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100年後、私たちは何を食べている? 〜白熱の「EAT VISION」トークレポート〜前編

100BANCHにはさまざまなプロジェクトが入居していますが、中でも一大勢力となっているのが、食文化や食糧問題についてのテーマを掲げる「食」関連のプロジェクトです。

9月18日、それらの中から「食の未来」を志向する5つのプロジェクトが100BANCHの3F・LOFTスペースに集結。メンターである東京大学大学院農学生命科学研究科の准教授・岩田洋佳先生をホストに迎え、「EAT VISION〜100年後のボクらは、何をどう食べている?」と題して、「未来の食」の可能性を探るトークセッションと、各プロジェクトの研究テーマに即した食品の試食会を開催しました。

前半は、岩田先生の食糧問題に関するプレゼンテーションの後、各プロジェクトのコンセプト紹介。ここでは、岩田先生のプレゼンテーションのみを取り上げます。参加プロジェクトの概要はこちらと下記の個別リンクをご覧ください。

登壇者

岩田洋佳(東京大学大学院農学生命科学研究科准教授)

「Now Aquaponics!」 (水産養殖☓水耕栽培)邦高柚樹

「Future Insects Eating」 (昆虫食) 高橋祐亮

「ECOLOGGIE」(コオロギの養魚飼料活用) 葦苅晟矢

「Food Waste Chopping Party」(廃棄食材を使った料理) 大山貴子

「The Herbal Hub to nourish our life.」 (薬草料理)新田理恵

 

岩田先生のプレゼンテーション

岩田洋佳(以下、岩田):世界の人口は、実はどんどん増えています。2050年には97億人の人がこの地球上で暮らしていると言われていますが、この数字も、数年前には90億だと言われていました。2100年には112億人。つまり、これだけの人類のお腹を満たすための食料需要も、増え続けているんですね。

1960年頃にトウモロコシ、イネ、小麦など主要作物の生産が飛躍的に伸びる「緑の革命」という時代があり、人類の食糧生産は右肩上がりで伸びてきました。しかし、この増え方では、2050年頃の時点でもはや生産が追いつかない。それを間に合わすには、主要作物の生産を現在より「70%増」にしなければならないと言われています。

しかし、今世紀中にあと4℃平均気温が上がると言われている地球においては、当然、世界各国で食料を作る環境や漁獲量の変動も起こってきます。そして「ミドルクラス・フード・クライシス」と言われる、中流階級の増加によって食肉需要も増え、それによって飼料作物の需要も乗数的に増えていく——という現象が起こる。食肉というのは生産に使う水、飼料、また一定の面積から取れるタンパク質量など全ての面において穀物や野菜よりも効率が悪く、ここで、増加する一方の食料需要との間でジレンマが起こるわけです。その解決の糸口の一つになるかもしれないと目されているのが、昆虫食。世界には1900種の食べられる虫がいると言われており、国連もFAO(国際連合食糧農業機関)も大きく注目しています。


その一方で、ここに「67%」という数字がある。これは、畑にできてから、食卓に上るまでに消えてしまう食料の割合です。つまり、約3分の1の食物が、それまでになくなったり、捨てられてしまう。「フードロス」「フードウェイスト」という問題です。毎年、2億8600万トンのシリアルが、消費者によって——要するに、手元に着いてから賞味期限切れなどの理由によって捨てられてしまうのです。こうした食物の量をなんとか減らすことが、もしかしたら先ほどの「70%増」の問題を考えるときに大きく貢献するかもしれない。

そして、こんなに「食料が足りない」と言われていながら、現在でも6億人以上の人が肥満で苦しんでいる。この割合は先進国だけで高いのではなく、発展途上国でも同じように上昇しつつあります。これはなぜかというと、貧しい人がファストフードを食べる傾向にあるんですね。子供の頃に栄養不足で痩せていた途上国の子供たちが、大人になるとジャンクフードばかり食べて肥満になっていくという悪循環の中にいる。ここには、いかにして「いい食物」を選んでいくべきか、そしてそれを可能にする経済状況とはどんなものなのかという問題も横たわっている。

食料問題においては、トピックもソリューションも一つではなく、多岐にわたっています。「How to feed the world in 2050: actions in a changing climate」というYoutubeの動画には、こうした諸問題がよく整理されていますが、ここでいう「SAFE SPACE」を広げ、食料問題を解決に近づけるためには、生物化学から自然科学、果てはITや金融まで、無数の異なるテーマを同時に追究していく必要がある。今日は、この100BANCHに入居する、そうした問題に関わる先進的な若い人たちと一緒に、私たちの食の未来について考えていきたいと思っています。

岩田 洋佳
東京大学大学院農学生命科学研究科 准教授

1969年生まれ。タイ、インドネシアで幼少期を過ごす。東京大学 農学部卒。東京大学 大学院農学生命科学研究科で博士号を取得。農業と情報科学の融合をテーマに、農研機構(農林水産省系の研究機関)などで研究に従事後、2010年より東京大学 生物測定学研究室 准教授。
現在は、ゲノム科学と情報科学の融合による品種改良(育種)の高速化に主眼をおき、中米やアフリカにも研究を展開中。

「100年後のお弁当」って?

イベント後半には、パネルディスカッションを開催しました。テーマは「100年後のお弁当って、どんなものになってるだろう?」。100BANCH MAGAZINE編集部・安東のファシリテーションで進行します。

——今日はみなさんに「100年後のお弁当って?」というお題を考えてきていただきましたが、なぜテーマが「お弁当」かというお話を少し。

皆さんのプロジェクトは、多かれ少なかれ「未来の食文化のかたち」を模索するものになっています。仮にそれが実現した100年後、それらが単なる“目新しいアイデア”ではなく、社会にしっかりと浸透して生産、流通、経済、「虫なんて食べられないよ」みたいな抵抗感や心理的ハードルなど全てをクリアした“スタンダード”になっているとしたら、それは毎日のお弁当に取り入れられていてしかるべきなのではないか……ということを考え、「それを実現するには何が必要か?」というようなことを話していければと思っています。

Now Aquaponics邦高(以下、邦高):私たちが「Aquaponics」の発想から考えたのは、お弁当の個別のメニューということではないんですが……こちらです。

一同:宇宙?

邦高:はい。100年後、食品をどこで作っているかというと、たぶん宇宙だろうなと思うんです。私は前職の関係で鹿児島県にいたことがあるんですが、鹿児島では桜島の噴火で畑に灰が降り注げば葉物の野菜はダメになってしまうし、それ以外の天候にだって色々と左右される。気候の安定した宇宙の施設であれば、そのリスクから解放されますよね。なおかつ水耕栽培のシステムを使えば、ある程度は面積の制限や環境負荷もなく、少ない水資源を循環させて野菜の大量栽培が可能なのではないかと。

食肉に関しては、例えば一頭の牛を育てるのに投入する必要のある飼料や水の量とその効率を考えると、まだなかなか宇宙での飼育は難しいかもしれない。しかし、植物ベースであれば、実現している可能性はかなり高いと思うんです。新鮮な野菜を、当たり前のように宇宙から地球の市場に出荷する時代が来る。

そんな風にして育てた野菜を、極めて本物のハンバーガーに近い「植物肉バーガー」として食べているんじゃないかというのが、僕たちが考えた100年後のお弁当です。大豆や野菜から作った植物由来の肉というのはすでにアメリカのスタートアップが開発しているんですが、例えば、パテの赤身の部分なども、植物の根っこから抽出したヘム鉄で肉の食感と、ある程度肉をトレースした栄養分も再現できる。まだまだ一点あたりの価格は高くなってしまうんですが、100年後には安くできているかもしれない。

 

邦高 柚樹
株式会社イコム 商品開発部所属。1992年兵庫県生まれ。関西外国語大学卒。在学時オランダへ留学し、欧州市場における日本酒の販売戦略立案プロジェクトを立ち上げ、実行。在蘭時に、偶然出会ったアクアポニックスの概念に興味を持つ。現在不動産業界で働く中で得たスペース活用のノウハウとアクアポニックスを組み合わせ、社会問題を解決したいと考えている。

昆虫ハンバーガーは「¥42,000」!!

岩田:どこまで食感を肉に近づけるかというのは大事だよね。今でも大豆を使った肉っぽいパテは安価にあるけど、やっぱり水分や油分をキープするのが難しいらしく、全然ジューシーじゃなくなってしまう。でも、例えば「Future Insect Eating」プロジェクトで使っているバンブーワームとかをうまくつなぎに使えば、より肉っぽさを出せるのかもしれない。

邦高:やっぱり、ハンバーグにするなら“肉汁感”が大事ですもんね。そのあたり、ワームはどうなんでしょう?

Future Insect Eating高橋(以下、高橋):パテのつなぎには、ワームは確実に使えると思います。バンブー以外にもココナッツワームという、もっとジューシーな虫はいるんですけど、彼らはそのままだとかなりきつい臭いがあるので、そこは僕たちのプロジェクトでやっているようにきちんと下処理をすれば、食べられるようにするということができる。

邦高:おお!作りましょう。

高橋:実は僕らも一度、試しにコオロギのモモ肉とバンブーワームの肉でハンバーガーを作ってみたことがあるんです。一匹から取れる肉の量が少ない割に手間がかかって、単価を計算すると¥42,000になっちゃったんですけど(笑)。

一同:高っ!

高橋:ただ、それを植物との掛け合わせということにできれば、だいぶ安くはなりますね。量産可能な製法を確立して、¥200くらいにしたい(笑)。ぜひ研究してみましょう。

岩田:ここで新しい肉が生まれた(笑)。

——じゃあ、次はそんな高橋さん。

高橋:僕らは昆虫食のプロジェクトではあるんですが、実際、弁当箱にぎっしり昆虫食というのはちょっと……という気持ちもあって(笑)。そこで、ここでは、普通の幕の内弁当みたいなものを考えたときに、その食材がどこから来るのか?ということを提起してみたいんです。

例えば、魚。お弁当によく入っている切り身の焼き魚が、いったいどこから来るのか。今でもある程度はそうなっていると思うんですが、これから水産資源って、どんどん養殖化というか、完全に外の生態系から切り離された、いわば工場みたいなところで“生産”されるようになっていくんじゃないかなと思うんです。もしくは、Aquaponicsのようなシステムを使って自分の家で食べるものを自分で生産するとか、100年後にはそういう両極が存在しているのかなと。

コオロギを水産餌料にしようとしてるECOLOGGIEさんなんかは、どういう意見ですか?

 

高橋 祐亮
昆虫食デザイナー、東京芸大大学院デザイン専攻(慶應義塾大学SFC)。慶應義塾大学SFCオオニシタクヤ研究室で昆虫食のデザインをスタート。東京芸大大学院デザイン専攻須永剛司研究室に移った今も制作を継続中。昆虫食を単にゲテモノとして消費していくのではなく、「未来の一般食」にするために日々ざまざまなアプローチから昆虫食をデザイン。

「Future Insect Eating」チームの展示より、コオロギバーガーの作り方レポート

「Future Insect Eating」チームの100年後のお弁当は、幕内弁当の100年後を考察

食の「工場製品化」は是か非か?

ECOLOGGIE 葦苅(以下、葦苅):個人的には、もっともっと養殖化の方向に進むべきだなと思っています。今でも養殖の割合自体は大きくなっていますが、大規模な養殖プラントを海中に作ると、結局それが環境破壊につながってしまうという懸念もある。そこで、今は「陸上養殖」といって、陸上に施設を作り、完全に閉鎖された環境で魚を育てるという試みも様々なところで始まっているんです。そんな風に、これからの時代に即した養殖の方法というものはさらに研究が進んで、改良されていくだろうと。

岩田:養殖メインという意味では、確実にそうなるべきでしょう。実際に世界で食べられている魚の30%はすでに養殖であるというFAOの研究発表もあって、これから地球温暖化が進んでますます水産資源のあり方は変動していくと考えられる今、それに対応するためにも、現実的には養殖にシフトしていかなければならない。

ただ、そこでシンプルに「工場化」というと、やや生命倫理とか規範意識のようなものについて考えなければならないという意識も働いてくる。

例えばAquaponicsの作っているシステムって、発想としては小さいユニットで、それこそ一家に一台レベルの最小単位の食料生産ができるようなものですよね。そういうものを使えば、水産資源の自給自足も可能になったりすることも考えられる。でも「じゃあ、自分の家で育った魚やコオロギを誰もが何のためらいもなく食べられるか?」という問題も出てくるんですよね。

だからこそ、特に都市部の人類は動物の飼育とか食料への加工といった作業を普段の生活から遠ざけ、他の人にプロセスしてもらう——ひいては、「自分は生き物を殺して食べている」ということから目を背けるという、少し卑怯とも言える文明を築いてきたわけです。

反面、自分の村で飼っているヤギを何かの儀式の際などにみんなで殺してすごく大事に食べる人たちもいます。そういうプロセスから切り離されている私たちは、そのせいで食べ物をすごく粗末にしてしまっている部分があるのかもしれない。養殖化はどんどん進めるべきですが、その一方で、だからこそ私たちはきちんと「食べること」のプロセスを知るべきでもあるんです。

——ECOLOGGIEの考える100年後のお弁当は、どんなものですか?

葦苅:いきなりテーマをぶち壊すようで申し訳ないんですが、どうしても「100年後に、そもそもお弁当を食べているのだろうか?」というイメージができなくて(笑)。

ただ、これから食糧生産の形が変わっていく中で、さっきのバイオ肉とか昆虫、あとは個人的に興味を持っている微細藻類などを「どう食べていくか」という話はできるんじゃないかと思っています。それこそ、「食の3Dプリント」みたいに、一見食とかけ離れた技術を使って、今はイメージできないようなものを食べていくことになるのかもしれないなと。

Food Waste Chopping Party大山(以下、大山):3Dプリントじゃないですけど、今すでに、有名シェフが料理を作る手さばきをデータ化して、自宅キッチンに設置したロボットアームをそのデータで操作して料理を作る「ロボティック・キッチン」というサービスが実際にプレゼンテーションされていたりもします。100年後には、一般向けに実用化されている可能性はかなり高いですよね。

——「今日はアラン・デュカス、明日は陳建一が作ったお弁当」とか、いろいろなデータパッケージができると、サービスとしても収益性が高そうですね。

岩田:ただ、「手作り弁当」というと少しいいもののように思うという人間の性というか、「食べ物というものはこうでなければいけない」という感情をいかにして突破するかみたいなことは、こういう新しいものの可能性を考えるときには重要だよね。それこそ、昆虫食のように、多くの人が「えっ」っていうようなものに対しても。

葦苅:そのあたりは難しいですよね。例えば、最近よく話題になるスーパーフードのように「栄養を摂るだけならこれだけで問題ない」というようなものを食べていても、食べてる感じがしないなというか、なんだか味気ないなあというのがあって。新しい素材や食べ方を、味や匂いや雰囲気でどうプレゼンテーションするか。

岩田:やっぱり、僕らは「おいしいものを食べたい」という気持ちがすごく強いからね。それは食というものを支えるとても大事な気持ちなんだけど、それを新しいもの——昆虫なり、薬草なりとどう共存させていくか、どう与えていくか。または、先ほどの倫理観の話ではないけれど、新しいテクノロジーに柔らかい人間的な部分をどう介在させていくかというのは、とても考えどころでもある。

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前編はここまで。後編では、「おいしいものを食べたい」という人間の根源的欲求を、いかに効率的・合理的なシステムとして落とし込んでいけばいいのか?など、さらに深い議論へと進んでいきます。

葦苅 晟矢
大分県出身。現在早稲田大学商学部4年に在学中。学部2年の頃からの自身の「昆虫コオロギを活用した養魚飼料としての開発・販売事業」の事業化を目指して奮闘している。本事業案における今までの既存実績には東京都主催の「Tokyo Startup Gateway 2016」における最優秀賞&オーディエンス賞、日刊工業新聞社主催「キャンパスベンチャーグランプリ全国大会2016」におけるテクノロジー部門大賞・文部科学大臣賞などがある。

大山 貴子
EarthommUnity 代表。東新宿の実験トライアングルコミュニティスペース&自然派カフェ「みせるま」ディレクター。 米ボストンサフォーク大にてゲリラ農村留学やアフリカで人道支援に従事、卒業。ニューヨークにて新聞社、EdTechでの海外戦略、広告代理店コピーライターを経て、「みせるま」に参加。小さな街角スペースから発信する平和活動を食を通じて行っている。2017年春よりEarthommUnityを立上げ、サステイナブルな暮らしの提案を行う。

この記事の続きはこちらから

食への根源的欲求をいかに効率的・合理的に叶えるか〜白熱の「EAT VISION」トークレポート〜後編

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