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テクノロジーという「新たな自然」の中で、想像の旅へ誘う新たな聴覚体験を:佐野風史(サウンドアーティスト / デザイナー)

「ここではない“どこか”をつくりたい。」
幼い頃に魅了された宇宙と、大学時代に出会った先端技術による衝撃。物理的な移動を超えて、精神的に「まだ誰も見たことのないところ」へ行く方法があるのかもしれない。それが、音の力で新しい旅先をつくる佐野風史の挑戦のはじまりでした。

GARAGE Program59期生「Sound Airport」の佐野は、2022年6月に100BANCHに入居。視覚情報に頼ることが増えた私たちを視覚の依存から放ち、画面の外へ飛び出すきっかけをつくることを目的に、環境音を聴くことで色々な場所から地球上の世界を音で旅するアプリ「Sound Airport」の開発に取り組みました。その後も制作活動を継続し、GOOD DESIGN NEW HOPE AWARDで最優秀賞を受賞するなど精力的に活動しています。

そんな佐野が、これまでの活動や100BANCHへの想いを語りました。

佐野風史|サウンドアーティスト / デザイナー

2000年、京都府生まれ。慶應義塾大学環境情報学部、同大学院政策・メディア研究科エクスデザインプログラム在籍。「音」や「聴取」をメディウムに、新しく現れたテクノロジーが、自然や環境と溶け込むことで浮かび上がる、新たな聴覚体験を探求。万物に気配を感じる想像力と、情報空間を生きる現代の身体感覚とを作品制作の源泉とし、これら両者が混ざり合う、日常の延長にある風景をテーマに据えている。『聞こえ』そのものを作曲(Composition)のように扱う手法を用い、マルチチャンネル音響による立体的な音響空間から、AI(人工知能)、耳介(じかい)の機能、あるいはノイズキャンセリング技術に介入するパーソナルなデバイスまで、スケールとレイヤーを自在に横断する。また、フィールドレコーディングや特定地域の音環境リサーチに基づき、その土地ならではの音の特性や言い伝えに着目した作品も手がける。主な実績に、NIMEやICADでの発表のほか、NeurIPS、山梨メディア芸術アワード、NEXT YOUNG ARTIST AWARD、GOOD DESIGN NEW HOPE AWARDなどでの入選多数。

佐野:僕は現在、音そのものや、音の「聞こえ」をメディウムにして作品をつくっていて、聞こえの構造から編集を行う「Hearing Composition(聞こえの作曲)」という自分なりの手法をつかっています。テーマにしているのは「想像力と情報空間を生きる身体感覚が交差する風景」で、「ここではないどこかをつくる」ということを作品制作で取り扱ってきました。

例えば、中にAIのようなシステムが入っていて周りの音を記憶する貝殻、トランペットの吹き口のパーツを変え、吹くのではなく耳を当てて聞くためのトランペット、周りの音の聞こえ方が変わる枕、立体的な音響とノイズキャンセリングイヤホンを連動させた作品などがあります。また、星を音で観測する体験型の都市イベント装置や、立体音響空間の中で森の音と都市の音を混ぜ合わせるパフォーマンス、呼吸に含まれる窒素量を音に変えて共有したり、植物の動きからリズムをとって音楽をつくったりもしてきました。

 

宇宙への憧れと、心を動かす「伝える」役割への気づき

——多岐にわたるアプローチで聴覚体験をつくり続ける佐野。そのきっかけは、幼少期の原体験にあったといいます。

佐野:僕のものづくりや、様々なクリエイションのはじまりになったのは、星、そして宇宙です。幼い頃、家族旅行で連れて行ってもらった天体観測会での光景が、僕にとって色々なものの原体験になっているのだと思います。そのとき買ってもらった「こども星座図鑑」という本をボロボロになるまで読み込み、ものすごく星にハマってしまいました。この本を片手に外へ出て空を見上げるような日々を、ずっと送っていました。

佐野:それで当時は「将来は宇宙飛行士になるぞ!」と思っていたのですが、中学生の頃に観た映画「ゼロ・グラビティ」が転機になりました。すごくキレイな映画ではあるのですが、宇宙や宇宙飛行士の過酷で恐ろしい面も描いている作品だったんです。中学生の僕は宇宙が怖くなって心が折れてしまい、宇宙飛行士の夢をあきらめてしまいました。そこからは「宇宙飛行士にはならないけれど、宇宙には関わりたい」と思い「ロケットを飛ばす人になろう」と考えていました。

しかし、高校生のときに「ispace」という宇宙関連の企業から出されたプロモーションムービーに出会い、大きな衝撃を受けました。月面に人が住む様子を描いたその映像を観て、ロケットを飛ばす技術そのものももちろんすごいことですが、それをロマンとして人に伝えること、ワクワク感や感動を伝播させていく仕事・役割の素晴らしさに感動を覚えたんです。それ以来、自分はロケットを飛ばすことよりも、何かを人に伝えたり、宇宙につなげるための何かをつくることをやってみたい、と思うようになりました。

 

物理的な旅から「Sonic Imagination」による精神的な旅へ

——宇宙へのロマンを伝えることへの興味を抱いた佐野は、大学進学後、人生が揺さぶられるような大きな体験をしたといいます。

佐野:その後、大学に進学して活動を広げていく中で「Media Ambition Tokyo 2021」という展示があって、これがまた僕の人生を揺るがすポイントとなりました。そこは先端的なテクノロジーや、未知の技術でつくられた作品が数多く展示されているイベントだったのですが、「Synesthesia Lab」というところが出展していた「シナスタジアX1–2.44」という、全身に振動子がついた椅子を体験したときになんだか宇宙が見えたような気がして「これ、ロケットじゃん!」と衝撃を受けたんです。若干ぶっ飛んだ考え方だったと思うのですが(笑)。「僕が思い描いていたのとはまったく違うロケットの形があるんだな」「こうやって人をどこかに飛ばすことができるのかもしれない」と思いました。

佐野:そして、僕が生きるうえですごく大事にしているのが旅です。自分の見たことのない世界に触れることが好きで、これまで色々なところに行ってきました。先ほどの「シナスタジアX1–2.44」でぶっ飛んだ体験をしたことで、「もしかしたら、まだ誰も見たことのないところに行く方法があるのかもしれない」と思うようになりました。しかも、物理的に移動するのではなく、精神的に「ここではないどこか」へ行く。そんな新しい旅先をつくってみたい、と考えるようになりました。

音には何かを想起させる力があると思っていて、僕はこれを「Sonic Imagination」と呼んでいます。僕たちがまだ行ったこともない場所の話を聞いたり絵を見たりしたときに、無意識のうちに脳内で音が発生しているのではないかなと思っているんです。僕の簡単な例で言うと、木星の写真を見たとき、ガスが渦を巻いているイメージとともに、細かい粒がぐるぐる回っているようなイメージがあって。無意識に細かい粒々の音や、それらがつながっている音、ぐるぐる回っているような音が浮かんできます。実際にそのような音響空間に身を置いたときに、行ったこともないのに、その瞬間に木星の中にいるような感覚がする。色々分析して今だから言葉にできていることですが、そうした聴覚的な風景によって「ここではないどこか」へ連れて行く体験をつくっているのではないかと思っています。

 

音で世界を旅する「Sound Airport」

佐野:100BANCHでは「音で世界を旅しよう 私たちの想像力でスマホの外に無限の世界を広げよう」をテーマに掲げ、「Sound Airport」という、環境音を収集・加工・共有するためのソーシャルメディアをつくっていました。

佐野:この頃は、コロナ禍から明けつつも、まだ閉鎖的な空気がありました。色々なところに出かけるのも制限されたり、家にこもっている時間が多かったりしていて、どうやったらこの湧き上がる「どこかへ行きたい」という欲求を解消できるだろうと考えて、スマホで色々な場所の動画を見たりしていました。でも、どうしてもスマートフォンという小さな画面の中に切り取られた世界しか見えていなくて、もっと空間的に「誰かのどこか」を感じられたらいいのに、という思いをきっかけにつくったのが「Sound Airport」でした。音には、空間を感じることができる力があると考えていて、部屋自体が「画面の向こう側」になるのではないか、と考えて取り組んでいました。

——ソフトウェアの開発が中心だったため、100BANCHのワークスペースに毎日集まるようなスタイルではなかったものの、節目節目でこの場所を利用していたと振り返ります。佐野は100BANCHが持つ本質的な価値について語ります。

佐野:僕の中で、100BANCHの価値というか、すごくありがたかったなと思っているのは、全体的に背中を押される雰囲気です。入居していた時期もそうですし、そうでないときも、なんかこう「やったれや」という熱い空気感がずっとあるというか。GARAGE Programの期間が終了した後も、入居時期は重なっていなくても100BANCHに在籍していた人とたまたまつながって話すと元気がもらえたり、自分が向き合いたいものに対してずっと背中を押し続けてくれている場所だな、と感じています。

 

「天体音測会」で宇宙との関係をつくり直す

佐野:「Sound Airport」と並行して続けていたのが「天体音測会」というプロジェクトです。星を音で観測する都市型のイベントであり、システムでもあります。

佐野:東京のような大都市では、空を見上げても雲があったり、大気汚染や街の灯りの影響で、星が見えない状況が多いです。街の人たちもそれをわかっているから、わざわざ星空を見上げることはありません。僕はすごく星が好きなので、そんな状況を少し悲しく感じてしまい、どうにか僕たちが星や宇宙と新しく関係をつくる方法はないかと考えたのが「天体音測会」という仕組みです。これは、星のデータを音に変換し、自分が向いた方向にある星が音として聞こえてくる、というものです。「天体音測会」は、エンジニアリングやアート、デザイン関連のコンペで色々と受賞させていただきました。また、東京の日本橋エリアなどで何度かイベントを開催したり、小学校で特別授業や展示などもおこなってきました。

佐野:それと関連して最近僕が興味を持っているのは、「Hearing Composition(聞こえの作曲)」という考え方で、「聞こえ」を作曲に組み込むという取り組みをやっています。既存の音楽や音源は、「どうやってスピーカーや楽器から音を出すか」という点が主な作曲の領域だと思いますが、一方で、「耳側」について考えてみると、そこにも介入できるポイントがあることに気づいたんです。

佐野:例えば、人の耳を動かす装置をつくったり、ノイズキャンセリングイヤホンを左右バラバラに制御してみたり、頭を預けた瞬間に周りの音の聞こえ方が変わる枕をつくってみたり。そうした、耳元でどう音が入力され、どう聞こえ方をつくれるか、ということに最近は取り組んでいます。

 

テクノロジーは、道端に現れる「木」のようなもの

——AI、ノイズキャンセリング、生体データのセンシング。佐野は新しいテクノロジーを日常に溶け込んだ自然のものとして使い、作品をつくってきたと話します。

佐野:これまでの作品の一部を紹介してきましたが、僕がどうしてこうした新しいテクノロジーを使って聴覚体験をつくっているのか、という話ができればと思います。僕にとって、次々と現れる新しい技術とは「道端に現れる木」とほとんど同じ存在なんです。

佐野:例えば、AI、センサー、コンピューター、ネットワークといったものは、ある種、日常にすごく溶け込んでいて、ほとんど自然と見分けがつかないものなのではないかと思っています。とても感覚的な話ですが、幼い頃からインターネットやスマートフォン、SNSが当たり前にあったり、何か目に見えない電波的なつながりのようなものがずっとあるんです。同時に、あらゆるものに気配や魂を感じる、みたいな、目に見えないものに対して想像力が働いてしまう文化の中にずっといるな、ということも感じています。自分たちはそういった想像力を豊かに持っているような感じがしていて、ほぼ自然と捉えられるような新しいテクノロジーと、ある種のアニミズムのような想像力が混ざり合うところに、新しい景色とか聴覚的な風景があるのではないかと考えています。そんな中に、想像の旅へと連れて行ってくれるような新しい体験がないかな、と考えていて。きっとその先に「ここではないどこか」があり、そこを越えたところに僕がずっと行きたかったような新しい風景や景色があるのではないかと信じて、制作を続けています。

 

枠にとらわれず、カオスの中から新たな風景をつくる

——大学を卒業し、本格的に作家としての活動をスタートさせた佐野。社会との接点が増える中で、個人の表現と社会の要望との間に起きる葛藤に焦点をあて語りました。

佐野:僕は大学を卒業した頃から、作家としての活動に本格的に力を入れはじめました。GARAGE Programが終了してからの葛藤について、今日はトピックを2つ持ってきています。1つは「社会と個人のバランス感覚」です。作家活動や何かをつくる活動は、自分発信でやることもあれば、誰かの依頼でつくることもあったり、誰かと意気投合してつくることもあったりします。その中で「社会の要望に自分が押し殺されてしまうことはあっただろうか」と考えてみたのですが……僕の中ではそうした板挟みのような感覚はないなと思いました。それは、自分にとっての作品制作や体験をつくるという、ライフワークにも近いようなものが、ほとんど自分の内側から発されていることだったからなのではないかと思っています。

また「ここではない新しい旅先」というものがずっと自分の主題としてあり、今後の人生もずっとそこに向き合っていくのだと思っています。そうしたものに自分は出会うことができたし、ずっと背中を押され続けているし、ずっと向き合い続けていきたい。そう思えていることで、人生の中でずっと自分の欲望からものがつくれるのではないかと考えています。

さらに、僕は多重人格的感覚があって、作品制作をしているときの自分と、今のように登壇しているときの自分は、別の自分が担当しているような感覚があるんです。プロモーションを考えるときにも、また全然違う自分がいたりして、自分を使い分けているような感覚です。バラバラの自分がたくさんいることによって、葛藤や苦しさみたいなのがなくなっているんだなと思います。誰もが同じようにできることではないかもしれませんが、自分の中に何人もの人がいると苦しさはなくなるのかもしれません。

——そして佐野はこれから未来をつくっていく同世代、そして100BANCHの仲間たちに向けて、既存の「枠」に関する想いを投げかけます。

佐野:最近すごく思うことが「枠を意識したくない」ということです。例えば、アート、エンタメ、デザインといったジャンルの垣根はもうなくなっていくのではないか、溶けていくのではないか、と思っています。もちろん、それぞれは同列に語られるものではないかもしれませんが、アートの中にもエンタメ性があったり、エンタメはデザインされていたり、展示にだって色々な要素があります。そういったことを考えていると、こういう枠組みはもう溶けてしまっていいのにな、と感じます。最近のAIの発展などを見ていると、一人ひとりができることが本当に広がっていて、もっとカオスな中から色々なものが出てくるはずです。そして、それをできるのが100BANCHなのだと思います。

そして、先ほどの葛藤の流れで、未来をつくる実験にジャンルっていらないよなあ、とも思いました。この場所には、皆さんが様々なバックグラウンドを持ってやってきていると思いますが、それらがここでぐちゃぐちゃになっていくというか。実験の過程では自分の領域の外側に出ていく必要があるときもありますが、そういった「ぐちゃぐちゃ」感がずっと100BANCHにあればいいなと思っています。100BANCHはそういう場所であってほしいし、そこにいる人たちはみんな、ぐちゃぐちゃにやっていってもらえたらうれしいです。

 

今回のお話の内容は、YouTubeでもご覧いただけます。

https://youtu.be/ikHFjerDYqk?si=jkfzHXeE5Z0hg0D7

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