The Herbal Hub to nourish our life.
からだとローカルを元気にする「薬草カレー」づくり
こんにちは。「The Herbal Hub」プロジェクトの新田理恵と坂上美緒です。
いつも私達は、薬草という健康を高めてくれるハーブの文化や使い方などをリサーチしながら、いかに現代の食卓にインストールし、より健やかで豊かな食文化と社会を醸造していけるのか、という問いに挑戦しています。
今回、ナナナナ祭2020をきっかけに、改めて「健やかな食卓の未来とはどういったものなのか?」「セルフケアやセルフメディケーションはどのように進化していくのか?」という問いに向き合うことにしました。
食養生を教えてくれるAI 「Qusnoki(クスノキ)」を使い、回復法を学び、カスタマイズをするワークや回復しあえる社会への兆しを見出すトークを行ったオンラインプログラム「未来のセルフメディケーション 〜ハーブ×人工知能〜」の様子を新田と坂上がレポートします。
そもそも健康管理は、とても難しい。
まず、健康というものが、膨大な要素が複雑に関わり合ってできている動的に安定した状態なので、捉えることが難しいし、原因がシンプルではありません。その上、日常の習慣を変えることは環境やワークスタイルなど自分では変えにくい様々な要因が関わってくるので容易ではなく、改善もなかなか難しい。
そんな中で、どう簡単に自分の健康状態を把握し、無理なく続けやすくセルフメディケーションやセルフケアを取り入れられるのでしょうか?
実はこういった複雑系のことはAIと相性が良いんです。
莫大な要素や様々な可能性を算出するのは、彼らの助けを借りると良く、そこで、古来の知恵と現代のテクノロジーを掛け合わせ、未来のセルフメディケーションがどんなものだと良いのかを模索する実験とプロトタイピングを始めることにしました。
人工知能とハーブを使い、10年後の当たり前になっていそうな未来のセルフメディケーションを、今現在にインストールしたい。
その思いが、今回のプログラムに繋がりました。
食養生AI Qusnokiのトップページ。https://www.qusnoki.net/
新田は普段、管理栄養士/国際中医薬膳調理師として、一人ひとりの体調に合わせた食養生やおすすめの薬草を提案しています。しかし、一人の人が出会える人は限られているし、栄養についても食事の状況についても情報が莫大すぎて編集や判断が難しい。
直接会っていない人にも、難しい知識がなくても、簡単な設問から実践したくなる一歩目のアクションを導き出せるシステムを作れたら。
そんな想いで、中医学(中国の伝統医学)をベースに、機械学習のプログラムを得意とするシステムエンジニアと一緒に開発したのが「食養生AI Qusnoki(クスノキ)」(以下「Qusnoki」です。
「Qusnoki」は、簡単なライフスタイルや味の好み、体調などについての10問に答えると、その人の体調などの傾向と、おすすめの食養生や薬草を提案してくれます。使えば使うほどデータがたまり、その回答の精度が上がっていくという仕組みです。
名前の由来は「薬の樹」という語源をもち、人々の暮らしを何百年も見守ることができる樹木の「楠」からもらいました。
中医学では「気」「血」「津液」などの専門用語や、自然の理など抽象的で哲学的な概念も本来は入ってくるのですが、そういったことがわからなくても直感的に理解できるように、結果のカテゴリーの名称は「新月」「雲」「湖」といった自然のモチーフを使うことにしました。そのネーミングも、制作段階で一部公開しながら意見を募集して、みんなで作り上げて行くスタイルで取り組みました。
実際に稼働してからも「結果を『タイプ』と呼んでしまうと体質のようになかなか変えられないものと感じてしまうので『モード』と呼ぼう」とか、「『砂』と呼んでいた陰虚モードは『大地』と呼んだほうが齟齬が少ないな」とか「どの結果にも優劣はなく、その個性を大切にしたような、回答を読むだけで元気が出てくる文章にしよう」など日々ブラッシュアップをしています。
初期段階のQusnokiでは、入力すると8種類のモードの中から現在のあなたに一番近いものが表示されます。
従来の栄養管理は何を食べたかを記録・分析することを中心に行われ、その作業負担は大きい。それ対して、今回は体調や性格といった食を含めた生活を積み重ねた結果から食養生の提案やライフスタイルのアドバイスをするといった手法に変えてみました。
”食習慣と、性格と、体調は連動している”という、感覚値としてはあり得ると思っているけれど、まだ科学的に立証されていない仮説に挑戦したかったこともあり、そういったデータも頂戴して、これからの研究の余地を広げるといったことも踏まえています。
そうしてできた「Qusnoki」は、2020年7月中旬にローンチをしてから2〜3週間で350名以上の方に使っていただき、機械学習を始められる第二フェーズへと入ろうとしています。
初期段階でも、「心当たりがものすごくある…!」といった声がたくさん上がり、中には「DNA鑑定と同じ結果が出て驚いた」というような意見まで。また「自分に合ったものをおすすめされると嬉しい。つい商品を買いたくなった」という声も上がり、買い物体験としても新しい入り口をつくることができたようです。
約350名の方がQusnokiを使った集計結果。年齢分布と、一番右のパーセンテージはどの結果が何パーセント表示されたか。
「Qusnoki」のユーザーは、26歳〜45歳がボリュームゾーンとなり、健康への関心が高まったり食養生を意識するボリュームゾーンの40代以降よりも若い層に届けることができたのも本望であり、私達が起こしたかった変化でした。こうした早い段階での生活習慣のアプローチが、予防医療の推進につながると考えています。
約350件のデータをクロス分析にかけたところ、まだサンプル数が少ない状態ではありますが、全8モードの結果のうち「満月モードの人は喜びの感情が出やすい」、「新月モードの人は人間関係や怖さを感じにくい」、「砂モードの人は他のタイプより、思考停止や、ぼーっとしたりすることが少なく、安定感を感じている」といった体質と性格の関連性も見えてきました。モードごとの相性やうまく付き合うコツなども出すことができそうです。
また、梅雨の時期に行ったため、他の季節に入力するより湖モードが多く、雪モードが少ないといったバイアスもかかったと思われます。何回か挑戦しても同じ結果が出る人と、何回か行うと時間帯や体調によって選択が若干変わるので、結果が変動する人が出てきました。「Qusnoki」はその時、その瞬間の体調をとらえるツールとして、使うことができそうであり、その変化は何回も使いたくなる楽しさにつなげていけそうです。
2020年8月6日にオンラインでトーク&ワークショップを行いました
「メンタルヘルス」や「ダイバーシティの推進」といった言葉が、日々テレビのニュース番組からも聞こえるようになり、新型コロナウイルスの影響もあって今までとは違った形の体調不良も増えて来ている昨今。自分の癒しになるキー(行動)や、他の人に弱さを共有することができる場を見つけることの大切さを改めて感じています。
そこで今年のナナナナ祭では、病気や障害、貧困など、様々な生きづらさや困難のある人達をサポートするためのメディア運営をされているNPO法人soar代表理事の工藤瑞穂さんをゲストにお招きし、未来のセルフメディケーションについてトークセッションをしながら自分に合った回復方法を見つけていける企画を実施しました。
ウェブメディア『soar』
soarは、人の持つ可能性が広がる瞬間を捉え、メディアやイベントなどを通して伝えていく活動をしておられます。以前、私自身もひどく落ち込んだ時にグリーフケア(大きな喪失による精神的ダメージの回復)についての記事に非常に救われた経験があります。
困難や弱みと向き合うストーリーを共有したり、多様な人がつながるコミュニティや場を育むsoarのみなさんが感じていることや気付きに、慈しみを循環する未来のコミュニティや生きやすい社会の形のヒントがあるのではないかと思い、今回ご登壇をお願いしました。
プログラム当日、Zoomのチャット機能で工藤さんが参加者とのコミュニケーションを促すアナウンスをしていただいたおかげもあり、参加者もどんどん投稿。全体で盛り上がりながらトークが繰り広げられました。
イベント前半は工藤さんからsoarの活動内容や「BASIC Ph」というストレスコーピング(ストレスへの対処法)ついてなどお話いただき、その人に合う回復法についての解像度をぐっと深めていきました。
※「ストレスコーピング」…日常生活においてストレスを感じた時に、そのストレスと上手に向き合うための技術や能力のこと
ストレスに対して、なんとなくその場しのぎの行動をするのではなく、自分の特性や体質にあった適切な対応をすることで、ストレスとの自分らしい付き合い方を見つけることができる…。また、自分一人でなんとかしようとせず、カウンセリングやコーチングなどの第三者であり専門家の力を借りることの大切さや、認知行動療法を用いたオンラインサービスの事例も幅広く紹介してくださいました。
工藤さんのトークタイム。回復のための手法がとてもわかりやすく整理されている
イベント後半は「Qusnoki」を参加者に触れていただき、その結果と前半のストレスコーピングを掛け合わせて自分に合った回復方法をカスタマイズするワークショップを行いました。
参加者には「お金も時間も道具も使わず、今すぐできるケア」「15~30分程度でできるケア」「しっかりお金や時間をかけてするケア」の3つの回復方法について、最初は個人で考えていただき、その後に診断結果別に分かれてのグループディスカッションを設けて全員で自由に意見を交わしました。一人では思いつかなかった他の人の回復方法を教えてもらうことも、視野が広がってとても学びがありました。
参加者からは「各自工夫されているストレス解消法を知れてよかった」「意外と無意識に自分に合ったセルフケアしていたことが再認識できた」「自分の体質やストレスコーピングが何かが分かったので、今後は意識してケアしたい」などのご意見やご感想をいただきました。
今回のプログラムはチャット機能やZoomのブレイクアウトルーム(グループ分け)などの機能を用いて、オンラインイベントならでは良さも発揮できるように意識しました。それにより双方向のコミュニケーション設計となり参加者同士の気付きも多く起こっていたように感じます。セルフケアに関しては答えがなく、色んな方とお話をすることで見えてくる違いや自分の特性にも気づけるので、複数人で場を持って対話することは意義があります。できればディスカッションの時間をもっと長く取れるとさらに思考が深まるので、そこは次回に活かしたいと思っています。
また、「こういうタイプの方はこういうストレス解消法や食養生が合ってそうだという、他の人に対しての気付きにもなった」という声もいただきました。
このように自分とは違った体質や考え方の人とも思いやりをもって接していける、助け合えるようなつながりや機会を育んでいくこと。そして自己管理がテクノロジーが発達して様々なアプリやツールで簡単に行えるようになっている今だからこそ、うまく活用して「セルフ(自己)」の機能・できることを拡張していくことも併せて、未来のセルフメディケーションにつながっていくのではないでしょうか。こういった、起こしたい未来の兆しを手繰り寄せるような時間を、重ねていきたいです。
「Qusnoki」は現段階のハーブを乾燥させてお茶や雑貨などとして販売するという何百年も変わらないビジネスモデルや生活習慣から、一歩先の買い物体験や健康管理の楽しみを生み出してくれました。
食や伝統医療の世界にテクノロジーという私達自身からしても馴染みのなかった異分野をぶつけて新しいものを作れたのは、ナナナナ祭というきっかけがあったこと。そして多様な分野の人達が集う100BANCHで出会ったAIやテクノロジー系に強い仲間が助けてくれたお陰で形にすることができました。
ゲームチェンジを起こす真新しいものは、いつも各分野の最先端か、分野と分野の交点などの境界線上に生まれる。
「Qusnoki」はさらに、複雑で最適なリコメンドをできるようになったり、薬草に限らず幅広い提案ができるようになったり、地域性、季節性、年齢、性別など更に多様な情報を精査できるようになったりと、進化していける余白がたくさんあります。
コラボしたい方、一緒に育てていきたい方など募集していますので、ぜひお声がけいただけると嬉しいです。
そして、セルフメディケーションの選択肢や可能性もぐっと切り拓いていき、健やかな暮らしと社会をもっと手軽に広げていける未来を祈って。
私達も、まだまだ模索を続けます。
■関連リンク
ウェブメディア「soar」
https://soar-world.com/soarの回復力やBASIC Phなどに関する関連記事
「誰でもみんな「回復する力」を持っているーー新井陽子さんに聴くストレスやトラウマとのつきあい方」
https://soar-world.com/2018/02/28/yokoarai/食養生AI Qusnoki
https://www.qusnoki.net/伝統茶{tabel}
https://tab-el.com/
■新感覚フィットネス「鍛えて貯める☆筋肉マイレージ」
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