Novel Colony 第1回 「編集会議」~舞城王太郎氏の物語の続きをあなたが書く、みんなで考える~

「立場の違いを超え、誰もが楽しめる」物語の共創を目指して始動した「Novel Colony」プロジェクト。本プロジェクトの第1回目のワークショップとなる「Novel Colony 第1回編集会議」を、11月30日に100BANCHにて開催しました。
三島由紀夫賞の受賞で知られる作家・舞城王太郎氏が本プロジェクトのために書き下ろした物語の冒頭3作品分を同時公開し、その続きを巡って、総勢50人の参加者による活発な議論と投票が行われました。
当日は、舞城氏の作品の続きを執筆する「書き手」の方々や、議論に参加する「読み手」が集まり、物語づくりのプロセスをリアルに体験。会場は終始大きな熱気に包まれ、Novel Colonyの新たな第一歩となる盛況のイベントとなりました。その模様を、Novel Colonyの佐々木がレポートします。

舞城王太郎先生に寄稿いただいた 『プレデタードミノ(仮題)』『作家も踏むを畏れるところ(仮題)』『鯉の嫁(仮題)』3作品の続編パートを題材に、議論データの収集を目的としたイベントを実施しました。当日は48本の続編候補をもとに、総勢50名の「書き手」と「読み手」が100BANCHに集合。議論そのものの変化や情報が議論へどう影響与えるのかを観測するため、双方の役割を分け、「書き手」は議論と投票を担当し、「読み手」は判断材料となる情報を提供する形式で進行しました。
議論は15分×3ターム。各ターム後に投票を行い、意見の揺れや支持の変化を記録する構造。投票は、事前投票 → 第1ターム後 → 第2ターム後 → 読者投票開示後 の4段階で情報開示や議論の影響がどのように評価を動かすか観測することができました。このプロセスを通じて、評価軸がどの場面で動くのか、どの情報が判断に影響を与えるのかといった、物語共創における議論データが手に入りました。
本プロジェクトは全4回のワークショップ実施を検討しており、今後の検証結果を踏まえながら、物語共創における最適な手法の設計を目指します。

会の最初の作品は『プレデタードミノ(仮題)』。集まった作品総数は14作品。書き手軸では「純粋にどの作品が最も面白いか」という観点から活発な議論が展開。読み手軸では、各読み手が「良かったと思う作品」とその理由を共有し合いました。第3ターム前の読者投票では「No.1」が1位を獲得。その後の最終投票でも「書き手」「読み手」ともに高い支持を集め、「No.1」が正統な「続き」として選定されました。
▼『プレデタードミノ(仮題)』の冒頭部分(舞城王太郎著)はこちら
https://novelcolony.com/works/Works001
▼『プレデタードミノ(仮題)』の正統続編(エントリー番号:No.1)はこちら
https://novelcolony.com/works/Works001-1
続く2作品目は『作家も踏むを畏れるところ(仮題)』。集まった作品総数は16本。書き手軸では「どの作品の続きであれば自分が書きたいと思うか」という視点で議論。一方、読み手軸では意見が散逸し、まとまりを欠く展開となりました。第3ターム前の読者投票では「No.11」が1位を獲得。しかし最終投票では、書き手と読み手の評価が乖離し、最終的にエントリー「No.12」が正統な「続き」として選ばれました。
▼『作家も踏むを畏れるところ(仮題)』の冒頭部分(舞城王太郎著)はこちら
https://novelcolony.com/works/Works002
▼『作家も踏むを畏れるところ(仮題)』の正統続編(エントリー番号:No.12)はこちら
https://novelcolony.com/works/Works002-12
最後の3作品目は『鯉の嫁(仮題)』。集まった続編は18本にのぼり、設定の広げやすさも相まって、多彩な展開の作品が揃いました。議論も非常に活発で、大きな盛り上がりを見せました。書き手軸では「最終的にどのような物語を描きたいか(ゴール設定)」という軸を設定し、その方向性を踏まえた議論を展開。読み手軸では、意見が分かれ、議論は散逸的ではあったものの、各読み手から積極的かつ深い意見交換が行われました。最終タームの投票では票が割れ、「No.6」「No.11」「No.18」の三作品による決選投票へ。その結果、「No.6」が正統な「続き」として選定されました。
▼『鯉の嫁(仮題)』の冒頭部分(舞城王太郎著)はこちら
https://novelcolony.com/works/Works003
▼『鯉の嫁(仮題)』の正統続編(エントリー番号:No.6)はこちら
https://novelcolony.com/works/Works003-6
Novel Colony プロジェクトは集団で物語を生み出すだけでなく、その過程で計測したデータを分析し、「現実にある対立を乗り越えるための方法」や「人々の違いを超えて楽しまれる作品の特徴」についての示唆を生み出すことまでを目的としています。今回の編集会議でも、4回の投票結果や議論の満足度、会議の音声データに至るまで計測を行っていました。詳細な分析結果は 12/23(火) の活動報告会で説明する予定ですが、ここでは簡単に今分析している中で見えてきた部分を紹介します。
まず1つ目の検証点は、「議論をするにつれ、票が特定の作品に集まっていったのか?」について。作品の投票傾向について、シャノンのエントロピー(数値が大きいほうがばらつきが大きい)の時系列推移をみていくと、『プレデタードミノ(仮題)』と『作家も踏むを畏れるところ(仮題)』は議論によって投稿される作品がまとまりつつある傾向が見られた一方で、『鯉の嫁(仮題)』は途中で作品がまとまりづらくなっていました。
『鯉の嫁(仮題)』は日常の中で不思議な出来事が起こるというものであり、様々な物語の展開が可能であるため、議論を絞り込むことが難しいと考えられ、今後議論のやり方を少し工夫する必要があるかもしれません。残り2作品については、2回目投票の後に、読み手の結果を見せたあと、まとまりかけていた票が分散する現象が見られました。読み手と書き手では作品の選定する軸も異なるため、「読み手目線で作品を選ぶべきか、書き手目線で作品を選ぶべきか」で判断がぶれてしまった可能性があります。読み手と書き手のかかわり方も、今後の編集会議でアップデートしなくてはいけない部分の一つであると思われます。

2つめの検証点である「議論によってどのような物語が選ばれたのか?」について見ていくと、興味深い特徴が見られました。最終的な投票で得票率が高い作品は、最初から票を集めていたものというよりは、議論を経るごとにスコアを上げていった作品が多いという傾向があったのです。図に示しているのは一例ですが、最終的に選ばれた作品は、「最初からもっとも票を集めていた作品」ではなく、議論によるスコアの上昇度合い(回帰係数)が最も大きかった作品でした。

それでは、作品について話せば話すほど、評価が高まる作品というのは、どんな特徴を持っているのか…。ここに関する先行研究は少ないため、Novel Colony プロジェクトを通して分析する意義は大きいのでは、と感じています。特にSNS での瞬間的な反応の数など、「議論以前の段階」で作品の良しあしが決められてしまうことが多い現代においては。
今後作品ごとのテキスト分析等も行うことで、「多くの人に選ばれる作品の特徴」についてもより詳細な分析を行えるようにしたいと考えています。
