- イベントレポート
熱量が街に伝播し、100BANCHは風景に———ナナナナ祭「クロージングイベント こんにちは未来」
『ナナナナ祭』は100BANCH一周年を記念し、活動成果を発表する文化祭。衣食住やコミュニティをテーマに、入居メンバーやゲストによる展示やマルシェ、シンポジウム、ワークショップなど36のプログラムが用意されています。
本記事では、ちょうど一周年となる7月7日(土)の様子をお伝えします!
100BANCHメンバーが毎月第一土曜日行っている、会場周辺のゴミ拾い「Banch Clean UP」。『ナナナナ祭』中は、参加者を募っての活動となりました。
再開発で変わりつつある、渋谷川沿いの清掃を行いました。
ハンナ・アーレントは『人間の条件』(志水速雄・訳、筑摩書店)のなかで、「労働力」「仕事力」「活動力」をの3つを、人間の最も基本的な要素として捉えています。簡単に説明すると、生きるために行わなくてはいけないのが「労働」、「仕事」は思考によって自分のアイディアや作品を生み出すこと、そして「活動」は、人々とつながりを持つことを言います。同書の出版から60年目となる今年、「人間の条件」はどのように変わったのか、そして今後はどう変わっていくのでしょうか? 本イベントは、100BANCHを代表するプロジェクト・リーダーたちの仕事と活動から、これからの「人間の条件」を考えます。
登壇者は、100BANCHの代表的なプロジェクトリーダーのみなさんです。株式会社ふんどし部 星野雄三、グラフィックデザイナー/アートディレクターの河野未彩、株式会社椎茸祭の竹村 賢人、株式会社アオイエの青木大和の4名。
・Fundoshibu,Ltd. 星野 雄三
星野は、異文化間にある誤解、例えば「アフリカではマサイ族がいつも槍を持って飛び跳ねている」といったように、海外の多くの人が「日本では下着としてふんどしを履いている」といった幻想を抱いているといいます。海外から見た日本の幻想、異文化としての日本へのまなざしを取り込み、幻想を再表現するお祭りを考えました。「外国人に会ったとき、『スクランブル交差点を歩く人の半分がふんどしをつけている』と公言しています(笑)。その言葉を裏付けるよう、7日の夜にはフンドシマンというふんどしをつけた男たちの祭りを盛大に開催します」と星野。つまり、外国人の思っている日本と、日本人が考えている日本を合わせて、海外の視点をあえて取り込んだ表現なのだそうです。
星野「東大の大学院を出て、ふんどしを売ってます」
「パンのために(糖質制限をしているので、実際にはパンもコメも食べないそうですが)布を縫い、労働しているが、労働の割合は少なく、自分の仕事をメインに働くことができている」そう。
・RGB_Light 河野 未彩
グラフィック・デザイナー、アートディレクターとして活躍している河野は、プロダクトのデザインやパッケージのデザイン、CDジャケットのデザインなど手がけています。個展を開いたりものを制作していると、自然の偉大さを感じずにはいられないという。「ダサい空は見たことないでしょ? 今日の雲ダサいとか、葉脈ダサいと思ったことはない」。だから、「自然はすごい」と言います。
そこで、光を創ることができたら、どんな絵を描くことよりもすごい、という発想から生まれたのがRGB Light。テクノロジーが進化しても、光のもつプリミティブな原理は不変です。そのような、光のあり方をデザインし、影を楽しむ照明RGB Lightを制作したのだそう。
河野「深掘りして、海の底まで行って浮かんできた先で掴んだものを伝えれば、ひとにわかってもらえる」
河野は、「(大量生産ではない、1点ものを創る)デザインは、創造性があがれば生産性もあがる。創造性をあげることができるよう、自分の性質を知って、自分の生活を合わせていこうと考えている」と述べました。
・SHIITAKE 竹村 賢人
大企業に努めていた竹村は、震災を機に退職したものの、再就職先がなく、インドに渡って就職活動を行います。当時は「英語とプログラミングができれば大丈夫」といったイメージがあったため、どちらも学ぶことのできる会社に入社。しかし、2年ほどで倒産してしまいます。
帰国後、チームラボに入社。「4年間くらいニコニコしながら人が嫌がる仕事をしていたら、一番つらいアート部門の管理職になった」。そこで、しいたけを広める活動のような、自分の好きなことをして生きていこうと考え、チームラボを退職し、株式会社椎茸祭を設立。
竹内「『やりたいこと』は怖い。でもちょっとやってみたいことを言い続けると、みんなに応援してもらえる」
竹村は、仕事や労働を分けることはできないと言います。「マルチタスクとマルチスレッドではなく、全部が複合されているシングルスレッドで考えている。全部やりたいことをまとめて、1個のこと(竹村にとっては、しいたけのうまみを世界に広めること)に集中している」そう。
・BUSHOUSE 青木大和
バスを家にするという、移動式の住居を、生活のひとつの選択肢として提示する活動を行っています。この日、出発式が行われたBUSHOUSE1号機は、侘び寂びを意識した金継ぎ、黒に金のラインを入れることをコンセプトにしているそう。BUSHOUSEは24歳から30歳以下のクリエーターやアーティストによって制作されています。
人類の歴史を考えると、狩猟異動民族として生活していた時期のほうが長い。いまの人類は、学校や会社と、自宅を循環しているだけ。現代にいたっても食に縛られて定住していて、テクノロジー進化や交通網の発達によって、容易に移動できるようになったいまも、人々は流動的になっていないのでは? というのが問題意識。
青木「行動原理の根底は怒り。基本的に社会に対して怒っていて、その怒りを解決したいという思いが根底にある」
青木の人生をかけたテーマが「どんな人も同じスタートラインに立つ」ということ。これまでは、生まれによってスタートラインに大きな差がありますが、その距離を縮めたい、家を動かす、移動生活がその手段になるのでは、と言います。また、家が移動することで、コミュニティからも移動しやすくなることも指摘しました。たとえば、あるコミュニティでいじめられたり、嫌なことがあれば、他の場所に移動することで、解決したり、新たなチャレンジを行うことができるといいます。
100BANCH発起人であるロフトワーク松井創からの「100BANCHでやりたいことができているか?」
という問いに対する応答のなかで、印象的な場面がありました。
100BANCHでは、実際に手を動かすというより、様々なひととコミュニケーションをすることで、アイディアを思いついたり、考えをまとめたりしているという青木。100BANCHや、プロジェクトチームの仲間のおかげで、やりたいことをやれていることを、実感しているそう。「やれなくなることの苦しさをしっているので、いまの環境は恵まれている」。
100BANCHに参加する前、青木には、やりたいことができなかった時期がありました。18歳選挙権を実現するための活動を日本で行おうとしたところ、炎上していまいます。あまりのバッシングの強さに、家から出ることもできなくなり、何もできない日々を送っていたそう。「ひきこもっていた時期は、本当につらかった」と声を詰まらせる青木。
「そんなつらい2年間のあいだ、乙武さんが面倒を見てくれて支えてくれました」。と、会場には、作家の乙武洋匡さんの姿が。乙武さんからは、青木や100BANCHメンバーに向けて、次のコメントがありました。
コメントを求められた乙武さん
「調子のいいときは寄っていく、悪いときには去っていく。そんな人が多くいます。私自身、仲間が調子のいいときはいろんな人が応援してくれるから、距離をもって『がんばれよ』と見守っている。失敗したときこそ『俺がいるよ』と支えるようにしています。自分もしんどかったときには青木くんに支えてもらいました。いろんなひとに支えられて、いまがあります。うまくいくときもあれば、いかないときもある。壇上の方々だけでなく、100BANCHにいるみなさんにも、そんな仲間と支えあって進んでいただけたらと思っています」。
100BANCHが、みんなで支え合い、やりたいことができる場所だということが、印象付けられた場面でした。
ユニークなプロジェクトの多い100BANCHのリーダーたちが、そのユニークさをどのようにつくりだし、その道を信じて進んでいるか、その一端がうかがえるイベントでした。
クロストークイベント「人間の条件」に続いて行われたのが「BUSHOUSE出発式 -移動式住居-」。
100BANCHから徒歩90秒ほどの駐車場が会場です。本来3ヶ月の予定だった内装工事を、1ヶ月という短期間で完成させたそう。
渋谷川沿い再開発のため、当日は道路状況が悪く、実際にBUSHOUSEが出発することはありませんでしたが、来場者がクラッカーを鳴らして、完成を祝いました。
「エレクトロニコス・ファンタスティコス」は、アーティスト和田永さんによる、家電を新たな電子楽器として蘇生、演奏するというプロジェクト。和田さん率いる「Nicos Orchest-Lab(ニコス・オーケストラボ)」によって、あたらしい楽器の公開プレゼンテーションが行われました。
和田さん
100BANCH会場では、和田さんがバーコードを使った演奏が公開されました。音声をバーコード化した紙を用意し、レジで使われているバーコードリーダーで読み取り、音を出す仕組み。
掃除機を使った楽器や、有名なナム・ジュン・パイク『TVチェロ』(1999)を、再表現し、ブラウン管で音を出す仕組みに変えた楽器など、会場とオンラインでつなぎ、日立や京都のメンバーによるプレゼンも公開されました。
「しいたけの入ったカプセルを、地上3階までエアシューターで飛ばすと、上からそうめんが流れてくる」という、これまでにない仕組みの流しそうめんイベント。
しいたけが飛ぶたびに、集まった人々から歓声があがり、そうめんが流れてくれば、みんなでそうめん動きを目で追う、一体感のあるイベントでした。
来場者は、お社へと、カプセルに入ったしいたけを奉納
この日ラストを飾るのは、七夕の夜を彩るライブイベント。3Fではゆざめレーベル(東京銭湯)によるライブパフォーマンス、1FではSHIITAKEによる流しそうめんインスタレーションや、ふんどし部によるふんどしマンの展示、ふんどし販売やクラブイベントが行われていました。
ふんどしに着替えることのできる更衣室も用意されたラウンジフロア。ふんどし姿に変身する来場者の姿も見られました。
夜の100BANCHでは、たくさんの来場者が「祭」を楽しんでいました。