
LobbyAI
全ての人に「政治・行政」が行き届く世界を実現したい。
「政治家って、本当はもっと“使える”んですよ。知らないだけで、制度も補助金ももっと活用できるんです」
そんな想いからスタートアップ「LobbyAI」を立ち上げた代表の高橋京太郎。かつて議員秘書として現場に立ち、住民と行政のギャップを肌で感じてきました。その経験から、政治へのアクセスをテクノロジーで解決しようとしています。彼が目指すのは、「誰もが当たり前に政治を活用できる社会」。
高橋たちが開発したプロダクト「Lobby Local」は、制度や補助金の情報をAIが解析し入札や提案のベストタイミングを知らせることで、行政と民間をつなぐ新しいインフラになることを目指しています。
制度の“外側”から社会を動かそうとする高橋の視線の先にあるものを、じっくり聞いてみました。
—— 企業向けに行政の情報を提供するサービス「Lobby Local」をローンチされたそうで、おめでとうございます。今、どういう反響を受けていますか?
髙橋:今は2週間の無料体験を数十社の方にご提供していて、実際に契約に進んでいただけるかどうか、ニーズを探っている段階です。すでに何社かは契約につながりそうな手応えがありますね。一方で、「もう少しこういう機能があれば検討したい」といったフィードバックもいただいているので、そういった声をいかに早く反映し、アップデートできるかが今、勝負どころだと思っています。
※取材日2025年6月24日時点の情報です
入札情報の通知や議事録の解析、さらに行政への提案タイミングまでを支援する「Lobby Local」は、行政の動きをリアルタイムで捉え、民間企業が制度をより有効活用できるよう設計したSaaSです。AIを活用することで、膨大な行政情報を整理・可視化し、行政と民間の“すれ違い”をなくしていくことを目指しています。
—— フィードバックはすべて修正して盛り込む予定なのですか。
髙橋:はい。フィードバックをいただいている中で、いろんな会社さんから共通して出てくる意見があるなと感じていて。「あの会社も言ってたし、この会社も言っているよね」という声を整理して、「ここがコアなバリューなんじゃないか」という部分を見極めているところです。利用料金をいただくからには、しっかり現場の声を取り入れて、使いやすいサービスにしていきたいと思っています。今の「Lobby Local」は、ざっくり言うとデータベース型のサービスになっていて、地方自治体の情報、入札情報などを複合的に見られるようになっています。そこに加えて、「AIチャットボットみたいに対話できたらいいよね」という声も多くいただいているので、この夏のアップデートで実装する予定です。
—— すごいスピード感ですね、「Lobby Local」が世に出た興奮が伝わってきます。
髙橋:100BANCHに入居してからチームで開発をはじめたのですが、こうして形になってきたこと自体、素直に嬉しいなと思っています。元々僕自身、ずっと政治の領域に課題を感じて動いてきたので、今回こうして共感してくださる方々が実際にいることがわかったのも、励みになりました。課題の“原点”のような部分をきちんと形にしていくために、100BANCHにいる他のプロジェクトの方々にもヒアリングさせてもらったり、協力いただいたりしてきたので、そういう意味でも、ここで開発できて本当に良かったと思っています。
—— 情報をキャッチしようとか、人の意見を聞こうとする姿勢がすごく伝わってきますが、そういう意識は元々お持ちだったのですか?
髙橋:政治に限らず、情報をキャッチしようという意識は学生の頃からありました。情報をキャッチして、それを自分の中で消化して、世の中に対してアウトプットできるのが僕の強みだと思っています。
—— では政治にもはじめから興味があったのでしょうか?
髙橋:いえ、まったくそうではなくて。試験で点数をとるような学校の勉強がとても苦手だったのですが、中学生の頃、社会科のテストで1位になったことがありました。興味があることで結果が出た、最初の小さな成功体験でした。そこで「世の中の流れを知るのが結構好きなんだな」と、自分でも気づきましたね。ただ、社会の点数が良くても、他の教科が足を引っ張って……結局、1年間浪人をしました。浪人していたときは、世の中の流れから自分が切り離されているような感覚がありました。孤独な時間が多くて、正直メンタル的に落ち込んでた時期もありました。そんなある日、予備校の帰り道でたまたま政治家が街頭で演説していて、「あ、なんかいいこと言ってるな」と思って。その後にTwitter(現・X)を見てみたら、まだ当選前の若手の政治家でした。「この人面白いな」と思っていたら、まさかのご本人からDMが来て。「今度、選挙を手伝ってみない?」と声をかけてもらったんです。政治家のお手伝いをする中で、「政治って奥深いな、面白いな」と探究心がくすぐられました。大学は政治経済学科に入って勉強したのですが、もっと現場のことも知りたいと一層思いましたね。机の上で勉強しているだけじゃ得られないことってたくさんあるな、それが政治の現場にあるんじゃないか、と。そして議員さんの事務所で秘書をさせていただけることになりました。
浪人を経て思ったのは、レールの上から外れることは、そんなに怖くないということでした。むしろ僕にとってレールから外れるのは……ちょっとワクワクする、自分で道を切り拓くっていうのでしょうか。その一面に気づいたのが浪人時代でした。だからこそ、議員さんの事務所に飛び込んだときも、不安は感じませんでした。
—— 「政治は奥深い」という感想は新鮮ですね。
髙橋:そう思われますよね(笑)。政治活動って、本当に基本的なことをやるんです。駅でビラを1枚配るにしても、どこの位置に立つか、どう配るか、どう話しかけるかで、相手の反応がまったく変わるんです。こういう人にはこういう渡し方がいいとか、やり方があるんです。それって、定量的に分析できるなって。そういうところってめちゃくちゃ奥深いなと思うんですよね。玄関先でピンポンを押して、1軒1軒お悩みを聞きに行くこともあります。でも、「ただ来ました」だけじゃ、やっぱり会話ははじまらないですよね。だから、「こういう活動をしていて、お困りごとはありませんか?もし何かあれば、こちらにご連絡くださいね」と、相手の反応を見ながら言葉を選んで話しかけるんです。これも、本当に言い方ひとつで印象がまったく変わる。「スマホの使い方がよくわからない」とか、「隣の家の木が邪魔になってる」とか、そういう日常の困りごとがたくさんあって。それを一つひとつ拾っていくのが、政治活動なんですよね。そう考えると、政治はまさに“社会そのもの”だなと思います。本当に、奥深いなと感じますね。
議員秘書時代の髙橋
—— そのお話を聞くと、一気に政治が身近なもののように感じます。秘書として現場を見ていく中で、どのような課題を感じ、「政治は道具なんだ」と考えるようになったのでしょうか?
髙橋:市民側の課題はやはり、「政治って難しいよね」という意識がまず前提にあることです。制度があっても最初から「自分には関係ない」と思って、うまく活用されていない。それに、法律は“守るもの”で“変えられるもの”という発想にはならない人も多い。さらに言えば、補助金なんかも実は全然使われていなかったりします。そういう現場を目の当たりにしたときに、「ああ、もっと政治をちゃんと解釈して、わかりやすく伝えていくことが必要だな」と強く感じましたね。
政治家をうまく活用している人って、実は結構いるんですよ。政治家は、ちゃんと“使える存在”なんです。「こういう取り組みをしているんですけど、何か使えそうな補助金ありますか?」と議員事務所に問い合わせると、議員が行政に連絡してくれるんです。行政の担当者からすると、議員は声が大きい存在なので、無視できません。だからちゃんと調べて、丁寧に教えてくれる。それを受け取った人は、有益な制度や補助金の情報にたどり着けるわけです。でも、その“政治家にアクセスする”裏ワザを知らない人って、まだまだ多いと思っていて。さらに行政の情報も取れてないとなると、もうそれだけで損をしてる状態です。とくに事業者は、本当はもっと政治を活用できたら大きなメリットを得られたかもしれないのに、そのやり方を知らなかった、というケースもすごく多いと思います。
加えて僕は元々WebやITにも興味があって、議員さんのSNS運用やホームページ制作もしていました。そこで、政治の世界はまだデジタルが全然活用されていないことにも気づきました。デジタルに対して課題感はあるものの、実際のプレイヤーはまだまだ少ない。何かできることがあるのではないかと感じました。
—— 政治の世界に身を置かれたご経験はありますが、政治家を目指されたわけではないんですよね。その上で、DXやAIといったテクノロジーを活用し、政治へのアクセスの不平等を補おうと考えるようになったのは、どういった経緯からだったのでしょうか?
髙橋:政治の世界にちょっと入ってみて、制度やルールをつくる側ではなくて、それらを使ったビジネスで世の中にインパクトを残すほうが個人的には面白いなという気持ちがありました。実際にプロダクトで世の中を良くしている人たちを目の当たりにしたときに、自分がやりたいことは、ビジネスの中に入って課題を解決していくことだと感じたんです。議員は、いわゆる営業目標がないんですよ。だからか、荒波は立てないで、淡々と物事を進める傾向があります。でも、それって本当はおかしいと思っていて。本当は、「困ってる人を何人助ける」とか、「この補助金・制度を何人に活用してもらう」とか、そういう視点も必要だと思うんです。あとは、自治体で募集している入札系の補助金は、予算編成の段階で大体どの会社が受けられるかがすでに決まっていたりします。目星がついているから、それに合わせて予算取りをしているわけです。なので、採択されるためには、入札情報が出る前までが勝負。行政の動き出しをしっかり把握して、先に提案をするぐらいの勢いでいかないとダメなんです。
ただ、全国には1700以上の自治体があり、さらに中央省庁もある中で、すべての議事録や関連情報を人の手で読み込むのは現実的ではありません。そこで活用できるのがAIです。例えば、議会で「こういうことをやっていきたい」という発言があったタイミングで通知を受け取れれば、その段階から準備を始めて、入札が出る頃にはしっかりアプローチできる。そうすれば、提案のタイミングを逃さずにすむわけです。こうした大量のデータを集めて、解析できる技術が整ってきたことで、「Lobby Local」の構想が生まれました。政治へのアクセスの不平等を、テクノロジーで補える時代が来たな、と思っています。
—— 行政リサーチのような情報収集業務がAIによって代替されることで、現場の業務負担が大きく変わりますよね。100BANCHで開催したミートアップは、それを体感できる場だったのではないでしょうか。70人以上が参加したそうですね。
髙橋:「こういった課題が解決できますよ」といった形で、こちらから課題解決の提案を行う“逆営業”のようなアプローチでコミュニケーションしたことが、集客につながったと感じています。当日は約70名の方にご参加いただき、そのうち5名と商談に進むことができました。勉強会形式だったため、有識者をお招きしたり、プレゼン資料を準備したりと工夫も重ねました。製品の理解を深めていただく機会としては、非常に良いプログラムになったと感じています。ただ、営業成果という点では、もう一歩踏み込みが必要だとも感じましたね。
とはいえ、100BANCHのメンバーやスタートアップ関係者など、普段なかなか接点を持てない方々ともつながれたのは大きな収穫でした。やはり、できるだけ早い段階で現場の声を拾うことが重要だと思っています。実際にその業務に携わっている現場の方々が、一番ニーズや課題を理解されているので、そうした声を直接聞くことが、課題解決の近道であり、サービス開発においても最も大切なことだと考えています。
—— ご自身の理想を形にするというより、「ユーザーが本当に求めているもの」に重きを置かれている印象です。
髙橋:やはり「いかに課題を丁寧に聞いていくか」という点が大事だと感じています。議員秘書として活動していた頃も、住民の方々から寄せられる困りごとに耳を傾ける機会が多くありましたが、そうした声に応えていくことこそが、自分のやりたいことだと強く思っています。おそらく、そこが一番、自分のバリューを発揮できる部分なのではないかと考えています。
—— その熱量のままに動かれて、初期段階で4,000万円の資金を調達されたと聞きました。相当苦労もあったのではないですか?
髙橋:昨年の8月頃は、正直なところ「資金調達は難しいのではないか」と感じていて、一度は諦めかけたこともありました。ただ、5社ほどから「このサービスがあったら欲しい」「ぜひ実現してほしい」といった声をいただき、それが大きな後押しになって、最終的に12月に資金調達を実現することができました。9月から12月までの約4ヶ月間は、本当に苦しい時期でしたね。周囲からは「社会貢献事業としてやったらどうか」「スモールビジネスの規模感でやるのが現実的ではないか」といったご意見もいただいていたのですが、僕はこの事業を、ベンチャーキャピタルから資金を調達し、しっかりと投資を受けて取り組むべきスケールのものだと信じていました。それだけの理念と意志を持っていたので、投資家の方々にも「ぜひ投資してください」と率直にお伝えしました。議員事務所で働いている人たちは、本当に泥臭く動いているんですよね。それを間近で見て、「スタートアップの世界にもハードに営業されている方は多いけれど、こういう“目の前の一人に深く食い込む”動きはまだまだできる余地があるな」と感じたんです。自分から企業に電話をかけたり、直接足を運んで“逆営業”のようなことをしたり、そうした地道な行動ってやっぱり必要で。実際に困っている方は、きちんと話を聞けば、課題をちゃんと教えてくださるんです。現場の声こそが、一番確実なヒントになると思っています。
ただ、それぐらい切実な困りごとじゃないと、仮にこちらから営業をかけても、ビジネスとしては成立しないとも思っていて。だからこそ、こちらがしっかり“キャッチング”していく姿勢が大事だと思っています。最終的にどうなるかは分からないけれど、自分で動いてみて、変化が起こる方が面白いと思うんです。日々何かが変わっていく、そのプロセス自体が刺激的ですよね。
—— 高橋さんの変化を楽しむ姿勢や遊び心は、政治や行政の世界とは対照的なイメージがあります。その一方で、行政の方々にも好意的に受け入れられる側面があるように感じるのですが、そのあたりについてはどうお考えですか?
髙橋:いえいえ、最初の段階では、行政の方々から警戒されることも多かったです(笑)。というのも、単純に「業務が増えるのではないか」と捉えられてしまうことがあって。お問い合わせが増えても、それが職員の方々の評価や報酬に直結するわけではありませんから、そこが一つの課題でした。僕たちが解決したいと思っているのは、まさにそうした“たらい回し”の構造です。現状では、「その件は他の課に聞いてください」と言われ、別の部署にまた連絡をしなければならない。そうして何度もやりとりが発生する中で、行政側にも問い合わせ対応のコストが発生しています。そうではなく、「この間こういう相談をしていた方に、改めてこの件について話したい」といった、要点を押さえた連絡が一度で届くような仕組みのほうが、行政にとっても住民にとっても効率的ではないかと考えています。仕事が増えること自体が悪いわけじゃないと思っていて。大事なのは、「増えた分をどう進めていくか」で、そこはまさにDXで解決できる部分だと思います。だから僕らとしては、民間側から行政に働きかけるだけでなく、行政側にもAIツールを導入してもらうようなサポートもしていきたいと考えています。両方の側でテクノロジーを活用しながらマッチングしていく、そんな形が必要なんじゃないかなと。「実際に動いてくれる議員は誰なのか」といったところも、定量的に見えるようにすることが、今後はより重要になってくると思います。
僕は「社会のUI / UX」という言葉をよく使うのですが、例えばランチを食べて「ごちそうさま」と言うことも、社会の中での小さなインターフェースの一つだと思っています。ちょっとした所作や気配りの積み重ねが、その場の空気や人との関係性をつくるし、それが社会全体の質感につながっていく。政治も、制度も、事業も全部そうやってできているんじゃないかと感じていて。感性や、泥臭く向き合った経験など、そういうものの積み重ねが、最終的には“誰かの役に立つかたち”になって表れていく。LobbyAIとしても、ただ業務を効率化するだけではなく、ユーザーが「使ってよかった」「助かった」と実感できるような体験をつくることを大切にしています。そのために、制度や現場の声にしっかり耳を傾けながら、プロダクトを丁寧に設計していきたいと考えています。
—— 今後、どんな人たちに「Lobby Local」を届けていきたいと考えていますか?また、社会の中でどのような役割を担うサービスにしていきたいと考えていますか?
髙橋:昨今、公務員としてキャリアを積んできた人が、次のステップに進もうとしてもなかなか選択肢が少なくて、「このままずっと公務員を続けるしかない」と感じている人も多いです。でも、本来はその5年、10年の現場経験や知見を、民間に還元していける道がもっとあっていい。行政との連携や地域との橋渡しを担う“パブリック人材”として活躍できる場があれば、社会全体にも大きなプラスになるはずです。僕らとしては、そういう人たちに「Lobby Local」を使ってもらえたら最強だなと思っていて。きっと、ここから新しい職業のかたちをつくっていけるんじゃないか、そんな未来を描いています。