• イベントレポート

余剰電力で村の暮らしを豊かに——— ミャンマーの無電化地域でスモールビジネスを考える

「あなたは電気のない生活を想像できますか?」

現在、世界の貧困層の多くは新興国、発展途上国に集中し、アフリカ・アジアを中心に世界で約12億人が電気のない暮らしを送っていると言われています。もし、電気を使える環境があれば、人々の暮らしはどのように豊かになり、どのようなビジネスチャンスが生まれるのでしょうか。

無電化地域の余剰電力を使ったスモールビジネスを考案するワークショップが100BANCHで開催されました。

このワークショップを主催したパナソニック株式会社(以下「パナソニック」)は、社会貢献活動の一環として創業100周年を機に、電気の知識などの啓発・教育の実践と商品寄贈を組み合わせた『無電化ソリューションプロジェクト』を開始しました。「無電化地域で暮らす一人ひとりが自立したサスティナブルな社会づくり」への貢献を目的として新たにプロジェクトを展開しています。

プロジェクトのひとつとして、自社のソーラー発電と蓄電で村に電気をもたらすPower Supply Station(以下「PSS」)を、無電化地域であるミャンマーのベービンセンナ村に納入しました。現在、この村のPSSは主に学校で活用されていますが、生み出された電力は夜間のみの使用にとどまり、余剰電力が発生するという課題が生じています。

今回のワークショップの参加者は総勢31名。現地でのトライアル実施に向けた第1ステップとして、参加者がPSSの余剰電力を活用したスモールビジネスを考案。寿命あるPSSを持続的に使えるようにしつつ、産業・福祉・文化・芸術・教育・地域社会・生活基盤などの視点で、ベービンセンナ村がどのように発展できるかを探っていきます。

はじめに、パナソニック株式会社 ブランドコミュニケーション本部 CSR・社会文化部・係長の浅野明子さんが「村民にPSSを寄贈するだけではなく、PSSを理解し実際に使ってもらうことで、村人たちの生活にどのような付加価値を生むことができるのか実証していきたい。ベービンセンナ村は、電気のある暮らしを体験していない人が多い。PSSをまずは子どもたちの学校教育に使いたいというニーズはありますが、自分たちの経済性に繋がっていけるような活用方法を考え、彼らの生活が少しでも豊かになればうれしい」と参加者に向けて話しました。

ワークショップでは、関西学院大学 総合政策学部 客員教授の和気邦夫さん、JICA(国際協力機構)農村開発部 ミャンマー担当の坂口幸太さん、パナソニック アジアパシフィック ミャンマー支店・代表の前田恒和さんの3人をゲストに迎え、ワークショップで考案されたアイデアを講評。そして、優秀チームにはミャンマー現地でプロジェクトの機会を支援予定だと発表されました。果たして、どのようなビジネスアイデアが生まれるのでしょうか。

 

インプットセッション

まずは、ワークショップの対象地域となるベービンセンナ村を紹介。ここはミャンマーの首都・ヤンゴンから車で3時間+船で1時間の場所にある人口1850人ほどの小さな村です。。最高気温は25〜37度、最低気温は18〜20度と年間を通して温暖な気候で、11月〜3月の乾期と、6月〜10月の雨期があります。主な産業は農業で米や豆、マンゴーや唐辛子を生産しており、村民の9割が小作農民です。子どもたちは朝から夕方まで、昼休み以外は休憩時間なしで学習をしています。

村には、「食事に困っている人がいる」、「診療所しかないため、病気時に病院が遠い」「食事や洗濯などで必要となる水の衛生面が整ってない」などの課題があります。

 

ペアブレストでアイディエーション

インプットセッションを終えた参加者たちはペアを組み、自分の関心事と村の状況を掛け合わせたビジネスアイデアをプレゼン。何人ものアイデアを知ることによって、自分の考えをブラッシュアップしていきます。

アイデアが多方面に広がりを持ちながら、会場は熱気に包まれていきます。

 

チームビルディング

各参加者それぞれのアイデアをもとに、最終プレゼンを行う6チームを決定していきます。

「ぜひ、自分のアイデアを発表したい!」と立候補したのは17人。それぞれが1分間のプレゼンを開始します。

「病院が遠いので、町と病院をスカイプなどオンラインでつなぎ、遠隔医療を行い、必要な物資はドローンで届けたい」

「水質管理がままならない環境を改善し、きれいな生活用水や農業用水を作りたい」

「村自体で電気を売り、PSSをメンテナンスすることで村の自立を支援したい」

「最新技術を使った祭りのツーリズムを現地の子どもたちと作り、子どもの教育とインフラを整えたい」

「映画館を作り、映画を通じて教育を行いたい」

「コオロギを養殖する環境を整え、村を潤わせたい」

「食べ物に困っている人のためにシェアキッチンを提供する」

など、現地の課題を解決するとともに、さらなる村の発展へと導くビジネスアイデアが多数発表されました。

 

各チームディスカッション、およびプレゼン

多方面のユニークなアイデアを同じベクトルに組み合わせ、「祭り」「電力」「教育」「食」「水と医療」「電力供給」を軸とする6案を決定。各案の賛同者でチームを組み、最終的なプレゼン内容を検討します。

各チームで考えたビジネスアイデアは以下のとおり。

 

チームA「最新技術を使い、あかりの祭りの村を作る」

チームA「村の伝統的な音楽やダンスをプロジェクションマッピングやドローンと掛け合わせた「伝統×先進」の祭りを開催したい。祭りの入場料と出店料で経済の流通を行い、インフラが整いつつ、結果的に村の豊かさにつながるという、ひとつの経済の循環を作りたい。加えて、祭りの運営には村の子どもたちも参加し、将来のイベントクリエーターやプログラマーなどの人材育成の場にしたい」

 

チームB「電力供給ビジネス」

チームB「提供されたPSSを村人たちだけで運用できる環境を作り、村を他地域に電力を供給する側にしたい。電力を使えば使うほど村に利益が入る仕組みを作ることによって、村のほとんどを占める単一的な農業経済から多様な経済への発展に繋がる。それによって、さまざまなサービスが変化してもインフラは変わらずに存在するので、確実に村のビジネスとなって利益が入ると考える」

 

チームC「主婦に余剰時間を生むランドリーの設置」

チームC「村にランドリーを導入することにより、川で洗濯する主婦たちに家事の余剰時間が生まれる。その時間を活用し、例えばランドリーで主婦たちが託児所を運営したり、村外に販売する農作物や工芸品を作ったりすることで、より村の活性化を図れると考える」

 

チームD「高品質な漢方を栽培する」

チームD「余剰電力による浄水と光を使って作物が育つ環境をコントロールし、高品質な漢方を栽培し販売したい。この案は、日本財団などがミャンマーで薬用植物を作る取り組みをしていることをヒントに、高付加価値な漢方の栽培にたどり着いた。育った漢方を日本の製薬会社や現地の流通を仕切る華僑へ販売し、村の経済発展を進めたい」

 

チームE「タブレットを使ったデータビジネス」

チームE星野さんの発表

チームE「子どもたち全員がオンラインで学べる環境を作り、優秀な高校や大学に進学するなど「人生が変わった」という事例を出すことによって、村の発展に繋げたい。そのために、タブレット学習を導入し、誰もが学び、努力次第で利益を生み出すことができる社会を創出したい」

 

チームF「『アクアポニックス』を使った新しい消費と生産を生み出す」

チームF大久保勝仁さんの発表

チームF「村にある資源、「土着の農作物」と「余剰電力」に加え、100BANCH所属のプロジェクトが開発した、微生物の力で水を濾過しながら魚と植物を育てる新しい食料生産手法「アクアポニックス」のシステムを使って、SDGs(持続可能な開発目標)を意識した新しい生産と消費を生み出したい。これらを活用することで、食育などの「教育の発展」を生み、魚や野菜を作ることにより自給率を上げ、収穫した作物などを販売することによって村の収入が増加する。最終的には、「アクアポニックス」によって生産されるストーリーを他の地域へ展開することによって、持続可能な開発を広げていきたい」

 

講評、果たして優秀チームは?

どのアイデアも甲乙付けがたいほど素晴らしく、審議はとても難航しました。

3位:チームB「電力供給ビジネス」

総評:前田さん「『電力を使ったサービスが変化しても、インフラは変わらない』という着眼点がよかったです。すでにミャンマーでは携帯電話をカーバッテリーに繋ぐ『チャージステーション』のビジネスがあるので、電力に注目したBチームのアイデアをさらに知りたいと感じました」

 

2位:チームD「高品質な漢方を栽培する」

総評:坂口さん「我々の事業にミャンマー産のハーブを扱う事業があり、そのハーブは日本でハーブティーとして提供されています。同じように、方向性として漢方を使ったビジネスは可能性があると思います。この先、よい漢方の専門家とパートナーを組んでもらい、ぜひ一緒に取り組みができたらと思います」

 

1位:チームF「『アクアポニックス』を使った新しい消費と生産を生み出す」

総評:和気さん「グローバルに注目されるSDGsを意識し、水や食糧の問題に関する村全体のエコロジーに注目した点を評価しました。加えて、すでに移設可能な『アクアポニックス』の技術があることも大きなポイントでした。今後も食糧だけではなく、環境も意識した活動を進めてほしいです」

見事1位に選ばれたFチームの大久保勝仁さんは「グループで考えを交わしたことにより、短時間ながらも、多方向の可能性を探ることができました。ゲストの方に講評をいただけたことで、自分たちのアイデアの実現性や課題が見つかり、とても楽しく有意義な時間になりました」と、笑顔で話しました。

また、主催者のひとり、パナソニック株式会社ブランドコミュニケーション本部 CSR・社会文化部の奥田晴久さんは「思いもよらない多様なアイデアが生まれるなど、参加者の情熱を感じられたワークショップでした。アイデアを実現するには多くの過程が必要ですが、今回のアイデアをきっかけに新しいビジネスが生まれたらうれしい」とワークショップを振り返りました。

今後、各チームのアイデアを膨らませていき、現地プロジェクト採択にむけてブラッシュアップをしていきます。未来のベービンセンナ村で、今回のビジネスが活躍する日がくるかもしれません。この先の展開にもぜひ注目してください!

 

撮影|小野瑞希

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