LEADER INTERVIEW

2020.11.19 Thu

おじいちゃんと小学生が、対等に政策を語り合える社会へ:政治検定 野田みどりさん

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サッカーが好き、だからサッカーをやる。
音楽が好き、だから音楽をやる。
「政治が好き、だから政治をやる」。

「好きこそものの上手なれ」とはよく言いますが、みなさんは3つ目の一文を、どんなふうに感じるでしょうか。これは、現在「政治検定」のプロジェクトリーダーを務めている、野田みどりさんの言葉です。

政治検定を通して「シティズンシップ教育」を日本に浸透させていきたいと、とても楽しそうに話す野田さん。彼の明朗でしなやかな言葉は、私たちのなかにある凝り固まった“政治”のイメージを、やさしく解きほぐしてくれるように感じられます。

そんな野田さんに、政治に興味を持った原体験や、政治検定にかける思い、活動の先に見すえている未来について、たっぷりと語ってもらいました。

(執筆:西山 武志、写真:朝岡 英輔)

──語弊を恐れずに言うと、政治ってちょっと取っつきにくいイメージがあると思うのですが、野田さんが興味を持ったのは、何かきっかけなどあったのでしょうか?

今でもそうなんですけど、僕にとって政治は「純粋にワクワクする、興味津々に向き合えるもの」なんですよね。

 

──政治がワクワクするもの?

はい。その原体験にあるのが、小中高とやってきた学級委員や生徒会の活動でした。中でも、中学2年のときの生徒会長の経験は、今でも忘れられない思い出として、鮮明に記憶に残っています。すっごく楽しかったんですよ。

僕が通っていた中学校は、地域の3つの小学校から1,000人以上の生徒が集まるマンモス校で、生徒会の選挙がお祭りみたいに盛り上がる学校だったんですね。選挙の際には、生徒会長も10人くらい立候補が出て、それぞれの出身校や部活を中心とした支持基盤があって。僕も立候補したら「任せたよ!」「お前に入れるからな!」と方々から声をかけてもらえて、それだけでも自己肯定感が上がりました(笑)。

 

 

──そこで野田さんは、選挙に勝って生徒会長に?

めちゃくちゃ僅差ながら、勝ったんです! あれはホントに嬉しかったですね。そのあと、生徒会長がほかの役員を指名するんですけど、僕は幼馴染や昔好きだった女の子などに声をかけて、メンバーを同じ小学校出身の仲良しで固めたんですよ。

 

──お友だちを集めて組閣したと(笑)

まさにそうです(笑)。だから、ほかの小学校の生徒たちが野党になって、僕らの言動を厳しくチェックするんですよね。僕らの学校の生徒会は、部や委員会の予算配分をまかされていたのですが、生徒総会の時は「この部の予算を増やす根拠は?」「PCなど購入って書いてありますけど、この“など”ってなんですか?」とか、それはもう細かく質問攻めをされましたね。

「面倒くさいなあ」と思うことは正直ありつつも、そうやって議論と軌道修正を重ねていくことで、生徒会の活動がよりよいものになっていく実感はありました。学校をみんなにとって楽しく過ごしやすい場にするために、自分たちが積極的に政策を立案して、賛成の声も反対の声も両方聞いて、改善しながら実行していく。その一連の流れや、そこで生まれる人との繋がりだったりが、僕にとっては本当に楽しいものでした。

 

 

──共同体を運営していく政治を、ポジティブに体感してきたんですね

そうなんです。ここで楽しさを覚えていたからこそ、高校でも生徒会や「子ども国会」の活動に参加したのだと思っています。

 

──子ども国会、というのは?

全国から集まった小中高校生が、1泊2日でさまざまな社会問題について議論をし、政策づくりを体験するイベントです。それまで知っていたのは「ひとつの学校の自治」というミクロな政治でしたが、子ども国会の活動は、より広範囲のマクロな政治に触れる機会になりました。

政治は知れば知るほど、社会の捉え方、目に映る世界の解像度が変わってくる。それは本当に楽しいことなんだ――これまでの経験を通してそんなふうに感じていることが、今の「政治検定」の活動に結びついています。

 


─大学生の頃の教育実習時の様子。テーマは「国語「短歌と俳句ー自分の大切なものでつくってみようー」

 

──野田さん、大学では政治学部ではなく、教育学部に進学されていますよね。

そうなんです。政治の原体験のお話を先にさせてもらったのですが、僕の場合、スタートラインは「政治」ではなくて、「教育」なんです。小中高を通して、いい先生にたくさん出会えたおかげもあって、僕の中では教育もワクワクの対象でした。

「学校がもっとこうなったらいいな」「先生がもっとこういう存在になったらいいな」と考えるのが好きで、その延長線上に「自分が何かしら動くことで、日本がもっとよい国になったら」という思いがあって。「国がよくなれば」という思いが、政治への興味に接続したんだろうな、と感じています。

 

──大学では、どんなことを学んでいたのでしょうか。

はじめは先生になるつもりだったのですが、教職免許を取るためにいろいろと勉強しているうちに、教育の在り方自体を考える教育学や教育哲学に興味を持つようになりました。

その中で出合ったのが、政治検定プロジェクトの屋台骨になっている「citizenship education」という概念です。日本語では「主権者教育・市民性教育」などの訳が当てられていますが、ちょっとニュアンスを表しきれていないようにも感じていて、「シティズンシップ教育」と表現するのが、今のところしっくりきています。

 

 

──シティズンシップ教育とは、どんな概念なのですか。

簡単に意訳すると「国や社会の問題を自分事として捉えて、その解決に必要な学習力や判断力、行動力などを伸ばす教育」のことです。日本では2016年に選挙権年齢が18歳に引き下げられた頃から、文科省や総務省が「主権者教育」という言葉を使って推進していこうとの動きを見せています。

この言葉を知って「今まで生徒会や子ども国会で培ってきた学びとは、まさにシティズンシップ教育だったんだ!」と、すごく腹落ちしたし、安心感を覚えたんです。自分が「楽しいな、大切だな」と感じてきたこと、けれども「なかなか人に共有しにくいな」と思ってきたこと。そういう気持ちに、シティズンシップ教育という言葉が、居場所を与えてくれたように感じられました。

 

──その思いが、政治検定のアイデアに繋がっていったと。

いえ……実は、政治検定を発案したのは僕じゃないんです。僕は学部生時代から「POTETO」という政治メディアの学生団体に所属していたのですが、代表の古井が後にPOTETOを法人化し、その1年後に新事業として立ち上がったのが「政治検定」でした。

 

ーPOTETOが取り扱う記事の一例

 

僕は院に進学した後、調査研究のために島根県の海士町に数ヶ月間滞在していて、東京に帰ってきたら、いつの間にかpotetoが会社になっていて(笑)。これからどんな風にここに関わっていこうかなと考えていたら、古井から「政治検定ってプロジェクトを立ち上げたんだけど、向いてると思うから任せていい?」って頼まれたんです。そこが、僕と政治検定の関わりのスタートでした。

最初は「任された苗」という感じで、どうやって手入れをすればいいのかわからず、やきもきすることも多かったです。ただ、周りの友人や政治家さんにアドバイスをもらいつつ育てていくと、「想像以上に面白い木に育ちそうだな」とワクワクが膨らんできて。今では本当に楽しく、愛着を持って取り組んでいます。

──あらためて、「政治検定」とはどんな狙いをもった検定なのでしょうか。

大元の狙いは「シティズンシップ教育を定着させる」というところにあります。そして、学びのサイクルや事業に持続可能性を持たせる上で、“検定”というフォーマットを有効活用しようと考えています。

「漢検」や「英検」のように、検定という目指すべき目標が明確にあると、学びのモチベーションに繋がりやすいですよね。政治検定の存在は、政治に興味を持ってもらうきっかけや、学び始めの入り口として機能してくれるはずです。

 

──ただ教えたり伝えたりするのではなく、“検定”にすることで得られる効果があると。

検定のよさは、社会の共通認識を育てられるところにあると思っていて。漢検や英検って、受験や就職で有利に働くことがありますよね。「これらの知識は重要だよ」という認識を、一定数の人たちが共有しているからこそ生まれる基準です。

政治検定を漢検や英検レベルの規模に押し上げることができたら、中高生たちはもちろん、大人たちにとっても、いい学び直しの機会として認知してもらえるんじゃないかなと感じています。今、コロナの影響を全世界が受けている中、「政治の判断が自分たちの生活に直結している」ということを、あらためて実感している人たちは、きっと多いと思っていて。

 

 

──けれども、それは見えやすくなったというだけで、政治はいつだって私たちの生活に結びついているんですよね。

そうなんです。共同体にどんなルールがあって、代表者たちが何をしているのか。僕らが持っている権利、活用できる制度は何か。それらを知っているか知らないかで、生きやすさの度合いが大分変わってくる。「政治を“自分ごと”にしていくこと」は、「自分の人生を“自分ごと”にしていくこと」でもある。この「“自分ごと”にしていくプロセスを提供すること」こそが、シティズンシップ教育なんですよね、きっと。それを、大人たちにも届けていきたい。

発達心理学者のエリクソンは「成長は子どもでは止まらない、大人も成長している」「大人は子どもたちに何か大事なことを伝えようとする、そのプロセスでこそ成長する」と説きました。自分の人生のなかでただ一言、後続に残したいメッセージを磨き、伝えて続けていくことが、大人にとっての成長に繋がる。つまり人の成長とは「世代間の継承・伝承のプロセス≒世代継承性」によって生まれるのだと。

僕はこの考え方がとっても気に入っていて、政治検定のシステムを考える上でも大事にしています。エリクソンのいう「世代継承性」を促進させる働きを、政治検定で担っていきたいです。

 

 

──直近で、「政治検定」が目指す目標などはありますか。

2022年に、これまであった「政治経済」や「現代社会」という科目がなくなって、新たに「公共」という授業が始まることが決まっています。自分たちが暮らしている共同体について、どれだけ理解しているか。この科目の評価基準に「政治検定」を活用してもらうことを目指して、さまざまな準備を進めています。

「国語」は漢検、「英語」は英検、「数学」は数検。それぞれの科目から想起される検定がある。そこで、「『公共』は政治検定だよね」という認知を取りにいけたら、政治と人々の距離が今よりもぐっと縮まるはず。なので、来年が勝負時ですね。日本のシティズンシップ教育を、政治検定というツールを用いて、どんどん推し進めていきたいです。

 

──野田さんは、政治検定が広く行き渡った社会が、どんな風になっていてほしいと考えていますか?

政治検定を受験する人が増えれば増えるほど、それは「民意を汲み取る手段」としても機能するようになっていきます。正答率の高かった領域は関心が高いと判断して政策立案に力を入れたり、正答率の低かった領域については広報予算をつけたりと、政治の改善に生かしていける。

漢検は年間で約190万人の受験者がいます。政治検定を同じような規模感まで押し上げて、そこで得られる数値が為政に反映され始めたら、きっと世の中を大きく変えていくものになるだろうなと想像しています。教育業界を巻き込んで10年20年頑張れば、決してそれは夢物語ではないはずです。

 

──政治検定の受験が、投票と並ぶような“政治参加”に繋がり得ると。

そうなっていくために、認知度を高めて、受験者数を増やしていきたいですね。それと、政治検定を持続可能な事業に育てていくことで「政治が好きな人たちのための、職業としての選択肢」にしていきたいんです。

政治が好きで専門的に勉強している学生はいっぱいいるのに、その多くは一般企業に就職していきます。しかも、社会人が政治や選挙について何か活動する時って、大体ボランティアなんですよね。それが何だか歯がゆくて。

 

 

──確かに、政治を仕事にするって考えたときの選択肢って、かなり少ないですね。

政治や公共にまつわることに純粋な興味を持って、頑張って学んでいる人たちが、それこそ「好きを突き詰めることで社会に貢献しながら生きていける」ようになってほしい。僕自身もそう生きていきたいですから。

その分野で生きていける経済圏があれば、プレイヤーや目指す人たちの関係人口は増えていって、新たなアイデアや事業が生まれ、どんどん盛り上がっていくはず。「シティズンシップ教育の推進」が慈善活動ではなく、持続可能なビジネスとして成立していく未来も、強かに実現させていきたいです。

 

──100BANCHに入居してみて、これまでにどんな気づきがありましたか。

めちゃくちゃ面白いです! 入居者のみなさんそれぞれ、活動の背景には何かしらの社会課題への思いがあったりするのですが、そこに対するアプローチが本当に多種多様で。とくに、アート系のプロジェクトをやっている人の話を聞くと、自分の凝り固まった考え方がほぐされていくような心地がして、いい刺激をもらえています。

あと、これは最近気が付いたんですけど、100BANCHのコミュニティ全体が、まさにシティズンシップ教育の場として機能していると思うんですよね。

 

──コミュニティ全体が?

たとえば、この前とあるプロジェクトのメンバーが「3階のフロアに砂場をつくりたい!」と言い出したことがあったじゃないですか。僕は「えっ、何事?」って思ったんですけど(笑)、100BANCHの運営のみなさんは否定せずに「いいよーやってごらん」と言ってくれてました。僕はそのやり取りを見ていて「いい場所だなあ」と切実に思ったんです。

 


─100BANCHに1トンの砂を持ち込んで行われたイベント「展覧会『砂の旅券 Emptiness passport in a handful of sand』」レポートはこちら

 

僕らプロジェクトメンバーは、100BANCHのコミュニティにおけるいわゆる子どもで、運営のみなさんが大人で。頭ごなしに否定をする大人がいない環境では、子どもたちはどんどん自分の主張、やりたいことを表に出していける。だからこそ新しいものが生まれるし、既存のシステムも多様な意見でブラッシュアップされて、よくなっていってますよね。

 

──たしかにそうですね。

主体性が尊重されることで、一人ひとりのコミュニティに対するコミットメントが上がり、それによって共同体全体が盛り上がっている。子どもと大人の間で、双方向的な知の継承も生まれている。これこそまさに、シティズンシップ教育が目指すべきサイクルだなって。

先ほど、シティズンシップ教育は「主権者教育」とも言われると説明しました。ここでいう“主権者”とは「自分の人生を、自分の決めたように歩いていける、主体性のある人」なんだと、僕は捉えています。この主体性って、周りから認めてもらえないと、なかなか育たないんです。一人の人間としてコミュニティのなかで尊重されることで、初めてその人のシティズンシップは立ち現れてくる。100BANCHは、そういうことが自然に保障されている、とてもいい場だなと感じています。

 

──最後にもうひとつ。100年後の社会って、どんな感じになっていると、理想だなと思いますか。

100年後……そうだな、「おじいちゃんと小学生が、対等に政策について議論できる社会」になっていてほしいですね。どんな年齢、どんな境遇にいる人たちでも、同じ目線で国の未来を語れる。大人が、周りにいる子どもたちに「お前たちに未来を託すよ」とバトンを渡せる。そういう会話がいつでも、誰とでもできるような社会が理想だな、と思います。

シティズンシップとは、自分の人生を自分の決めたように歩いていくための、主体性のある力です。一人ひとりがシティズンシップを持ち、互いに協力しあって、よりよい人生、よりよい未来を追求していける――政治検定が、そんな世界に向かうためのリードになるよう、大事に育てていきます。

 

■「政治検定」関連リンク
・政治検定 公式ホームページ:https://go.seijikentei.jp/

 

WRITER

西山 武志

writer

埼玉県生まれ。大学在学中からライター業を始め、卒業後よりフリーランスとして活動。銭湯は見かけたら大体入る。パイプ椅子が並んでるような中華料理屋のあるお店通りが好き。

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