異言語コミュニケーションで 新しい関わり方を発見するゲームをつくる。
- イベントレポート
再演!視覚言語の島に没入し、手話で謎解きをしていく異言語脱出ゲーム「うしなわれたこころさがし」
手話×謎解きの異言語脱出ゲームを制作・提供しているIGENGO Lab.(一般社団法人 異言語Lab.)が2023年5月27日(土)・28日(日)に、異言語脱出ゲーム「うしなわれたこころさがし」を100BANCHで開催しました。このゲームは手話を知らない聴者が、視覚言語の島に没入し、手話を使う人達に様々な手段を駆使して情報を集めたり、覚えたばかりの手話を使って伝え合いながら、島の危機を救い、真実を掴んでいきます。東京で2回、大阪で1回開催し、再び東京で開催となった本イベント、チケットは完売し、大好評のうちに終了となりました。
イベントの様子を、異言語Lab.代表の菊永がお伝えします。
初心に帰って「あなたに伝えたい、あなたのことをわかりたい」
「うしなわれたこころさがし」は研究員である参加者が静穏たる島を訪れ、島で発生した奇病を救う旅です。国が異なると言葉が異なるように、この島でも言葉は異なります。唯一の特徴と言えば手話、視覚言語です。日本にいて、不思議と島の人との異言語コミュニケーションを楽しみ、まるで旅をしたような気持ちになるコンテンツです。
「うしなわれたこころさがし」あらすじ
温暖な南の海域に浮かぶ「静穏たる楽園」と謳われている、とある島。 そんな島が未曾有の災禍に見舞われたという。 島の要請で島へ駆けつけたあなたは、目の当たりにする。 ある日突然こころを失い、力なく横たわる虚ろな人を…。
こころと記憶を研究している、ココロシル研究所が開発した、心の奥底に触れることのできる装置「ココロフレール」と研究員のあなたに島の未来は託されたー
今回は再演ということもあり、スタッフはだいぶ慣れてきましたが、それでももっと良い作品を皆様に体感してほしいという思いでパフォーマンス、小道具等をブラッシュアップしてまいりました。
パフォーマーチームは、とある表現のひとつひとつを議論しており、間の取り方、表情、身体の動き方、指先の繊細な表現を細かく確認し繰り返し練習をしていました。「この表現は聴者のお客様には伝わらないのでは」「先輩のまねではなく、あなたに合う表現があるはず」と意見が飛び交っていました。
それから私は普段、全体統括を担当するため、アテンドやキャストになることはないのですが、今回は、関係者公演でキャストに、本公演ではアテンドになりました。お客様が謎を解き、歓喜している様子、コミュニケーションを取ろうとする姿、謎に行き詰まって困惑した表情、様々な姿をすぐ間近で見ることができました。「あーここで私に聞いてほしい!!」「おぉ、すごい!良く気付いたね、いい表現だ!!」と心の中で応援しながら対応していました。目の前のお客様の、「あなたに伝えたい、あなたのことを分かりたい」という思いが伝わってきて、異言語Lab.を立ち上げた頃の自分を思い出しました。初心に帰ってコミュニケーションの楽しさを思い返すことができました。
多様な方々にお楽しみいただくために
今回のイベントでの大きな特色は様々な層が参加してくださったことです。印象的だったのは日本語を話せない外国人の方々です。その方々にお楽しみいただけるよう最大限の工夫を致しました。スタッフのひとりが、日本語で書いてあるキットやスライド等は、可能な範囲で英語を入れました。研究員に扮したスタッフがそばで必要に応じて英語通訳としてサポートいたしました。
ただ、アテンドとのやりとりは、手話です。あらゆる物や景色を視覚で捉え、身体で表現する言語なので手話でのやり取りに、通訳は不要でした。外国人の方々も頭の中にあるイメージを身体で表して、コミュニケーションを楽しみ、ミッションをクリアし、ぎりぎり惜しいところまで行きました。
話は少しずれますが、今年の3月にSXSWEDU(米国テキサス州で開催、世界最大級のクリエイティブ・カンファレンスイベントの教育部門)に行き、多くの外国人に異言語脱出ゲームを体感していただきました。外国人の方々と日本のろう者が異言語脱出ゲームでコミュニケーションを取る時、音声言語は通じないけれど、視覚言語だとなぜか通じ合えて、不思議なことに成功まで導くことができたのです。
SXSWED、今回のイベントで、異言語脱出ゲームは世界各地で通用するという確信を持ちました。今、国際的に視野を入れた異言語脱出ゲームの開発を考えています。
ろう者である自分を肯定する旅
うしなわれたこころさがしは、ろう者である自分を、視覚言語で生きる自分を肯定する旅です。これは私を含め、多くのろう者・難聴者が今ある力で精一杯考え、手話で議論し、作り上げたコンテンツなのです。
普段、私たちは聴者の世界で生きています。音声言語が主体の世界です。あらゆるやり取りが音声言語でなされている中で何を話しているかさえもつかめず、孤立感を覚えることがたくさんあります。聴者は音声言語が主体の世界であらゆる情報を当たり前のように得て、必要な情報だけ取捨選択しています。それができることとできないことの差は大きく、それが生き方やキャリアに直結します。
でも、あの島では手話で伝えよう、手話を見て分かろうとする参加者の存在が、ろう者である自分の存在を肯定してくれているのです。そしてろう者である自分をどう生きるか、を考えることができます。あの島で得た経験を活かして、日常生活でも、通じ合った喜びが広がった世界を創っていけたらと考えています。
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