種を蒔き続けているし、どこかでぱっと芽吹くかもしれません。
自分に対してやっててよかったと思うのは、自分の成し遂げたいことを変えずに貫いたことです。他の人からは私のプロジェクトに対して、「企業向けにしたらどうか」とずっとアドバイスをいただいていました。ビジネス的にはその方が良かったかもしれませんし、ちょっと違う未来があったかもしれません。しかし、やはり自分の成し遂げたいことに正面から真摯に取り組み続けないと、本当にしんどい時に折れてしまうと思うんです。せっかく100BANCHにいるので、周りから何と言われようが正面からやりたいことに自分の150%くらいの力で取り組み続けることが大事だと感じています。
今回のお話の内容は、YouTubeでもご覧いただけます。
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