• リーダーインタビュー

素材も人も、世界はすべてつながっている。使い方のデザインで素材に命を吹き込む ——「LifehackMaterial」:五月女健翔

使われていなかった素材に、新たな命が宿る瞬間を見たことがありますか?

芝、井草、竹、そしてアルミフレーム。「LifehackMaterial」を代表として率いる五月女健翔(そうとめ けんしょう) は、こうした素材の可能性を引き出す「使い方のデザイン」を通じて、日常に新しい価値を届けています。

もともと医師を志していた彼がデザイナーへと方向転換したのは、子どもの頃から好きだったものづくりの感覚が突然呼び起こされたから。「思いついたらすぐ動きます」と話す五月女。何事にも動じず落ち着いた雰囲気の彼の中では、異分野も異文化も当たり前に自分とつながっていて、簡単に垣根を飛び超えているようにも見えますが、そこにはどのような想いがあるのでしょうか?

素材も人も、世界はすべてつながっているのかもしれない。しみじみとそんな気持ちにさせられる、様々なモノや人とコラボーションする五月女のストーリーをお届けします。

素材からはじまる、人と人の結びつき

——まずはDESIGNARTへの出展、お疲れさまでした。芝・井草・竹の素材から制作した椅子「HAZAMA」の展示、好評でしたね。展示を終えて今はどのような活動をしているのですか?

五月女:DESIGNARTの少し前から、素材の可能性を引き出す作品をつくり出し、販売することを目標に活動しています。今回の展示は、製品化に向けて一段とギアを上げるきっかけになりました。空間デザインの仕事をしている方からも「街中に家具を設置してみると面白いかもしれない」と声をかけていただいたんです。これまではイベントでの作品展示がメインでしたが、今は展示、販売、レンタル、いろいろな形でどんどんアウトプットしていけるように動いています。

日本最大級のデザイン&アートフェスティバル「DESIGNART TOKYO」で展示した作品『HAZAMA』。来場者は実際に座ってみながら、芝・井草・竹の素材のちがいを楽しんでいました。

——展示期間中、たくさんの来場者がLifehackMaterialのブースに集まっていましたよね。

五月女:僕もSNSで告知したり、大学の後輩に「イベントやるよ」と言ったりしていたのですが、ありがたいことに本当にたくさんの方に来ていただいて。なんでこんなに来てくれたんだろう、と考えるようになりました。僕は人間が好きなので、普段からいろいろな人と話していたのがよかったんですかね。

期間中はできるだけ在廊して、来場者とコミュニケーションを取るようにしていました。来場者からの感想で気づいたことがたくさんあります。たとえば、音。来場者の1人が「椅子に座る時の音が心地よさにつながっているのかもしれない」と感想をくれたんです。芝生が擦れる音、竹のカンカンという音、そうした「音」と「椅子」という観点は、これまでの僕にはないものでした。デザイナーなのに自分では気づけなかったことに悔しさも感じつつ、とても面白いなと思いました。

——出展者の中でも五月女さんの在廊時間は一番長かったとか。来場者と積極的にコミュニケーションを取っているからこそ色んな気づきが得られるのでしょうね。

五月女:目的があってもなくても、どこに行っても、出会った人とはなるべくコミュニケーションを取るようにしています。この前たまたま、うなぎの皮で財布やバッグをつくっている専門店を見つけたんです。そこで店長と話しているうちに仲良くなって、DESIGNARTに出展すると伝えたらわざわざ会場に来てくれたんですよ。うなぎの皮も素材です。僕たちはそれを使ったアウトプットができると思うので、一緒にコラボしましょう、と店長と話しています。その場限りではなく、ずっと続いていく関係なんじゃないかな。意図的にというよりも、自然とつながりが増えていく感じです。

 

思い立ったら即行動!医学部志望からデザイナーへ

——五月女さんの周りに自然と人が集まるのは昔からなのですか?

五月女:幼少期を海外で過ごした影響が大きいのかもしれません。アメリカのサンフランシスコで生まれて、それからは父の転勤でアメリカと上海を行ったり来たりしていました。今は日本で生活して9年目ぐらいです。僕みたいな境遇だとアイデンティティについて悩むこともあると思うのですが、なぜか僕はあまりそんな風には思わなかったです。国ごとに文化も思想も変わるけど、どこに行っても溶け込めていたと思います。新しいものを見たり触れたりするのが好きだったので「次はどこに行くのかな」とワクワクしていましたね。

あと、両親の教育も影響しているのかも。父も母も好きなことをどんどんやりなさいというタイプ。だから自分の興味の赴くままに人と話し、やりたいことをやって過ごしてきました。

——もともとは医学部志望だったとか。

五月女:僕は喘息持ちで、日本に来た時にとても親身になってくれる先生と出会ったんです。それから医師を志すようになり、医学部合格のために1浪しました。だけどセンター試験の1週間前に突然「デザインをやりたいな」と思い始めて。

——え! 1週間前。 何かきっかけがあったのでしょうか。

五月女:特にきっかけはなかったですね(笑)。デザインを学んだ経験もありませんでした。ただ、子どもの頃からものづくりが好きだったので、ゴミを集めて工作したり、親のパソコンを分解して組み立てたり……そんな体験が自分の中に残っていたのかもしれません。デッサンもスケッチもできなかったけど、センター試験を利用してデザイン学部に行こうと急きょ進路を変更しました。

僕は思い立ったらすぐにやるタイプなんですよ。初速がめっちゃ速いです。初めてのことでも、少しでもやろうと思ったらガツガツ動きます。だから大学の研究テーマも、プロトタイプをスピーディーに試しやすい「折り紙」を選んだのかも。折り紙は簡単だし、誰でも一度はやったことがありますが意外と奥深いことに気づいて、ずっと折り紙を研究テーマにしていました。

——LifehackMaterialのテーマである「素材」に注目したのはいつ頃からですか?

五月女:去年の夏ですね。街中の飲食店がビールケースを椅子、ドラム缶をテーブル代わりに使っているのを見かけて、本来とは違う使われ方をしているモノが世の中にはたくさんあるんだと気づいたんです。それから、本来は捨てられるはずのモノに新たな付加価値を持たせて再利用する、いわゆるアップサイクル的な路線で何かできないかと考えて、大学時代の友達2人とプロジェクトを始めました。

ある日リサーチで町工場を回っていたら、倉庫の裏に大量のアルミフレームが置かれているのを見つけました。状態はいいのに、ずっと放置されて埃をかぶっている。それを見た時に、このまま使われないのは寂しいと感じて、アルミフレームを研究することにしました。プロジェクトの入り口はアップサイクルでしたが、次第に素材の可能性を引き出す使い方の研究へと方向性が変わっていったんです。

空き瓶やビールケースなど、外出先で気になった素材は記録として残しているそう。

 

「みんなのデザイナー」になりたい、けれども

五月女:7月のナナナナ祭では、アルミフレームの椅子やランプを製作、展示しました。僕自身、椅子が好きなんですよね。でもデザイナーズチェアやビンテージ品だと、何百万円もするじゃないですか。購入しても、座ることなく大事なインテリアとして置いておく。絵のように飾るものならわかるけど、椅子って座るものだよな、と。値段の高さが座りづらさを生んでしまっているのだろうと考えて、気負わずにガンガン使える椅子をつくりました。

ナナナナ祭で展示したアルミ素材の作品。

僕たちが大切にしているのは、「素材の転用にちゃんと責任を持つこと」です。たとえば空き缶を集めたら、モニュメントなど何かをつくることはできますが、それをどのように使うかが僕たちは大事だと思っています。つくることがゴールではなく、ずっと使い続けられる実用的なモノをつくる。だから僕たちは、椅子やランプなど日用品に寄ったものをアウトプットすることが多いです。

——100BANCHの他のプロジェクトの方とコラボする機会も多いそうですね。

五月女:一番多いのがバイオチーム。なぜかすごく波長が合うんですよね。バイオチームって研究者の側面が強いので、モノはあるけどどう使えばいいかわからないといった状況になるらしくて。そこで僕が話を聞いて「こうしたらいいんじゃない?」と軽く意見を言うと「それめちゃくちゃいい!」と盛り上がります。

「発光生物ランプ」をつくっているプロジェクト「BioCraft」には、波の形を型どったランプシェードを製作、提供しました。ほかにも宇宙服をテーマに活動しているファッションプロジェクト「ICHIGIKU」と組んで、展示をしようという話もしています。素材ってものすごく幅広いので、いろいろなプロジェクトとたくさんの化学反応を起こせそうだなと考えているところです。

——いつも人に囲まれていて、活動はいい方向に進んでいるように見えるのですが、悩んだりすることはないのでしょうか?

五月女:いい意味で困ることが増えました。ほかのプロジェクトの人たちと話していると、やりたいことがどんどん出てきちゃうんです。素材ってすべてに関係するものだから、「みんなのデザイナー」になりたいという気持ちがあって。でも僕の体は1つしかないので、やりたいことが増える一方で困っています(笑)。

だから最近、チームづくりをめちゃくちゃ意識しています。1人だとできることが限られているし、気づけないことも多い。やっぱり仲間がいるっていいなと実感しています。

メンバーは全員、我が強くて。意見がぶつかるのは、それぞれにデザイナーとしてのこだわりがあるから。僕たちはそのこだわりをパッと形にして、納得させ合っています。デザイナー同士なので、実際にモノをつくって見せたほうが話が早いんです。「こんな感じなんだけど、どう?」「これはカッケェわ」「よし! これでいこう」というやり取りをよくしています。

でもどれだけメンバーと意見を交わしても、内輪だけでは視野が狭まっちゃうなと感じていて。ナナナナ祭やDESIGNARTのようなイベントでは、来場者と話すことで今までとは違う視点に気づけます。ギアが一段上がって次に向けてもっと頑張ろうという気持ちが強まるので、展示は僕らにとって大事な機会ですね。

 

「デザインって簡単じゃん」を今あるモノで共有したい

——これから先、LifehackMaterialではどのような活動をしていきたいですか?

五月女:具体的に考えているのが、プロダクトの販売です。公共施設や、地域の環境構築をおこなっている方たちにレンタルしてもらうような仕組みを考えています。今は自分たちでお金を出して活動している状態なので、メンバーがやりたいことを自由にできるチームにしたいなと。そのために、販売やレンタルで出た利益で研究を続けられるサイクルを構築できたらと考えています。まだ構想段階なのですが、最終的にはLifehackMaterialをサスティナブルなチームにしたいですね。

——その中で、どのようなことを伝えていきたいですか?

五月女:今の世の中は、新しい素材や技術に注目が集まりがちです。でも常に発明が生まれるわけではないし、いつか低迷期もやって来るのだろうなと思っています。その時に既存するモノの使い方が大事になるフェーズがきっとあるはず。そうした仮説のもとで、プロジェクトは活動しています。たとえば鉛筆は文字を書く以外の使い方があるかもしれないし、コップも水を飲む以外の使い方があるかもしれない。その使い方を僕たちはデザインという手段で伝えていきます。デザインで伝え続けることで、世の中がもっとクリエイティブになったらいいなとも考えていて。

僕らの展示を見た方の1人がSNSで写真を送ってくれたんですよ。「今までは何気なく街中を歩いていたけど、周りを観察するようにしたらこんな素材を見つけました」って。展示がきっかけで、1人の素材に対する意識が変わったことがうれしくて。ちょっと大袈裟だけど、100年後は身の回りにある素材を意識するのが当たり前の世界になってくれていたらいいなと考えています。

五月女:デザインって聞くと、ハードルが高いと感じちゃう人が多いと思います。でもまったくそんなことはなくて。たとえばDESIGNARTで展示した竹の椅子は、座面を真ん中で区切り、竹の向きを縦と横に変えました。たったそれだけ。誰でも思いつく簡単なアイデアですが、そのちょっとした工夫が座り心地に大きな変化をもたらします。

ほとんどの人が「簡単じゃん」と言うんじゃないかな。そうやって僕たちの作品を見て「こんなデザインでいいんだ」「これもデザインなんだ」と感じてもらいたい。デザインのハードルを下げて、自分もやってみようと思うきっかけになってほしいです。そうした思いも込めつつ、これからも僕たちは素材と向き合っていきます。

 

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