
「命の多様性と社会をつなぐクリエイティブ表現の可能性」100BANCH実験報告会

100BANCHで毎月開催している、若者たちが試行錯誤を重ねながら取り組んできた“未来に向けた実験”を広くシェアするイベント「実験報告会」。
これからの100年をつくるU35の若手リーダーのプロジェクトを推進するアクセラレーションプログラム「GARAGE Program」を終えたプロジェクトによる100BANCHでの活動報告や、100BANCHでの挑戦を経て、プロジェクトを拡大・成長させた先輩プロジェクトによるナビゲータートークを実施しています。
2025年10月23日に開催した実験報告会では、命の多様性をテーマに、動物や自然を絡めた美しく力強いクリエイティブを創り続けているGARAGE Program55期生「SHINON」の髙野洋(株式会社SHINME)をナビゲーターとし、GARAGE Programを終了した4プロジェクトが活動を報告しました。
本レポートではその発表内容をお伝えします。
自分の肌に自信を持てる人を増やし、ルッキズムに揺るがない社会をつくる!
登壇者:星晴登、五藤潤、冨澤璃朗
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/skinu

「skinU」は、スキンケア診断サイトの開発を通じ、誰もが肌で悩まない社会や、肌で前向きになれる社会を創造するプロジェクトです。
星:人が第一印象として見られる部位の7割が顔であることを知って、この現状では「見た目、特に顔で評価される生きづらさ」が社会の根底にはあるのではないかと思いました。僕たちは、顔の中でも4割を占める「肌」に着目しています。僕自身、以前自分の肌に合わない乳液を使ってしまって肌荒れを起こしたことがありました。男子高校生にとっては、どのようなスキンケア商品を使ったらいいのかわからなかったり、オススメされた商品が高くて手が出せないことも多いです。そこで、男子高校生のスキンケア迷子を終わらせるスキンケア診断サイト「SkinU」を男子高校生5人のメンバーで開発しました。
100BANCHに入居してからの3ヶ月間では、サイトの信頼性を高めるため、夏休みを利用して200件以上の皮膚科や皮膚科医の方に電話をかけ、6件・8名の方にインタビューを行い、それを診断ロジックに反映させることができました。また、認知度向上のため、インフルエンサーの方に呼びかけ、サブスクサービスを委託するといった新しい業務案件をいただくことができました。また、サイトリリース後の初月では254件のユーザーの利用がありました。中間発表後には、司法書士事務所の方に協力していただき、免責事項など法律面のリスクヘッジを行い、今後の起業の際にもサポートしていただけることになりました。
そして、11月30日にTOKYO STARTUP GATEWAYでSkinUとしてはじめてのイベントを行います。また、実際に起業を行うこと、認知度拡大のためのSNS運用、そのための資金集めでクラウドファンディングも実施する予定です。

「100BANCHでの3ヶ月間で、プロジェクトは大きく前に進みました。しかし、僕たち高校生5人だけではまだまだ力不足なところがあると思います。これからもさらに応援していただけるとうれしいです。」と星は話しました。
日用品の「当たり前」に問いを立て、モノが人に寄り添う未来へ。
登壇者:守安巧
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/ergonomi

「ERGONOMI」は、日用品に潜む「当たり前の不便さ」を手がかりに、人間工学の視点からデザインを問い直すプロジェクトです。
守安:ERGONOMIの元となったのは「人間工学(ERGONOMICS)」で、人間中心・人間に優しい商品をつくっていこうというものです。このプロジェクトのきっかけは傘でした。雨に濡れにくい傘の持ち方について調べたり計算したりしていたところ、前に傾けて持つのがいいということがわかりました。しかし、実際に持ってみるとすごく持ちにくいのです。人体構造上で持ちやすい持ち方と、理論上で雨に濡れにくい持ち方には乖離があります。それを両立させるにはどうしたら良いのか。これを僕は「シン・人間工学」と呼んでいるのですが、これまでの傘が一直線上にあるという当たり前を問い直し、そこから生まれるプロダクトが面白いのではないかということからスタートしています。
100BANCHに入居してからは傘をつくって既存のものと比較したり、ワークショップを開催したりしようと思っていたのですが、まず、傘をつくるのが非常に難しくて苦戦しています。そこで、傘以外でも当たり前を問い直してみようと、トートバッグやキャップもつくりはじめました。「バッグの持ち手にバネを入れることで重さが可視化されて、重いものを持たなくなるのではないか」「帽子の中にワイヤーを入れて少し浮かせることで蒸れたり、髪型が崩れることがなくなるのではないか」など、問いを立ててプロトタイピングをつくっています。今後は、これらの製品販売の他に、会員制のコミュニティで、当たり前を問い直すことをアートにして、ギャラリー化したいとも考えています。ギャラリー化することによって、「問い」が湧いただけで終わりにならず、見るたびに考えられて、当たり前を問う時間を伸ばすことができると思います。

「ネクストステップとして、とりあえず形にしてみること、アート化の部分の実証実験を実際にやってみることを目標にしています。頑張ってファンを増やしたいです。」と守安は話しました。
未来を彩る光と科学の融合、夢と驚きが広がる人と生物が共生する新たな光景を描く
登壇者:西村隆太郎
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/biocraft

「BioCraft」は、バイオ技術と共生した未来の世界を想像することが可能なバイオクラフトを作製し、世の中に発信し、人と生物の共生を目指すプロジェクトです。
西村:「BioCraft」は、「サイエンスで遊ぶ」をモットーに、身近な自然素材などを使って、小学生の頃わくわく遊んでいたような空間やフィーリングを大事にしながら活動しています。今つくっているプロダクトがバイオランプで、ケンサキイカについている発光細菌を使ってつくっています。最初はヤリイカを使用していたのですが、ヤリイカの販売時期が終わってしまったり、漁獲量が少なくて値上がりしたため、ケンサキイカに切り替えました。ただケンサキイカだと光ったり、光らなかったりの問題が発生して、色々と試行錯誤した結果、6ヶ月くらいかかってしまいましたが、80%くらいの確率で安定して光らせることができるようになりました。生き物だからこその難しさがあるのですが、その難しさが楽しかったです。
今年のナナナナ祭で行った遊びが「バイオランプ」でのものづくりです。生命の光はとても微弱なので、ライトとして使ってもらうよりは、生きている感覚を楽しんでもらいたいという思いでつくりました。また「TOIMOCHI」とコラボして、サイエンスのアイデアの種やみんなが身近で不思議に思っていることを共有する会も行いました。他にナナナナ祭で行ったのが「手前味噌」です。手の中にはたくさんの常在菌がいますが、その中の乳酸菌にフォーカスしました。味噌をつくる際に手の乳酸菌が味噌の味や匂いの違いを生むのではないかという仮説のもと行った実験です。これは仮説が正しいかどうかというよりは、「手には微生物や常在菌がいるよ」ということを知ってもらいたくて開催しました。赤ちゃんも含め、色々な方に味噌玉をつくる体験をしていただくことができました。
「最近は匂いにアプローチしていて、蒸留器でトマトや土の匂いを抽出したりしています。何か面白い匂いがあれば、ぜひ素材をお寄せください。」と西村は話しました。
獅子舞にとって暮らしやすい都市とは?
生活の豊かさを測る新しいフレームを創造する
登壇者:稲村行真
プロジェクト詳細:https://100banch.com/projects/shishimai-habitat-city

稲村:僕は、日本全国500以上の獅子舞を取材して歩いている獅子舞の研究家です。2022年の6月に100BANCHに入居してから、いろんな取り組みをさせていただきました。獅子舞とは、厄を払ってくれたり、健康祈願、商売繁盛、大漁祈願、五穀豊穣など、その土地の願いと結びついている生き物です。日本の民族芸能として継承されているので、村単位、町単位で色々な獅子舞が47都道府県にあるところがすごく面白いです。
地域研究として獅子舞に興味を持っていて2018年から獅子舞を取材しているのですが、神社や公民館に電話をかけて獅子舞を見せてもらうこともあれば、実際に地域を歩いて住民に「この町に獅子舞はありますか?」と声をかけて取材に発展することもあります。全国を見ていくと、1つの市で100種類を超える獅子舞が見られるような、多種多様な獅子舞の生息地もあれば、一方で「獅子舞お断り」という看板を出している土地もあります。戦後、昭和の時代にヤクザと獅子舞集団が結託し、「獅子舞が舞うからお金をください」と押し売りのようなことが行われていたことがあって、獅子舞お断り看板が多い地域もあります。そこから、獅子舞にとって舞いやすい土地、舞いづらい土地があり、獅子舞の生息可能性について考えるようになりました。
コロナ禍で獅子舞が舞えない時期には獅子舞を想像しながら色々な場所を歩いたのですが、都市や地域の空間的な余白や時間の余白、他者への寛容性など「獅子舞の生息条件」みたいなのものがだんだんとわかってきました。それをマップに落とし込んで、どういうところだったら獅子舞が舞えそうか考えたり、獅子舞がいない土地で獅子舞を舞うことを考えたり、実際に獅子舞が生息できるか確かめる実験をはじめました。2022年の4月には「獅子の歯ブラシ」というユニットを結成して自分たちで獅子舞をつくり、色々な土地で舞い歩いています。100BANCH入居時にも渋谷の街で舞わせてもらったのですが、すぐに警備員さんにとめられ、ハチ公前に移動させられたりもしました。100BANCHのサテライトフィールドのある徳島県の神山では、稲刈りや竹を切る作業をさせてもらって舞ったりしました。また、今年のナナナナ祭では、未来の獅子舞をつくって舞いました。渋谷川の音を使ってお囃子をつくり、それに合わせて舞い歩きました。最近はあまり舞えていないので、またどこかで舞いたいと思っています。
「今後、獅子舞の取材よりも、獅子舞が自分をどう見ているかをルポとして書きたいと思っています。また、全国で途絶えていく祭と獅子舞の映像をどんどんアーカイブしていきたいと思っています。」と稲村は話しました。
実験報告会の各発表内容はYouTubeでもご覧いただけます。
skinU https://youtu.be/ykxSteQd6u4?si=yvPf4d4SOQtgBfIy
ERGONOMI https://youtu.be/Of7ime09o-Q?si=ksKroINsRqKClF9b
BioCraft https://youtu.be/Td7SGuGceFg?si=F-bx-fO4MM-TNEq1
SHISHIMAI habitat city https://youtu.be/-gtGY71sANQ?si=WyompRf3vYeR0YzP
次回の実験報告会は11月20日(木)に開催。ぜひご参加ください!

(撮影:鈴木 渉)

【こんな方にオススメ】
・100BANCHに興味がある
・GARAGE Programに応募したい
・直接プロジェクトメンバーと話してみたい
・バイオ技術に興味がある
・デザイン、アート領域に興味がある
【概要】
日程:11月20日(木)
時間:19:00 – 21:30 (開場18:45)
会場:100BANCH 3F
参加費:無料(1ドリンク付き)
参加方法:Peatixでチケットをお申し込みの上、当日100BANCHへお越しください
詳細はこちらをご覧ください:https://100banch.com/events/75063/