RGB_Light
光の3原色を利用して、ワクワクするような照明体験を。
「新しい光を作りたい」
一見、無謀とも思えるプロジェクトに挑んだ1人の女性。「光の三原則」といわれる赤、緑、青の光を使った、不思議でワクワクする照明器具を製作するRGB_Lightプロジェクトの活動をする河野未彩は、普段フリーのグラフィックデザイナーでありアートディレクターとしても活躍している。
2018年2月、CALM & PUNK GALLERYで開催された河野の初個展「not colored yet」では、試行錯誤の末に完成した「RGB_Light」の幻想的な光が広がっていました。平面的なグラフィックを活躍の場とする彼女は、なぜ立体的なプロダクトに挑んだのか?その真意を知るために、河野とプロジェクトのメンター・関谷武裕さんの対談を開催。そこには、新しい光によって導かれた、数々のストーリーが散りばめられていました。
河野:関谷さんとは前に一緒に仕事をしたことがあって。関谷さんは私の初期作品を知ってくれていて、共通の友達もいるから、なにか親近感っていうか、しゃべらなくても通じるような意識で接してました。
関谷:僕も河野さんとは、自然にメンターとしてプロジェクトに入れたかな。とはいえ、今回の展示を見てみると「やっぱ、よくわからない世界だな〜」って(笑)。どこから着想を得ているのか不思議なんだよね。
河野:実はRGB_Lightって、すでに美大の卒業制作で作ってたんです。関谷さんが私の初期のグラフィックを見ていたときには、すでに制作していたプロダクトで。でも、私はグラフィックで活動してたから、プロダクトとしてのイメージはあんまりないかも……。
関谷:うんうん。今回のプロジェクトが始まるまで、河野さんがプロダクトの人って意識は全くなかった。
河野:ですよね(笑)。
河野 未彩(写真右)
フリーランス/視覚デザイナー
多摩美術大学生産デザイン学科プロダクトデザイン専攻卒業。卒業後、グラフィックアーティストとして活動を開始。グラフィックデザイン、アートディレクション、映像監督、ライブ演出、などを幅広く手がけてきた。
関谷 武裕(写真左)
編集者。「トーチweb」主宰、編集長。
2006年リイド社入社。2013年に同社のリブランディングと新規市場開拓を掲げてトーチwebを企画。2014年8月に創刊し現職。
関谷:だから、とっても意外だった。でも、思い返すと河野さんと一緒に作った「FANTASTIC WORLD」は、すごくプロダクトっぽいものだったよね。
河野:そうでしたね。本全面に絵柄がでるようにデザインをして、シカクい地球儀みたいな装丁だったので。本の装丁とかCDジャケットって、プロダクトを作る意識でやってるんです。この作品は漫画家のひらのりょうさんの世界観がぎっしり詰まってるから、装丁に私の世界観は入れずに、ものとしてのサポートをしたいと思いました。地球空洞説のストーリーだったから、本を開いて地球の中をのぞくようなデザインにしたくて。
関谷:そういうのをサクっと作っちゃうからね。表紙だけじゃなくて、本の天地と小口も絵が繋がるように、表面を単純に印刷できたら簡単なんだけど、それは技術的に難しくて。中面の本文全ページの天地小口部分1ページごとに絵を印刷することの掛ける300ページ弱で絵に見えるようにするっていう…言葉だと伝わりづらいんで実物見て欲しいですけど、地球の中を覗いているような感覚に陥る見事なデザインなんですよ。
河野:この時もそうですけど……、あんまりプロダクトとグラフィックの境界線を持ってないんです。グラフィックはプリントアウトした瞬間に、プロダクトになると思ってるから、物質化したときに、どういうものが最もふさわしいのかを考えています。今回の展示会の作品のほとんどは、プロダクトの意識で作りました。
関谷:そのグラフィックとプロダクトの関係って、いつから意識してるんですか?
河野:んー、記憶をたどると大学受験で学科を選ぶころかな。当時、お菓子のPEZとかアメコミのフィギュアが大好きだったんです。そういうものを作りたいと思ったけど、それがもの(プロダクト)なのか、キャラ(グラフィック)なのかわからなかったんです。そこから、グラフィックとプロダクトの境界線って曖昧なものだと認識した気がします。私はグラフィックでも機能性のあるものが好きだったから、ふたつの中間を追求していったんだと思います。
関谷:河野さんの作品って感覚的な気持ちよさもあるし、計算されてる気持ちよさもあると思うんだけど、どんな制作過程でアウトプットされるの?
河野:色んなパターンがあるけど、大体は感覚から入って最終的に箱詰めしたように計算して作ります。どの制作にも共通するのが、海女さんのように深く潜りに行くことです。たとえば、アーユルヴェーダをモチーフにする場合は、アーユルヴェーダの料理教室に通ったり、診療を受けたり、瞑想したりして、自分の体感と脳が納得するところまで深く潜ってから、浮き上がってポップな意識で制作をはじめます。結果的にカチッとしたものになったとしても、制作過程には多くの有機的なプロセスが隠れているんです。
河野さんが装丁をデザインした「FANTASTIC WORLD」ひらのりょう 著、リイド社
関谷:ところで、今回プロダクトとして改めて「RGB_Light」プロジェクトに着手したわけだけど、どうして光を題材にしたの?
河野:光って無敵だと思うんです。
関谷:(笑)
河野:たとえば、「新しい絵を描きました!」と「新しい光をつくりました!」を比べると、圧倒的に光をつくった方が普遍性があると思うんです。光などの自然現象は人に大きな影響力を与えることだから興味がありました。
現象っておもしろいなって。三原色は混ざると白になるけど、RGB_Lightは光源にズレを与えて、影がズレる現象なんです。その現象自体にワクワクしてて。 発見は、野外のライブイベントでカラフルな照明がチカチカしている時に気づきました。それで卒制締め切り3日前だったので急いで作って(笑)。 卒業制作は「現象プロダクト」ってプロジェクトで、そのなかの1つがRGB_Lightだったんです。
関谷:そうなんだ。
河野:そのほかに、「虹が出る加湿器」を作っていました。湯気に対して、ある角度で光を当てると虹に見えるって加湿器なんです。日常の機能として加湿器は有効だし、それにプラスアルファで楽しめる機能を加えたプロダクトです。RGB_Lightとあわせて「現象プロダクト」って提案していました。
RGB_Lightは「光の3原色」を別々に照射することで、白い光の中に、7色のカラフルな影が現れるという不思議な体験を可能にしてくれる
関谷:卒業制作から10年以上たって、もう一度このライトを作ろうと思ったわけだけど、何かキッカケはあるの?
河野:100 BANCHに入る前から、この個展は決まっていました。これまでの集大成をここで展示したいなって考えたときに、初期のRGB_Lightが絶対に必要だと思ったんです。 調べてみたら、この現象はインスタレーションなどの演出で使われてる方もいましたが、照明器具としてプロダクト化されてはいなくて。 やっぱり私が作ろうと思ったんです。 でも初期のライトは既製品のパーツの組み合わせで作っていたから、もう少し自分の形にしたいと思っていて……。
それを考えていたころ「スーパースクール」という後藤繁雄さんの編集学校で同期だった方が100BANCHを紹介してくれて。内容を聞けば聞くほど「100BANCHに持って行けば、できそうだな」って感じたので、プロジェクトを応募しました。
関谷:そうなんだ。
河野:昔から私を知る関谷さんがメンターになってくれたからこそ、私のチャレンジをいちばんに面白がってくれると思ったんです。
関谷:僕は河野さんが、「やりたい!」って言うんだったら、「やったらいいじゃん」ってことしかないんだよね。もともと河野さんに対する信頼があったから、いいものを作ってくれるってわかってたしね。
河野:はじめに、関谷さんに「RGB_Lightはアートピースなのか、それともプロダクトなのか、どっちがいいだろう?」って相談をしました。私の活動を知らない人たちでプロジェクトが進んだら、「プロダクトで作ったら?」って言われてたと思います。でも、関谷さんは作家としての私も知っていたから、「アートピースがいいでしょ」って言ってくれました。それがとてもうれしくて。
結果的には、このライトはアートピースともプロダクトともとれるものになったと思います。その境界線を跨いだものが面白いという結論で。関谷さんのおかげで、かたくならずに作りたいものが作れた気がします。
関谷:UFOのモチーフってどこからきたの?
河野:RGB_Lightは意味的にUFO型になった部分もあるし、機能的な必然性でなった部分もあります。意味的な部分では、未知の体験ができることです。もっとシンプルで万人受けする選択肢もあったけど、「なんだ、これは?」って違和感をだしたかったんです。
もともと、ペンダントライトってUFOに似てるし、このライトは原理がアナログなので、レトロフューチャーなアダムスキー型にしました。
機能的な部分では、3つのレンズが必要だったことや、とても熱くなる3灯のLEDを放熱するために、アルミのヒートシンクが必要だったことによって、UFO型に近づきました。
関谷:UFOって僕は見たこと無いんだけど、「UFOが見えるか見えないか」って感覚を100BANCHっぽく捉えると、「イノベーションを生みだせるか生みだせないか」ってことに関係してるような気がする。
河野:おお、スゴい!
関谷:UFOを信じられなかったら、UFOとコミュニケーションはできないし、作れないし、接することもできない。
河野:今起こっている現象じゃなくて、未知なる想像をしていかないとその現実は現れないかも。
関谷:河野さんはUFOとコミュニケーションできそうだよね。
自らの前世がピラミッドの地下でUFOに念を送っている様子を表現した作品