LEADER INTERVIEW

2019.12.18 Wed

ホスピタルアートの力で新たな病院像を。:PAIN PAIN GO AWAY 中澤希公さん×鈴木敦子さん対談セッション

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「アートを通して病院を楽しく明るい空間にしたい」
小さな頃からバレエを習い、高校3年の春までは創作ダンス部に所属。ダンスに夢中だった少女はいつしか、ホスピタルアートという分野に興味を持ち始めました。

2019年7月、100BANCHの門を叩いた中澤希公さんは現役の高校3年生。受験を控えながらも長年の目標へ向けた一歩を踏み出した彼女は、100BANCHのメンターであり、NPO法人ETIC. 理事・事務局長を務める鈴木敦子さんが言う「想像を絶するスピード感と行動力、巻き込み力」で、プロジェクトを形にしていきます。

「100BANCHのリーダーインタビューに出てみたかった」と話す中澤さんですが、その初々しさとは裏腹に、鈴木さんを始め周りの大人たちの心を動かすほどの熱い情熱の持ち主。今回2人の対談によって、どのようにプロジェクトが動いていったのかを紐解くうち、常識や枠にとらわれない若いエネルギーの強さと尊さを目の当たりにすることとなりました。

(執筆:濱安 紹子、写真:小野 瑞希)

「最終的な目標は病院の建物自体をデザインすること」だという中澤さんが、医療という分野に興味を持った発端は、中学3年生で経験した母親の病死でした。さらにその後、アメリカ・ボストンの語学留学中に病院訪問の経験が、彼女が現在進めているプロジェクトの方向性を決定づけることになります。

 

ーPAIN PAIN GO AWAYの中澤希公さん(左)

 

「留学先の学校が行なっているプロジェクトの一環で、ボストンの病院を見学したんです。そこには小鳥のさえずりが聞こえるような森林に包まれた部屋、患者さんの宗教ごとに分かれた部屋などがあって、日本の病院との違いに驚かされました。その時に、いつか自分もこういう病院を作りたいって漠然と思ったんです」(中澤さん)

 

大きな夢を日本に持ち帰った中澤さんですが、その夢を実現するために一体何をすればいいのか分からず、勉強と部活に励む高校生活を送っていました。しかし、奇しくも彼女が通う私立高校は100BANCHのそば。毎日の登下校中に通り過ぎる建物への興味から、そのドアを叩き現在へと繋がります。100BANCHを訪れた最初のきっかけは、入居プロジェクトである「日本かくれんぼ協会」主催のイベント。そこでの刺激的な出会いに感化され中澤さんは、「自分のやりたかったことが叶うのでは」と期待を寄せてエントリーを決意したそうです。「部活を引退して将来について考えていた時期だった」という中澤さん。折しも彼女が長年打ち込んだダンスから距離を置いた春の出来事でした。

PAIN PAIN GO AWAY

「PAIN PAIN GO AWAY」プロジェクト詳細ページはこちら

ーメンターのNPO法人ETIC. 理事・事務局長 鈴木敦子さん(右)

 

中澤さんを採択したメンターの鈴木さん。今でこそLINEで気軽に連絡を取り合う近しい仲だそうですが、中澤さんがエントリーの際に送った応募用の意気込み動画を見て鈴木さんは目が点に。「彼女が送ってきたのは15秒くらいのダンス動画。掲げていたプロジェクトとのギャップがすごくて、『なんでダンス?』って不思議でしょうがなかった(笑)。これは一回会ってみなきゃ良く分からないと思いました」と鈴木さん。

しかし、この戸惑いは最初に行った彼女との面談で払拭されることに。「『このプロジェクトをやらなきゃ、私の人生が進まないんです』って言われて、ものすごい情熱を感じました。『あ、きっとこの子は100BANCHに入らなくても、いつかこれを成し遂げるんだろうな。じゃあ、せっかくだしここで実験してみてもらいたい』って思いましたね」(鈴木さん)

 

ー当時の動画を振り返る鈴木さん(右)と赤面する中澤さん(左)

 

そうして決まった中澤さんの100BANCHへの入居。

  1. 多くの人が集まる渋谷で病院に関するアンケートまたインタビューを実施。
  2. そのアンケート結果を元に、未来の病院像をいくつか提案。
  3. 実際に病院でのホスピタルアートを行う。

という3つの実験を行うことになります。「入居してからの1ヶ月は何からスタートしていいか分からなかったので、ずっと鈴木さんに相談に乗ってもらっていました」という中澤さんですが、程なくして学校の友人たちをチームとして動員(その時の誘い文句は「今日暇?」だったそう。その剛腕ぶりに驚きが隠せません)。鈴木さんの思いも寄らないスピードでプロジェクトを進めていったそうです。

 

「どんどん友達を巻き込んで、気づいたら勝手にチームが出来上がってたんです(笑)。最初はそのチームに向けてレクチャーというか、プロジェクトをどこから進めていくかという話し合いをしたんですが、思ったより早いんですよ、テンポが。『こういう所が参考になるんじゃない』って言ったらその場で調べて、そこでもう相手に連絡してアポ取っちゃう勢い。で次会った時には、『先日のところへ行ってきました』みたいな。感心しちゃいました」(鈴木さん)

 


ー近況についても報告するまるで親子のような関係

 

 

「ますはヒアリングが大事」と教わった中澤さんは即行動に移ります。「ホスピタルアートをスウェーデンで行なった経験のある赤羽美和さんを始め、デジタルホスピタルアートの方、理学療法士さん……色々な方にお話を伺いました。友人と一緒に病院の近くに立って、白衣を着た通りすがりの方に直接アンケートを取ったりもしました」とのこと。100BANCHへ入居した最初の1ヶ月で、できる限りのヒアリングを行ったそうです。

 

「まだ高校生だし、きっと3ヶ月の入居中にプロジェクトを動かすのは難しいんだろうと思ってたんですが、全然違いました。想像よりもずっと早いスピードで物事が進むんです。彼女たちの場合、発車してからやる内容を考えていくんですよね。」と、その行動力とスピード感、そして巻き込み力に鈴木さんも感心したそうです。

 


ー介護老人保健施設での様子

 

そんな努力が実を結び、介護老人保健施設で最初のイベントを開催することになった中澤さん。「赤羽さんにヒントを頂き、野菜をスタンプにして紙皿に押すという紙皿アートのワークショップをやろうと決めました」と、施設で何をやるかは、持ち前の“動いてから考える”イズムにより後々に決まっていったそう。しかし、ワークショップの対象者は、それまで身近な存在ではなかった認知症患者。現場では予想外の苦労を強いられることになりました。

 

「患者さんの部屋に迎えに行くところから始まって、車椅子を押したり身体を支えたりといったサポートも。ワークショップ自体は楽しんでくれた方もいれば、途中で嫌になって部屋に帰ってしまった方もいましたね。もっと内容を分かりやすくしたり、自分たちも楽しめるものにしていきたいと感じました」と、苦労と反省点を語る中澤さん。それでも出来上がった作品の多くは予想以上の仕上がりで、2019年10月に開催された『OKTOBERFEST』の出展ブースにも飾られ、来場者からも好評だったそうです。

 

 

なお、このワークショップの活動は現在も継続中。ちょうどこの取材前日には、ツリーを作るクリスマスへ向けた試みが行われ、来年春には患者さんたちのアート作品を東京・池尻大橋にあるスターバックスに展示する企画も予定されているとのこと。

現在、大学推薦入試の真っ最中。「自分のプロジェクトを進められたってことだけじゃなくて、周りにいる100BANCHメンバーに出会えたことで刺激をもらったことが良かったです。ここで出会った人はすごい人ばかり」と、9月末に卒業した100BANCHでの3ヶ月を振り返る中澤さん。入居中は積極的に様々なメンバーとのコミュニケーションを図り、各プロジェクトのビジョンを聞き回ったことを明かしてくれました。あるメンバーには入試面接の練習をしてもらったこともあったのだとか。

 

 

中澤さんの目下の悩みは大学の進路。「病院をデザインする」という最終的な目標を叶えるために、建築と心理学という異なる分野を学びたいと語ってくれました。「空間デザインを勉強するために建築を学ぶのか、あるいは色が及ぼす影響など知るために心理学を学ぶのか、大学でどういう専攻を選ぶべきか迷っている」そうですが、いずれにしてもゴールは同じ。鈴木さんが太鼓判を押す彼女の推進力をもってすれば、自ずと道が開けてくるはず。1時間程度のインタビューでそんな風に思わせてくれた中澤さんの歩みは、きっとこれからの日本の病院像を変えてくれる。そう期待せずにいられない力強いものです。

 

WRITER

濱安 紹子

ライター

猫と布団をこよなく愛する、三足の草鞋ライター。音楽メディア、WEB系広告代理店での勤務を経てカナダ・トロントへ。 現地の日系出版社にてライター業に携わった末、帰国後よりフリーランスライターとしてのキャリアをスタート。 その傍らで自身の音楽活動、酒好きが高じてバー営業も行っている。

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