SAVE THE UDON
うどんの手打ち文化を100年後に残す
「全日本人にうどんを打たせ、うどんの手打ち文化を普及させたい」
そう話すのは、GARAGE Program 15期生「SAVE THE UDON」の小野ウどん(うどんアーティスト/ 浅草真九郎 店主)です。小野は、2018年10月に100BANCHに入居。うどんの製麺工程と実食を合わせて競技化した世界初のうどん総合格闘技大会やうどんを神とする奇祭「うどんセレモニー」など、様々な実験に取り組みました。現在でも、手打ち塾の開講やうどん店「浅草真九郎」の経営など、失われつつある手打ち文化を残すべく、活動を続けています。
そんな小野が、これまでの実験や今後の展望などについて語りました。
小野ウどん|うどんアーティスト/浅草真九郎 店主 ミシュラン.ビブグルマンにも選出される都内屈指の手打ちうどん店「谷や」で3年の修業、うち1年は神保町「直白」の店主としてうどん店舗立ち上げを行い、出張専門うどん職人として独立。 |
——「うどん」に関して多彩に活動している小野。現在の取り組みについて語ります。
小野:100BANCHで「SAVE THE UDON」というプロジェクトで活動していた小野ウどんと申します。100BANCHに入居したのは2018年で当時は、とにかくひたすらうどんを打っていました。いまは「浅草真九郎」といううどん屋と「浅草手打ち塾」といううどん教室、それから自分で立ち上げた「日本手打協会」を運営しています。
小野:毎週月・土曜日はうどん塾、火・水曜日はランチ営業のみでうどん屋、木・金・日曜日は育児またはうどんパフォーマンス、というスケジュールで活動しています。うどん塾は月謝制のうどん教室です。うどん打ちの体験会はよくありますが、「楽しかったね」で終わることが多いです。もしくは、うどん学校のような場所に高い学費を払って通い、うどんの技術を身につけるだけでなく、最終的に機械を販売される、という2パターンが多い気がします。趣味でうどんを学びたい人や、飲食店を経営していてメニューとして手打ちうどんを提供したい人向けのサービスがなかったので、はじめました。うどんパフォーマンスは、音に合わせてうどんを打つうどんのライブパフォーマンスです。
小野:以前、クラウドファンディングでお金を集めて、ニューヨークでうどんのパフォーマンスを行ったこともあります。また、テレビにも出演させてもらいました。
うどん屋は売り上げが毎回それなりにありますが、原価がかかるので利益は多くありません。うどん塾は原価があまりかかりませんが、うどん屋ほどは安定しません。出張うどんは安定が難しいですが、原価の割に売り上げは大きいです。この3つでバランスが取れてるのが、我ながらいいモデルだなと思っています。
「UDON IS ROCK」が僕のテーマで、うどん屋の壁にも書いてあります。毎日うどん屋をやっていたら、例えばメディアに「スタジオに来てください」とお願いされたとき、店を休まなけばいけないので、フリーの日をつくっておくのはとても大事だと思います。また、うどんの研究もしたいので、うどん屋は週2日ランチのみ営業しています。うどんでやれることを全部やることは「UDON IS ROCK」の1つです。僕自身ロックが好きなことや、曲に合わせたうどんパフォーマンスをしているから「UDON IS ROCK」と言っているのもあるのですが、「常識を疑う」という100BANCH的な意味もあります。うどん屋に限らず、「飲食店の今の形ってどうなのかな」という疑問からはじまり、もっと働きやすく新しいことができるような飲食店のあり方を実現できたらいいな、と思って活動しています。
——「うどんでできることは全部やりたい」と話すほど、うどんに熱中する小野。そもそもなぜ、うどんなのでしょうか。
小野:100BANCHに入居する前は、ぼくはとにかく凡人で、何をやっても1位を取れない人生を過ごしてきました。ただ、歴史がとても好きで、戦国武将の立花宗茂、吉田松陰らの影響を受け、「自分も何か成し遂げたいな」という気持ちはありました。22年間やりたいことが見つからなかったのですが、麺類と日本の歴史が好きなことから、うどんに着目しました。ラーメンは「腕を組んだすごい店主」みたいな人がたくさんいるイメージがあるのに対し、うどんはあまりいない。誰もが知っていて食べられているのにスターがいない状況はチャンスではないか、と考えてうどんに決めました。
うどん屋で修行していたときの、実質時給は400円くらいだったのですが、毎日自分が進歩していく感覚が心地よくて、3年間、夢中でうどんを学びました。こういうものに出会えるかどうかはとても重要だと思うのですが、少しやっただけで「違うかな」と辞めてしまい、続かないことが多いと思います。僕の場合、うどんが面白かったので、「とにかくうどんだけに集中しよう」と決めました。
小野:ここでひとつ、僕が皆さんに伝えたいのが、「止考力(しこうりょく)」です。あえて考えることを止めるのはとても重要だと思っています。いまはインターネットやSNSがあるおかげで情報がたくさん増えました。良い面も多い反面、どんな情報でも得られてしまうので、やらない理由を考えやすいです。やってみようと思ったけれど、「調べたらもうやっている人がいるからやめよう」「失敗している人がいるからやめよう」などの考えにつながるのは良くないと思っています。もちろん、ある程度考えたり、考え抜くことも大事なのですが、その上で、ここぞというときは、「あえて考えるのを止め、まず動く」。そういうタイミングをつくれるかが、自分が何者かになったり、何かを進んでいくために必要な力かなと思います。
小野:以前、うどんを打つと前に進む「うどん加速装置」をつくり、渋谷のスクランブル交差点でゲリラ的に走らせたことがありました。他にも、ロックフェス会場にいきなり訪問して「ステージでうどんを打たせてもらえませんか」とお願いしたところ、打ったうどんがおいしかったら、打たせてもらえることになり、ステージで打たせてもらったことがあります。誰もやらなさそうなことでも、実際にやってみると結構うまくいきます。なので、いったん考えずにやってみることはとても大事だと思うし、凡人が進むためにはいいことだと思います。
うどん修行をやめた後、お金も時間もなく、バイトをしてたのですが、うどん打ちもスポーツのようなもので、打たないと腕が鈍るんです。それで、自宅で練習しはじめたのですが、つくったうどんが消費しきれなかったので、原付バイクに乗って出張うどんをはじめました。自宅では音楽を流しながら作業するのですが、音楽が終わってもうどんを切り終わってないのが気持ち悪く、「1曲の中でやってみよう」と考えたことから、うどん打ちのパフォーマンスが生まれました。最初はテーブルなどの道具を原付バイクで運んでいたのですが、みんなに「危ない」と言われ、車を買い、家を捨てて車中生活をはじめました。
当時の様子はドキュメンタリー映画にもなっています。車中に布団を敷き、後ろにうどんを打つテーブルを積んで生活していました。眠くなったらすぐに眠れ、起きればすぐ移動できる環境がとても良かったです。そんな生活を多くの人はやろうとしないと思いますが、僕はやってみた方がいいと思います。
——「止考力」で動き続けた小野ですが、100BANCH入居当時の落ち込んだことが、活動をさらに加速させるために大切だったといいます。
小野:100BANCHは、「何かをはじめた人のスタートのブースター」だと思っています。いかにして活動期間の3ヶ月間で、きっかけを掴んで羽ばたいていくか。100BANCHは居座る場所ではないと思っています。僕が入居したのは5、6年前ですが、入居していた人はみんな何かを掴んで飛び立っていくんです。100BANCHでの活動を終えたときが、ロケットのブースターがはずれた瞬間のように感じます。
僕が100BANCHに入居したときは、すごい人たちだらけで、とても落ち込みました。落ち込んで、停滞していたので「俺、何やってんだろう」と感じていたのですが、その中で「全日本人にうどんを打たせよう、うどんの手打ち文化を普及させよう」と想いが自分の中に芽生えたことが100BANCHに出会って得た一番大きいものだと思います。
小野:その想いを「うどん3C」を元に実現させたいと考えています。うどん3Cとは、①Career:時短のうどん職人、②Culture:うどんの塾で、うどん打ちを日本人の趣味・特技にする、③Contest:うどん総合格闘技TEUCHIです。
うどん総合格闘技TEUCHIは、100BANCHに入居してから生まれた僕の中で一番大きなイベントで、いま1番力を注いでいます。ステージでうどんを打ち、うどんを打つ姿と味をお客さんに採点してもらいます。食系のイベントは食べるだけのものが多いです。例えば、うどん屋をたくさん呼ぶ「おいしいうどん決定戦」のようなものはありますが、僕はうどんを打つ姿やプロセスを評価する大会を開催したいです。うどん打ちはとてもインパクトがあります。うどん屋でない素人の人でも輝ける、うどんに熱中できる機会があれば、うどん打ちの輪が広がるのではないかと思い大会を開催しています。
今年の年末には「TEUCHI masters」を開催します。第1回、2回はアマチュアの大会だったのですが、今回はうどん屋店主を対象にした、うどん屋の真剣勝負です。全国のうどん屋でどこが1番強いのかを決めます。さらに来年は、店主限定などの制限も全部なくしどこの誰でも参加できる、1番のうどん職人を決める大会を開催するつもりです。
——最後に、何かを極めたい人に向けて、小野自身が心掛けていることを話しました。
小野:これまでうどん以外のことは何も続きませんでした。小学校はサッカー部、中学はテニス部、高校は弓道部のようにばらばらで何も続かなかったのですが、うどんだけは不思議と続いています。「私は飽き性です」という話はよく聞くのですが、飽き性の中で、どう続けていくかが大事だと思っています。
僕はうどんの中でピボットすることが重要だと考えています。「新しいことをはじめるたびにゼロスタート」の状態を繰り返しても仕方ないです。でも、例えば、「ホワイトデーのうどん」をしてみたり、「次はうどんでこれやろう」など、全部うどんに関連づけられたらそれなりにつながっていくので、どんどん積み上げることができます。うどんの中でピボットするように、1つの領域の中でピボットできると何かを成し遂げることができるのではないかと思います。
今回のお話の内容は、YouTubeでもご覧いただけます。