• イベントレポート

「“心”を記録するナナナナ周遊記」で見えた感情のかたち──ナナナナ祭2025を終えて

感情の共有・定量化を通して生体情報を新たなインフラとすることを目指すプロジェクト「COCOREACH」。心拍などの生体情報をもとに、人々の体験価値を高めることに取り組んでいます。
今回、ナナナナ祭2025では体験プログラム「“心”を記録するナナナナ周遊記」を実施。来場者に感情を測定できるブレスレットを着用してナナナナ祭のブースを周ってもらい、無意識化で抱く感情に目を向けてもらうことを試みました。想定外の困難に直面しながら当日を迎えた模様をCOCOREACHの島田がレポートします。

体験を「見える化」する──LUMIONという試み

ナナナナ祭で私たちが実施したのは、感情を可視化する腕輪型デバイス「LUMION」を使ったリアルタイムのバイオフィードバック体験です。参加者が腕にLUMIONを装着して会場内を巡ると、心拍数に応じて腕輪が色を変化させ、その瞬間の「ココロの動き」を“光”として可視化します。

ブースごとの反応を記録し、体験終了後には「自分がどこで、どんな感情の傾向があったか」をまとめた個別の感情レポートもお渡ししました。

プログラムの形式はスタンプラリー風にアレンジし、誰でも気軽に参加できるように工夫しました。

私たちの今回の目的は普段開発をしている「LUMION」を実際に消費者の方に使用してもらい、サービスが実際に動くのかを試す為に初めての実証実験を行うこと、主観的な評価とデバイスで取得した感情データがどれほど類似しているのか、そしてこのデバイスに対して消費者の方がどのような感想を抱くのかを明らかにすることでした。

 

見せる・つながる・残る──体験設計のこだわり

今回、私たちが最も大事にしたのは「感情を扱うことを、もっとカジュアルに、もっと楽しく」という視点でした。

そのために工夫した点は大きく4つあります:

  1. 参加ハードルを下げる仕掛け
    → LUMION体験を「スタンプラリー」形式にすることで、自然に参加できる導線を設計。小さなお子さんから大人まで、世代を問わず多くの方が気軽に手に取ってくださいました。
  2. ハード&ソフトの両面での改善
    → イベントという不安定な通信環境下で正確なデータを取るため、電波干渉や移動時のノイズに備えて直前にハードウェアとプログラム設計を調整。当日朝まで粘ってチューニングした甲斐があり、51名分の有効なデータを取得できました。
  3. リアルタイム演出と社会性の融合
    → デバイスが反応して光る様子は、ただの“ガジェット体験”では終わりません。隣の人と色を見比べたり、「どうだった?」と感想を話したり。可視化された感情が、人と人のあいだに会話のきっかけを生む瞬間が何度も見られました。
  4. 感情レポートのフィードバック
    → 体験後には、各ブース滞在時の生体反応をもとに感情傾向をまとめた個別レポートをお渡し。「自分でもなんとなくそう感じていた」という声が多く、主観と客観の交差点に触れられる不思議な体験になりました。

 

「仕組みが気になる」から始まる探究心

来場者からは、「これどうやって光ってるの?」「どうやって感情を測ってるの?」という技術への興味も多く寄せられました。これは嬉しい誤算でした。可視化が入口になり、心や身体の仕組みに関心が広がっていく。科学や技術を“身近な驚き”として届けられた実感がありました。

また、「レポートの内容が自分の感じ方と近くてびっくりした」「思っていたよりも主観に近い」といった感想も複数いただきました。私たちにとっては、これがとても重要なフィードバックです。「心拍と感情って本当にリンクしてるの?」という問いに対して、“主観に似ている”という実感こそが、技術の信頼性を生み出すからです。

 

想定外が続いた開発の舞台裏

ナナナナ祭のブース展示は3日間のイベントでしたが、私たちのブースが開いたのは2日目からでした。その背景には、開発過程でのいくつもの想定外がありました。

まず、限られた予算内での量産だったために費用を抑えなければならず、中国から必要なセンサーパーツを輸入したところ、関税手続きで荷物が止まり、到着が予定よりも1週間遅れる事態に。加えて、届いた製品が商品ページの記載と異なる仕様だったというトラブルもあり、再調達に時間を要しました。

また、PoCとしては今回が初の実地導入だったこともあり、現場のネットワーク環境との相性も課題となりました。LUMIONは心拍などの生体データをWi-Fi経由で送信する構成でしたが、100BANCH内の通信環境が想定以上に不安定で、データの送受信が継続できない時間帯が頻発。現地での調整を重ねても、どうしても安定動作に至らず、初日の開発完了は断念せざるを得ませんでした。

その結果、事務局からは「2日目もブースが開けられなければ、今回は出展を取りやめてほしい」というご連絡もありました。この状況をそのまま伝えるとチーム全体のモチベーションに影響する可能性があったため、その判断ラインは代表である私だけが把握しつつ、メンバーには“まだ巻き返せる”というスタンスで伝えるよう意識しました

その後も夜遅くまで修正と検証を繰り返し、なんとか2日目の朝には無事にブースを立ち上げることができました技術的にも運営的にもギリギリの判断が続く中で、少数精鋭のメンバーがそれぞれの役割を果たし、イベント本番での安定動作まで持っていけたこと自体が、ひとつの成果だったと感じています。

 

実験としての手応えと、見えてきた課題

技術検証という意味でも、今回の試みは確かな手応えがありました。特に印象的だったのは、特定のブースで共通して高い心拍反応が見られたこと。これは感情推定のアルゴリズムにとって重要な“正解データ”になり、今後の改良にもつながります。

一方で、課題も見つかりました。

  • 一部の参加者がブースに長時間滞在しすぎて、感情変化の記録が難しかった
  • バンドサイズが合わず、着用できない来場者もいた(大柄な男性や子ども・細身の女性など)

これらは体験設計とデバイスの両面で改良が必要なポイントとして、今後のプロダクト開発に反映していきます。

 

感情データの共有の「文化化」に向けて

今回のナナナナ祭は、私たちにとって「感情データを社会にひらく」第一歩でした。感情という目に見えないものを ”見える化する体験”が、人と人の間に優しい対話や驚き、共感を生むことを強く実感しました。

今後は、

  • ライブやフェス、展示会などの大規模イベントでの感情可視化
  • 展示・商業施設での顧客体験データの活用
  • 教育・医療・福祉でのバイオフィードバックの実装
    といった多様な分野に展開し、単なる“実験”から“文化”へと進化させていきたいと考えています。

 

一緒に「感情の資産化」に挑戦しませんか?

最後に、私たちが今後つながっていきたい人たちをご紹介させてください。

  • イベントプロデューサー/エンタメ業界の方:感情の波を演出に活かしてみたい方
  • 教育者/研究者:生体データや感情工学をテーマにした探究をしたい方
  • マーケター/広告代理店の方:感情データによる顧客理解に興味がある方
  • 自治体/福祉関係者:ウェルビーイングをデジタルで支援したい方

感情は、数字になることで「気づけなかった自分」に出会える力を持っています。
その感情が、誰かとつながり、体験を深め、社会の価値へと変わる未来を、私たちはつくっていきたい。一緒に”感情の資産化”に挑戦しませんか。

 

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