獅子舞にとって暮らしやすい都市とは?
生活の豊かさを測る新しいフレームを創造する
SHISHIMAI habitat city (Shibuya edition)
獅子舞にとって暮らしやすい都市とは?
生活の豊かさを測る新しいフレームを創造する
みんなで「同じ鍋のメシ」を食う、100BANCHの毎月の恒例行事「鍋BANCH」。2017年の10月にスタートし、今や100BANCHのGarage Program 採択プロジェクトの交流の場としてすっかり定着しています。最近では事務局とプロジェクトメンバーがコラボレーションで準備を進め、「バイオ鍋」「コーヒー鍋」「納豆鍋」といったメンバーの個性全開の鍋が並ぶようになりました。
2024年12月10日の鍋BANCHのテーマは「獅子舞鍋」。初見ではなかなか想像できないこの不思議な鍋はどのように開発され、当日にお披露目されたのでしょうか。その様子をSHISHIMAI habitat city(獅子舞生息可能性都市)プロジェクトの稲村行真の視点で振り返ります。
好奇心の眼差しで集うメンバーたちは、どこか楽しげで沸き立っていた。
そもそも今回提供した獅子舞鍋とはどのような鍋なのか、簡単にここで触れておきたい。
獅子舞のシシは、身近な獣が元になっており、猪、鹿、熊、カモシカ、ライオンなどと言われている。伝承は地域差があり、どの動物に似ているのかもさまざまだ。はっきりどの動物なのか断言できないことも多い。
例えばこちらは福島県の会津若松城で演じられる彼岸獅子の写真。このような「三匹獅子舞(一人立ち三頭獅子舞)」の形態は、猪や鹿と密接に関わりがあるとも言われるが、鳥の羽をつけている。ここには「鹿」「猪」などと特定できないような「異類」に対して、自然に対する祈りや畏怖の念をこめたとも考えられる。
身近な獣のハイブリット、あるいはその「あわい」を表現することで生まれた獅子舞。それならば、舞うという形ではなく食すという形で、それを体現することもできるかもしれない。
こちらの写真は鹿の肉である。「獅子舞の肉」なるものを作ったら、これがどう変化するだろうか?どういう感情が生まれるのだろうか?
もしかすると非常にありがたみを感じながらそれを頂くかもしれないし、意外と他の肉と食感は変わらないかもしれない。100BANCHに集うメンバーのプロフェッショナルな方々のお力を借りて、試作してみようと考えた。
獅子舞肉の開発チームができてから完成まで、少なくとも2ヶ月ほどはかかった。
獅子舞のモチーフとなる動物の肉を猟師の鈴木彩乃さんに調達していただき、また異種の肉を繋げて固着させるところを培養肉研究者の田所直樹さん(A cultured energy drink)や石尾魁大さん(バイオニート)にご協力いただき、「獅子舞肉」作りに取りかかった。
さて、獅子舞肉の完成までは協力者の方々の多大な試行錯誤があった。鍋BANCHのちょうど1ヶ月前に、猟師の鈴木彩乃さんから報告が入った。沖縄県の西表島で猟師のつながりあり、狩猟に同行したところ「リュウキュウイノシシが獲れた!」とのことだった。このイノシシの解体現場の様子はこちらのイラストをご参照いただきたい。
それとともに鹿の肉を買い取ったそうだ。肉が手に入るかどうか不安だったので、とても安心した。そしてメンバーみんなが「獅子舞肉作るぞ!」と盛り上がってきた。ジビエの肉が2種類揃ったので、ミックスさせて獅子舞肉を完成させることになった。
そこから本格的に、培養肉の研究をしている田所直樹さんや石尾魁大さんらに相談。タンパク質によって肉と肉とを繋ぎ合わせる技術を応用して、鹿と猪の心臓の肉を合体させることになった。単なる肉ではなく、心臓というところがポイントである。この技術は人間が怪我をした時に、かさぶたによって塞がるのと同じ原理のようだ。ラップできつく固定して、冷蔵庫に入れて、肉がしっかりと固まるのを待った。
そして鍋BANCHの前日には、見事に「獅子舞肉」となっていた!
なんだこの肉、この感覚…。しっかりと2種類の肉がくっついて、ひとつの肉になろうとしていたのだ。獅子舞の肉を作ったというのは全国でも初の試みだろう。最終的には獅子舞肉をチャーシューにして、しゃぶしゃぶの鍋として食べられるように準備を進めた。
鍋BANCHの当日は14時ごろから準備を開始。しゃぶしゃぶのタレは、獅子舞が盛んな全国3地域の名産品を元に作った。それが岩手県遠野市のジンギスカンタレ、福島県会津若松市の肉味噌タレ、静岡県掛川市のほうじ茶タレの3種類だ。
また、会場のレイアウトを決めて、実際に獲ってきた西表島のリュウキュウイノシシの捕獲や解体にまつわる写真や、上記3地域の獅子舞の写真などを展示した。
徳島県神山町で収穫したおいしいおいしい100BANCHのお米も炊いて、各自おにぎりを作って、獅子舞の顔(トマト?かぼちゃ?などと間違われたが、これは獅子舞!)をした海苔を貼れるようにした。
肉だけでは物足りないので、野菜鍋を追加して、鍋用の野菜をカットした。合計2つの鍋を会場に設置。さあ、いよいよ本番だ!
当日は20名以上のメンバーが獅子舞鍋を食べにきてくれて、本当に盛り上がった。
しゃぶしゃぶの肉を切ったり、火の加減を伺ったり、お皿を回したり、そのような協力の中から自然と会話が生まれていってホッとした。癖が強いと言われているジビエの肉だったが、それが奇想天外な獅子舞肉に生まれ変わった。そして、さまざまなご当地ダレとして味わうことができ、皆さんに「おいしい!」と喜んでいただけて本当によかった。
獅子舞の肉を実際に食べてみて、特にこれといった癖がある味ではなく、食べやすい肉だと思った。「これは鹿肉」などと言われても信じちゃうぐらいに、大きな違和感はなかった。不思議でかけがえのない食体験だった。当日参加してくれた皆様、そして獅子舞鍋の試みに協力してくださった事務局や協力者の方々に感謝したい。
チャーシューとなった獅子舞肉、美味しくいただいた。
当日の鍋BANCH、獅子舞肉をしゃぶしゃぶにする様子。
企画者側だった鈴木彩乃さん、田所直樹さん、稲村の3名。当日に石尾さんは来れなかったものの、大変お世話になった。