- リーダーインタビュー
素材も人も、世界はすべてつながっている。使い方のデザインで素材に命を吹き込む ——「LifehackMaterial」:五月女健翔
「ウィーーーン」「バババババ」「ピューンピューン」
その日は100BANCHから聞いたこともないような異音が響いていました。誰かが実験に失敗したのでしょうか? いいえ、失敗ではありません。むしろ成功ですらあるのです――。
エレクトロニコス・ファンタスティコス!によるオープンミーティング「鳴らしてみよう!自宅の家電」が100BANCHで開催され、既存の枠を超えた音の楽しみ方で、会場は異様な盛り上がりを見せました。
役割を終えた電化製品を新たな電子楽器へと蘇生させ、合奏する祭典をつくるプロジェクト「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」(通称:ニコス)。アーティスト/ミュージシャンである和田永さんを中心に、2015年よりプロアマ問わずさまざまな分野の方を巻き込みながら活動してきました。現在は東京・日立・京都の3都市でチーム「Nicos Orchest-Lab(ニコス・オーケストラボ)」を立ち上げ、各拠点で継続的に創作活動を行っています。
普段はラボメンバーを中心に活動しているニコスですが、この日は久しぶりのオープンミーティング。家電を鳴らすとは一体どういうこと? 誰でもできるの? 「自宅にある家電をお持ちください」という宿題のもと、思い思いの電化製品を手に多くの方が集まりました。
これまでにもブラウン管テレビや扇風機などさまざまな家電を電子楽器へと昇華させていったニコス。「音は波動。波をキャッチすればあらゆるものは楽器になる!」と豪語する和田さんが、まずは家電が楽器として音を発するようになる発音原理を解説しました。
(1) 磁力をコイルで拾う
コイルをギターアンプに繋ぎ、家電に近付けることで磁力を拾い音が鳴ります。ニコスの代表的なパフォーマンス、ブラウン管ガムランはまさにこの例。靴下にコイルを入れ、演奏者自身が磁界の一部になって演奏しています。
ご家族で参加された方はドライヤーにコイルを当ててチャレンジ。立ち上がりのブウゥーンというモーター音を拾うことができました。
こちらの参加者が挑戦したのは毛玉取り機。今や100円ショップでも買える家電です。コンパクトなボディながらも高く良い音が出ました。
(2) 電波をラジオで拾う
こちらはラジオを使って電波を受信するパターンです。ラジオが拾うのは放送電波だけではないのですね。「カメラのフラッシュからもパンチのある宇宙的な音が拾えるんです」と和田さん談。
リモコンは一見すると音とは関係ないようですが、ラジオを近くに置いてみるとボタンを押すたびにピコピコと音がします。チューニング・ダイヤルの位置によって音が変わるのも興味深いところ。
ひげそりからはまるで地球外知的生命体の声のような音が! コイルで拾ったときとは違った音が出るのも面白いですね。
(3) 光を拾う
光の明滅をセンサーで拾って音に変える方法もあります。「扇風琴」はまさにこの例。扇風機に穴の空いた羽を仕込み回転させると、穴から漏れる光の明滅で電気の波が生まれスピーカーから音が鳴ります。風量を変えると回転速度が変わり転調も。
ストラップつきの扇風琴をまるでジミ・ヘンドリックスのように弾き狂う和田さん。もはや誰にも止められません……!
会場では夏間近ということもあって、扇子を持ち合わせた人が多数。扇子を動かし骨の隙間で光を変化させると、レコードのスクラッチのような音が出ることがわかりました。家電ではないですが、これもまたひとつの電子楽器ですね。
(4) シマシマを音として読む
時間の都合で紹介のみに留まりましたが、バーコードリーダーも縞模様を読み込むと音を発します。「ボーダーシャツァイザー」はこの原理でビデオカメラとボーダーシャツが楽器になっており、ボーダー柄のシャツを着てカメラの前で動くと、縞の本数に応じて音の高さが変わります。
この日、参加者に課されたお題は「電磁オーケストラを妄想せよ!」。和田さんの解説やそれぞれの実験をもとに、どんな新しいオーケストラが考えられるかアイデアスケッチを行いました。
こちらは光を使ったアイデア。住宅の窓から漏れる灯りをメロディにする集合住宅オーケストラです。マンションや高層ビルが多い東京ならではの案ですね。何気ない生活そのものが音楽になるのはロマンチックにも感じます。
一方、こちらはお風呂の中で奏でられるオーケストラです。ゆらゆら揺れる湯船の水紋を読み込んで音を鳴らすというもの。
特に盛り上がったのは謝罪会見オーケストラ!カメラのフラッシュが特異な音を奏でるという解説に着想を得たそうです。謝罪会見で光っているフラッシュが実は電子音楽を奏でていた!? 見てみたい!という声が多数上がりました。
日常の中から「音」を拾い上げ、自分のやり方で「楽」しむ。これこそが「音楽」の根源的な面白さなのだと感じました。世界初の電子楽器が誕生しておよそ100年。エレキギターが音楽のスタンダードになったように、次の100年のスタンダードになり得る「音」や「楽器」の考え方は生活の中に潜んでいるのかもしれません。
来る7月7日(土)には100BANCHナナナナ祭の中でニコスが再び「公開実験会」を開催します! この日には日立、東京、京都の各拠点で開発中の家電楽器も一挙大公開。もちろんさまざまな実験にも参加できます。
8月には「Maker Faire Tokyo 2018」への参加も決定しているニコス。伝聞より生で、そして見るより触って、より近くで体験してみることをおすすめします!