人類共通の”食”を通じ、誰もが夢を語らう場を作り、日本に限らず世界から夢を集める
polca Cafeteria
人類共通の”食”を通じ、誰もが夢を語らう場を作り、日本に限らず世界から夢を集める
「フレンチトーストはいかがですか?」「お代は夢ひとつです!」
100BANCHによる年に一度の大イベント「ナナナナ祭 2019」期間中のある日の午後。100BANCHの1階にあるカフェ「LAND」前のスペースで、お揃いの赤いバンダナを巻いた子どもたちが、大勢のお客さんを前に元気に声をあげています。
これは、子どもたちがスタッフをつとめる1日限定のカフェ「コドモpolca食堂」。「夢」をキーワードに意気投合した100BANCHの2つのプロジェクト——クラウドファンディングサービスを活用して夢に向かう大人を応援する"0円"食堂の運営をおこなう「polca食堂」と、子どもの頃に夢の実現を信じ追い続けている大人100人に会わせることで子どもの夢を支援する「コドモクリエイターズインク」——によるコラボレーション企画です。
それぞれのプロジェクトの強みを活かすことで、「お店屋さんをやりたい」という子どもたちの夢を現実に近い形で体験できる企画を実現しました。
今回、なぜこの2つのプロジェクトは協同して「コドモpolca食堂」オープンするに至ったのか。コラボした結果、どんな結果をもたらしたのか。
「夢」という存在を忘れかけていたライター・芦沢恵利香がイベントを体験し、2つのプロジェクトのリーダーにインタビューをおこないました。そこには、年齢に関係なく誰でも夢を追うことができる未来へのビジョンがありました。
「フレンチトーストひとつ、お願いします」とスタッフの子どもたちに伝えると、正方形のメモを手渡されました。「夢をここに書いてください」
席に案内され、夢を書こうとするも、なかなか思いつきません。そういえば、大人になって夢を考えるのは初めてかもしれないな……と思いつつ、お客さんの夢を回収する子どもたちがすぐとなりで待っているので、とりあえず「おいしいものを一生食べ続けたい」と記入。「え〜! これが夢?」と少々戸惑いつつも、笑いながら受付にあるボードに私の夢を貼りに行ってくれました。
間もなく、男の子のスタッフがフレンチトーストを運んできてくれました。日本初のブリュレフレンチトースト専門店「foru cafe」を運営している平井幸奈さんが監修しているだけあって味は本格的。盛りつけのデザインは子どもたちが事前に打ち合わせて、チームごとに決めました。なかにはパンダをかたどったデザインなどユニークなものも。
想像以上においしくて、あっという間に完食。「とってもおいしかった! ありがとう」と子どもたちに伝えると、照れながらも笑顔を見せてくれました。そしてすぐに別のお客さんの接客へ。店内を見渡すと満席になっていました。
キッチンを覗いてみると、子どもたちが一列になりせっせと盛りつけしている姿が見えました。「バナナが足りないよー!」「今持っていく!」お互い声をかけ合いながら、素早くお皿に盛り、配膳係に渡します。「’’映え’’るように置くんだよ」と教えてくれる子どもたちの盛りつけは、大人顔負けの出来“映え”です。
オープン間もない店内は、子どもたちの主体性とさりげない大人のスタッフのサポートが溶け合う温かい空気と、小さな体で一生懸命に頑張るスタッフたちの姿を微笑ましく思うお客さんの笑顔で溢れていました。
「私も夢に向かって一歩踏み出してみたい」
子どもたちが夢中になる姿を見て、自然と背中を押されているような気持ちになっていました。
100BANCHに入居する前は「全く面識がなかった」という2つのプロジェクト。それにもかかわらず、なぜ来場者までもが自然と前向きになれるような、心地よいイベントを開催することができたのでしょうか。
「polca食堂」プロジェクトのリーダー・前田塁(まえだ・るい)さんと「コドモクリエイターズインク」プロジェクトのリーダー・白井智子(しらい・ともこ)さんにお話を伺いました。
──「コドモクリエイターズインク」は子どもの夢、「polca食堂」は大人の夢を応援しているプロジェクトですよね。お二人はなぜ人々の「夢」を応援しようと思ったのでしょうか。
前田:衣食住の中でも生きていくために最も必要な「食」を保証することで、給与などの待遇が理由で夢を諦めてしまう大人を少しでも減らしたい。その思いから「polca食堂」を立ち上げました。具体的な活動としては、CAMPFIRE社のファンディングアプリ「polca」で資金を集め、無料で食事を提供する「polca食堂」を全国各地で開いています。夢を持つ人同士が集まれる場をつくり、夢を語ったりお互い協力したりする時間を生み出すことで、参加者が夢に一歩でも近づく機会を増やしたいと思っています。
「polca食堂」リーダー・前田塁さん
白井:「コドモクリエイターズインク」は「人生100年時代と言われている中、その100 年の10パーセントにあたる10年くらいは本気で夢を追いかける時期があってもいいんじゃないか」という思いからスタートしました。私は前職で新卒研修を担当していたのですが、夢を諦めた若者がほとんどでした。そんな人たちが、いつか自分が本当にやりたいことに出会ったとき「小さい頃は、本気で夢を追っていたなぁ」と思い出して、もう一度頑張れるきっかけをつくりたかった。
そのため、固定概念や常識が芽生える前の小学校低学年をターゲットに、子どもたちが夢を追い続けている大人100人に出会う「Hello ! 100Works!」プロジェクトを実施しています。子どもたちが当たり前のように夢を追いかける世界にしたい。そして、最終的には「夢」と「現実」を同義語にしたいと思っています。
「コドモクリエイターズインク」リーダー・白井智子さん
──お二人が100BANCHで知り合ったのも、「夢」という共通の軸がきっかけとなったのでしょうか。
前田:100BANCHの定期イベントであるゴミ拾い(Banch Clean)に参加したときに初めてお会いしましたね。白井さんが自分と同じように「夢」をキーワードに活動をしていると知り、そこで青山のイベントのお話を聞いたんですよね。
白井:2019年3月でしたね。20人くらいの子どもたちが実際に自分の店をオープンするというイベントでした。私もイベントに来てくれる子どもたちに「polca食堂に集まり夢に向かって頑張る大人たちの姿を見せたい」と思ったので、前田さんを青山での主催イベントにお誘いしました。
前田:そのイベントに行ったら、子どもたちが活き活きして、とても輝いていました。その姿から「大人が頑張っている姿を子どもに見せることで、子どもたちにポジティブな影響を与えられるのではないか」と感じていたとき、タイミングよく埼玉県の草加青年会議所から「春の子どもフェスタ」(※まつばら綾瀬川公園で行われる親子を対象としたお祭り)への出展のオファーがきたので、早速白井さんに「コラボしませんか?」とお誘いしました。
白井:そうでしたね。「春の子どもフェスタ」では子どもたちがサンドイッチを作り、両親に食べてもらうイベントで、そのときはお店というより、料理教室に近い形でした。来場者は100人を超え、大盛況だったんです。
前田:しかも半日ですからね。あちこちから「パンがない!」「マヨネーズがない!」って声が聞こえるくらい(笑)。その経験から、よりリアルな形で子どもたちにお店を体験してもらいたいという思いが芽生え、今回の「コドモpolca食堂」を企画することになりました。
「春の子どもフェスタ」の様子
──なぜ、「よりリアルな体験」を提供したいと思ったのでしょうか。
前田:人は体験したこと以上には想像ができないので、夢の「解像度」をあげるためにも、よりリアルな環境で経験値を積むことが大事だと考えたからです。「お店屋さんになりたい」という子は、お客さん側ではなく、お店側で実際に働く経験を積まないと「何が楽しいのか」、そして「何が大変なのか」が想像できません。だから、模擬店では再現できない部分にこだわって企画したいと思いました。
白井:「コドモクリエイターズインク」は「自分が楽しいと感じる先に、誰かを笑顔にしよう」というコンセプトを掲げています。「自分が作って楽しい」で終わるのではなく、お客さんに「ありがとう」と言ってもらって倍うれしい。そんな体験を子どもたちにしてほしかったんです。お客さんからお礼を受け取るまでの「働く楽しさ」を伝えることをゴールに、よりリアルな環境を整える必要がありました。
世間では職業体験と称して、子どもにコスプレさせたり、写真を撮ってSNSに投稿することもありますが、それは親目線での楽しみであり、「子どもたちが本当にその職業に触れて楽しいと思っているか」という観点では疑問が残ります。そのため、私たちのプロジェクトが主催するイベントでは親の自己満足による単なる「ごっこ遊び」で終わらせないこと、そして「子どもの満足度を最大限に高めることができているか」を第一に考えています。
──だから今回の「コドモpolca食堂」はリアルな体験の場にしたかったんですね。そのような体験を提供するために工夫したことを教えて下さい。
前田:本物のカフェでお店をオープンさせたこと、そして、チームを組みメンバーと協力してメニューを考案したところですね。結局、どのチームもチョコレートとバナナを使ったメニューを選びましたけどね(笑)。
白井:そう、食材を20種類以上も用意していたんですけどね。やっぱり子どもはチョコレートとバナナが好きなんだって(笑)。それに加え、接客まで子どもたちが担当したことも大きなポイントでしたね。
──「コドモpolca食堂」での、お互いのプロジェクトの役割はどのように分けていましたか。
前田:「polca食堂」の役割は、「食」関連で夢を叶えた大人に協力してもらうことでした。フレンチトーストを調理・提供してくれた『Foru Cafe』の平井さんは学生時代からお店をしたいと夢を持ち、「WeWork」(※起業家やクリエイターにコワーキングスペースを提供するアメリカ・ニューヨーク発の企業)で世界初のカフェ出店を実現した方です。また、会社員をしながら食関連の夢に向かう2人にも声をかけ、調理のサポートスタッフとして参加してもらいました。
白井:私たちは子どもにまつわる調整事項の全般を担当しました。スタッフとなる子どもはインターネットで募集したところ、定員の20人が3日間で埋まり、急遽5人ほど増枠させたくらいでした。「polca食堂」の夢を追う大人とのコネクションや「コドモクリエイターズインク」の子どもへの確立したアプローチ方法など、それぞれがもつ強みやコネクションをうまく活かせたので、滞りなく準備ができましたね。
──当日は大盛況でした。
前田:そうなんです! 予想以上に人が集まり、普通のカフェより混んでるんじゃないかって(笑)。
白井:25人くらいのお客さんが、一度に来てくれた時間帯もありましたからね。結果、イベント全体で150人くらい来場してくれました。大人でも大変な人数なのに、全てのお客さんを一生懸命に対応した子供たちはすごいなと実感しました。しかも、大人の私よりもシフトを頭に入れて、みんながテキパキ動いていましたからね(笑)。
──イベントを通して、関わる人たちからどんな反応がありましたか。
白井:子どもたちからは「楽しかった!」「またやりたい!」という声を多数聞くことができました。お客さんが混み合い、店のオペレーションが大変になるなど予想外のハプニングもありましたが、子どもたちが自ら考えて解決していった末に、その言葉を聞けたことが嬉しかったですね。保護者からも「小さいと思っていた自分の子どもが、あんなにちゃんと接客ができるとは思ってなかった」「ごっこ遊びではなく、プロさながらの貴重な体験だった」など、この経験が子どもたちにとって有意義な経験だと感じてもらえたこともよかった。このイベントを通して、子どもたちはの「夢」をより具体的かつポジティブに捉えられたと思います。
前田:大人のスタッフに当日の調理のサポートをお願いしたときは「子どもに慣れていないんですよね……」と戸惑う様子もあったけど、イベントが終わると子どもたちと同様に「面白かった!」「またやりましょう!」と声をかけられました。夢に向かう子どもたちと接することで、純粋に夢を追う気持ちの大切さを実感したんだと思います。
白井:大人のスタッフは「夢を追いかけている」という共通言語のもと、「子どもたちを自由にやらせてあげよう」と考え、子どもたちが「自分たちが主役」だと感じられるような距離感でサポートしてくれました。事前にサポート体制について打ち合わせていなかったのですが、みなさんが自然とそのように意識してくれたことが、とてもありがたかったですね。
──前田さんは大人の夢に触れることが多いと思いますが、子どもの夢との違いを感じることはありますか?
前田:子供は夢に向かって真っすぐ走れるんですよ。僕も若い時は飲食の仕事に関わりたいと思っていたけど、給与面など待遇を考えると「大学院まで出てるのに飲食業をやるのはな」と感じてしまって……。大人になればなるほど、そんな風に色々な影響で夢を諦めざるを得ない事情が出てくる。大人はいろんなものを背負っていくから子どものように身軽に走れないので、そこは誰かが背中を押してあげたり、助け合いが必要だと、今回のイベントであらためて感じましたね。
──私もそうですが20歳を超えると否応なく社会のシステムに溶け込み、夢を持たない生活に安住する人が多くなる印象があるのですが、そもそも、なぜ夢を持つことが重要だと考えるのでしょうか。
白井:この先AI(人工知能)が進化して自分の時間があり余る時代になると、趣味や好きなことがないと生きるのが苦しくなると思うんです。子どもの頃から夢を追うことで「好きなこと」を蓄積していけば、人生のどのタイミングにおいても希望を見出せるようになれるんじゃないかと。だから夢を持つことは、次世代を生き抜くために必須とも言えるスキルだと考えています。
──ただ、なかなか夢って見つけにくいですよね……
前田:夢って子どもだと職業に限定されるんですけど、大人になると好きなことの集合体になりませんか? 例えば「鎌倉に住みたい」というのも夢になると思うんです。そのレベルの夢が全くないって人はいないと思っているんです。僕は漫画が大好きだから家に4000冊くらいの漫画が並んでいあるんですけど、そういう好きなことをヒントに突き詰めていっても夢に繋がっていく気がします。
──確かに、 「コドモpolca食堂」で夢を書こうとしても、なかなか筆が進まなくて。でも、そうやって気楽に考えると夢のかけらが簡単に思い浮かんできます。実は大人にもたくさんの夢があるかもしれないですよね。
白井:そうそう、夢なんていつでも変更していいものだし、もっと気軽に取り組んでいけばいいんです。ポイントは、夢に「挑戦する」という言葉を使わないこと。「挑戦」ってすごく強い言葉なので、やってみれば簡単なことなのに、自分でハードルを高くしてしまうことも多いんですよ。だから、子どもが夢を語ると私は「いつやる?」「どうやってやる?」とすぐ質問するようにしています。特に「夢がない」と話す子どもには、夢を見つけてもらえるようにお節介なおばちゃんキャラでグイグイいきます(笑)。だって、「夢なんてどうせ叶わない」と考える大人が、子どもにもそう思わせているだけなので。
前田:そこはポイントですよね。大人の場合、夢を追うときに「自力で食べていけるか」が問題になるので、僕は最終的に「食のベーシックインカム」を実現したいと思っています。ごはんが毎日無料で食べられるようになったらその問題が解決されて、改めて自分の夢を考えられると思うんです。大人もそんな風に安心安全が確保された場があれば、食事を与えてくれる親がいる学生時代のように自由に発想して夢に向かえると考えています。
──子どもも大人も安心して自分の夢を追うことのできる未来に向け、今後の構想はありますか?
前田:今後もお互いが協力しながら、今回のような企画を続けていくことに意義があると思っています。1日で終わるイベントは単に「楽しい」と感じるだけで終わってしまうことも多いのですが、夢を追う過程ではいくつものハプニングやトラブルを乗り越える必要があります。その経験を積み重ねることで、その度に達成感を味わいながら、夢に近づく力を育ててほしい。
白井:夢に向かって夢中になり、人生を自らドライブする力をつけてもらうことが次のステップですね。
前田:それを達成するために、実際にお店を借りてしまおうという構想を今練っているところです。平日だけオープンする飲食店を間借りして、週末は子どもたちが運営するお店をつくりたいなと。
──かなり大掛かりなコラボレーションになりそうですね。
白井:そうなんです。「コドモクリエイターズインク」の会員には「ラーメン屋をやりたい!」「パティシエになりたい!」など、飲食関連の夢を持つ子どもも多く、この話をしたらとても喜んでいました。大規模な計画ですが、場所や参加メンバーなどの詳細も少しずつ決まりつつあります。
前田:「polca食堂」には「お店をやりたいけど一歩踏み出せない」と話す大人もいるので、そういう人たちには夢のイメージを掴んでもらうために、この店に来てもらおうと思っています。「polca食堂」のもともとの目的——夢に向かって頑張る人にごはんを食べてもらうこと——を果たしつつ、そうやって「コドモクリエイターズインク」と共に夢を追う人たちがどんどん循環していく環境をつくりたい。そして、将来は全国各地に子どもも大人も関係なく、夢を追う全ての人の居場所を生みだしていきたいですね。
(写真:鈴木 渉、一部、コドモクリエイターズインク・100BANCH)