• リーダーインタビュー

闘病中の子どもたちのワクワクを引き出し「好き」を育てる Sparkle Ways Project :猪村真由

子どものころはどんな夢を描いていましたか? スポーツ選手や歌手、ケーキ屋さんなど将来の夢は人それぞれだと思いますが、誰もが「憧れの存在」に出会ってワクワクした経験があったからこそ、その夢を抱くきっかけとなったはず。

「子どもたちの“ワクワク”は生きるエネルギーである」というコンセプトを掲げる「Sparkle Ways Project」は、闘病中の子どもたちの 興味・意欲を見つける後押しや、発信する場を作ることで社会に問題提起を行い、地域や社会と共に作る小児医療への架け橋となることを目指しています。

このプロジェクトの冒険隊長(リーダー)の猪村真由さんは、現役の看護学生ながら、幼少期からダンスやミュージカルが大好きな表現者。医療と芸術といった異なる分野を融合し、ワークショップを提案しています。そんな彼女の率いるプロジェクトが見つめる、子どもたちの闘病生活に新たな「あそび」の創出する未来はワクワクに満ち溢れていました。

誰かの生き方が変わる転換点でありたい

——「Sparkle Ways Project」は、闘病中の子どもたちに向けたワークショップの実施や、ボランティアコミュニティの運営を行っていますが、この活動を始めたきっかけについて教えてください。

Sparkle Ways Project :猪村真由さん

猪村:小学校のときに小児がんを患っていた友達がいたのですが、学校に行くのを楽しみのひとつとして毎日リハビリを頑張っていたんです。私はその友達が徒歩で通学しているのを見たときに、「車で来ればいいじゃん」と思ったけど、彼女は「自分の足で学校へ行きたい」という気持ちが大きかった。そんな彼女に対して楽な解決策を伝えるのではなくて、一緒に頑張りたいという気持ちを引き出してあげるような関わり方がしたいな、と小さいながらに思っていました。また、私自身が子どもと関わるのがすごく好きなので、学生と子どもが関わるきっかけを作って、子どもの背中を押す存在になるような“転換点”になれたらいいなと思いプロジェクトを始めました。

——転換点とは、生き方が変わるきっかけや考え方が変わるきっかけということでしょうか?

猪村:はい。私が大学1年のときにインターンをしたNPO団体があり、そこは入院中の子どもたちがスポーツチームに入団して、スポーツに触れる機会をつくり、退院後にそのチームでプレーすることを目標にリハビリを頑張るという活動方針でした。そのときに、野球を全く知らない男の子が野球を経験したことによって「野球選手になりたい」と思い、そこから毎日リハビリを頑張るようになった姿を見て、私は心が突き動かされました。こんなにも子どもの生きがいややる気を引き出すことができるのかと思ったと同時に、入院中の子どもたちはまず出会いや体験がすごく足りていないというのを感じました。そこから病院実習に行ったり、病院の中でボランティアしたり、記事を読んで小児病棟の現場の現状を知っていきました。

また、私は中高時代にずっとミュージカルをやっていて、私の歌を聴いたり踊りを観たりした方々に「心が突き動かされた」とか「エネルギーをもらった」など言われることがとてもうれしかったんです。自分との関わりが誰かにとって大事な時間になったり、次の一歩のエネルギーをチャージするような時間になるといいなとも思っていました。

——100BANCH のプロジェクトページに「芸術×医療のクリエイティブを場所に惜しむことなくのびのびと実験してみる」とありましたが、そういった背景があるから医療と芸術活動を組み合わせたのですね。

猪村:私が小学生のころ、ダウン症の子どもとダンス教室に通っていたり、発達障害の子と合唱をしたりと、学校で健常者以外の子どもと芸術活動で交流することが何度もありました。その経験から、病気の子どもにとって芸術は誰にでも開かれた平等な領域であるとすごく感じました。そのため、私は「病気や障害があるから」というような垣根はなく、自分自身がその場にいることが芸術であり表現であるという思いがあります。それが芸術の醍醐味でもあるので、子どもたちの表現やアートを大切にして活動をしています。

——「Sparkle Ways Project」は2021年3月に100BANCHのGARAGE Programに入居しました。そもそも100BANCHはどこで知ったのですか。

猪村:100BANCHについては、「MUJO」の中澤希公さんが大学の友人でした。また「ema (e-kickboard sharing)」の中根泰希さんが大学のゼミの先輩で、ふたりの話とかSNSから自然と100BANCHの存在を知りました。今、私は看護学部に通っているので周りには医療系の友達がいい意味でも悪い意味でも多くて、他の領域の子たちとの繋がりや、一歩先を進んでいる先輩たちとの繋がりが多くなかったので、100BANCHに入ればそういった刺激をもらえるかもと期待していました。

——人との出会いや刺激を求めて100BANCH へ入居を検討したのですね。

猪村:加えて、私はミュージカルプロジェクト「Out Of Theater」のダンサーに登録していて、そのプロジェクトの活動経歴を調べていったら100BANCHにたどり着いたことも入居の動機ですね。入居後に「Out Of Theater」の代表・広屋佑規さんと100BANCHで再会することができました。ダンサーのオーディション時に「病院の中でミュージカルをしたいので、今度話を聞いてください」と話かけていたので、再会して「オフラインになったらぜひやりたいね」という前向きな話ができたときは、すごくうれしかったですね。

 

パレードからワークショップへ方向転換し得た希望

——実際に100BANCHに入居してどんなことに取り組みましたか?

猪村:入居当初は、入院中の子どもたちと作った“ワクワクする車椅子”などを使って、渋谷でミニパレードを行い、オンラインで病院に居ても体験できるというイベントを企画していました。でもコロナの影響でオフラインの活動ができなくなり…。プロジェクトメンバーたちは医療に対して当事者意識があるというよりかは、分野に長けている人をアサインしていたので、パレードという目標が崩れたときは正直焦りました。けれど、そこで実現したかった「子どもが楽曲を作る」とか「あったらいいなと思うものを車椅子で表現する」というアイデアを要素分解して、別のワークショップに落とし込みました。

ひとつはフィルムカメラを病院に送って、「病院の中を探検してみよう」という「院内探検」の実施です。いつも過ごしている風景をカメラを通して切り取ることにより、日常にあるワクワクを探そうというテーマのワークショップです。当事者の子どもたちがどんな生活をしているのかを子ども目線で院外に発信することにより、もっと子どもたちと関わりやすくなって欲しいという願いを込めています。


「院内探検ワークショップ」で撮影された写真(写真:プロジェクト提供)

猪村:「院内探検」では、実際に子どもが看護師さんに囲まれて笑っている写真や、廊下でリハビリを頑張る姿の写真など多くの写真が送られてきて、現場で子どもや家族、医療者がどういったコミュニケーションを取っているのかが伝わりとても温かい気持ちになりました。一方で、病院内はプライバシーに関わる情報が多いので、たくさん撮った写真を公にすることができないという壁にも直面しました。このワークショップを病院の正式なプログラムとして実証するにはハードルが高く、現在は院内や外来に来た人に向けて病院内での共有にまずはとどめてスタートし、徐々に共有できる層を広げていけるよう病院側とやり取りをしています。

——確かにプライバシーの問題など、病院へのアプローチは難しい部分がありそうですね。

猪村:病院って一般企業が入るというのがなかなか難しい閉鎖的な世界なんです。そのため小児病棟と契約を結んだNPOが病院に来てレクリエーションをしてくれるのですが、それが来なければ子どもたちが自分で何かをするしかなく、子どもたちが自らワクワクを探すとか、自分の好きなことに向き合うということが能動的には生まれにくい環境です。それも大きな課題ですね。だから私たちは、長期的にすべての病院でこどもたちへの研修プログラムとして導入できるよう検討しています。

——カメラを使った「院内探検」の他に「発明ワークショップ」も実施されたと伺いました。

猪村:はい。これは、子どもが自らワクワクを考えるという思考のプロセスを経験してもらうために、身の回りであったらいいなと思うものを描くワークショップです。例えば「親子丼が出てくる電子レンジ」を描いた子の背景には、病院食がおいしくないという理由や、副作用が強くてご飯が食べられなかったといった本当の気持ちが隠れています。そういった子どものイマジネーションと心の奥底の思いが浮かびあがるような絵をひとつの作品としてアウトプットすることにより、それを見た人が「この絵は何を思って描いたんだろう」と一緒に考えるきっかけになる。そういった形で社会に提示していきたいと考えました。

「発明ワークショップ」の質問例

——なるほど。子どもたちのワクワクを引き出すワークショップを行った後、GARAGE Programの3カ月の延長をされますが、それはどんな理由からですか。

猪村:最初の3カ月は、子どもたちとどういう関わり方をしていけばいいかと模索する時期でした。NPOに参加して闘病中の子どもを直接サポートするようなボランティアをした方がいいのか、一歩引いた立場から支援に興味がある企業や団体との接続に注力したほうがいいのか。当時はそのようにプロジェクトの方向性が確立できていなかったのですが、活動は走りだしていたので「ワークショップで集めた子どもたちの作品を社会へアウトプットするところまではちゃんとやり切ろう」と決め、3カ月の延長を申請しました。

——その後、Sparkle Ways Projectは2021年8月6日〜8日に行われた100BANCHの周年祭「ナナナナ祭」の福岡キャラバンに出展されました。

猪村:「ナナナナ祭」では「院内探検」の写真の展示と「発明ワークショップ」の作品を展示しました。来場者に「この絵は何だと思いますか?」とコミュニケーションを取りながら、入院中の子どもたちの気持ちを紹介しました。他にも、入院中に起こる課題のモデル事例をぬいぐるみで作って当事者意識を促すためのワークショップや、小さいお子さん向けに自分だけの薬を作るというワークショップも実施しました。

自分だけの薬を作るワークショップ(写真:プロジェクト提供)

——楽しそうな展示やワークショップが盛りだくさんですね。来場者の反応が気になります。

猪村:最初は素通りされるかと少し心配していましたが、足を止めて作品を見てくれる人がたくさんいたので、うれしかったですね。病院や入院は自分自身の体験じゃなくても家族の病気やケガや出産などで経験しているので、実はそれって身近なことなんだと気付きました。ボランティアでも多額の寄付でもなく、今回の展示のようなちょっとした気づかいで入院中の子どもと関われる仕組みづくりが理想だな、と明るい希望を持てた機会でした。

 

好きなことを突き詰めていい

——ワークショップやナナナナ祭への参加など濃厚な6カ月の活動期間だと思いますが、100BANCHでの印象的な出会いはありますか

猪村:入居当初の私は「好きなことをやっていたい」という気持ちと「看護師として働かなくちゃ」という気持ちで揺れ、好きなことを追求する自信が持てなかったんです。でも「natto pack2.0」のなっとう娘さんをはじめ100BANCHのメンバーは、自分の好きなことや心がときめくことをやり続けている。そんな人たちにたくさん出会えて、すごく背中を押されました。

——そういった出会いがあり、今の活動があるんですね。猪村さんにとって100BANCH はどんな存在ですか。

猪村:帰って来れる場所ですね。入れ替わりはありますが、なんだかんだずっと使用しているメンバーがいたり、たまに来ると再会できる喜びだったり、あとは100BANCH メンバーが登録しているコミュニケーショツールあって色んなプロジェクトの活動報告が知れるので、他のプロジェクトが頑張ってる姿が継続的に見れて刺激になっています。

——活動中の印象的な出来事があれば伺いたいです。

猪村:100BANCHで活動中の私は、直接子どもたちと向き合いたい気持ちがあると同時に、子どもたちへの社会的支援を促したいという気持ちもあり、思いが二極化していたんです。一般的な看護領域であれば“対子ども”に絞れるけれど、一方でチャリティーをしてもらえたら支援になるし、ボランティアに参加してくれたらうれしいし…でもそれ以外でできる具体的な社会的支援が浮かばない。そんなモヤモヤしているときに100BANCHの事務局の方に「看護領域の視点と社会的な課題解決の視点を持ち合わせていることが猪村さんのよさだから、それを強みに求めるものを明確にすれば、もっとまわりを巻き込みやすくなるよね」という言葉をいただき、「私だからこそできる方法を考えたらいいんだ!」と思えるようになりました。

——その答えは猪村さんの中で出ましたか。

猪村:まだ明確には出ていないのですが、物理的支援があればよいわけではなく、あくまでも“子どもたちファースト”で、丁寧に支援をすることができなくては子どもの成長にもならないし関係性を築くこともできないという意識で今は活動を続けています。私のベースにあるのは「子どもと一緒に子どもの目線で楽しむ」という考えなので、私が楽しんでいることが子どもたちの日々のやる気やエネルギーにつながるのであればいいなと思ってます。また、入院経験がない私だからこそあまり医療に寄りすぎない視点で、入院中の子どもたちを支える仕組みづくりをやっていきたいです。

——最後になりますが、猪村さんが描く100年後の未来について教えてください。

猪村:全ての子どもたちがワクワクをエネルギーにできる世界を実現したいですね。単なる支援ではなく、自分自身でワクワクの種を見つけて育める世界。そのワクワクの先には、病気や障害を理由に何か好きなことや挑戦を諦めなくてもいい社会が待っていると思うので、子どもの「好き」や「楽しい」の気持ちを大切にこれからも活動を続けていきたいです。

 

(撮影:鈴木 渉)

 

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