• リーダーインタビュー

世界が挑む『情報取得』の課題は、身近な手触りから:Filter Bubble Busters 小山耕平・高嶺航、メンター・林千晶

誰もがスマホを手にするようになり、知りたいことがあれば「検索」するのが当たり前となった時代。各種ニュースアプリやSNSが浸透しつつある今、指摘される課題のひとつが「フィルターバブル」です。

フィルターバブル:インターネットで、利用者が好ましいと思う情報ばかりが選択的に提示されることにより、思想的に社会から孤立するさまを表す語。サーチエンジンなどの学習機能によって、利用者の望む情報が優先され、望まない情報から遠ざけられる様子を、泡の膜に包まれている状態にたとえたもの──。

小学館『デジタル大辞泉』解説より)

 

この課題の悩ましいところは、インターネットサービスの巨人であるGoogleやYouTube、Twitterなどは、利用者が好むであろう情報を効率的に提供していること。フィルターバブルの問題を認識しながらも、解消を同時に考えなくてはならない矛盾があります。

この厄介な課題に、自分たちなりの解決を図ろうとする若者がいました。100BANCHに入居した、「Filter Bubble Busters」の小山耕平(こやま・こうへい)、高嶺航(たかみね・わたる)です。

左から小山耕平、高嶺航

「フィルターバブルを解決するサービスを作りたいね、とふたりで話したのがスタートでした。アドバイスをしてくれるメンターと、実験のための場所が欲しいと考え、アクセラレータープログラムを調べていくうちに、100BANCHに出逢いました。社会へ提案する実験的なサービスを作りたい考えと相性がよく、応募してみたんです」(高嶺)

当初の想定は、フィルターバブルを低減する新しいメディアプラットフォームを作ること。意気込んだふたりの思いは、3ヶ月のプログラムを経ていくなかで、まったく異なる形で結実していくことになります。小山、高嶺に加え、メンターの林千晶を交え、その過程とこれからを聞いてみました。

 

「誰か一人でも会いたい」と思えば、メンターと面接できる可能性がある

画面右下がメンターの林千晶。取材はオンラインで行いました(2020年5月)

小山と高嶺が挑んだ「Filter Bubble Busters」は、2019年9月に100BANCHのGARAGE Programとして入居。クリエイティブ・カンパニーのロフトワーク共同創業者である林千晶をメンターに迎えました。

ところが、彼らの応募した「フィルターバブルを解決するウェブメディアプラットフォーム」は、誰もが意識する難敵。それに無邪気にも挑戦しようとする姿勢が表れたプレゼンと資料に、入居審査に当たったメンターたちは戸惑ったといいます。「全員が反対しても、誰か一人が気になったら、まずは会ってみる」というスタンスから、林はふたりと面会を決めました。

「彼らはお金を儲ける手段としてのビジネスではなく、社会に対する問題意識が活動の原点になっていましたが、構想していた方法はアンバランス。でも、彼らのモチベーションによって、別の取り組み方があるからもしれないと思って、まずは会ってみたんです」(林)

この面会はFilter Bubble Bustersにとっても渡りに船。林はジャーナリズムにも造詣があり、デジタル領域でのクリエイティブやイノベーションでの経験が豊富。ふたりは「一番にメンター希望者として志望した」「林さんしかいない」と思っていたほどでした。

 

メンターの伴走で課題とプロダクトの根本的な捉え直しができた

林の感じた可能性から、100BANCHに入居が決まったFilter Bubble Busters。ところが、自分たちが取り扱おうとしていた構想の大きさを指摘され、現実可能性を鑑みたアイデアへとブレイクダウンしていきます。大きな変化は、そもそもフィルターバブルという問題点を多くの人が理解していないのではないか、という課題の捉え直しにありました。

「3つほどアイデアを考えて、仮説検証をしました。そのうち、2019年10月に行われた『OKTOBERFEST -100BANCH 秋の芸術祭-』といった機会も活かし、100BANCHに入居する他のグループとも話ながら、ひとつの形になったのが“あべこべ本棚”です」(小山)

(2020年1月、神奈川県の私立高校にて「あべこべ本棚」のワークショップ実施風景)

当初の計画では、オンライン上のプラットフォームを作る予定でした。しかし、約400人のオンラインアンケートによる課題の捉え直しを経て、彼らなりに選んだ新しい手段は、オフラインのイベント会場や学校の本棚に、フィルターバブルを知るための企画を展開することです。

たとえば、相反する主張を持つ(ように見える)本の『嫌われる勇気』と『嫌われないコツ』、『だから日本は世界から尊敬される』と『だから日本はズレている』を並べてみる。それらの主張や思想の両面に触れられる「本棚」を構築することが、フィルターバブルという問題点を知り、気づくきっかけになると考えたのです。

「プロトタイプやヒアリングを経て、フィルターバブルが認知されていない段階だと気づいたんです。意識調査をしてみても、確かにそれが感じられました。メディアプラットフォームは解決を考える手法でしたが、もっと啓蒙から始めるべきなのだと。もし、100BANCHに居なければ、僕らは“象牙の塔”に入ってしまっていたでしょう」(小山)

※研究者や芸術家などが、現実社会から離れ、疎遠になること

 

予定不調和な着地は、むしろ目指していくべき

想定していた形と違ったアプローチが見えてきた──Filter Bubble Bustersにとっては、予期せぬ展開でした。ところが、メンターの林は、「思わぬところへ着地した」ことが必要でもあったと話します。

「私たちロフトワークは創業20年経ち、今でこそ看板のひとつになっている『デザイン経営』も、最初から見えていたわけではありません。有識者会議に招聘され、語り尽くせないほどに喧々諤々の議論から導き出した指針なんです。つまりは、“予定不調和”の産物。これからビジネスを続けていく上でも、予定不調和の発見が次につながっていくことがイノベーションのチャンスなんだなと思って、頑張ってほしいですね」(林)

ふたりではじまったFilter Bubble Bustersが、最初から予定不調和を求めるのは、きっと難しかっただろうと彼らは振り返ります。メンターの林千晶との面会が、一種の締め切りのような効果となり、変革を促したのです。

100BANCHでは自由な活動が認められる一方、メンバーから希望を伝えることで、メンターとの定期的なミーティングを設けることができます。ふたりは「大学の研究室で自家発電していただけでなく、しっかりと見てもらえる人を相手に、仮説検証サイクルを回せたことは大きな前進だった」と言います。言わば外圧的アプローチにより、新たな進路が示されたのです。

(毎月行われている審査会の様子。2020年2月撮影、photo:鈴木渉)

林千晶は彼らに、文化人類学者の川喜田二郎の著書『発想法』を引きながら、引き続き在野からの研究を続ける必要性を説きました。

「世の中には3つの科学があると、川喜田二郎は言います。机上の実験を指す書斎科学、そこから派生する実験科学、それから野外科学。Filter Bubble Bustersがしていたのは、まさに野外科学で、それこそが大切なんですよね。川喜田二郎の考えを借りれば、イノベーションの種は野外学習にあり、そこで生まれた種を伸ばし、深められるかが大事。問題意識を持ったら、まずは野外に。その考えは、これからのふたりに役立つと思う」(林)

フィルターバブルはもともと、SNSなどが生まれる前から唱えられてきた問題でした。地理的要因、階級、性別、年齢、学歴、接触メディア……それはデジタル上で見られきだけではないようです。

「100BANCHでオフラインやアナログも含め、リアルなフィードバックをもらえました。より解決したい問題や原因がシャープに、根本的な問いを見つめ直すことができましたね」(小山)

あべこべ本棚”の開催が難しくなった現状にも、ふたりは活動で得た手応えを頼りに、活動をより広めていく想定でいます。

「学校などのリアルな場所を主体に進めていきたいです。あとは、自分にとって興味のないものばかりが出てくるTwitterのようなサービスを考えています。“逆パーソナライズ”みたいな志向で、自分たちなりのフィルターバブルの打破を考えたいですね」(小山)

■あべこべ本棚 はこちらから

https://abekobe-books.studio.design/

 

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