• イベントレポート

科学の根源にある面白さをわかちあうには——DESIGNART TOKYO 2023アーカイブ

サイエンス×クリエイティブ #2 -センス・オブ・ワンダーを求めて- presented by Academimic

日本最大級のデザイン&アートフェスティバルである「DESIGNART TOKYO」。100BANCHでは、GARAGE Programに集うプロジェクトの中から、デザイン&アートに関連する若手クリエイターの作品を展示するとともに、関連するイベントも開催しました。

学術論文をアートで情緒的に表現する「ロンブンアート」などを出展した「Academimic」の浅井と宮田は、2023年7月のナナナナ祭に続き「サイエンス×クリエイティブ#2」と題したイベントを開催。

テーマは「センス・オブ・ワンダーを求めて」。「Academimic」の作品のコラボレーションした、生殖補助医療の研究者である甲斐 義輝さん、アーティストの諏訪 葵さんをゲストに迎えて、それぞれの活動に至る原点から「センス・オブ・ワンダー」を探る時間となりました。(開催日:2023年10月28日)

登壇者

甲斐 義輝研究者、医療法人社団煌の会 山下湘南夢クリニック 高度生殖医療研究所 研究室長、博士(再生医科学)
大学・大学院で分子生物学と細胞生物学を専攻、博士課程修了後は企業の研究員として抗がん剤の開発に携わる。その後、生殖補助医療の道に入り生命誕生の神秘性に魅せられて、現在は生殖補助医療の発展のための研究に取り組んでいる。

諏訪 葵アーティスト
東京藝術大学大学院 美術研究科博士課程に在学中。インスタレーション、平面、映像を中心にメディアを横断しながら作品を制作している。小学生の頃に液体の色が変化する化学反応を見た時に鮮烈に感じた感覚が現在まで続く作品制作の大きな動機になっており、現在は科学的な現象や概念と自己の知覚や感性との関わりによって生まれる「場」や「接面」に着目している。近年の主な受賞歴は第二回KYOBASHI ART WALL奨励賞(2022)、2022 年度グッドデザイン・ニューホープ賞 入選(2022)、 NONIO ART WAVE AWARD 2019 準グランプリ(2019)など。

浅井 順也|Academimicプロジェクト代表/プランナー /GARAGE Program59期生
大阪大学大学院にて脳神経科学を専攻。魚が鏡を見て自分と認識できるか、ヒトの背後の音源定位の能否など空間認知機能を研究。広告会社に入社後PR業務と並行して遺伝子をカセットテープで表現するアート作品等制作。WIRED Creative Hack Award ,Circular Creativity Labアワード 受賞等。

宮田 龍|サイエンスコミュニケーター
株式会社アラヤ 研究開発部にてIoBやアラヤの研究のサイエンスコミュニケーションを担当。「閉塞感のない社会」の実現を目指し、科学技術と社会の未来についてSF作品など使って話し合うイベントや展覧会などのサイエンスコミュニケーション活動に従事。

 

なぜ人々は科学に魅了されるのか?

——科学の感動を表現で伝える「Academimic」の浅井、よりよい未来をつくるために科学について話し合うサイエンスコミュニケーターとして活動する宮田。2人の自己紹介からトークがはじまりました。化学の面白さの根源にある「センス・オブ・ワンダー」とは。

浅井:僕は大学院で脳神経科学の研究に関わった後、広告代理店で表現を追求してきました。表現を通して科学の面白さを伝える新しいサイエンスコミュニケーションに寄与したい。そんな思いから 「Academimic」をはじめました。

今回の「DESIGNART」では、研究論文をポップカルチャーと融合させた「ロンブンアート」、人・小麦・ラットの遺伝子情報をカセットテープで表現した「ゲノムカセット」、学術研究を通してアート作品の新たな見方を探る「LaddARTProject」を展示しています。

宮田:僕は普段、サイエンスコミュニケーターとして活動しています。社会には多種多様な研究分野で活躍する研究者がいます。目指す方向性は様々ですが、そこに更に研究者以外の世の中で生きる多様な価値観をがっちゃんこさせれば、思いもよらない価値が出て、社会に出すときのリスクを考えて事故を防いだり、新しい課題を見つけることができるかもしれない。誰1人取り残さない未来をつくるために、科学を通して社会について話し合うことをやっています。浅井さん、今回のテーマである「センス・オブ・ワンダ―」って、どんな意味の言葉ですか?

浅井:研究してる人もいたり、各々自由に言っている人もいるんですけども、自然に触れて感じる全能感や不思議な気持ちや、ロジカルな部分からマジカルな部分に変異を起こす部分が「センス・オブ・ワンダー」なのかなと感じています。この会に参加してくださった方は、科学に興味があると思います。科学の面白さの根本にある「宇宙は怖い」「虫が好き」とか、言葉にできない、教科書に載らない魅力が「センス・オブ・ワンダー」かなと感じています。

宮田:今回のイベントでは、難しく捉えず、日常で見つかる「ときめき」くらいの解像度でお話したいと思っています。アーティストの方や研究者の方がどんなときに「センス・オブ・ワンダー」を感じるのか、「Academimic」と取り組んだ活動を通して、それぞれの視点を話しつつ、専門性の高い人たちだけじゃなく、誰の日常にでもあるんじゃないかと、皆さんが「ときめき」を見つけて帰れるイベントになればいいと思います。

 

理科の実験で感じた「あの瞬間」を表現したい

——はじめにエピソードを紹介したのは、アーティストの諏訪さん。彼女の原点は、小学校の理科の時間の実験での出来事。その瞬間に感じたものを表現したい、無かったことにしたくない。そんな思いでインスタレーションを作り続けています。

諏訪:私は東京芸術大学の博士課程に在籍し、インスタレーション作品を中心に制作活動をしています。今の活動に至ったルーツは小学5年生の理科の実験でみた化学反応です。先生が持ってた液体のフラスコを振ると色が本当に変わったんです。「綺麗」とか「すごい」で終わることも可能だと思うんですけど、その瞬間ちょっと次元が歪むというか、時空の歪み見ちゃったぐらいのインパクトを感じたんです。「これだ」と思いました。その後科学の勉強も楽しくなって、高校2年生まで理系でした。その後「科学を美しいと感じる感覚は美術に通じている」と思い、今の進路を選びました。

大学に入って、インスタレーションという手法に出会いました。これなら私が感じたことをそのまんま見せられると思ったんです。小学校のときの原体験にすべてが詰まっていて、その瞬間をないものにしたくない。「絶対にあった」って言わないと、他の人は別の感じ方をしてるから、なくなっちゃう。デザインは違うかもしれないですけど、ファインアートに近いほど、ワンダー的な衝動があるのかなと思います。

宮田:小学校の5年生のときに感じた瞬間を形にしたい思いは今もありますか?

諏訪:完全に同じではないんですけど、それ的なもの、近似するものが絶対にあるはずと思っているんです。そういう領域のことを考え続けて興味ある人たちと話したい。こういう場に呼んでいただけるのもありがたいと思います。

今回展示しているのはさまざまな枠や鏡を組み合わせて制作した「ツギハギの位相」という作品です。メインで言ってることは「捉えきれなさ」です。こういうコンセプトと言えば、なんでもOKになっちゃうところが世の中にはある気がしていて、今回のコラボレーションも、浅井さんが掘り下げてくださって色んな解釈ができた。この作品は、捉えきれない情報の動きや、それがあるよって構造を示した方がいいと思ったんです。現代社会も結構多層的な出来事が多い。そういう部分をこの時代に触れておくことは意義があることじゃないかなと思います。

インスタレーションは空間なので、中に入って作品の一部になる要素もある。でも今回の「ツギハギの位相」は正面性が強い。過去作もそうですが、私は絵画出身なので、私の作品は正面があるんです。色んな見方はできるけど、正面を残している。そこがポイントでもあります。

これは、群馬県で今は使われなくなった織物工場でインスタレーションをさせていただいた『「映り」としての圧縮』の動画です。

「ツギハギの位相」とテーマは近くて、捉えきれない、1回きりしか場所を通過できない現象の重なりがテーマです。2020年のまさにパンデミックのときに無観客で行いました。いかなるときでも、何が起こってるのか、今何ができるのか考えるのが大事だと思いながら作品制作をしています。

宮田:諏訪さんが作品として残したいと思うものが「センス・オブ・ワンダー」的な「ときめき」だとしたら、アーティストとして「あ、 これだ、作品にしたいな」とか、感じて作品にしようっていうところ、どんな目線で日常を見てらっしゃるのか教えていただいてもいいですか?

諏訪:一つの現象に対しての感受性が高いのかもしれません。朝、目が覚めたときに窓にかかるすだれから光がこぼれる。そんな光景に心動かされることもありますし、料理していて、煮立っている鍋の中に生まれる規則性に目を向けることもあります。意識的に考えるより、感じとってしまうんですね。

宮田:僕は鍋の中を見てもそんなこと考えないんですよね。物事の現象みたいなところを注目して見てるのかな。

諏訪:そうかもしれないですね。小さいときも川の源流をたどってどこかに行っちゃう子供でした。気になったら追いかける。自分の1番エモい「これだ」ってところを大事にしないとなくなっちゃうんです。そうじゃないと伝わらないじゃないですか。 伝えようにも、まず「自分が捕まえなきゃ」という意識がすごい強い。結構どうしようもないものなんですよ。「それが何?」と言われたら「なんでもない」としか言いようがない。 でもその感覚が作品に出てきたりします。

 

生命誕生の瞬間には「センス・オブ・ワンダー」があふれている

——研究者の甲斐さんが携わるのは人の生命誕生に関わる生殖補助医療。一生かけても解き明かすことはできないという命が生まれる瞬間の「センス・オブ・ワンダー」を語ります。

甲斐:「山下湘南夢クリニック」という不妊治療のクリニックで働いている甲斐です。個人クリニックの研究者という立場で、人の受精や受精卵が発生していく過程を研究して医療に生かす取り組みを行っています。

僕が研究者を目指すきっかけは、小学校の低学年のときに、テレビでエイズのニュースが流れてたんです。HIVが原因の疾患で、今は進行を抑える薬があるんですけれど、当時は治すことができない非常に怖い病気だったんです。「とにかく怖い」「なんとかしなきゃいけない」「じゃあ研究者になろう」と思ったのがきっかけです。それまではパイロットになるつもりだったんです。

宮田:空を飛ぶよりも、「この怖いものをどうにかしたい」と思ったんですね。

甲斐:その後研究者の道を突き進むんですけれども、今度はがんが怖いな、アルツハイマー怖いな、と変わっていくんです。「センス・オブ・ワンダー」とは違うのかもしれないですけど、僕は恐怖から研究者を志しました。

今は、クリニックに所属する研究者という、ちょっとはぐれメタル的な感じでやっています。研究分野変えながら来ていて、今の分野は人の生命誕生の瞬間に触れる研究ができています。すごく神秘的なんですよ。皆さんの体は30何兆個、200種類くらいの細胞からできています。元々たった1つの細胞がどんどん増えていく。でもどうやって分かれていくのかが全く分かってないんです。究極の目標として、いつかそこを理解したいとは思ってるんですが、おそらく僕が生きている間は無理でしょう。その一端だけでも見たいと思いながら、研究を続けています。

これは、人の受精卵の動画です。受精するとどんどん分かれていきます。 核がまず出てきて、その後核が消えて2細胞になり、どんどん倍にダイナミックに力強く増えていきます。染色体の細胞の中の丸っぽい角の中には、お父さんとお母さんの遺伝情報が入っています。この染色体が混じり合ったところから、我々の命がスタートしていると言えます。

浅井:子どものときに卵子と精子が受精する確率がとても低いことに衝撃を受けました。

甲斐:1個の精子と1個の卵子が出会う確率は、約1500兆分の1と言われています。妊娠につながる確率はさらに低い。我々人間の存在は、宇宙レベルの確率の上に成り立っている。地球が生まれる確率も「壊した懐中時計を海に入れ、水の流れで組み立てられるのと同じ確立」という話もあります。私たちが地球上で、今この場所に集まっていることは奇跡だと思います。

宮田:すごい。鳥肌立ちますね。この分野はまだわからないことだらけだとお話されていましたが、「これを研究したい」「自分には光って見える」瞬間はあるんですか?

甲斐:臨床が第一なので、治療でネックの部分にポイントを当てて研究することが多いです。ただ、それは臨床向けの研究で、1つの受精卵からなぜこんな複雑な形になるのか解き明かすための研究テーマも探しています。世界中に競合相手がいるので同じことをやってても意味がない。ニッチなところをいかに見つけていくかが勝負ですよね。

宮田:オリジナリティを見つけるのは大変だし、うまくいく保証も別にない。「これだ」って信じるのは結構難しいですよね。コツはあったりするんですか?

甲斐:経験しかないと思います。いっぱい論文を読んで、勉強して、いろんな研究者と出会って話して。コツがあったら僕が知りたい。その人のセンスとラック。それが重要になってくるかな。

 

驚きが、その人の世界観を変える

——アーティストの諏訪さんの作品の中に、驚きと共に知識を得られる可能性を感じた浅井。人の世界観を変えるような知識を広く伝えるために、「ワオ」と驚くような仕掛けが大切だといいます。

浅井:僕は諏訪さんの「ツギハギの位相」を見たときに、現実との違和感があったんです。我々は、枠の中に情報があるのを前提として生きてるじゃないですか。スマートフォンだったり、額縁だったり。でも「ツギハギの位相」は、向こうが見えてるものがあったり、鏡があったり、別のとこから見られてる映像があって「枠とはなんぞや?」と。

その不思議な感じは、僕が学生時代に研究していた「自己共存認知機能」についての研究とのシンパシーを感じました。でも、研究は体験できないじゃないですか。諏訪さんの作品は、驚きも含めて体験として知識を得られるところが、科学実験を経て創作活動につながっていく部分だなと、一緒にコラボレーションしたいと思った理由です。

諏訪:一緒に活動できてすごく面白かったです。浅井さんと出会ったときに、「ワンダー」的な話をできる人がいてびっくりしたんです。浅井さんは何かの構造が私とかなり近い。すごい論文があっても、一般の人たちには難しくて知る余地がない。でも、「Academimic」の「ゲノムカセット」を見るとこういうことを考えていたんだとすぐわかる。体験のフックとしてものがあるといいよねというところで共感してます。

浅井:「なるほど」よりも「ワオ」が欲しいんです。研究の中で知識を得られることによって、世界観が変わることがあると思うんです。でも知識だけでは、勉強的なところに落とし込まれてしまう。だから、体験はすごく大事なんだと思います。

 

「半径1メートル」からセンス・オブ・ワンダーを伝えたい

——素晴らしい研究の論文は、一般の人に届けることが難しい。その面白さを伝えるためには「半径1メートル」から考えることが大事だと浅井は言います。

甲斐:私の論文は一般の方は触れる機会もないんです。X(旧Twitter)で「ロンブンアート」の募集を発見して、専門知識がない方に楽しんでもらえる機会になればと思いご連絡しました。完成した作品はすごく良かったです。自分の中の研究の表現の仕方がガラッと変わってしまった感じがあります。学会発表でも、浅井さんの作品をバーンと出してます。

浅井:色々な研究が集まってきて、甲斐さんの研究は特にセンシティブだと思ったので、変にドラマティックにするわけでもなく、見せ方を注意しながら作りました。完成した後に、「こういうのがしたかったんだ」って言われたときにうるっと来たんですよね。研究者さんの表現の一助になってるかもしれないとやりがいを感じました。

宮田:一緒につくるときには、コミュニケーションを取りながらこの人が大事にしてる「センス・オブ・ワンダー」的なものはなんなんだろうみたいなところを、浅井さんも自分ごととしてインプットするところからはじめる感じですか。

浅井:「発散と収束」ですね。研究者さんに関しては、間違って表現しないように、できる限り染めずに色んな方が興味を持ってもらえるように創作物をつくる。一方で、アーティストは空想やアイデアが元なので、いかに現実と紐付けて色んな人が自分ごと化できるか広げていく。コアになる動機を抑えつつ、深めていくのか、広げていくのかに違いがある。

あと、「自分ごと」という言葉で思ったんですが、やっぱり「センス・オブ・ワンダー」って、半径1メートルぐらいからはじめないとダメなんです。アートも研究も一般からはめちゃくちゃ遠い。この前「DESIGNART」の懇親会に行ったんですけど、一般人はなかなか行かないところなんですよ。やはり、デザインやアートも学会も一般の人がいない。そのつながりをどうつけるのかを気をつけてます。

今後どういう風にいろんな人を巻き込んでいけるのか。ひとつに「センス・オブ・ワンダー」の日本語訳を作りたいなと思います。「エモい」って言葉があるじゃないですか。あれはいろんなクリエイターを救っていて、「エモい」という共通言語があることでいろんな方が参加しやすくなる。中高生の若者の力を借りて、考えてみたいと思っています。

 

アートも研究も、根源は変わらない

——「Academimic」の活動紹介を経て、後半は、専門性を持つ人のためのものではなく、もっと自分たちの身の回りに溢れるものとしての「センス・オブ・ワンダー」を考えてみる時間になりました。

宮田:まずは、甲斐さんと諏訪さん、お互いの話を聞く中で気づいた共通点や異なる部分を教えてください。

甲斐:視点は全然違いますよね。でも、諏訪さんが川の源流まで辿って行く「これはどうなっているんだろう」という気持ちは、共感します。「センス・オブ・ワンダー」の根源って知的好奇心なんだと思います。

諏訪:甲斐さんが研究者を志した「恐怖」は、私と同じだと思いました。私も科学実験を見たときに、美しさと隣り合わせのある種の怖さを感じたんです。哲学者のカントが、美と崇高は別なのだと書いています。美は心地良くて楽しめるものだけど、崇高は手に負えない畏怖の感情みたいなもの。「センス・オブ・ワンダー」は、後者の怖さや尊敬や敬意の感覚に近いと言えるかもしれない。

浅井:「センス・オブ・ワンダー」って、畏怖とか恐れみたいなところがあると思います。長野県の「諏訪湖の御神渡り」という湖面が凍り氷が膨張して隆起する現象があるんです。それは諏訪湖のほとりにある男の神様が女の神様へ歩んだ道と呼ばれていて、自然現象がカルチャーと紐付けられている。それって「センス・オブ・ワンダー」の、例としてそれ以上ないかなと思ってます。自然現象という不思議を超えた怖いものに触れるときに、ストーリーを立てて進めていくと研究やアートの発端になる。そういう原動力が、「センス・オブ・ワンダー」のコアにあるのかなって。

 

原体験と一緒に生きていくのは難しい?

宮田:諏訪さんも甲斐さんも、「センス・オブ・ワンダー」を見つけるまなざしを鍛えていらっしゃる感じがします。でも、僕自身は、「センス・オブ・ワンダー」で感じたことを信じて生きていくのは大変なことなのかなとも思ったりもするんです。好きなことに出会うことと、見つめ続けて生きていくのは、ちょっと違うのかなと思って。YouTuberみたいな言葉ですが、好きなことで生きるのはハードルが高いとも思うんです。

浅井:原体験をずっとずっと携えて生活していくってことですよね。

諏訪:私は「センス・オブ・ワンダー」のコアの部分を表に出さなくてもいいかなと思うんです。無理やり社会に合わせちゃうと、形、変わっちゃうじゃないですか。アートの場合、特に怖いなと思うところで、市場に合わせて、作品の形がどんどん変わってったら、生活は成り立つかもしれないんですけど、本来のワンダー的なところはそれていっちゃう。

甲斐:やっぱりコアが必要だと思うんです。僕は職業環境も変わってきてますけれども、その場その場で対応して、自分なりに楽しみを見つけてやっているんです。環境が変わっても自分のしっかりしたコアを基本にして、道を新たに作っていくことが重要なのかなとなんとなく思いました。

浅井:そのことを一生かけて突き詰めていく覚悟があればそれでいいですよね。

宮田:僕は、宇宙の研究をしていたんです。きっかけは、小学校3年生ぐらいのときに気づいたんです。「僕は死ぬんだ」って。死ぬのが怖いのと、死ぬまでに知らないことがあるのが腹立たしいと思ったんです。手っ取り早く全てを知るために哲学か科学を考えて、科学なら1番でかいものがいいと宇宙を調べていたら「セオリーオブエブリシング」という法則でも、人生知らないことだらけですし、死ぬまでに全てがわかることないなって思って、僕自身は「センス・オブ・ワンダー」を変えてきたんだと思います。

 

「センス・オブ・ワンダー」の探求は続く

——トークの最後に会場から寄せられた一つの質問。それをきっかけに、「センス・オブ・ワンダー」をめぐる議論はさらに盛り上がっていきました。

質問:「センス・オブ・ワンダー」という言葉は、今回はじめて聞きました。私はそれに似た感覚を持っていて、言葉にできない期間が長かったんです。「クオリア」という、その人が持っている主観を軸に感じている物事の質を表す言葉に出会って、これでこの感覚を人に伝えることができるかもしれないと、武器を持った気持ちになりました。その経験に近いお話や体験があれば教えてほしいです。

甲斐:研究は、現象があって仮説を立てて立証していく行動です。実験を進めて、思った通りの結果が出たときは脳汁がすごく出るくらい超エモくて、この感覚を味わうから、研究者続けられてるんだろうなってぐらいハッピーな時間です。その瞬間は、その感覚に近いのかなと僕の中では思います。

宮田:サイエンスコミュニケーターの立場で「自分はこうだ」と思える感覚や体験が難しいんです。「閉塞感のない社会を作りたい」と言ってるんですが、差別も偏見も0になる社会はおそらく来ない。僕は「なぜこれをしてるんだろうか」と考えて、1つ腑に落ちたことがあります。「綺麗事を誰も言わなくなった社会はやばい」と、言った方がいたんです。綺麗事を言い続けられるだけのサイエンスコミュニケーターでいようと今でも思ってます。

浅井:サイエンスコミュニケーターって、科学を知識として伝えようとしてるのか、面白いと思って伝えようとしてるのか、どっちなんでしょう。

宮田:伝えないと話し合いができないときは知識を伝えますが、どっちかっていうと、面白いは伝えるんじゃなくて、「一緒に作る」んだと思ってます。その先にある、今よりも良くなった未来に面白いことがあると信じて、一緒に作りたいですね。

浅井:それなら、「センス・オブ・ワンダー」は必要ですね。「センス・オブ・ワンダー」って、「冷たい」「あったかい」から、センスって言葉がついてると思うんです。知るよりも先に面白いが先んじてる。そういう部分を伝える側はどこまで実体験しておくべきなんだろう‥。

諏訪:お二人の話を聞きながら、気になってきたので最後にひとつ。エンターテイメントと、「センス・オブ・ワンダー」的なことって違うのかなって。浅井さんの「Academimic」は、ポップでエンタメの要素を入り口に、奥に「センス・オブ・ワンダー」が待ち構えてる。でもエンタメで終わっちゃうと何もなかったって思う人も一定数いるんじゃないかな。

浅井:僕は最近「KING GNU」を見ているんです。彼らは東京藝大出身でアカデミック的な音楽に課題感を抱えて、一般の人を巻き込む音楽を作りたいとはじまったんですけども、今はポップスなんです。規模とかクオリティは違うんですけど、大衆とアカデミック的な楽しみは違うのかもしれない。でも、やっぱりそこへの夢が諦めきれない。そんな感じでやっています。

——科学の面白さの根源にある「センス・オブ・ワンダー」。この一語を通して、様々な方向へと議論は展開していきました。不思議に魅せられた彼らの探求はこれからも続いていく。そんな広がりと予感を感じるイベントとなりました。

 

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