性別や外見を気にせず、全ての人が垣根なく楽しめる銭湯を作りたい
- イベントレポート
生きているだけで誰かを抑圧し傷つけている現実と向かい合い、分断を超え縁が結ばれ共存できるために──ナナナナ祭2024を終えて
「ひとりひとり全員が違う」というのはこんなにも苦しい
LGBTQ向け銭湯・サウナつきシェアハウス作りに取り組むプロジェクトAll-gender Spa&Sauna with Sharehouse。民主主義において多数を取れないマイノリティが、「銭湯」というコンセプトのもとローカルな場所に「居住」することで多数を取り、作りたい社会を実現することを目指しています。
ナナナナ祭2024では、「自分の正義や嫉妬」と「相手の正義や嫉妬」の間にあるものを壁を通して見つめ直してみるブース「嫉妬と怒りの『壁』。あなたはどっち側?」を出展しました。その模様をAll-gender Spa&Sauna with Sharehouse(プロジェクト「人間湯」)の楽がレポートします。
プロジェクト「人間湯」について
「LGBTQサウナつきシェアハウス」を設立し、ジェンダー多様性を認め合うコミュニティを地域に育てることで民主主義の質を向上させ、主に家族制度などの法制度を変えてゆける仕組みづくりを目指す。
選挙が地域単位での票の寡多で決まる以上、地縁が強い層(10歳以下、高齢者、ローカルな商売や事業を営む人、高齢者)が政治にアクセスしやすく、逆に地縁が少ない層(セクシュアルマイノリティ、20代、転勤族、そのほか政治や法制度の変革を必要としながら孤立している層)は政治的に無力感を感じやすい。ちなみに社会学的には、地縁が強く、生まれた地域から出ずにローカルな人生を過ごす層を「Somewhere族」、進学・就職・転勤などライフステージの変化とともに移動したり都市への流入や流出をする層を「Anywhere族」と呼ぶ。後者の方が外国人やマイノリティにオープンで、リテラシーや学歴が高い傾向にある。
上記の構造から、日本の現行の選挙制度は地縁の強弱がそのまま政治へのアクセスの格差となっている。それを解決するには「Anywhere族」同士がまず繋がる場を作り、さらにはローカルな「Somewhere族」との対話ができるようデザインされた場を作る必要がある。
そうした背景から「LGBTQサウナつきシェアハウス」という構想が生まれたわけだが、ただその施設があるだけでは目的は達成されない。その空間においてイベントなどの仕掛けを行い、コミュニケーションを生むことが必要である。
今回の展示のテーマ「フィルター」は何を指しているのか?
今回は、「自分と他者の間にあるフィルター」について言語化してほしいと問いかけた。
「こちら」と「向こう」を隔てるものはいろいろある。例えば壁。あるいはフェンス。あるいは鍵のかかったドア。
「フィルター」もその一種であるが、その特徴は、任意の物質Aはスルリと向こう側へ行くことができ、任意の物質Bは通り抜けることができない。
そしてその「スルリ」がポイント。壁のように壊したり、ドアのようにカギを出して解錠するまでもなく、あくまでAにとっては、あたかも何もないかのように向こうへ行ける。
Aとは誰か。
- 身体面:体が丈夫な人、生物学的な男性、生理痛が少ない人、発達のデコボコが少なく精神的に安定している人、日中眠くならない人
- ジェンダー:おしとやかさを強制されたり、見下されたり、夜道に不安を感じたりしなくて良い「女性から見た男性」、誰かからネタにされたり逆に気を遣われたりせず自由に結婚ができる「セクシュアルマイノリティから見た男女」、プライドイベントで盛り上がれたりすぐ出会えたりして孤立しにくい「アセクシュアル/アロマンティックから見たLGBT」
- 能力面:高学歴な人、言語的情報処理に秀でていて「正しいこと」にすぐたどり着けるリテラシーの高い人、視覚/音感/味覚などの五感のいずれかが発達しそれを価値に変換できる人
- 経済面:資産がある人、不動産所有者、会社などの営利組織において権力が優位にある「経営者」
- 地域:「米軍基地の近くで生活していて日々怖い思いをしている人にとっての、米軍基地のおかげで商売が潤っている人」「沖縄の中の分断を知ることもなく、基地のリスクを沖縄に押しつけたまま安全を享受している東京の人」「スマホの材料であるレアメタルが原因で紛争に巻き込まれているコンゴ人から見た日本人」
- 宗教:「生まれた時から家族の属する宗教団体からの指示に従わなければ行けなかった人にとっての、学校の同級生たち」
- 人種:アイヌや在日朝鮮などのアイデンティティがない、「日本に生まれたヤマト民族」
ここに挙がった例はごく一部で、私たちは全ての人とバラバラに分断関係にある。
私たちはある局面においてフィルターに気づくこともなく自由に過ごしていながら、突然周囲との壁に縛られることもある。
なぜ私たちは生きているだけで誰かを抑圧しているのか?
- 同性婚が法制化されていない問題を「他人事」と思っている時点で、同性婚を望む人の苦しみを延長することにつながっている
- スマホを使えば、アフリカの国の紛争の原因を作っている
- 日本のインフラや教育や医療を享受している時点で、その資本の出どころである旧植民地からの搾取に加担している
「文化や習慣などの行動」「税金や法制度、商品などの経済活動など社会システム」を通じて私たちは様々な問題に繋がっており、結果としてその問題の一構成員となってしまっている。
誰かが書き残したフィルターを見て、どのような反応があったのか?あるいはなかったのか?
- 書かれている意見と違い衝突があるのは当然。しかしそれを表現する人が少ない
- ジェンダーや性のパネルについて、男性はほとんど一瞥しただけでスルー。「ぜひ見てくださいねー」と書くと「モテない」ばかりであった。女性にとっての「生理」「ハラスメント」「様々な加害」については文字情報のみで、実感を伴っておらず自分を当事者から切り離された存在と捉えているように感じられた。
- 「酒が飲めない」「貧困/ブラック労働」などに関しては、自己責任的な反論のコメントがあった。男性は1人で、それ以外は全て女性だったことは特筆に値すると思う。中でも訪れたレズビアンカップルのボーイッシュな人が、かなり自己責任論と弱肉強食の思想の強いタイプで、充実した議論になった。「男は身体的に強いわけだから稼げて当然」「私はいかに身の回りの人間を幸せにするために、その外の人間を犠牲にするかだけを考えている」などの発言があり、非常に参考になった。
この先の未来について-ラップバトルに希望を見出したのはなぜか?
とある意見に対してその反論があるだけ、言い換えればテーゼに対してアンチテーゼがあるだけでは、対立がそのままで終わってしまう。アウフヘーベンが必ず出る必要はなくても、そこに至る過程を表現することが大事だと気づいた。
ではその過程をエンタメにしたものは何か?という問いが生まれる。現状自分に出せたのは「ラップバトル」だ。まさしくこれが議論のエンタメ化にふさわしい。
今後は「選挙前ラップバトル」を主要駅の前で友人とやることにし、その調整に入った。
人間湯はどこを目指すのか?なぜ飲食店をやることにしたのか?
現状、銭湯を作る前にシェアハウスつきのイベントバーの設立を目指すことにした。サウナや銭湯は初期投資がかかる上に利益が出にくい上、自分にはサウナの運営側のスキルは特にない。
一方、飲食の技術はある。さらに、飲食の方がイベントはやりやすい。その理由から、一日ごとに様々なイベントがなされる場を赤羽に作ることを目標に頑張りたい。
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