Color Fab
消えない「虹」を3Dプリントする。 ー未来の色彩工芸ー
「本当の『和』は個性こそが大事で、それぞれの個性、主観があって、それぞれ違うからこそ、違う人同士がコラボレーションして、そこに価値が生まれていく。」
GARAGE Program 40期生「Color Fab」の大日方伸(株式会社積彩 代表)は、2020年11月に100BANCHに入居し、3Dプリンターで生み出された見る角度によって色が変わる花瓶「遊色瓶」の商品化に取り組みました。その後も活動を続け、2022年7月に株式会社積彩を設立。今年4月には「ミラノサローネ」に出展し、花瓶やランプシェード、スタンドライトや椅子を展示するなど、精力的に活動を展開しています。
そんな大日方が、会社をはじめた経緯や現在の活動内容、100BANCHに感じている魅力などを語ります。
株式会社積彩 代表 大日方伸(GARAGE Program40期生 Color Fab プロジェクトリーダー) 1996年東京生まれ。 |
大日方:100BANCHでは「Color Fab」というプロジェクトをやっていました。去年の7月に株式会社積彩という3Dプリント専門のデザイン事務所を立ち上げて活動しています。 3Dプリントで、花瓶やアクセサリー、椅子、ベンチ、建材など、幅広いスケールのものをデザインしてきました。ぼくたちは3Dプリントの「色」に着目して研究開発をしています。
大日方:3Dプリントをつくるためのデジタルコードをエンジニアリングする点において、ぼくたちの技術は非常に優れており、それを使うと形だけでなく色も含めて高度にデザインすることができます。見る角度によって色が変わるような不思議な現象をつくり出すものも開発しました。3色のフィラメントを同時に1本のノズルにギュウギュウに押し込んで混ぜていくことで、プリントされた時点で色がつき、塗り分けられた状態を実現できます。
大日方:挿した花の色に合わせて花瓶を回転させて楽しんでもらえるプロダクトなど、形や色をブラッシュアップして新作もたくさん開発しています。
大日方:略歴ですが、100BANCHのGARAGE Programに入っていたのが2020年。そこから大学を卒業し、そのまま株式会社積彩をつくりました。元々ぼく自身はグラフィックデザインなどをやっていましたが、大学に入って3Dプリントに出会い、それがいかに製造や流通を変える可能性があるか、というところに非常に感動したんです。でも、3Dプリントで生み出されているプロダクトは、どこかダサい。「これじゃあぼくが感じてる3Dプリントのワクワク感に世界が追いついていかない」と考えたんですね。じゃあまずは自分たちが3Dプリントでめちゃめちゃかっこいいモノをつくろう、と大学で色彩表現に目をつけ、それを研究する「Color Fab」というグループを立ち上げ、見る角度によって色が変わるような3Dプリント技法などを開発しました。そこからコンペで賞を獲るなどして仕事をいただくようになったので、その流れで今の会社を起ち上げました。
大日方:当時、研究グループを組んでいたメンバーと一緒に創業しました。今、3Dプリントは世界的に注目されてインフラ化していますが、使いこなす人たちがまだあまりいない状況です。そのため大学で専門的に勉強していたぼくらが、新しい職能として、ブランドや建築、材料会社さんなどと一緒に仕事をさせてもらっています。
大日方:会社のミッションは、3Dプリント製造の特注大量生産システムを構築することで、 ローカリティーや地域、個人が持つ固有性といった、その差の部分の価値を最大化することです。
大日方:強みは3つあります。1つ目は、一品生産ができること。2つ目は、今までのモノづくりのあり方と違って、1つ1つ形や色が違うものを人に届けることができるので、無限の選択肢があることです。現状のカスタマイゼーション、例えばナイキは靴をカスタムできますが、用意されたたくさんの種類のパーツを組み合わせることしかできません。3Dプリントだとデータを元にイチからつくれます。この無限の選択肢があることで、 人の個性に100パーセント寄り添えるモノづくりができるのではないかと思っています。3つ目は、低コスト。モノづくりをするときにカスタムや装飾を加えると、工数が増えてコストが上がります。その製造コストを下げるためにミニマルデザインが主流になってきた歴史があります。
一方で3Dプリントではどれだけ色をつけようが、形を装飾的にしようが、コストにほぼ影響がありません。その点で、新しいモノづくりのあり方、装飾的な価値、カスタムの価値を考えられると思っています。
大日方:そういったことを実践していくことで、ぼくたちは 「Symphonic Societyーー交響社会」 の実現を目指しています。「交響社会」とは「互いの差異を受け入れ、響き合う社会。」と定義します。それぞれが持つ異なる個性がクリエイティブの源泉となって、個性のかけ算によってイノベーションが生み出されていく社会です。「交響社会」という名前をつくりだすにあたり、「和して同ぜず」という言葉に影響を受けました。ぼくは日本の「和を大事にしましょう」のような「和」に対してすごく違和感がありました。元になったのは、儒教の孔子の「君子は和すれども同ぜず。」という言葉です。意味は「賢い人は、人と交響、調和を図るけれども安易に同調することはない」と語っています。
大日方:ぼくが日本の「和」に持つ違和感はこれだ、と思ったんです。今の社会はすごく同調的というか個性をなくして「和=無個性」という風潮がありますが、本当の「和」は、個性こそが大事です。それぞれの個性、主観があって、それぞれ違うからこそ、違う人同士がコラボレーションして、価値が生まれていく。それが本当の理想的な「和」の在り方だと気づき「交響社会」をつくりたいというビジョンを描いています。
実は、モノづくりの方面からも今の「同調社会」をつくりだす歴史があったと思っています。元々、クラフト社会はそれぞれが一点物をつくっていくもので、それぞれの差がありました。その後モノづくりの効率性が上がっていくと、商品・製品は便利になっていく一方、個別価値、ローカリティーがどんどん減っていきました。効率的な工業社会になって、たくさんの種類の商品をつくらなくてはいけなくて、そのしわ寄せが大量廃棄に繋がるなど、モノづくりはなかなかいびつな歴史を辿っています。
そうではなく、ぼくたちは3Dプリントで特注大量生産の時代をつくることで、失われたローカリティーを取り戻したい。これまで培われてきた効率性も守った状態で、それぞれの人たちが1品ずつ違うものを手に入れることができる社会を実現したいと思っています。
大日方:ここまで「個性」と繰り返してきましたが、では個性とは一体何なのでしょうか。自分なりの定義としては、個性とは「イノベーションの芽」と「ものさし」だと思っています。「ものさし」は人によって異なる形をしていて、異なる用途に用います。それぞれの測る尺度が違うので、様相が多様であればあるほど、世界の様々な情報が測られ、新たな視点がもたらされていきます。その新たな視点こそが「イノベーションの芽」であって、それぞれが「ものさし」を獲得できるように支援するのが、積彩が目指す社会でやるべきことだと思っています。
その上で、イノベーションに大切な個性を獲得するためには、どのようなことが必要なのか。個性を獲得するために必要なことを、5つのプロセスに整理してみました。
大日方:
ぼく自身は大学に入るまでは本当に無個性で、個性コンプレックスのようなものがありました。しかし大学で3Dプリンターと出会って、自分の色が変わる表現が、実験の中から出てきて、それがTwitter(X)で拡散されることで、他者の目に触れることによって「君はこういうことがしたいんだね」「こういう美しさを知ってるんだね」と言ってもらえるようになりました。他者からのフィードバックで「ぼくはこういう感じなのかもしれない」と個性を獲得していったように思います。
大日方:このプロセスの中では「発現」が圧倒的に重要でハードルが高いです。最初の「認識」は受動的に獲得できるため、比較的簡単です。基本的に、こんなのが好きだ嫌いだというのはみんな思っていることですが、2番目の「発現」からは、能動的になる必要があります。何か依代をつくるには圧倒的にパワーがいるので、そこをなかなか超えられません。超えてしまえばそこからフィードバックをもらって楽しい、と個性を獲得するループに入っていきます。ですが、そのループに入りきれない人たちがいます。それを打ち壊していくのが「発現」です。
大日方:3Dプリント製造の特注大量生産システムを通じて、誰もが好きに1品ずつ違うものを手に入れることができる。そこに自然と関わって、自然と消費する中で、自分らしさを込められる依代をつくっていくことができると思っています。その第1歩のため、魅力的にカスタムしたいと思える作品を3Dプリントでつくり、ポップアップ等で販売したりしています。
大日方:写真は青山のSPIRALに3Dプリンタを持ち込んで、その場で色を選んでいただいて、指輪やピアスを製造してお渡しするイベントでつくった商品です。
こういったことを経て「QUQU」という新しいブランドを立ち上げ、アクセサリや花瓶などを販売していこうとしています。8月23日から六本木のクマ財団ギャラリーでポップアップストアを開きます。合わせてECサイトも開設してネットからも買えるようになります。
大日方:「QUQU」は、個人が個性を獲得していくためのツールとしてのブランドですが、積彩としてはもっとスケールを大きくしていきたいと思っています。今も特注の家具や建材をつくっていますが、スケールが大きくなっていくと、個性というのが個人だけのものではなく、地域や場にも開かれていくんですね。
大日方:例えば、慶應大学の芝生の上にベンチをつくってほしいと言われた際には、3メートルのベンチをつくりました。芝は一様に緑と言うことが多いですが、よくみると、まだらだったり黄色の中に青が入っていたりします。それが芝を構成していることに気付いて、顔料を徐々に変え、まだらに積層していくことで芝の感じを演出したベンチをつくりました。このように、場にぴったり合うものを1日で一品生産できます。
大日方:また、マテリアルの部分でも、土地の固有性を引き出していけると思っています。チョコレートの明治さんと一緒にやらせてもらったカカオハスク スピーチスタンドですが、チョコレートをつくるときに、カカオハスクというカカオ豆の不要な部分がかなり出るんですね。それを新しい材料として樹脂と混ぜ、演説台をつくらせてもらいました。社長さんが演説するときなどに使います。このようなものは今だとサステナブルな文脈で語られることが多いですが、実は本質はローカリティーです。明治さんだからこそ、チョコを使った装飾的なものをつくることや、温かさが出るところがデザイン的な価値として重要だと考えています。
大日方:PAPER INTERIORは紙の廃棄物を樹脂と混ぜてつくった建材で、インキュベーション施設に入れさせてもらったものです。そこで出る紙の廃棄物を混ぜて建材をつくりましたが、同じデータを使ったとしても、例えばインドの紙だったらもう少しワシャワシャとなったりするかもしれません。データがどんどん世界中を飛び越え、地域のローカリティーと組み合わさってものがつくられることで、その場の価値がどんどん出てくる社会にしていけると思っています。
大日方:今まさに100BANCHのつながりでPanasonicさんが開発した「kinari」という素材をつかった3Dプリントのプロジェクトをやっています。木から採れるセルロースを使った材料なんですが、木もそれぞれの土地によって全然ちがう質感になります。ここに有機的な混ぜ物をすると新しい風合いが出たりするので、いろいろと試作させていただいています。
大日方:このように、卒業してからもいろいろなところでつながりを持って仕事をさせていただいてますので、100BANCHには本当に重要な機会を与えてもらったと思っています。
今回のお話の内容は、YouTubeでもご覧いただけます。