• イベントレポート

蛸みこし ∞ エピアート 見本市2025を開催。「蛸になって考える、私たちのタコー感」

「蛸」をモチーフに制作した、8人で担ぐふにゃふにゃした竹製の作品《蛸みこし》を用いて、人の社会を問い直す体験型プログラムをつくる、Octopus Project。2025年1月18日(土)に100BANCHにて、蛸みこしと〈エピアート (ePi Art)〉をコラボさせた様々な体験ができるイベント「蛸みこし ∞ エピアート 見本市2025」を開催しました。
本イベントは、アートと疫学の共創法であるエピアートとのコラボレーションを通じて、〈蛸みこし〉をさまざまな専門家とともに新しい視点で捉え直す試みです。疫学研究、都市観察、即興演奏、ジェンダー論など、異なる分野の専門家と協力し、ワークショップを通じて蛸みこしの可能性を探ったイベント当日を、Octopus Projectの野口が振り返ります。

蛸みこしとは?

脚の一本一本に独立した知性があるとされる蛸をモチーフにした、8人で担ぐグニャグニャした御神輿です。8人の担ぎ手は、「息を合わせる」「バラバラでいる」など、状況に応じて動く/動かされることになり、その時々の関係性が“蛸の踊り”として表れます。蛸の心身をヒントに、人間の集まり方や関係性を再考するプロジェクトです。

 

ePi Artとは?

「ePi Art」は、アートと疫学を軸にした共創の方法。疫学(epidemiology)は、健康影響に関する数値的エビデンスを扱う学問ですが、ePi Artはそれをアートと組み合わせた実践の場です。「ePi」にはepidemiology(疫学)やevidence(エビデンス)に加え、Process, Play, Performance, Practice, Participation, Poem, Public healthなどの意味が込められています。参加者は、それぞれの専門や得意なこと(疫学、アート、ビジネス、行政など)、または好きなこと(スポーツ、料理、ゲームなど)を持ち寄り、共に遊び、学び、探求しながら、多元的に表現していきます。

 

イベント内容

当日は、4人の専門家がそれぞれの視点でワークショップを実施しました。

  1. 蛸みこしはタコー感を醸成するか(疫学研究者・ハブヒロシ)
    普段、あまり聞き慣れない「疫学」という分野のレクチャーののち、「蛸みこしを担ぐと、人の心身にどんな影響があるのか?」をテーマに、疫学的な研究が行われました。参加者がそれぞれコインをふって「担ぐ群」と「担がない群」に分け、「ポジティブヘルス」の指標を参考にした独自のアンケートを実施。

    結果、蛸みこしを担ぐ人は「今への充足感」や「他者とのつながり」の数値が特に高くなることが判明!細分化・多様化が進む現代において、「バラバラなまま集まること」の大切さを改めて考える機会になりました。
    (ちなみに、蛸みこしの作者・野口が「担がない群」に振り分けられたのも、なんとも象徴的でした…!)
  2. 渋谷の街でなんじゃこりゃフィールドワーク(藝術探検家・野口竜平)

    渋谷の街を蛸みこしを担いで散歩しながら、都市と自分たちの関係性を観察するワークショップ。人々の視線や街の雰囲気の変化を感じながら、「ざわめき」や「祭りの予感」を探りました。「蛸みこしって、そもそも楽しいものなのか?」という疑問も浮かび上がり、なんとも言えない空気感のもと、蛸みこしが漂う場面も。
    盛り上がることもできるし、盛り上がらないこともできる。
    そんな蛸みこしの独特な空気感が、改めて見えてきた時間でした。

  3. 意思決定と合意形成について(即興演奏家・本藤美咲)
    即興演奏家として「いい感じの終わり方」を探求する本藤が、蛸みこしを使った意思決定と合意形成の実験を行いました。
    1)8人全員が「大丈夫」としか言えない
    2)8人全員が「大丈夫じゃない」としか言えない
    3)全ての決定に8人の合意が必要
    この3つのルールで蛸みこしを担いでみると、意外な展開に!
    (1)「大丈夫」の時は、すぐに打ち解け、掛け声も大きくなり、動きもどんどん活発に。
    (2)「大丈夫じゃない」の時は、控えめながらも意外と動きが大きくなる。
    (3)「すべて合意が必要」では、話し合いが続くだけで全く動けず…!最終的に「いっせーのせ!」で進む方向を決めると、蛸みこしがこれまでにない奇妙な形に。
    ワーク後の振り返りでも、組織や社会に当てはめて考えるなど、白熱した議論が繰り広げられました。

  4. ジェンダーパフォーマティビティの体験(ジェンダー論研究者・三宮柾名)
    このワークショップでは、蛸みこしを使って「ジェンダーパフォーマティビティ」を体験することを目指しました。参加者は、蛸みこしを担ぎながら次の3つのふるまいを実践しました:
    1)「男性っぽく」
    2)「女性っぽく」
    3)「男性として生まれ、性自認が男性で、恋愛対象が女性である人っぽく」
    三宮(ゴキブリの妖精の姿で)の指示で、それぞれのふるまいが竹ひごを通して蛸みこしに伝わり、動きが変わります。「男性っぽく」では蛸みこしが堂々と大きく動き、「女性っぽい」時は静かで落ち着いた動きに変わります。この体験を通じて、私たちの行動が性別の社会的役割にどう影響されているのかを実感しました。
    ちなみに、三宮が「ゴキブリの妖精」として登場したのは、ジェンダーに関する現象に彼自身の社会的ポジションを反映させないためだそう。
    来年度、彼が教鞭をとる大学の「社会と多様性」という授業にて、蛸みこしを取り入れた、同様の授業が行われます。

 

展示・制作活動

ワークショップと並行して、以下の展示・制作も行いました。

  • その場で当日の出来事をZINEにまとめ、即興で編集・制作
  • 蛸の伝説の地をめぐる「蛸みこし列島巡礼ツアー」のドキュメンタリー映画の予告編の公開
  • これまでの蛸みこし活動の写真展示
  • 渋谷での過去の実践をまとめたZINEの展示
  • 駄洒落プロダクツの加藤さんが制作した蛸みこしのコピーライティング展示


 

まとめ

今回のイベントでは、さまざまな専門家とともに、新たな視点から蛸みこしを考える機会になりました。蛸みこしは「アート作品」や「特定の業界の活動」にとどまらず、もっと自由で、多くの人に開かれた存在でありたいと考えています。担ぐことで生まれる人とのつながり、空間との対話、即興的な判断や合意、ジェンダーの視点など、さまざまな面白さがあります。

「バラバラなまま一緒にいる」そんな蛸みこしの思想が、異なる分野の専門家たちの協力によって、より豊かに広がる場となりました。今後もこのスタイルを活かしながら、いろいろな人たちと一緒に、さまざまな場所で「タコー感」のある場をつくっていきたいと思います!

 

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