絵画を聴く - ミキキの交差点 -
音で絵画の世界に入り込む、新たな鑑賞体験の創造を目指すプロジェクト「Listen to the Painting」。絵画の中に鳴っていたであろう音風景や絵画を想起する音楽をつくっています。その試みの一つとして、2026年7月19日に100BANCHにて「絵画を聴く - ミキキの交差点 - 」を開催しました。当日は、金工作家・長谷川純暖氏との共同展示「気配に触れる」、そしてワークショップ「ミキキの交差点」を実施。
視覚と聴覚、あるいは異なる素材と言葉以前の感覚が交わることで、どんな「体験の場」が生まれるのか。その実験の様子と気づきをListen to the Paintingの金子淳平がレポートとしてお届けします。

私たちは、日常で見過ごされがちなミクロな世界や現象 – たとえば地衣類のようなものの「気配」- に、言葉に依存せず、感性や身体感覚を通してアクセスする体験をつくりたいと考えていました。また、視覚と聴覚、あるいは制作と鑑賞の境界を解きほぐし、参加者同士が個々の主観的な感覚やイメージをフラットに共有・交差できる場を検証したいという思いもありました。今回の展示とワークショップは、その仮説を確かめるための実験でもあります。
展示「気配に触れる」では、コンクリートの隙間や樹木の表面にひっそりと息づく地衣類(共生体)の「気配」をテーマに取り上げました。
会場には、長谷川氏による金工作品やドローイングを配置し、そこにAR技術と空間音響を組み合わせて展開しました。鑑賞者がデバイスをかざしながら空間を散策すると、視覚的な素材の表情と、空間に配置された音がシームレスに混ざり合っていきます。目に見える境界線が曖昧になり、その場全体がひとつの大きな「共生体」として立ち上がるような感覚を目指しました。


併せて実施したワークショップ「ミキキの交差点」は、「描くこと(ドローイング)」と「聴くこと(作曲)」を往復させながら、個々の感覚を共有する実験的セッションです。
参加者の皆さんには、まず会場で思い思いに手を動かしてドローイングを描いていただきました。そして、その絵から立ち上がるイメージや質感を拾い上げ、独自に開発したWebアプリを用いてリアルタイムに音(音風景)へと変換・作曲を行っていきます。
言葉ではうまく説明しきれない感覚や主観的な解釈が、絵と音という形をとって空間に立ち現れる時間となりました。ワークショップ終了後には、つくられた絵と音をそのまま会場内に並べて展示し、後から訪れた鑑賞者もその時間の重なりを追体験できる空間をつくりました。




今回とりわけ難しかったのは、視覚・聴覚・触覚といった異なるメディア(金属、ドローイング、AR、空間音響、Webアプリ)を、体験として破綻させることなくシームレスに統合することでした。要素を単に並べるだけでは情報過多になってしまうため、レイヤーの重ね方や提示の順序を何度も調整しながら、鑑賞者が自然に没入できるバランスを探りました。
もう一つの工夫は、ワークショップで生まれた参加者の「描く」「聴く」という体験のプロセス自体を、そのまま即座に空間展示へと昇華させる構造をつくった点です。体験を一度きりのものとして終わらせず、その痕跡を空間に残すことで、参加者以外の鑑賞者にも時間の重なりを共有できるようにしました。
今回の取り組みを通して、異素材と音響、そして身体的アプローチを組み合わせることで、言葉による解説に依存しすぎない「実感のある鑑賞」がつくれることを改めて確認できました。一方で、参加者がより自然に音と向き合えるインターフェースの調整など、今後に向けた技術的・設計上の課題も見えてきました。
プロジェクト「絵画を聴く」では、今回の知見やVR・HCI領域での検証をもとに、既存の言語ガイドを補完・拡張する「非言語型音声ガイド」のプロダクト開発・社会実装を進めています。
今後は、美術館や文化施設、芸術祭をはじめと連携を模索し、新たな鑑賞体験のあり方をさらに広い場へ届けていきたいと考えています。
ご来場・ご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました!