• リーダーインタビュー

未然に防げる病を減らし、世界の健康寿命を伸ばしたい ——「cross-border washoku meal kit」:藤戸 美妃

「『Suits』という弁護士のドラマにハマった時は裁判を傍聴しに行ったり、政治に興味を持った時は政治家の方に会いに行きました」。

目を輝かせながらそう語るのは「cross-border washoku meal kit」の藤戸美妃。「やってみたいと思ったことはなんでも挑戦するタイプ」という彼女が現在注力しているのは「起業」。ハンガリーの医学部で学びながら、未然に防げたはずの病で苦しむ患者さんを救うことを目指しています。

海外医大生の彼女は、なぜビジネスの世界に飛び込んだのでしょうか?

アフリカで頭痛に悩まされた経験から、ハンガリーの医大生へ

——ハンガリーの医大生で、海外向けの予防医療のスタートアップをはじめるなど、グローバルに活躍されていますが、いつ頃から海外への関心を持っていたんですか?

藤戸:5歳ぐらいから両親に英語教室に通わせてもらっていて、最初は嫌だったのか、泣きながらだったらしいのですが(私は全く覚えていません笑)、続けていくうちに英語が好きになりました。小学校で1ヶ月に1度ぐらい英語の授業があって、他の子よりちょっとだけ英語がわかった。そのことが大きなモチベーションになって、本格的に英語を勉強するようになりました。そしてそのうち、英語に関わる仕事に就きたいと思うようになりました。小学校の卒業文集には、「私はまだ具体的に何をしたいのか分からないので、これからもっと英語を勉強して、いろいろなことに挑戦し、将来の夢を見つけたいと思っています。そして、世界で活躍する女性になりたいです。」と書いていました(笑)

卒業文集に書いた通り、英語を勉強したり、いろいろなことに挑戦する中で、国連職員だったら英語を使って世界で活躍できるんじゃないかな、と思うようになりました。それから様々なセミナーに参加したり、色んな人の話を聞きました。でも、実際に現場を見に行かなくちゃわからない。そう思って、高校1年生のときにアフリカに留学に行きました。

——アフリカでどんなことが見えてきたんでしょうか?

藤戸:国連職員になって現地で人道支援に関わりたいと思っていたので、タンザニアの無料のクリニックでボランティアをしました。日本ではありえないと思うんですけど、医師が診察をして、ボランティアが薬を処方する。でもそのとき、処方してと言われた薬が足りないことがたくさんあったんです。それまで「物的援助」より「人的援助」に関心を持っていたんです。人的援助の大切さは「魚を釣るより、魚の釣り方を教える方が大事」と言われます。でも、アフリカに行って、釣り方を教えるのは大事だけど、薬という釣り針がなかったら結局だめだと感じたんです。

藤戸:もう1つ、持病の偏頭痛のせいで、現地でやりたかったボランティアに参加できずにもどかしい思いをしたことがありました。頭痛なので致死性は低い病気とはいえ、私のように慢性的な病気で当たり前の生活が送れない人もきっといるんじゃないか。帰国してから調べてみると、頭痛が仕事や学業の妨げになっている人もたくさんいることを知りました。また、頭痛による経済損失も思った以上に大きいことを知りました。それから医師になるという選択肢を考えるようになりました。

——日本に帰国した藤戸さんは、さっそく頭痛を減らすための研究をしたとか。

藤戸:私の通っていた高校は、研究ができる学校だったんです。頭痛を誘発する因子と言われていて、ハムや加工食品に入っているグルタミン酸ナトリウムをどうやったらハムの中低減化できるのか、研究に取り組みました。それが面白かったんですよね。片頭痛に苦しんでいた経験と、研究の面白さが重なって、医師として臨床の研究に携わるために医学部を目指すことにしました。

——国内ではなく、ハンガリーの医大を選んだのはなぜですか?

藤戸:英語が好きで、将来色んな国で働きたいと思っていた私にぴったりだと思ったんです。ある日、ハンガリーの医大の宣伝記事が新聞に載っていて、母がその記事を切り取ってくれていたんです。ハンガリーの大学は日本に事務局があって、エージェントを通して入学手続きをする。「ちょっと怪しいな」と最初は思ったんですけど、調べてみたら、一番最短で色んな国の医師免許がとれることがわかりました。もともと、国連職員になるためにアメリカの大学を目指していたので、海外の大学に進学することにハードルはありませんでした。それに、ハンガリーの医大は、数学なしで受験ができるのも大きかったです。日本の医大ってすごく狭き門じゃないですか。ハンガリーの大学は進級が難しいんですけど、入学するための門戸は比較的開いている。この場所なら、私のやりたいことを一番叶えられると思ったんです。

 

実践的な実習の中で、予防できたはずの病で苦しむ患者さんに会う

——めでたくハンガリーの医大に合格して、学生生活はいかがでしたか?

藤戸:最初の3年間は受験生活みたいでしたね(笑)進級率が3分の1くらいなので試験が結構厳しい。毎朝早起きして、お風呂の時間も食事中も、毎日16時間ほど勉強。通学中も自分で録音した音源を聞いて勉強していて、とにかく勉強に必死でした。

——ハンガリーの医大はどんな雰囲気なんですか?

藤戸:日本の大学と比べたら、実践的かもしれません。

例えば、ハンガリー語の授業は、日本での英語の授業のように文法をあまり学ばない。タクシーの呼び方とかスーパーでの買い方とか実用的なことからはじめて、その後診察で使う言葉や病名を覚えます。だから、ハンガリー語で友達と日常会話はあまりできないですけど、医者として患者さんとのやりとりはなんとかできます(笑)

実習も、実践的です。3年生ぐらいから採血をしたり、「トラウマトロジー」という外傷治療の勉強をしていたときは、頭を切ってしまった患者さんの頭を学生が縫ったりしていました。患者さんが「痛い」と言って、すごく怖かったのを覚えています。でも、先生は「麻酔が効いているから大丈夫」と英語で言ったりしていて。ちょっとハンガリーの医療は受けたくないなと思ってしまいました(笑)

——大変そうですが、実際に患者さんに関わると色んなことが見えてきそうですね。

藤戸:4、5年生は、医師と一緒に色んな科で患者さんを診察する授業が増えました。遺伝性の病気やまだ本当に治療方法が見つかっていない病気で苦しんでる患者さんもいれば、その一方で、生活習慣病の病気やもっと早期発見できていれば解決できていたかもしれない病で苦しんでいる患者さんにも沢山会うようになりました。その時に「かかってしまった病を治療するのではなく、未然に病を防ぐことはできないのだろうか」と、予防医療に関心を持つようになりました。

 

スライドの作り方もわからなかった医大生が、ビジネスの世界に飛び込む

——予防医療に関心を持った藤戸さん、そこから起業を志したのはなぜでしょうか?

藤戸:医学部に入り、2年生ぐらいまでは研究者になりたいと思っていたんです。でも、実際にやってみたら、高校の研究と違って、大学は本当に細かい研究でした。何ミリマイクロリットルでも薬品をミスしたらやり直しで、しかも2、3年研究を続けて結果が出るかわからない。検定試験の点数や部活の陸上競技のタイムなど、昔から数字にこだわりすぎてしまう私の性格上、これはずっと続けることはできないんじゃないかな、と感じるようになりました。そんな中、3年生の頃に日本のヘルスケアのスタートアップのインターンを知人から紹介してもらいました。そのインターンがとても楽しかったんです。それまで医師と言えば、病院で働く医者のイメージしか無かったんですけど、ヘルスケアのスタートアップで、1つの事業で潜在的ないろんな患者さんを救えるあり方も医師の形としてあることを知りました。

——病院で働く医者ではない選択肢が見えたことと、予防医療への関心が結びついたんですね。

藤戸:そうですね、予防医療に携わりたいと思っていたのですが、病院は患者さんを治療するところで予防するところではない。でも事業という形だったら、予防医療に携われるのでは?と思うようになりました。そこでまず最初に日本が誇る和食を発信しようと思いました。日本は世界一の長寿国なんです。その要因は食文化が大きい。海外だと、和食は「美味しい」イメージはあっても、まだ日常には浸透していない。日本の食卓ではスパゲッティとかパスタとか洋食を食べるのは当たり前だけど、海外の食卓に和食が並ぶことはあまりないんですよね。和食を広げることで健康寿命を伸ばすことに貢献できるかもしれない。そこから、和食のミールキットの事業を始めようと思いつきました。

——医大生からビジネスって、全く違う世界ですよね。

藤戸:ずっと勉強だけしていた医大生だったので、とにかく最初は何も分かりませんでした。だから、なんでも調べて、「どうしたらいいですか?」と相談することから始めました。東京の「創業ステーション」にオンラインで話を聞いてもらったり、知り合いに繋げてもらった人に相談したり、手探りで情報収集していきました。

——100BANCHのGARAGE Programに入居した7月ごろには、VCの方と相談する機会も増えてきたとか。

藤戸:はい、学生起業家とVCが壁うちをするイベントに参加したことがきっかけです。医学生だったので、パソコンもあまり使っていなくて、スライドもどのソフトで作るかもわからない状態で、最初はぼろぼろでした。

同時期に、この事業でどんな課題を解決するのか、ペルソナのイメージを固めるために、体当たりで仮説検証をしました。渋谷で和食屋さんに並んでいる外国人にインタビューをしたり、ハチ公前で「どんな和食が好きか」ボードにシールを貼って選んでもらったり。羽田空港に1日中いたこともあります(笑)

人気のあった「麺」「鍋」「定食」3つの軸でサブスクをやってみようと動き始めた9月上旬ころ、経済産業省の海外スタートアップ支援プログラムでアメリカのボストンに行くことになったんです。「これはチャンスだ」と、鍋つゆや和食を買っていきました。

 

アメリカの東海岸で鍋つゆを配り、シニア層が抱える課題が見えてきた

——2週間のプログラムで色んな人に会ったとのことですが、いかがでしたか?

藤戸:スタートアップが集まるイベントで話を聞いたり、会場の外の公園で突撃インタビューもしました。鍋つゆを配って、海外の人には、意外と豆乳や辛い味の鍋つゆが人気なこともわかったりしました。でも、いまいち刺さってなかったんですよね。健康志向の人たちには「日本食は好きだけど、生鮮食品じゃないと健康的じゃないから、このサブスクはやろうとは思わない」と言われちゃって。これはダメだとわかりました。

でも、「おばあちゃんに食べさせてあげたい」って言われたんです。話を聞いてみたら、アメリカにも、日本と同じようにシニア層の高齢化と食事の問題があることが見えてきました。鍋は、簡単で栄養価が高くて、スープみたいに1つの料理で完結する。シニア層をターゲットにして、独り鍋のミールキットと、一緒に食べる人をマッチングするバーチャルの食卓のプラットフォームを事業にする形が見えてきたんです。

       

——なるほど。

藤戸:現在も検証を重ねています。シニア層の方にインタビューをさせてもらったり、実際にいろんなおじいちゃんおばあちゃんで趣味が合いそうな方をzoomでお繋げして、一緒にご飯を食べてもらったりしています。また、最初は海外での事業を考えていたんですが、高齢化問題は日本も最先端だなと思い、日本に帰ってきたときには、介護施設に傾聴ボランティアやアルバイトに行き、シニア層がどんなことに課題を感じているのか、お話を聞いたりしています。

でもやっぱり壁に直面することが多いです。おじいちゃんおばあちゃんを繋いでご飯を食べていても会話がうまく続かなかったり、お金を払ってまでは求められていなさそうだな〜と思ったり。今もまた「未然に防げるはずの病で苦しむ患者さん」を減らすにはどうすれば良いかと日々考えています。

——これからどんな活動をされていくんですか?

藤戸:まずは、EUと日本とアメリカのトリプルの医者免許をとろうと思っています。代表が医師免許を持っているのは予防医療の事業として説得力があると思うので。学業とビジネスをしっかりと両立していきたいと思います。

事業は、カナダとEUとアメリカのアクセラレータプログラムに採択をしてもらっていて、6月にカナダでブースに出展します。なのでそれまでに、プラットフォームを自分で作れるように、2月からはオンラインのエンジニアの塾に通って、今はエンジニアの勉強をしています。

——色んなことに精力的に挑戦していくんですね。

藤戸:多分好奇心が強い人間なんだと思います(笑)でも、大切にしたい軸はひとつです。どんな事業になっても、予防できたはずの病気で苦しんでる患者さんを1人でも救いたい。その気持ちはブレないと思います。

医大生からビジネスの世界に飛び込み、資金調達やビジネスを考える中で、利益を出すことの重要さはすごく感じました。でも同時に、自分が大切にしたいことからずれないことも同じくらい大切だと感じました。そう気づかせてくれたのは100BANCHで出会った仲間達です。事業をどうするか迷っていたときに、100BANCHで自分のやりたいことにパッションを持つ仲間たちに会えて、原点に戻れる感じがしました。自分の軸を大事に、5年10年先も挑戦し続けていきたいです。

 

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