• イベントレポート

ナナナナ祭 Day3ー優しいAIってなんだろう? スマートスピーカーからロボットまで

9日連続の真夏日を記録した東京。未明に行われたFIFAワールドカップ、日本VSベルギーの余韻もすっかり消え、いつもの顔を取り戻した渋谷の地に、老若男女が再び集結。

AI(人工知能)の「優しさ」について考えるというシンポジウムを開催しました。

AIは冷たくて怖い!?

ロボット掃除機やスマートスピーカーなど、AI(人工知能)の搭載された機械のある光景が日常化し、AIは私たちにとってここ数年で格段に身近な存在になっています。

その一方で機械であるAIに対する「冷たい」「血がかよっていない」「怖い」といったネガティブなイメージはいまだ払しょくできていません。しかもそうしたネガティブイメージを抱いている人の割合が、AIを最も身近に感じているとおぼしき若い世代に比較的多いというから驚きです。

しかしテクノロジーの進化は、これからも否応なしに進み、今以上に生活に入り込んでくるでしょう。それならばいっそのこと、温かく優しいものを作っていけないだろうか。優しいAIを開発するにはどうしたらよいだろうか。そもそもAIにとっての優しさとはどんなことだろうか――そうしたことをディスカッションする場として、今回のシンポジウムが開かれました。

関連リンク:AIは優しくなれるか | 100BANCH https://100banch.com/events/8710/

 

優しいAIの姿とは

本格的なディスカッションを始める前に、まずはアイスブレイク(初対面同士の緊張を解きほぐし、場をなごませるための手法)として「このシンポジウムに参加した目的」を隣りに座った人たちと話すという試みがスタートしました。いきなりそんなことを話せるのだろうか…という心配はまったくの杞憂。話が弾み、一気に場がなごやかになりました。

緊張がうまくほぐれたところで、登壇者の方々が登場。ディスカッションがスタートしました。最初のテーマは「AI使ってる?」でしたが、そもそもどこまでがプログラミングでどこからがAIなのか、その定義が実はあいまい。登壇者からもそうした声が上がっていたため、共通認識を持たせるために、いくつかの例が紹介されました。紹介されたのはチャットボット、AIBO、Pepperなど、対人コミュニケーションを目的としたタイプ。まずはこれらの「見た目の優しさ」について話が進みます。

「見た目で言うならばAIBOのような犬型など、ヒト以外の見た目がよいのではないか」
そう口火を切ったのは100BANCHのGARAGEメンバーである東出 風馬。東出は『HACO』というコミュニケーションロボットの開発を手掛ける株式会社Yokiの代表取締役でありながら、現役の大学1年生。自身もコミュニケーションAIの開発を行っている東出いわく、

「現在のAIの技術レベルでは、使う側の期待を上回る会話やコミュニケーションを行うことは難しい。ヒト型の見た目をしていると、どうしても使う側の期待が大きくなり、技術力との齟齬(そご)が生じてしまう」とのことでした。

それに対し、「人間らしい見た目に優しさを感じる」というのは株式会社エクサウィザーズでAIやロボットの開発を行っている粟生万琴さん。開発に携わっているロボットにも人間らしいしぐさを加える工夫をしたそうです。「たとえヒト型をしていても、それが想像の範ちゅうにない形ならば拒絶反応が起きる。人間らしい見た目というのは、しぐさを含め、人間が想像できる範囲の生き物であれば、優しさを感じられるのではないだろうか」

100BANCHの共同開設者である株式会社ロフトワーク代表取締役の林千晶が示したのは「AIで大切なのは見た目よりも声」という独自の考え。「AIが人の気持ちに寄り添うことを考えた時、人が頭の中で想像する一番好きな姿になれること、それが“優しさ”だと思う。だから見た目というより声への親しみが大切になってくると思う」という意見に納得した人は多かったようです。

東出もそれに賛同した一人。「非常におもしろい考え。自分で開発しているロボットも、現状はロボットの形状をしているが、のちのちロボットの見た目である必要はなくなると思っている」と言っていました。

「たしかにどこかのタイミングまでは見た目に関する議論があるかもしれない。しかし、その後は普段の会話のように、AIか人間かをあえて認識せずに言葉を交わすようになるのでは」と話すのは、本シンポジウムのモデレーターを務める、パナソニック株式会社テクノロジーイノベーション本部 副主幹研究長の森川 幸治さん。

ロボット型掃除機、スマートスピーカーなど見た目が明らかな機械でも、AIに対し優しさや愛着を感じることはたしかにあります。ホログラムで投影された初音ミクのライブに熱狂することもあるでしょう。それらを踏まえると、AIと優しさとの関係を考えた時、見た目はあまり重要ではないのかもしれません。

 

優しいAIって何だろう

ディスカッションはAIの発展と優しさについてへと話が進んでいきます。私たちはAIが何をしてくれると「優しい」と判断するのでしょうか。

ヒトに限りなく近い見た目をしていても、やってくれることが期待外れであれば「優しくない」と感じるし、見た目がまったくの機械であっても、やってくれる内容によっては「優しい」と感じられます。AIにおける優しさを判断する基準は何なのでしょう。

林はひとつの基準として「人が苦手なことをやってくれること」を挙げてくれました。「人は人を評価することがとても苦手。自分ごとで申し訳ないけれど、例えば人事評価について、個人の主観やバイアスがかからないよう判断をサポートしてくれるようになるとありがたい。人事評価以外でも、人間が苦手な領域に特化したAIのあり方というのは今後進んでいくと思うし、それも優しさのひとつだと思う」

しかし林は一方で「友人やコミュニケーションのパートナーという立ち位置でのAIの優しさとなると、また別の基準になると思う」との考えも示しています。「単に教えるだけ、褒めるだけでもだめ。答えがないなと思います」

その後は会場内からの質疑応答タイムに移行。

  • AIはウソを見抜いてくれないのか?
  • 「優しい」という定義は、自分の言ったことを正確に踏襲し、寄り添ってくれるから優しいのか、それとも自分の知らないこと、指示していないことまで教えてくれるから優しいのか? どちらなのか?
  • 「優しい」という個人の主観によるものをAIの評価に入れてよいのか

といった質問が飛び出し、それについても熱いディスカッションが交わされていました。

 

「優しさ」が必要なのは、本当は「優しくない」から

最後に登壇者の方々に、AIと優しさについて一言ずつ伺いました。

「知らないものには恐怖を感じることがある。だからAIをもっと積極的に知って、使って、作ってほしい」(粟生さん)

「“優しいAI”と言いたくなるのは、裏を返すと“優しくない”と思っているから。放っておくとAIは人間の仕事を奪ったり、脅かしたりする“優しくない”存在になりかねない。だから、我々が今後議論を重ねて“あってよかったね”と言えるAIを作っていく必要がある」(林)

「ロボットやAIの開発に携わっていると文化や考え方の違いに直面することが多い。場合によってはその結果、危険が及ぶこともあるだろう。だから自分はAIそのものの開発ではなく、AIを使ってそれをどう表現していくかという研究を続けていきたい」(東出)

さまざまなAI像があることがわかった今回のシンポジウムにおいて、モデレーターの森川さんが最後に言っていた、「優しさの定義はさまざまだが、“作り手が込めた優しさ”は伝わっていくだろう」という言葉が印象でした。今後私たちにとってAIがより身近になるに従い、良いAIとは何なのかについて考える機会も増えていくでしょう。そうした時に今回のシンポジウムやディスカッションが何かしらの役に立てば幸いです。会場内ではシンポジウム終了後も、登壇者と交流をする参加者の姿が多く見受けられました。

『ナナナナ祭』では7月8日(土)までさまざまなイベントやシンポジウムのほか、展示も行われています。入場は無料です。ぜひ、足を運んでみてください。

 

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