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Space Mongology - 超未来宇宙編 - 昆虫食が描く虚構と現実の新世界—ナナナナ祭2022を終えて

「bugology」はナナナナ祭2022にて、昆虫食が当たり前となった未来の世界を「Space Mongology」と題した物語で表現しました。

新しい分野である『昆虫食」にはまだ多くの可能性を秘めています。今回の展示企画では、そんな可能性を昆虫食を通して「未来/仮想の世界」を、2082年の地球ではなく月面を舞台に昆虫食を通して新しい世界を想像(創造)し、未来の食のあり方を考えました。

「Space Mongology」を通してみえる未来はどのような世界なのか、レポートで振り返ります。

「バクスター、宇宙は地球の常識が通じない異世界だと思え。」 本展示『Space Mongology』は、この言葉から物語がはじまる。

 2013年、国連食糧農業機構(FAO)が発表したレポート(“Edible insects: Future prospects for food and feed security”)で未来の食糧危機を救う食品として『昆虫食』は世界でも注目され、日本でもコオロギの粉末を練り込んだお菓子が話題になった。それから約10年経った2022年、昆虫食は課題解決のための手段の範疇を超え、1つの美味しい当たり前の食材となりつつある。しかしこれは昆虫食がもつ可能性の片鱗であり、まだ僕たちの知らない多くの可能性を秘めているはずだ。本展示『Space Mongology』では、現実の専門家たちのリファレンスを参考に月を舞台に昆虫食が描く虚構の世界と新たな可能性を40ページ以上にもなる小説を含む資料としてまとめた。

▲ ナナナナ祭で展示した『Space Mongology』。1冊の本と、その本の中身を拡大印刷したものをハンガーにかけて展示を行った。

 

宇宙で描く昆虫食の新しい視点

 bugologyとは昆虫食を美食及びにアートとういう視点から解体・再構築することを目的に結成された。

そう聞くと100banchでもお馴染みのANTCICADAの篠原祐太氏と勘違いされるのだが、僕たちはそもそも昆虫があまり好きではないし、目の前に芋虫の料理なんて出されたら、多くの皆さんと同様にしっかりとキャーキャー叫びながら食べることを躊躇する。

こんなメンバーがなぜ昆虫食にアプローチしているのか。それに対しての明確な回答を答えることはできないが、デザインや何かしらのクリエイティブに携わるメンバーで形成された僕たちにとって『昆虫(食)』とは、まさに未知な素材要素であり、『キモい / コワい』という感情と一緒に彼らが持つ底知れぬ可能性に好奇心が掻き立てられる。

そんなbugologyは昆虫食に加えて、月というこれまたキャッチーな分野に手を出した。というより昆虫食と月を組み合わせることにした。僕たちは未知の分野を組み合わせることで、まだ未開拓の両分野に新しい視点を持ち込めるのではないかと考えた。

▲ 来場者は実際に本を手にとるか、ハンガーにかかった拡大印刷したポスターを読みながら、昆虫食の新しい世界観を楽しんでもらう

 

不透明な未来で生まれる虚構性を孕んだ世界

さて、2022年のナナナナ祭のテーマは『地球の上で未来をつくる』とあるが、『未来をつくる 』とはどういうことで、昆虫食は未来の世界で何を担うのだろうか。

 現在、地球の上ではパンデミック、地球汚染、温暖化、食糧問題、人種(性)差別、戦争 — 様々な課題が複雑に絡み合い、現状分析や過去の統計などに基づくアプローチから想像できる世界はもはや意味をなさず、現実が想像をはるかに超え、数年先の未来でさえ予想が難しい時代へと突入している。

そこでデザインの世界では『スペキュラティブ・デザイン(Speculative Design)』というの新しい発想の手法が注目されている。スペキュラティブ・デザインとはデザインシンキングのような課題解決型ではなく、これからの社会はどうなっていくのかを考え、未来や空想のシナリオをデザインして、思考するきっかけを与え、『問い』を生み出し、いま私たちが生きている世界に別の可能性を示すデザインのことだ。

例えば現代では月面に1kgかかる輸送コストは100万以上のコストがかかる。ようは鶏、牛、豚を宇宙へ持っていくことは困難であり、そもそも彼らの飼料を用意することも大変だ。そういう意味では軽量かつコンパクトで、少ない飼料で効率的に育てることができ、また高いタンパク源をもつ昆虫は宇宙に向いている食材だ。

 このようにもし僕たちの生きる世界が地上から宇宙や月面となった時に、昆虫と宇宙という2つの未知の分野を空想の世界の中で組み合わせることで、この不透明で⾒通しの利かない未来の世界の中で昆虫食の新しいアイデアや可能性を見出せないかと思った。

 というのも、そもそもは昆虫食も食糧危機等の不透明な未来への1つの課題解決の手段として、年国際連合食糧農業機関(FAO)が昆虫を食用としたり、家畜の飼料にしたりすることを推奨する報告書を公表したことがきっかけとして注目を浴びた。

当時、bugologyは課題解決の手段として注目を浴びていた昆虫食に対して、『昆虫食は課題解決の手段としてではなく美食になり得るのではないのか』という、なんの根拠もないシナリオをデザインし、多くのシェフやバーテンダーと一緒に昆虫食の調理法や思考を『昆虫食解体新書』という企画を通して発表してきた。

 今回の展示では改めて昆虫食がもつタフな生命力や爆発的な繁殖力、栄養効率性、そして美味しさに着目し、現実の専門家らのリファレンスを参考にSF小説という虚構の空想世界を想像し、彼ら(昆虫)を主人公のBaxster(バクスター)と一緒に月に飛ばすことにした。

▲ 舞台はいまから近い未来とも遠い未来ともいえる2082年の宇宙開拓時代の地球唯一の惑星、月。

本展示では宇宙開拓時代を生き抜いた1人の青年バクスターに関するノートの抜粋で構成されている。今回は特に空想上の主人公のバクスターが僕たちの生きる世界の実際のリファレンスやアイデアを参考に、月面での食のあり方を3つ<FARM/KITCHEN/TABLE>に大別して提示した。

 

虚構の当たり前を現実の世界で描く

 今回、Space Mongologyの第1弾には2つの狙いがあった。

1つ目は地上生活で染み付いた当たり前の疑問を持つことである。本展示で再三言っている通り重力が1/6になれば地上で当たり前だと思っている歩くや座る、そして食べるといったシンプルな行動さえ全然異なったものになる可能性がある。常識を捨て去ることは難しく、私たち自身も常に地上の当たり前と格闘している。昆虫食もそんな当たり前からかけはなすことで、隠れた新たな可能性をみつけることができる。

2つ目は、逆に月面での常識を想像することである。地上の何気ない1日は月面ではどう変化するだろうか?それはなぜ?このような思考を繰り返していくことで日常の月面生活の中での昆虫食のありうる姿が見えてくると考えている。そして、それは全頁にも書かれているように正しい必要はない。むしろ現状においては正しいも間違ってもない。存在するのは純粋なアイデアであり、それらが相互影響の中で変化していき結果として未来が形成されるのではないだろうか。

▲ 各セクションはNASA等の実際の資料やbugologyが考えた宇宙での昆虫食のアイデアを、育て方(KITCHEN)、調理方法(KITCHEN)、食べ方(TABLE)の項目に分けている。

 僕たちはこのようなことを考えて本展示用に制作を行った。とはいえ、アイディアを自分達だけで出すのは無理があるし視野も限定されている。そこで本展示を参加型にして来場者の方や興味を持ってくれた人にアイディアを描いてもらおうと考えたわけである。

そういうわけでこのプロジェクト第1弾においては展示されている冊子は成果物の半分である。それらはもう半分を形成する多くの人のアイディアを引き出す装置である。そして、多くのアイディアが描かれ、それらを収集しまとめることでこの制作は完成となる。

そして、プロジェクト第二弾はこれらアイディアをベースに1本の漫画を作ろうと思っている。今回はアイディアを発散させたので次はそれらを収束させて、一つのありうる月面んでの生活を描いてみようという算段である。そうすることで今まで見たことのない月面生活を描き出し、それを元に色々な分野の人と議論を深められればと思う。

制作:bugology | 大西陽 (左)、高橋祐亮 (右)

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