和菓子に関わるきっかけをデザインし、和菓子文化が息づく未来を探究する

Wokashication
和菓子に関わるきっかけをデザインし、和菓子文化が息づく未来を探究する
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Wokashication リーダー 清水透和


例えば、何かを「つくりたい」と思ったとき。その原動力に深い理由や戦略があるとは限りません。私たちはつい「それはどんな課題を解決できるのか」「何が目的なのか」と頭をつかいはじめますが、何かを「つくりたい」という気持ちは、本当はもっとシンプルで潔いものなのかもしれません。
和菓子を体験としてデザインするプロジェクト「Wokashication」を手がける清水透和は、「面白そう」「見てもらいたい」、そんなシンプルな動機を信じて手を動かし続けています。ものづくりや体験の価値を問い直すような作品を次々と生み出しながら、どこか肩の力を抜いた、軽やかなスタンスで周囲を巻き込む清水。制作したプロダクトの一つ『和三置き』(和三盆でできた食べられる箸置き)はJapan Handmade of The Year 2025で東京都知事賞を受賞するなど、その軽やかなスタンスは着実に結果にもつながっています。
実験的で多岐にわたる活動のどれもに共通しているのは、「誰かに届いてほしい」「話題になってほしい」という、まっすぐな欲。「語られるプロダクトほど、いいものだと思うんです」と語る彼の考えを、和菓子作りを見せてもらいながら聞いてみました。

——「Wokashication」は和菓子の体験をデザインするプロジェクトですが、大学院では他のデザインにも取り組んでいると聞きました。
清水:はい。お菓子のプロダクトデザインは趣味でやっていて、大学院では最近、振動で焼き加減を感じられる「焼肉トング」をつくっています。食べ物が好きなので、テーマにすることが多いですね。
——「焼肉」ですか。そういうテーマは、どのようにして思いついているのでしょうか?
清水:「焼肉を研究している」と言うと、ちょっと「うお!?」ってなるじゃないですか(笑)。パワーワードだな、と思って。焼肉みたいなパンチのある食べ物を研究対象にすることで、意外性が生まれるというか。普段は肉の色を見て焼き加減を判断しますけど、それを視覚じゃなくて振動で体験できるようにできないかな、という考えから生まれたのが、この焼肉トングです。焼肉トングの仕組みとしては、肉の焼き加減を画像解析のAIで読み取って、ベストなタイミングでトングが振動するようにしています。これができると、たとえば色弱の人とか、焼肉文化がない外国の人も、良い焼き具合の焼肉を楽しめるんじゃないかなって。
あとはもうひとつ、「お米を精米するプロダクト」も考えています。稲の脱穀から手動で、白いお米までつくれる、コーヒーミルのようなおしゃれなものを考えていて。性能としては、1時間かけて、おにぎり半個分みたいな。すごく高級になっちゃいますけど(笑)お米って、ものすごく身近な食べ物なのに、自分で精米したことないな、精米してみたいなーと思って考えたアイデアです。
——焼肉もお米も、すごくシンプルに着想されていますね。「Wokashication」で和菓子を選んだ理由も、やはり身近さからだったのでしょうか。
清水:特別な理由というより、家にずっとあったからです。子どもの頃から和菓子をよく食べていて、和三盆も子どもの頃、母が和菓子屋さんに連れて行ってくれたときに、「これ食べたい」って僕が自分から言って、買ってもらったりして。母の大好物が干し柿だったり、とにかく家の中に和菓子がよくある生活をしていたんです。母の実家が田舎で商店をやっていたこともあってか、贈り物としての和菓子に触れることも多くて、身近な存在でしたね。テーマに食べ物が多いのは、「作って食べる」という一連の流れが楽しくて、好きなので。あと「衣食住」と言うくらいなので、「食」なら誰にとっても買いやすくて、とっつきやすいだろうな、っていう意図もあります。

——清水さんが個人的に好きなものや身近なものをモチーフにしながらも、「人に見てほしい・話題にしてほしい」という思いも強いように感じます。
清水:そうですね。今も、製菓用の大量のチョコが家にあります(笑)。料理の中でもお菓子作りが特に昔から好きで、中学校の職場体験でも洋菓子店を選んだんですよ。そこでラスクに砂糖をつける作業をしたんです。だんだん店内のバターの香りが身体に染みわたる中でずーっと砂糖と向き合って、もう思った以上に自分にとっては大変で。それでなんとなく、売るためのお菓子を作ったり、お菓子関係の仕事に就くよりも、自分の興味は別のところに向いているのかも、と考えるようになりました。
売れるかどうかだけじゃなくて、「これ面白いんだよね」って誰かが誰かに話してくれるような、体験をデザインする。それだとつくっている自分も嬉しいし、体験から広がってひとつの文化のようなものができるんじゃないかと思うんです。とはいえWokashicationは、まだまだ仲間とか身内でやっている感が強いので、来年はもうちょっと活動を「外に出していきたい」と思っています。100BANCHでのワークショップの反応を見て、『和三置き』は商品化してもいけるんじゃないかな?と思っていて。商品内容はまだ悩み中ですが、2027年のお正月に合わせて売り出せるように、来年はクラウドファンディングをやってみようかなと思っています。イベントに体験型のワークショップを出展したりもできたらいいな〜と考えていますね。
——『和三置き』などのプロダクトが外に広まっていくことで、和菓子文化の衰退を止めたい、といった意識もあるのでしょうか?
清水:「衰退を防がなきゃ」「解決しなきゃ」という義務感というか、深刻な気持ちはないんです。たしかに、和菓子をテーマにしたときに、その文化が消えつつあるというのは問題として挙げているんですが。僕にとっての「課題」って、面白くて新しいものをつくるうえでの「手がかり」としての役割が大きいんです。結果的にそのプロダクトで挑むことのできる課題が入っていることで、より多くの人が見たり手に取ったりするきっかけになる。なんというか、課題は、人の興味に近づくための1歩なのかな、と思っています。「業界がやばいんです!なんとかしないと……!」って言いながらプロダクトを売るのは、僕としては少し違うんですよね。

——「課題を、人の興味に近づくための1歩にする」って面白いですね。深刻に捉えすぎない、というのもアイデアの源になっていそうです。
清水:そうだといいです。実は僕の目標のひとつが、「表彰されること」だったんです。「自分、すごいじゃん!」って思いたいから(笑)。だから今までコンペも結構たくさん出してますし、たとえ自分が好きなものでも、「ウケなそう」と思ったら、結構すぐアイデアをボツにします。
自分がやっていて楽しいのは大前提で、さらにちゃんと認められたいので、どういうアイデアなら注目されるかは常に考えています。そうやってコンペに出しまくったり、プロダクトをたくさんボツにしたりする中で、コンセプトとして「体験の情報を置き換えると新しいものができる」という軸が生まれたんです。例えば「振動で焼き加減を感じられる焼肉トング」なら「視覚」を「振動」に変えてるじゃないですか。他にも、以前は音を光に置き換える「光る風鈴」というプロダクトをつくっていました。そんな感じで、どんどん体験を置き換えてアイデアを出しては、練って、ボツにしたりプロダクトにしたりを繰り返しています。それでもしコンペに落ちたら、また少し練り直して、別のところに出したりして。
——「体験の情報を置き換える」という軸ができていったのは、「受賞したい」という個人的な原動力で実験を加速させていったからだったのですね。
清水:はい。受賞した『和三置き』も実は一度コンペに落ちてしまったことがあります。そこから僕がデザイナーだからこそできたな、と感じるブラッシュアップをしました。最初は、箸の先端を和三盆の上に直接置く形でした。でもそれだと箸を食事で使うと、だんだん和三盆が濡れてしまうんですよ。もっと箸の中間を置いてもらわないといけないんですけど、その行動に違和感がないような錯覚効果を出したくて。この紙を真ん中に置いたんですよ。そしたら、受賞できました(笑)

視覚効果で、自然と箸の先端ではない場所が接触するように誘導
清水:コンペに落ちても、落ち込むとかは全然なくて。「いや、絶対いいだろう」って思っているので。じゃあなんで選ばれないんだろう?もっと良くするには?という感じで、ずっと実験が続いている。毎回そういう感じで、「良いはずなのに、なんで(選ばれない)?」っていう考えで、欠点を潰していきます。

一般社団法人日本ホビー協会主催のJapan Handmade of The Year 2025で東京都知事賞を受賞した『和三置き』。食事中は箸置きとして、食後は和菓子として楽しめる。
清水:僕は大学でデザインを学びはじめたのですが、途中から「人々の新しい行動」をつくれるプロダクトが面白いんじゃないか、と思いはじめたんです。ただかっこいい造形をつくるだけでは響きにくいし、注目されるものはできないんじゃないかと思って。その考えが軸としてあるので、そういう「人々の新しい行動」をつくれるものができたら、「これは絶対面白い」って思って、認められるまでずっとブラッシュアップを繰り返す、というのがスタンスとしては近いかもしれないです。
——来年の3月には大学院を卒業されるとのことですが、Wokashicationの活動はどのように続けていくのでしょうか?
清水:そうですね、卒業後はPR会社に就職し、企画の仕事をする予定です。SNSでバズる商品企画をやったり、企業のPRになるような話題のグッズなどを考えていく仕事です。というのも、自分のプロダクトは結構PR要素があると思っていて。例えばWokashicationの場合、「このプロダクト面白いよね」と話題になれば、売上だけじゃなくて、業界や和菓子の作り手にもスポットライトが当たる可能性があるじゃないですか。そうすると、和菓子を食べる人も増えるかもしれない。心が動く体験をデザインすることによって、和菓子に興味を持ち続けてもらうのを助けられたらいいなって。
デザイナーとしての願望で、「いろんな人のインナーモチベーションを上げたい」っていう気持ちもあります。基本的には自分が興味を持ったものを追求していますが、同時に僕として嬉しいのは、頑張っている人を別の角度から支援できるようなプロダクトをつくったり、企画をつくれたときなんです。Wokashicationの活動は、結果的に「頑張っている和菓子業界の人」を内側から盛り上げることにつながっていたらいいなと思います。そしたら僕は楽しいし、そうやってつくったものが注目されれば、業界のモチベーションもあがりますし……。で、これもつまり、PRだよね?って思って、就職先を決めました。仕事では、企画や商品開発でそういったサポートができたらいいなあと思っています。自分のプロジェクト活動とPRの仕事は似ている側面があるので、いつか、うまい具合に交われば嬉しいですね。

——話題にしてもらうための「体験」をつくることに、100BANCHでの実験でもこだわっていましたもんね。
清水:はい。今年出展したナナナナ祭では、和菓子を「食べる」だけじゃなく、箸置きとして「使う」、「作る」「飾る」「知る」ことも経験してもらえたのは良かったです。僕自身、お菓子作りが趣味なのもあって、食べる以外のことを共有できたのは楽しかったです。ワークショップでは、和三盆のいろんなフレーバーを用意したんですけど、参加者に「選べるのが楽しい」と言ってもらえました。そういう反応もあったので、100BANCHの他のプロジェクトと協力して、今は「野菜フレーバー」の和三盆をつくっています。野菜の香りを水蒸気として抽出して、和三盆をつくるときに使うんです。たとえばトマトのフレーバーの和三盆とかができるんですよ。
——順調にプロジェクトを進めているようにも思うのですが、100BANCHでの活動は、清水さんの中ではどんな位置付けなのでしょうか。
清水:100BANCHにいると、「自分で何かをつくっている人」が当たり前にいるんですよね。がっつり一緒に制作するというより、「褒めてくれたり、違う視点をくれたりする人がそばにいる場所」という感覚が強いです。元々、「刺激になる仲間」が欲しくて100BANCHに入居したので。みんな頑張ってるし、触発し合える関係があると、前向きになれますよね。今は単独でプロダクトをつくっていますけど、これからは、「誰かを別軸からサポートする」というのをやりたいです。頑張っている人を自分のやり方で支えながら、その中で新しい商品をつくれたら面白いなって。そういうのが理想かなと思います。僕自身は、「とにかく目立つアイデアから攻めていく」スタイルなんで、自分の表現があるかって言われたら、正直そんなにないんですよね。
——「自分の表現がそんなにない」ってある意味、勇気のある発言にも思えます。
清水:とにかく、まずは目立つかウケるかでアイデアを練っているので……。ただ、色々つくる中で、最近特に思うのは、「誰かに語られるプロダクトほどいい」ということなんです。「バズる」も良いですが、どちらかというとイメージは「心揺さぶる」に近いかもしれません。「この体験、面白いよね」って語られれば、結果的に売れやすいのはもちろん、業界的にも社会的にもプラスなんじゃないかと思うんです。
なので、つくったプロダクトが心に響いて、誰かが誰かに語り続けてくれる……みたいな残り方が嬉しいです。それと同時に、僕自身は最終的にモノとして残る「形」が欲しいと思っていて。たとえばVRとか、データだけで完結してしまうものだと、なんかちょっと寂しくて。自然消滅してしまうものには、あまり興味が湧かないんです。持って帰って使ったり、食べたり、触れたりして、その体験を通じてまた誰かにプロダクトを語ってもらえるような。そういう体験の媒介として存在できるプロダクトをずっとつくれる人になりたいですね。

(写真:小野 瑞希)